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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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90/560

90.準備をはじめよう

よろしくお願いします!

「うーん、ユーリは大人だし?弟あつかいなんて、うれしくないだろうけど、ついちょっかい出しちゃうんだよねぇ……だってかわいいし」


「ちょっ、オドゥ!やめてくださいっ!」


 オドゥが腕をのばして頭をグリグリするので、ユーリは本気でいやがっている。オドゥはそれにもかまわず眼鏡の奥にある深緑の瞳をほそめた。


「ごめんごめん。おわびにユーリが年齢どおりのみためになったら、僕がいっぱい大人のイケない遊び、教えたげるね」


「オドゥ!殿下に変なこと教えるなっ!」


 あわてたようにテルジオが口をはさむと、オドゥは眼鏡のブリッジに指をあて、テルジオにちらりと視線をむける。


「じゃあなに?そういうことは、テルジオ先輩が教えてあげるわけ?」


「教えるわけないだろっ!イケない大人の遊びなんて!」


 憤然といいかえすテルジオに、オドゥは目をまるくした。


「えぇ?テルジオ先輩、教えられないの?……もしかしてやったことない?イケない大人の遊びって、どんなのだか分かってる?」


「えっ!」


 突然ふられて動揺するテルジオに、ユーリまでつめよる。


「どうなんだ?テルジオ」


「わわわ私のことはっ、かかか関係ないでしょお⁉」


「……しらないんだ」


「……しらないのか」


「しししってますとも!大人の遊びぐらいっ!」


「へー……ほんとう?」


「へぇ……そうなのか?」


「なななんでっ!オドゥも殿下もそういうときは息ピッタリなんですか⁉」


 ダンッ!


 わたしは師団長室の机に、術式の束を音をたてておき、ひくい声をだした。


「ここはどこ?わたしはだれ?……そしてあなたたちの仕事はなに?」


 みんな、わたしがいることを忘れてると思うの!


 男って……ほんっとにバカ!!






「テルジオもきているなら、わたしも相談しておきたいことがあるんだけど……ちょっとヴェリガンをよぶね」


 わたしはヴェリガンに『エンツ』を飛ばす。


「ヴェリガン?『例のもの』をもって師団長室にきてくれる?」


 そのことばにオドゥが反応した。


「なになに~?ヴェリガンまでまきこんで、なにするわけ?」


「ユーリの『契約』完了後の準備よ」


 テルジオが目をみひらいた。


「ネリアさん!それは殿下の『呪い』がとけるということですか⁉」


「うん。わたしは、グレンを信じてる……ユーリの『呪い』は彼のことばどおり、()()()()()とける」


「……ほんとうに……?」


 テルジオが喉の奥からかすれたような声をしぼりだす。テルジオはユーリのそばでずっと苦しい思いをしたんだろう。ただ見ているだけしかできないって、つらいもんね。


「あのグレンが、レオポルドとの『契約』を、そのままユーリに実行したとは思えないのよね……レオポルドのときの反省点もふまえて、ユーリの『契約』は改良しているはず」


「へぇ……それは僕も興味あるなぁ」


 オドゥが指をあてておさえる、眼鏡の奥にある深緑の瞳がキラリと光った。


「ユーリの『契約』完了がのびているのはそのせいかもって。ユーリ、チョーカーをみせて」


「……」


 ユーリが無言で首元を開くと、鈍い銀色のチョーカーがあらわになる。そのヘッドにはまる魔石の色をみて、テルジオがハッと息をのんだ。


「魔石の色が……かわっている?」


 チョーカーのヘッド部分にはまる魔石が、くすんだ鈍色からあざやかな血赤色にかわっていた。


「やっぱり……契約完了にそなえてカウントダウンがはじまってる……」


 わたしが魔石にふれると、内部を魔素が活発に流れ、『契約』を監視しつつさまざまな命令を実行しているのが感じられた。()はきているのだ。


「カウントダウン?」


「みためは変わらないけれど、ユーリの体の中ではもう()()がはじまっている。ユーリも自分でわかったんじゃないの?」


「……そうですね。きのうはじめて魔石が熱をもちました。でもそれ以外は、とくになにも起きてないですけど」


「へえぇ……」


 そのとき、ヴェリガンが瓶をいくつも抱えて師団長室にやってきた。


「持って……きた」


 ヴェリガンが師団長室にある大きなテーブルの上に、ゴトゴトと瓶をならべていく。オドゥが首をかしげた。


「ネリア、これなに?薬?」


「まだ研究段階なんだけどね……『サプリメント』だよ。薬とはちがって、体に不足しがちな栄養素をおぎなうためのもので……ユーリの体はとつぜん成長期がくるようなものだから、たんぱく質や鉄分、カルシウムが不足するよね」


