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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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85.話し合い

よろしくお願いします!

 ユーリがぽつりとつぶやく。


「驚きました……わりとしょうもない理由だったんですね……」


 それを聞いたレオポルドはニヤリとして、形のいい唇の端を持ち上げた。精霊みたいなのに悪い顔もできるって、なんか不思議。


「おまえもそうだろう……ユーティリス、どんな理由で力を欲した?」


「建国の祖、バルザム・エクグラシアは竜騎士でもあり魔術師でもあった。今はそれぞれ師団長がいて、国王は竜王と契約して政務を行うだけだ……僕は師団長になりたかった。なんの実力もない……お飾りになりなくなかった」


 自分の両手を見つめたユーリに、レオポルドは眉を上げた。


「お前の父親は……アーネスト陛下はお飾りなどではないぞ?りっぱな為政者だ」


「そうですね……今ならわかります」


 レオポルドはなんだかんだいって、相手が話しやすいようにしてくれている。緊張していたユーリもだんだん肩の力が抜けてきて、わたしはそれに乗っかった。


「つまり、ここにしょうもないバカがふたり……」


「ネリア、ひどいですよ」


「おまえに言われたくないな。それに『力が欲しい』という子どもの言葉を真に受けて、ろくに説明もせず契約を交わしたグレンにも責任はある」


「……しょうもないバカが三人いたってことね、わかった」


 ユーリは自分の首にはまったままのチョーカーに指でふれた。


「レオポルド、これはどうしたら外れるんですか?」


「知らん」


「え」


 とほうに暮れたような顔をするユーリに、レオポルドは黄昏色の瞳を向けた。


「わかってたらとっくに教えてる。陛下にもさんざん聞かれた。知らんものは知らん」


「レオポルドのときはどういう状況で外れたの?」


「理由はもう忘れたが、ケンカだ。教室で級友たちと……そのときに『呪い』は解けた。そのあとすぐに全身が引き裂かれるほどの痛みで、保健室に担ぎこまれた」


「なにかにぶつかったとか?」


「グレンの術はそんな単純なものじゃない。長期間、体を支配し続ける術式は、あいつなりに細心の注意を払って組んでいる」


「ううーん……それじゃ、解く方法はなくて待つだけなの?」


 レオポルドは椅子の背もたれに身を預け、宙を見つめて考えこんだ。


「私も自分のときに、もっと検証すればよかったのだろうが、そんな余裕はなかった。なにより同じバカをするヤツがいるとは思わなくてな。知っていたら絶対に止めた」


「バカですみません……」


「バカなまねをした自覚はあるのね」


「まぁな……今となっては、バカはバカなりに真剣だったとしか言いようがない」


 ゆるく頭を振ったレオポルドは、自分の首に手をあてて、かつてチョーカーがはまっていたあたりを触った。


「母の死後、一度も会いにこなかった仮面の男は、十二の誕生日に突然現れて、『ほしいものはあるか?』と聞いてきた」


「グレンが?」


「私がほしかったのは『自由』だ。アルバーン領では幽閉同然に育てられたからな。何者にも支配されたくなかった。誰かに思い通りにされる人生など、自分のものではない。だから『力がほしい』……そう答えた」


 なによりも自由を望んだレオポルド。けれど幼い彼ではまだ、それは許されなかったのだろう。


 銀の錬金術師は思ってもみなかった方法で、彼に望み通りのものをくれた。


「契約の詳細を知ったときには、すでに鈍い銀色のチョーカーが首にはまっていた。あいつへの怒りと殺意が湧いた」


 そう言って彼は、グレンの魔石がしまってある師団長室の壁をにらみつける。


「あいつはそういうヤツだ。研究のためなら人を人とも思わない。息子だろうが王子だろうが関係ない。実験の対象にされたようなものだ」


 彼の瞳に強い光が宿り、そこにこもる怒りの感情に、わたしはぞくりとした。


 レオポルドはゆるく頭を振って、ひとつ息をつく。まばたきをすると、瞳に宿っていた燃えるような怒りは消え、彼は無表情に淡々と続けた。


「いまはその話はどうでもいい。私は『呪い』で苦痛を味わったが後悔はしていない。そして時が来れば……()()()()()()とわかる」


「そうですか……」


 壁から視線を戻したレオポルドは、目の前にいる赤い髪のユーリにたずねる。


「ユーティリス、研究棟は快適か?」


「ええ、まぁ」


「ユーリはがんばってるよ」


 彼は大きくため息をついて、首を横に振る。


「そうじゃない、ユーティリスは成年王族だ。本来なら立太子の儀に臨み、婚約者の選定なども始まる。研究棟に入り浸ることが許されているのは、その契約があるからだ」


 レオポルドは表情を険しくして、ユーリの首元を指差した。


「タイムリミットは第二王子カディアンが学園を卒業し、成人するまでだ。それまでに『呪い』が解けなければ、エクグラシアは選択を迫られる。このままおまえを王太子とするか……かわりに弟をすえるか」


 わたしは息をのんだ。これまで『錬金術師のユーリ』のことは考えても、『第一王子のユーティリス・エクグラシア』のことは考えていなかった。


 学園で会った彼の弟……カディアンは、ユーリのことを兄としてちゃんと慕っているようだった。


「その場合は『錬金術師ユーリ・ドラビス』として研究棟で生涯を送ることになる。それもひとつの選択だ。国王と錬金術師、どちらを選べばいいかなど誰にもわからん」


 鋭い光を放つ黄昏色の瞳から、ユーリはそっと視線をそらした。


「僕は……カディアンが国王でもいいと考えています」


「おまえ自身がどう考えていようと、国を二分する騒ぎになる」


 ユーリがその童顔に似合わない、苦渋に満ちた表情になる。兄弟で王位を争いたくなんかないだろう。


 けれどエクグラシアは大きな国で、貴族たちや大臣、大勢の文官がそれぞれの考えで動いている。


 わたしはテルジオの言っていた言葉を思いだす。


(ああ、だから『互いを守る盾』なんだ……)


 用事がなければ研究棟からほとんど出ないわたしと、さまざまな憶測やウワサを避け、研究棟でひっそりと過ごす王子……ふたりを守るための。


 なんの後ろ盾もない、逆にいえば貴族のしがらみがない娘。それは王家にとっては都合がいい。


「ユーティリス、おまえは自分がどうしたいのか意志を明確にしろ。他人の思惑など気にせず、それを守り通せ」


「はい、わかりました……」


 顔をひきしめて返事をするユーリの横顔は、まだ線は細くとも青年らしい精悍さを感じさせる。わたしは椅子から立ち上がった。


「レオポルド……今日はいろいろと教えてくれて、本当にありがとう!でも最初から素直に話してくれればもっとよかったのに」


 ついひとこと文句を言えば、レオポルドは顔をしかめた。


「わざわざイヤな記憶を話したいと思うか?」


「う……そうかごめんね、つらい思いさせちゃって」


「いや……」


 わたしが眉を下げて謝れば、彼は首をかしげてアゴに手をあて、しばらく宙に視線をさまよわせると、ひとりごとのようにつぶやいた。


「思いだしたくもない記憶だったが、こうして話すとそれほどでもないな。おまえのアホ面を眺めていたせいかもしれん」


「……アホ面がお役に立ったようでなによりです」


 ……やっぱりかわいくない!

ありがとうございました。

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