表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち
80/560

80.まさかの婚約話

ブクマ&評価ありがとうございます!

じわじわ増えていてなんか嬉しいです。

 パロウ魔道具が『家族むけ』の『朝ごはん製造機』を売りだす⁉


「それ……わたしたちに教えられるってことは、もう確実なことなんですね」


「そうね、今月中には発売予定で、すでに関係各所におひろめはすんでいるから、秘密でもなんでもないわ……でもあなたたちのは、まだ秘密にしないとね」


 アイシャはテキパキと段どりをきめていく。


「この術式はさっそく、当ギルドで権利保護の手続きをとるわ。金属加工につよい工房はいくつか心当たりがあるけれど……まずは具体的な用途は秘密にして、術式をはぶいたプレートの試作品をつくらせてみましょう」


「プレートの出来をみて……どこの工房にまかせるか判断するんですね」


 ビル・クリントが口をひらいた。


「……パロウ魔道具とかかわりのある工房は避けたほうがいいな……情報がもれると、あそこの社長の性格からして、横やりを入れてくる可能性がある」


「じゃまされる……ってことですか?」


 ビルは大きくうなずいた。なにそれ、ビジネス戦争⁉


「『朝ごはん製造機』で都市部の顧客をつかんで急成長したパロウ魔道具だが、逆にいえばそれ以外のヒット商品がない。今回の『家族むけ』に社運を賭けてるといってもいい」


「ひえぇ……グリドル、発売しないほうがいいですか……?」


 なにもビジネス戦争をおこしたいわけじゃない。自分たち用に使えるものを作ってもらえるだけでもじゅうぶんだ。


 わたしがびびっていると、「それはダメよ」と、アイシャが首を横にふった。


「グリドルは、構造はシンプルで調理の自由度がたかい……魅力的で使いやすそうな魔道具だから、ギルドも手を貸すのよ……決めるのは私たちじゃない、消費者よ……そうでしょう?」


 たしかにどんなに苦労して開発したとしても、魔道具が道具として生きのこるには、使う人に選ばれるかどうかだ。


「いい?私たちはギルド員の権利を保護すると同時に、消費者に優良な魔道具を届けなくてはならない……品質に妥協はしないでちょうだい」


「……わかりました」


「あとビルのいっていた食事産業のことも覚えておいてね?ネリアならいろいろアイディアを思いつきそうだわ。でもまずは徐々にね」


「はい」


 宅配ビジネスまでは、わたしは関わるつもりはないけどなぁ。でも、これからもフォローしていくことになるのかな……それに、こうやって形になっていくのを見るのは楽しい。


「こんなところかしらねぇ……」


 アイシャがゆったりと椅子にもたれたタイミングで、ビルがコーヒーを運んでくる。


「どうぞ……みなさまのお口に合うかわかりませんが」


「いただきます!ありがとう、ビル」


 コーヒーはソラが出すものよりも深煎りのようだ。深くコクのある味が、うちあわせで疲れた頭をリフレッシュさせてくれる。


「おいしい!頭がすっきりしますね!」


 にこっとほほえむと、ビルもコワモテな顔をくしゃっとくずして笑みを浮かべた。


 おぃちゃん……なんかかわいいぞ。ユーリも礼儀ただしく、補佐官さんはふむふむうなずきながら飲んでいる。


「おいしいです……ありがとうございます」


「ほぉ……いい香りです……」






 そのまま収納鞄の製作状況や、先日の『竜王神事』の話をしたり。


 雑談をしながらこのまま何事もなく終わるかなと思ったところで、アイシャの怜悧な瞳がキラリと光った。


「ところでネリア……あなた、自分にくる見合い話をかたっぱしから断っているんですって?」


 ……うげ。


「アイシャさんの耳にも入っているんですか?『竜王神事』が終わって、急に増えたんですよ……わたしだけじゃなくて、他の団員たちにもきていて……わたしより、顔バレしてるヌーメリアあてのほうが多いです」


