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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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82.レオポルドの事情

どんどん行きますよー。

 カーター副団長はにこりともせず、わたしに返事をうながした。


「で、師団長……どうされますかな?」


「どうって?ああ、デゲリゴラル大臣の甥っこさんか……断ってください。王都にきたばかりで結婚とか、ホントに考えられません」


 顔をしかめるわたしに、副団長はフンと鼻を鳴らす。


「興味がないと逃げ回っていても、いずれ有力な家に狩られる可能性はありますぞ」


「狩られる?」


 副団長はもったいぶって、口ひげをなでながらわたしに教える。


「グレン・ディアレスはアルバーン公爵に狙い撃ちされましたからな。まさか三十過ぎた男が、十代の公爵令嬢に押し倒されるとは……誰も思いますまい」


「はあ⁉︎」


 ……お、押し倒され……って言いました⁉


 ぐぐぐ……グレンが⁉︎


「それって有名な話なの?」


 わたしは何回びっくりすればいいんだろう。


「まぁ、そうですな。人嫌いで有名なグレンはいつも仮面をつけ、結婚どころか恋愛すら興味がないと……実際、避けていましたからな」


 オドゥもそれにうなずいた。


「まさかアルバーン家が目をつけるとはねぇ。逆玉といえば逆玉なんだろうけど」


 三十代でグレンは魔導列車を開発し、すばらしい功績を挙げたけれど、人を寄せつけない態度を崩さなかった。アルバーン家はかなり強引な手段をとったらしい。


 わたしはライアスに迫っていた、ライザ・デゲリゴラル嬢を思いだす。両親のそんななれそめ……レオポルドにとってはすごくイヤだろう。


 結局、ふたりの間に息子が生まれても、グレンが婚姻を結ぶことはなく、母親の死後は公爵家が幼いレオポルドを引き取ったらしい。


「レオポルドってアルバーン公爵の家系なの?」


「家系どころか直系ですな。母親はレイメリア・アルバーン……現アルバーン公の姉にあたります。彼が公爵家を継いでも不思議ではないが、それは本人が拒否したとか」


「本人が拒否?」


「公爵ともなれば妻帯なり、跡継ぎなりを求められます。自由でいたかったのでしょう。そういうところは父親とそっくりですな」


「ふぅん……師団長のグレンにそこまでできるって、アルバーン家にはそれだけの力があるの?」


 貴族とか公爵とか、異世界からきたわたしには、さっぱりわからない世界だ。


「アルバーン家は〝王族の赤〟を何人も輩出した、エクグラシアの筆頭公爵家です。レイメリアもそのひとりで、みごとな赤毛の美女でした」


「筆頭公爵家……なんかすごそうだね」


 竜王と契約した王族の髪と瞳は赤く変わる。それが〝王族の赤〟と呼ばれ、常に二、三人の契約者を置くらしい。


 該当者が王家にいないときは、公爵家からも候補者をだす。


 アルバーン公爵家出身のレイメリアは、竜王と契約した〝王族の赤〟でもあったという。


 ん?


