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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち
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89.中庭のふたり

 ブックマークが300件を超えました。特に宣伝もしていないので、本当に偶然飛んできて下さった方ばかりだと思いますが、毎日の更新を楽しみにして頂いてるのが伝わってきます。ありがとうございます。

「ネリア、ちょっと中庭にでて、みてもらいたいんですけど」


 中庭にわたしを連れだし、ユーリは自分の左腕をさしだすと、そこにはまっている銀の腕輪を見せた。……なんだかライガの腕輪ににてる?


 そう思って見ていると、ユーリが何事か唱え、腕輪の魔石から花が開くように赤い魔法陣が展開し、『ライガ』があらわれた。ユーリのライガはラインがシャープで格好いい上に、色も赤い。自分に合わせたのかな?


「えっ!すごい!これ、ユーリのライガ?」


「……みためだけは。収納鞄の術式を参考にして、もらった資料を読みといて……腕輪に収納する術式をくんで、さらに魔法陣を逆展開させました」


「おおお……こんな短期間にそこまで……わたし何ヵ月もかかったのに!」


「だけど、これは()()()()です。空を飛ぶどころか、浮かびあがることさえできない」


 ユーリはライガをふたたび腕輪の形に戻すと、わたしに真剣な眼差しをむけてくる。


「ひとつ聞きたいんですけど……『ライガ』の量産化、ネリアは真剣に自分でとり組む気がありましたか?」


 コランテトラの下でふたり並んでベンチに座り、わたしは正直に答えた。


「ううん、なかった……」


「やっぱり……」


 ユーリは真っ赤な髪をグシャグシャとかき乱し、大きくため息をつくと、持っていたライガの術式の写しを手の甲ではたいた。


「これを読んであきれましたよ……高魔力でむりやり力技で飛ばしていたんだとわかって……これ、ネリアの『ライガ』をそのまま再現しても、だれも飛ばせない……量産化する意味がない」


「そのままでは、そうだね」


「……ネリアはなんで僕にこれをやらせようと?」


「ユーリは魔道具が好きでしょう?ちいさい頃から、魔道具にふれてて扱いも慣れてるんだろうなぁって思った……それに空って、飛んでみたくなるじゃない?」


「たしかに僕は魔道具をいじり倒すのが好きですけど……空も、飛べたらいいとは思いますけど……」


「あとは……錬金術師として、ちゃんと『仕事』をしたいだろうなぁ……と思って。ユーリは学園卒業して、一年の見習いをおえて、錬金術師になったばかりでしょ?」


「それでこんな大役まかせます⁉失敗したら、どうするんですか⁉」


「ふふっ、どうする……って、どうもしないよ」


「え」


「資料庫に積まれたグレンの『失敗』をみたでしょ?失敗したってどうってことない。問題は情熱と資金がつづくかどうか……研究をやめなければいつか成功するよ」


「情熱と資金……」


「うん。まぁ、資金のことは心配しなくていいから、ユーリの情熱がつづくかぎり、やってみたらいいよ……だってほら、術式がこんなに書いてある……」


 わたしは、ユーリが術式を書きこんだメモの束をパラパラとめくる。ほんと、一生懸命だなぁ。


「うれしいよ……わたしの書いた術式をこんなに読みこんでくれたんだね。わたしもライガは気にいってるんだ……なんども失敗して墜落したけどね」


「は⁉」


「だって、試運転しようにもそれができるのってわたししかいないし……三重防壁をグレンがほどこしてくれなかったら、とっくにバラバラになって死んでたよ」


「なんでそんな危ないことを……」


 あきれたようなユーリの視線がちょっと痛くて、わたしは彼から視線をはずし空をみあげる。


「んー……ちょっと危険なぐらいが、『生きてる』って実感するのにちょうどよかったからかな。それに、地平線が見えたらそのむこうにいってみたくなるよね」


 なんどもなんども地平線をめざして飛んで。


 失敗して落っこちて。


 たすけにきたグレンにあきれられて。


 ようやくライガを自由に乗りこなせるようになったころ、グレンは「お前を王都につれていく」といった。グレンは「危なっかしくて目が離せない」からと、わたしに転移魔法陣の描き方を教えてくれなかったけど。ほっといてもいつか、わたしは出ていくとわかっていたのだろう。


