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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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81.王子の呪い

カクヨム転載を機に、改稿しました。

「おたがい相手が見つかるまでっていうビジネスライクな婚約も、老舗ではよくあるわよ?まぁ、さすがに相手が第一王子じゃ大騒ぎになるでしょうけどね」


「…………」


 大騒ぎどころか、生きていける気がしない。ばっちゃがショックを受けたときは、甘いものを食べて気を落ち着かせろってと言ってた!


 わたしはとりあえず、考えるのをやめて現実逃避する。ビルがコーヒーと一緒に持ってきた、木の小皿に盛られた茶菓子を手に取り、じっくりと見つめた。


「このお茶菓子……かわいいですね。花の型で作ってあって」


「ビルが買ってきたのよね?」


「トポロンは三番街に昔からある店で売られている。バター風味のしっとりした生地に、トポ栗の甘い餡がうまくて、コーヒーにも合う」


 ひと口かじってみると、トポ栗の餡ははじめてだけど、ホクホクした食感がとてもおいしい。トポ栗のほのかな甘味だけでなく、生地に加えてあるバターの香りが、ふわりと口にひろがる。


「グリドルの候補に、トポロンの型を作ったところも入れてください。きれいな形を正確に作れるのが重要なので。老舗と取引があるところなら、しっかりしていると思うんです」


「調べよう」


 ビルが請け合ってくれた。わたしたちと取引してくれるかは、まだわからないけれどね。おいしいトポロンのおかげで、少し現実に向き合う気力が湧いてきた。


「ありがとう、ビル。アイシャさん、ウワサは事実無根です。わたしもユーリも研究棟では仕事をしているだけで、そんな話したこともありません」


「そう」


「そのウワサ……これまでのものとは出所が違うようです。少なくとも錬金術師団からでたものではないです」


 わたしとウワサになるなら、研究棟にいるオドゥやヴェリガンでもいい。


 陛下の意向……それだけで多くの人が動く。王都三師団はそれぞれ独立しているけれど、こういう形の干渉もあるのだと知る。


「ちょっとライアスに相談してみようかな」


「ライアスに?」


「うん。先輩だし、『何かあれば頼っていい』と言われているしね」


 へへっと笑うと、ユーリが肩を落とした。


「やっぱり僕じゃ、頼りになりませんよね」


「えっ、そんなことないよ!でもライアスも去年は大変だったんでしょ?なら対策とか教えてくれそうだもの」


 わたしはすこし冷めてしまったコーヒーを、ぐいっと飲み干した。


「そろそろ王城に戻りますね。情報をありがとうございます」


「そのようすならだいじょうぶそうね」


 わたしはアイシャに向かって、にっこりとうなずいた。彼女は情報をくれたのだ。気をつけろという警告でもあると思う。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おかえりぃ!魔道具ギルドはどうだった?」


 研究棟に戻ると、黒ぶち眼鏡をかけたオドゥ・イグネルが、穏やかな笑顔で扉から声をかけてきた。


 こんなときはうさんくさい彼の笑顔でもホッとしてしまう。


「うん、好感触!だけど試作品を作るだけでも、それなりに費用がかかりそう」


「まぁ、それはしょうがないよねぇ……金属加工は金がかかるから。ネリアにおもしろい見合い話がまたきてるよ」


「おもしろい?」


 正直、今したい話じゃないけど、彼に続いてカーター副団長が顔をのぞかせる。


「デゲリゴラル国防大臣が、『甥と師団長との見合いをセッティングしろ』と私に言ってきました」


「は?デゲリゴラル国防大臣って……あのライザ嬢の⁉」


 わたしだけでなく、ユーリたちも驚いたようだ。


「ライアスに縁談を断られたらしくって、こんどは自分の甥っこにネリアを……だってさ。すごいよね?」


 すごいというか……なんというか……。ぽかーんとしていると、オドゥが眼鏡のブリッジに指をかけて身をかがめ、わたしに優しくささやいた。


「いっそのこと、僕と結婚しちゃわない?僕ならお手軽だしぃ」


 彼のプロポーズはスルーして、わたしはたずねる。


「そういえば、ヴェリガンにも見合い話がきているのに、オドゥあてのはないね」


 カーター副団長が渋い顔になる。


「オドゥには前科がありましてな」


「前科?」


「研究資金目当てに婚約した女性の実家から、さんざん援助させて……しびれを切らした向こうから婚約破棄されるまでに、六年間も結婚せずに逃げまわったのです」


 なんですと⁉


「それ、結婚詐欺じゃ……」


 思わず非難する目つきでオドゥを見れば、彼は小さく肩をすくめた。


「まぁ、若いときはいろいろあるよねぇ」


 あんたまだ二十三でしょうが!女の敵だよそれ!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ギルド長の秘書ビルは、三人の客を見送ると戻ってきて、がっちりとした巨体をぶるりと震わせた。


「うぅ……あの嬢ちゃんと話すのは緊張するなぁ。あんなちっこい体して、真正面から見すえられると、すげぇ迫力だもんなぁ」


「だけどちゃんと伝わったみたいでよかったわ。ほっといたら……あの子あっさり王城に囲いこまれるもの」


 返事をするアイシャも肩の力を抜き、机に両肘をつくと指を組み合わせて息をついた。


「俺は王子様に同情するね。初恋ぐらい()()()()にさせてやれと思うよ。ふたりともちっこくて、けっこうかわいいカップルじゃねぇの?」


「そう考えた者が王城にもいるってことよね。でも、彼らが本当に期待しているのは……彼女が王子様の〝呪い〟を解くことでしょうね」


 竜王神事に姿を見せて注目を集めた第一王子。とっくに成人しているのに、その姿は十四、五歳ぐらいの少年に見える。


 それには先の錬金術師団長グレン・ディアレスが関わっているという……。

オドゥのプロポーズ(?)はサラッとスルーするネリア。

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