「はぁ……」


 みなはきょとんとしている。


「もともとはヴェリガンに効率的に栄養をとらせて、太らせるのが目的で研究してもらってたんだけど、ヴェリガン自身は、食事をきちんととるだけでもだいぶ改善したからね……」


 さいきんのヴェリガンは顔色もよくなって、こけていた頬もすこしふっくらしてきた。


「レオポルドが『呪い』がとけたとき、『体がひきちぎられるような激痛で倒れて、保健室にかつぎこまれた』っていってたから……成長痛の激しいのがきたのかなとおもって。ユーリも体の構成成分をおぎなう必要があるの」


「体の構成成分……つまり、体をバラバラにしたら得られる物質ってこと?」


 う……その表現あってるけどさ……オドゥがいうとなんかコワいよ!ユーリがたずねる。


「ポーションじゃダメなんですか?」


「うーん……ポーションで痛みはやわらぐかもしれないけど……魔素ではなく、まずは『物質』……骨や筋肉、血液のもとになるものを補充するの」


 わたしがそういうと、オドゥが興奮して叫んだ。


「うわぁ、めっちゃ錬金術っぽい!それやろうよ、ネリア!使うのはユーリの体だし!」


「オドゥ!殿下の体を変なことに使うな!」


「ちょっと、かんちがいしないで!血液や筋肉をつくるのはあくまでユーリ自身!わたしがやりたいのはその材料を補給することだけだから!」


「材料を補給⁉……なにそれ、メモりたい!人体の『材料』だって⁉」


 やばい、オドゥに変なスイッチがはいった。こいつはほっとこう。


「とりあえず、レバーペーストとか牡蠣エキスとか深海鮫とか亀のエキスとかで試作してみたの……まだ味には改良の余地があるかなぁ……これをユーリには毎日とってほしいんだ」


「これ、ですか?」


 ユーリは茶色のどろりとしたペーストがはいった瓶を持ち上げた。こころなしか顔色が悪い。


「これを毎日……」


「うわぁ……この色とにおい……パパロッチェンを上回るねぇ……」


 オドゥも眼鏡のブリッジに手をかけて、ユーリの手元をのぞきこむ。救いをもとめるように、ユーリはなんとも情けない顔をして、わたしに訴えた。


「あの、ヴェリガンが昼に飲んでる『コールドプレスジュース』でもいいのでは?」


「それももちろん使うけど……野菜だけじゃ足りないんだよ……体を成長させるのに、どうしても動物由来の成分が必要なの!」


「僕も協力して……市場で……材料を選んだ……」


 ゆくゆくはちゃんとタブレットとかカプセルのサプリメントとして提供したい!そのためにもぜひユーリに試作品をとってもらい、意見をきかせてほしい!


「カルシウムがたりないと骨がもろくなって骨折しやすくなるし、鉄分がたりないと貧血をおこすし……ただ、鉄剤って吐き気をもよおすんだよねぇ……フィルムコーティングしないと胃に負担が……腸で溶けるようコーティングする技術があればいいんだけど」


 どうやらネリアにとって、ユーリがこの茶色いドロドロしたものを『飲む』ことは決定しているらしい。ユーリはネリアの話が、途中からさっぱりわからなくなった。ネリアは笑顔で力強くいう。


「グレンのしでかしたことだからね、錬金術師団でできるだけフォローをするつもりだよ!」


「だからって、これ……」


 どうみても人間の食べものじゃない……と、ユーリは瓶のなかの茶色いなにかをみて思った。


「やっぱ飲みにくいかなぁ?でもユーリだって、弟くんより背が高くなりたいよね?」


 ネリアのそのひとことが決め手になった。


「やります」


(やっぱ気にしてたんだ……)


 その場にいた全員が、そう思った。

ネリアは真面目に考えている。

オドゥは危ない事を考えている。

テルジオはイケない事を考えている。

ユーリはちょっと後悔している。

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