 ここが異世界だとして。


 ほんとうにその世界が()()のだとしたら。


 それを、この目で見てみたい。






 中庭のベンチからユーリは空を見上げる。コランテトラの葉越しに青い空が透けてみえる。


「……父と話し合いました。十年は『錬金術師』として過ごしていい、といわれましたよ」


「そうなんだ」


「王位についてはまだわかりませんが……これで『契約』が完了したとしても、研究棟をでなくてもすむ。いままでどおり研究をつづけられます。僕はライガを完成させますよ」


「……うん、がんばって」


「まわりは心配したけど研究棟での生活は快適で……僕はべつに困ってなかった。だけど、ネリアがあらわれてはじめて、僕はこの首枷がうっとうしくなった」


 ユーリは自分の首元に手をあてると、うらめしげにこちらを見てきた。


「いくら僕が成人しているといっても、ネリアは僕のこと……どこか子ども扱いしてるでしょ」


「そんなつもりはないんだけど……ごめん、大人の男の人よりは話しやすいから……」


「昨日だってライガに乗せるとき抱きかかえて……あれ完全に荷物あつかいでしたよね?」


 あれはわたしがガサツで荒っぽいだけで……どうもユーリのプライドをいたく傷つけてしまったらしい。わたしは眉を下げてあやまった。


「ぅ……ごめんなさい」


「いいですよ、許してあげます。そのかわり……」


 ユーリはベンチから立ち上がり、わたしの前にまわってひざまづくと、わたしの目をのぞきこんだ。


「ネリア、僕の『契約』が完了したら、あなたを本気でくどいていいですか?」


 へ?


「なんでそうなるの⁉大人になったらユーリなんて王子様なんだから、相手なんて選び放題じゃん!」


「僕はネリアがいい」


 そのまま真っすぐに見つめてきた赤い瞳が、焔のように熱を持って揺らめいて、わたしは言葉を失った。


「ふふ、ネリア真っ赤になった。僕でもこんな顔させられるんだなぁ」


 くすくすとそれは楽しそうに、ユーリが笑う。わたしはあわてて頬を両手で覆い隠す。やられた、ふいうち過ぎて反応が返せなかった。


「か、からかわないでよっ!」


「僕は本気ですよ」


 そういうとユーリは、わたしの頬から左手をとり上げ、自分の右手で包みこむようにして自分の頬にあてた。


 わたしの顔を見つめたまま、いつもの優しい微笑を浮かべるとその瞳を閉じ、頬にあてていたわたしの手のひらに、自分の柔らかい唇をおしつける。


 唇を離さぬまま、ゆっくりと開く瞼。ながい睫毛越しにこちらを見やる眼差しだけが熱で潤んで。


「……っ!」


 流し目!ユーリの流し目が……色っぽすぎる!わたしの頬はさらに熱を持ち、顔から絶対に湯気がでてる。やがてユーリはにっこりと笑い、わたしの手を解放した。


「きょうはここまでにします……次は瞼にしますね」


「えっ?ちょっと、なに勝手に順番つけてるの⁉……しかも、なんで瞼⁉」


 立ち上がったユーリが、わたしを見下ろし、いたずらっぽく笑う。


「ネリアを泣かせてみたいから」


 どうしてそうなる⁉






 ユーリと一緒に師団長室にもどると、オドゥがテルジオを連れてやってきた。


「テルジオ先輩がユーリに用事みたいで、ウロウロしてたから連れてきたよ~あれぇ?ネリア……なんか顔赤くない?」


「そ、外!中庭にいて暑かったから!」


「ふぅん?」


 そのまま、オドゥは眼鏡のブリッジに手をあて、ユーリの様子もしげしげと観察する。


「なんかユーリも雰囲気変わったねぇ……『呪い』がとけたかなぁ?……ひょっとして『大人の階段』登っちゃった?」


「まだですよっ!ほっといてください!」


 こんどはユーリが赤くなってそっぽをむいた。


「オドゥってユーリのこと、よくかまってるよね」


「だって僕、ユーリのことは弟みたいに思ってるからさぁ……ここで何年もいちばん下っぱだった僕に、はじめてできた後輩だしねぇ」


 オドゥは人のよさそうな笑みを浮かべ、ユーリは迷惑そうな顔をした。


「……それはどうも。でも僕長男ですし、弟扱いされてもうれしくないですよ」

 いやぁ、この話を書き始めた時は、ユーリがここまで伸びて来るとは思ってもいませんでした。最初の出番をばっさりカットしたので、発奮したんですかね。


誤字報告での『ひざまづく』は『ひざまずく』ではないか、というご指摘ですが……元々は『ひざま・づく』→現代仮名遣いで『ひざま・ずく』に変更。→現在はどちらも許容されている。……ということなので、『ひざまづく』のままにさせていただきます。

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ブルーベルの咲く森で

↓「恋心」↓
恋心

↓「Teardrop」↓
Teardrop
― 新着の感想 ―
[良い点] ユーリも恋愛ジャンルに参戦してきましたね! グレンの失敗の数々を錬金術師のみんな達に見せたのが効いてますねー あんなにたくさんの失敗があるから、自分もすんなりとはいかないしたくさん挑戦と失…
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