表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/560

84.レオポルドに話を聞こう

ブクマ&評価ありがとうございます!

 内容が内容だけに、彼に会うのは緊張する。こうやって『エンツ』を送るのすら……ふぅっと深呼吸をしてから、わたしは『エンツ』をとなえた。


「レオポルド、教えてほしいことがあって面会を求めたいのですが」


「……教えて欲しいこと?」


 返事はわりとすぐにきた。不審げな声だ。用件をちゃんといわなければ、彼は会ってくれないだろう。


「『グレンの呪い』についてです」


「……私に話すことはない」


 話はそれで終わった。


 ……。


 …………。


 ………………。


「あ……んの……っ!すっとこ魔術師!」


 怒りのあまり握りしめた拳をふるふると震わせるわたしを、ユーリがあわててなだめようとする。


「ネリア、落ちついて……」


「ユーリ!行くよっ!」


 わたしはキッと顔をあげた。


「えっ、どこに?」


「レオポルドのところに……決まってんでしょうがっ!」


 わたしはユーリを中庭に引っぱりだし、ライガを展開した。


「待ってよネリア!彼は『話すことはない』……って!」


「あいつになくてもこっちにはあるの!居場所はわかってんだから……遠慮することないわ!」


「でもっ……!」


 なおも抵抗するユーリをガシッとつかむと、わたしはむりやりライガを発進させた。


「い・く・わ・よ!」


「う、うわああああ!」


 魔力を思いっきりこめれば、ライガでどびゅんと一瞬ですよ、ええ。


 魔術師団の『塔』最上階にある師団長室にユーリと二人、転がりこむようにライガで飛びこめば。


 舞い散った書類のなか、ぽかーん、とした顔のメイナード・バルマ副団長とマリス女史。


 女神か精霊かと見まがうような、この世のものとも思えない美貌を、だいなしにするようなシワをくっきりと眉間にきざみ、額を手でおさえるレオポルドが……いた。

挿絵(By みてみん)

 怒りをたたえた黄昏色の瞳がこちらを一(べつ)し、ぞっとするような低い声がその薄い唇から発せられる。


「話すことはない……と言ったはずだが」


「聞こえたけど……こっちには話したいことがあるんだもの!」


「ユーティリス!なんでお前まで窓からはいってくるんだ……この非常識な女のまねをするな!」


「……すみません」


「ちょっと!ユーリはわたしが連れてきたんだから、文句をいうならわたしにしなさいよ!」


「まったく……猫のときはおとなしかったのに……本当にうるさい奴だな!」


「なっ!猫のことは言わないでよっ!そっちこそデレデレしてたくせにっ!」


「デレデ……その生意気な口どこかに捨ててこいっ!」


「捨てられるわけないじゃないの!あんたに言いかえせなかったらストレスで死んじゃうわ!」






 その不毛な言い争いを目撃することになってしまった、メイナードとマリス女史。ぽかーん、とした顔のままひそひそと語りあい、それにユーリもくわわった。


「すごいですねぇ……うちの師団長ににらみつけられて凍りつかない人……はじめて見ましたよ」


「……あのふたり、初対面からずっとあんな調子ですよ……」


「そうなんですか?それは……相性がいいのか悪いのか分かりませんねぇ……」







 結局いろいろとあきらめて、レオポルドはちゃんと話をしてくれることになった。まぁ話をしないことには、わたしたちが帰る気配がないからだろうけど……。メイナードとマリス女史は退室し、師団長室にはわたしたち三人だけになる。


「それで……?『グレンの呪い』についてだったな」


 レオポルドは眉間にシワをよせ仏頂面のまま、腕組みをして椅子の背に体をあずけた。わたしとユーリも、それぞれ彼に向きあうように座る。


「そう。ユーリからグレンとの契約については聞かされたのだけど、くわしい話をもうひとりの契約者であるあなたから聞きたくて」


「……言っておくが、私もそいつも自分の意志でグレンと『契約』をかわした。()()()()()()()自己責任だ」


「それは僕もわかっています」


 ユーリも真剣な表情だ。そうだ、契約なのだから、双方の合意がなければ交わすことはできない。それが『魔力を増やすために成長をとめる』という無茶なものでも、ユーリもレオポルドもそれに同意したんだ。