「てことは、レオポルドとユーリって親戚?」


 ユーリは微妙な顔でうなずいた。


「そうなりますね。父とレイメリア・アルバーンはいとこ同士です。彼女は僕の父と結婚するのでは、と言われていたそうです」


「マジか……」


「結局は公爵家の力を落とさないよう、グレン・ディアレスの強い魔力に狙いをつけたのではないかと」


「狙いを定めるって、マジで『狩り』なんだね」


 そういう狭い世界に、わたしみたいな異分子が紛れこんでいるって……なんだかなぁ。


 赤毛の美女がグレンを押し倒すなんて、どうにも想像できない……したくもないけど。


 魔力持ち同士をかけ合わせる、交配のような婚姻なんて、浪漫もへったくれもない。レオポルドの結婚観にも影響してそうだ。


「アルバーン家のもくろみは成功しましたな。今は王家で人数が足りているが、レオポルド・アルバーンほどの魔力なら〝王族の赤〟にもなれましょう」


 カーター副団長の言葉に、わたしはげんなりした。世が世なら、彼の銀髪は赤く染まっていたかもしれない。


 グレン譲りの銀髪だけでなく、光のかげんで色が変わる、神秘的な黄昏の瞳まで……そうなっていたら、なんかイヤだ。


「公爵家を継がずとも、彼ほどの力の持ち主です。叔父である現アルバーン公は、自分の娘と婚姻を結ばせるつもりでしょう」


「いとこ同士で?」


 目を丸くしたわたしに、オドゥは眼鏡のブリッジに手をかけて解説した。


「だねぇ……レオポルドが積極的に相手を探そうとしないのも、アルバーン公には都合がいい。ほかの貴族だって、筆頭公爵家の機嫌を損ねてまで、あいつに自分の娘を売りこもうとは思わない」


「なるほど」


「だから去年、ライアスが竜騎士団長に就任したときは、みんな群がったよ。あいつは次男で身軽だし、顔も性格もいい。優良物件キター!ってね」


 そこかぁっ!


 オドゥは肩をすくめた。


「もともとアラを探そうとする自分が恥ずかしくなるぐらい、まっすぐないいヤツだったけど、団長の肩書きがついて注目を浴びちゃったよねぇ」


 ライアスはきっと、のんびり恋愛もできないんだろうな。


 ぼんやり考えていたら、ずっと黙っていたテルジオが、思いつめたような顔をしてわたしに訴えた。


「ネリアさん……さきほどギルドで出たお話ですが、考えてみてはいただけませんか?」


「えっ」


「テルジオ!」


 ユーリがとめても、彼はとまどうわたしに向かって言葉を続ける。


「形だけでもいいんです。たがいを守る盾になれば、ネリアさんも安全かと……」


「わたしが安全って……たがいを守るって何があるの?」


 ふいにオドゥがわたしとテルジオの間に割ってはいった。


「ねぇテルジオ先輩、うちの師団長にコナかけないでくれる?」


「オドゥ……おまえには関係な……ひっ!」


 オドゥが伸ばした人さし指を軽くノドにあてただけで、テルジオは言葉を発せなくなってしまった。


 目を白黒させながら、口をパクパクさせる補佐官に、眼鏡をかけた錬金術師はニタリと笑う。


「ダメだよぉ。ネリアが優しいからって、うちの師団長を……錬金術師団を思いどおりに動かそうなんて、テルジオ先輩でも許さないよ?」


「オドゥ、なにしたの?」


 すると口元に浮かべた笑みを消し、オドゥは目だけ動かして、わたしを視界にとらえた。


「ネリアも王城のヤツらに、つけ入る隙をあんま与えないで?こいつら、アゴでこき使うのはいいけどさぁ」


「う、うん……」


(こき使うのはいいんだ……)


 眼鏡のブリッジに手をかけ、オドゥは深緑の瞳でひたとわたしを見すえる。


「師団長ともなれば、行く先々でいろんな要求をされるよ?それにいちいち応えたら、きみの身がもたないよ?わかってる?」


「ひぅっ!……き、気をつけます」


 彼の矛先はユーリにも向いた。


「ユーリ……保護者つきなのはしかたないけどさぁ、おまえの事情に彼女を巻きこむな。ウチの師団長をくだらないことで煩わせないでよね?」


 その迫力はレオポルドといい勝負で、ユーリも全身を緊張させ、硬い表情のまま拳をグッと握りしめた。


「ああ、すまない。テルジオにはよく言って聞かせる」


 ん?


「ちょっと待って!ユーリの事情って?」

テルジオはオドゥたちの1こ上で、「すぐ下の学年に比べてお前たちはパッとしないな…」と言われ続けた気の毒な学年です。

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