「そうなんですか⁉」


 ……なんで、補佐官さんが反応するの?ビルが腕を組んでうなった。


「師団長いがいは既婚者ばかりの魔術師団とちがって、錬金術師団は独身が多いからなぁ……『竜王神事』でそっちの注目もあつめたか」


「変人ばかりの集団だと思われてたのにね」


「そうみたいです。大きな行事だから、あらためて『認識』されたみたいで」


「……で、これはわたしが聞いたウワサなんだけど……」


 アイシャはふっと息をつくと、思案するように眉をよせた。


「ウワサ?人をまるごと錬金釜に入れたりなんて、してませんよ!」


「まるごと?それじゃなくて……『師団長』のネリア・ネリスが見合いをすべて断っているのは、おなじ錬金術師団のユーティリス・エクグラシア第一王子殿下と懇意にしているからで、二人は婚約間近だ……というウワサよ」


「婚約⁉」


 わたしはおどろいてユーリと顔を見合わせた。アイシャがうなずく。


「ちょうど二人そろっているから、聞いておこうと思って」


「ないない!絶対ないですよ!ありえない!」


 いきおいよく否定したら、そばに控えていた補佐官さんが、あわてたようにささやいてきた。


「ネリアさん……そこは、殿下のためにも……バッサリ否定するのではなく、やんわりボカしていただいたほうが……」


「補佐官さん、なにいってんの⁉」


「テルジオ、どういうことだ?こういうウワサをおさえるのがお前の仕事だろう」


 ユーリに問いただされてテルジオは少し困った顔をしたが、口を開いたときはややユーリを責める口調になっていた。


「殿下が研究棟にいりびたっているからですよ……だからこうして変なウワサにならないよう、私もお二人のおでかけにご一緒しているんです!」


「そのためだったの⁉」


 ユーリが顔を真っ赤にして補佐官さんに食ってかかった。


「いりびたって……って、仕事をしているんだから、当然だろう!ネリアとは別々に作業をしていて、いつも一緒にいるわけじゃない!テルジオも知ってるだろ!」


 なんかごめん。わたしとウワサになるなんて、ユーリがかわいそうだ。ユーリはまじめに仕事をしているだけなのに……『竜王神事』で変な注目をあびちゃったせいだ。


「わたしが見合いを断るのは、王都にきて師団長になってまだ二ヵ月もたってないのに、結婚まで考える余裕がないからですよ……それに顔出ししてないのにくる話なんて、不気味じゃないですか」


「まぁ、昨年のライアス・ゴールディホーンの竜騎士団長就任のときの騒ぎを思いだすな。あのときもすいぶん、外野が騒がしかったもんだ」


「そうねぇ、独身の師団長への洗礼みたいなものね……」


「ひえぇ……」


 仮面をしているし、見合い話なんて冷やかしみたいなもの……とろくに確認もせず断っていたせいだろうか。まさかそれが原因でそんなウワサがたつとは、思ってもいなかった。


 わたしがぼうぜんとしたところに、アイシャ・レベロはさらなる爆弾を落とした。


「『婚約』ぐらい、してもいいと思うけど?ネリア・ネリスの後ろ盾として、これほど強力なものはないわ。第一王子はまだ十八歳でしょ?成人したばかりで、すぐに結婚式をあげるよう急かされることもないわけだし」


「え」


「少なくともそこに控えているアルチニ筆頭補佐官は、似たようなことを考えていると思うわよ?」


 はい?


 わたしが補佐官さんの方を見ると、彼はすっと表情を消して無表情になっている。あ、これ他人に考えを読ませないようにしている……。


 え?


 なにこれ……。


 話がどんどん、具体的になっていくような……。


 どういうこと⁉

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆MAGKAN様にてコミカライズ準備中!続報をお待ちください☆☆
WEBコミックMAGKAN

☆☆『7日目の希望』NovelJam2025参加作品。約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
9巻公式サイト
『魔術師の杖⑨ネリアと夜の精霊』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天

☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
シリーズ公式サイト

☆☆作詞チャレンジ(YouTubeで聴けます)☆☆
↓「旅立ち」↓
旅立ち
↓「走りだす心」↓
走りだす心
↓「ブルーベルの咲く森で」↓
ブルーベルの咲く森で

↓「恋心」↓
恋心

↓「Teardrop」↓
Teardrop
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