「でもふたりとも未成年だったんだよね?それなのにそんな無茶な『契約』してだいじょうぶだったの?」


 レオポルドが眉を上げた。


「グレン・ディアレスがそんなことを気にすると思うか?」


「……思わない」


 というかレオポルドの場合、グレンは自分の父親だし……虐待といってもいいぐらいの扱いだ。それでも研究バカのグレンなら、こうと決めたらそれがたとえ人倫にもとるようなことでも、やってしまうだろうけど。


「あの契約は成長期でなければ意味がない……だがグレン自身はたしかに責められた。私のときも鬼畜の所業だと批判されたが、ユーティリスはこの国の王子だ……はげしく糾弾された」


 こちらの人たちから見てもグレンの所業は鬼畜なんだね……わたしの感覚とおなじでほっとする。


「私のときに、すでに『禁術にすべき』という議論がされていた……王族につかうには危険すぎる。ユーティリスの契約のあとすぐに『禁術』に指定された。まぁ、もともとグレンにしかできない術で、ほかにやろうとする者もいなかったがな」


「もしかして……グレンがデーダス荒野に住んでいたのって……」


「ああ。奴は王都にいづらくなってデーダスに逃げこんだ。『師団長』の座まで追われなかったのは、私という成功例があったのと、この『契約』がユーティリス本人が申しでたものだったからだ」


 最初グレンは、王子の願いを断ったらしい。レオポルドで成功したといっても、ふたたび成功するとはかぎらない。なによりも貴重な成長期を『成長せずに過ごさせる』弊害は、いかばかりか。レオポルドは目をとじてため息をひとつついた。


「ユーティリスがグレンと契約をしたと聞いたとき……バカなことをしたものだと思った。恵まれた生まれでなんの不自由もなく生き……国王になるだけの十分な力もあるくせに……なにが不満だったのかと」


 だれもが魔力はほしい。より多くの魔力をもてば、より自分の可能性がひろがる。だがその方法は危険きわまりないものだった。


「ユーリにはユーリの事情があるんだよ……」


「かもな……私が力を欲したのは……『自由』を得るためだ」


「自由?」


 おどろいたように、ユーリが声を上げた。


「レオポルドは……魔術師団長になりたかったのではないのですか?」


「いいや?私が師団長になったのはだれにも頭を下げなくていいからだ。国王に礼をとる必要はあるが、アーネスト陛下は話のわかる男だからな……文句をいわせない程度には仕事もしている」


 わたしは副団長のメイナード・バルマの顔を思いだす。レオポルドのかわりに、彼が方々に頭を下げてるんだろうなぁ……きっとそんな気がする。ユーリはさらに面くらったように問いを重ねた。


「ええっと……学園時代から騎士の訓練もつんで、竜騎士団の訓練にいまも参加しているのは?」


「体が小さいとなめられるだろう……まわりはどんどん体格がよくなっていくんだ。学園だと相手も『魔力持ち』ばかりだ。やり返さなければどんな目にあうかわからん……」


 レオポルドはいやなことでも思いだしたのか顔をしかめた……うん、聞かないでおこう。

口の悪いヒロインで本っ当にすみません。

レオポルドに迷惑しかかけてない。

挿絵(By みてみん)

『魔術師の杖⑤ネリアとお城の舞踏会』(2021年9月刊行)

イラストの使用についてはいずみノベルズ様とよろづ先生の許可を得ていますm(_)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆11/1コミカライズ開始!☆☆
『魔術師の杖 THE COMIC』

『魔術師の杖 THE COMIC』

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