8.ドラゴン
「あれは……ドラゴン⁉︎」
車窓のはるか向こうに、二体のドラゴンが悠々と飛んでいる。距離からいっても相当な大きさだ。
「竜騎士団ねー、王都にいればよく見かけるわよ」
「そうなんですね。すごい、プテラノドンみたい。あ……でもちょっと違うかな、やっぱりドラゴンだ」
「プテ……?ドラゴンを見るのは初めて?」
わたしがドラゴンに驚いていると、メロディは不思議そうに首をかしげた。
ドラゴンの素材は錬金の材料としても有名だ。ドラゴンの鱗、牙、爪に、竜王だけが持つという竜玉。錬金術師なら知っていて当然。
「はい。いるのは知ってましたが、実際に見るのは初めてです。竜騎士団ってことは人が乗っているんですね」
「野生のドラゴンはあまり人目に触れないわね。たいていは険しい山中や樹海に隠れ棲んでる。でてきたら大騒ぎになるわ」
その飛翔性や攻撃力の高さから、ドラゴンの私有は禁止されている。国内で飼われているドラゴンは、すべて竜騎士団に所属している。
「ドラゴンを駆るにも魔力が必要なの。王都では『魔力を持つ子が生まれたら、武術に秀でていれば竜騎士、頭が良ければ魔術師を目指せ』って言われているわ」
「あの、錬金術師は?」
たずねるとメロディは微妙な表情になった。
「ええと……錬金術師はなるべくしてなるっていうか、それしかなりようがない、っていうか」
「…………」
「あっ!ネ、ネリアも錬金術師だったわよねっ、えっと」
「あーでも、わたしの師匠だった錬金術師も、偏屈なおじいさんでしたからわかります」
「ああ!わかる?錬金術師って近寄りがたくて、うさん臭い御託ならべて、金のかかる実験しては失敗しているイメージかな。夢を追ってるんだろうけど」
「あはは、やっぱりそんなイメージなんですね」
「髪はボサボサで、身なりは全然構わないし。魔道具師のあたしが言えることじゃないけど、得体の知れないガラクタに囲まれて、部屋散らかして、術式こねくりまわしてる感じ?」
「たしかに!師匠もそんな感じでした!」
「あはは、ネリアも苦労するわねー」
わたしもそんな悪評高い(?)錬金術師の端くれだから、苦笑するしかない。
まあ、錬金術師団長だというグレンがそんな感じだったし、他の錬金術師たちも似たようなものかも。
「それにひきかえ、竜騎士団は国防の要だもの。竜騎士も男の子にとっては憧れの職業よ。やっぱカッコいいもの!」
エクグラシアの竜騎士は総勢二十名ほど。ドラゴンの絶対数が少ないうえ、風の属性を持つ者だけに適性があり、ただ乗りこなすだけでなく、厳しい戦闘訓練も受けなければならない。
竜騎士ひとりで軽く一つの軍隊に対抗できるから、戦力としては充分だそうだけど、簡単になれる職業ではない。
目を凝らすと悠然と飛ぶ二体のドラゴンの背に、キラキラした甲冑をつけた人影が見えた。
「あれが竜騎士……」
「そうよ。鍛え抜かれた体躯に、まっすぐに伸びた背筋。さっそうと大空を駆けるんだもの。憧れるわよね。訓練も厳しいけれど、ドラゴンはプライドが高くて、乗りこなすのは大変だそうよ」
「空を飛ぶ手段って、ドラゴンと〝ライガ〟だけ?」
「そういえば錬金術師団の偏屈じいさんが、魔力で飛ぶ魔道具を作ったとか聞いたわね。でも相当な魔力がないと空を飛べない、役立たずな代物らしいし、魔道具としては致命的よね。空を飛ぶっていったら、やっぱりドラゴンよ」
(錬金術師団の偏屈じいさんって、きっとグレンのことだろうなぁ)
まさかそのライガで、エルリカ駅まで乗りつけたなんて言えない。
デーダス荒野ではさんざん改良版ライガを飛ばしたけれど、他に民家もなかったから人目に触れてはいない。
(魔導列車にしといてよかった。できたら目立ちたくないし)
錬金術師グレンが作ったのはかなり前だと言うし、わたしが改良して便利に使っていたライガは、まだ一般的な乗り物ではないらしい。わたしのほかに改良に取り組んだ者もいないようだ。
(ライガ以外の空を飛ぶ手段がドラゴンだけなら、制空権を有する竜騎士団は重要だよね)
わたしの改良したライガも、今は魔力任せで飛んでいる。いろんな人が使える汎用型にするには、魔力効率を上げないといけない。
ライガについてアレコレ考えていたら、列車の前方からザワザワとした騒めきが聞こえてきても、わたしは気づかなかった。
先に気づいたメロディが、前から急ぎ足でやってきた商人らしき男に、何があったのかたずねる。
「いや、俺もさっき聞いたばかりで、詳しいことはわからないんだけどさ」
男はあわてたように、早口で教えてくれた。
「次のウレグで、竜騎士団の検問があるらしいぞ」
「竜騎士団の検問⁉︎」
ありがとうございました。









