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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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79.魔道具ギルド再び

おぃちゃん再び。

 そんな夏のある日、魔道具ギルドから正会員証のブローチが送られてきた。メロディがギルドの扉を開けるのに、使っていたのと同じものだ。


 いっしょにギルド会員と認められたユーリのブローチには、『ユーティリス・エクグラシア』としっかり刻んであった。まぁそうだよね。


 ホットプレートの相談もしたかったし、さっそくギルドに予約を入れ、ユーリとでかける。彼は目と髪の色を茶に変えていて、今回もまた王城広場前から、三番街行きの魔導バスに乗った。


 かっちりとスーツを着て、ビシッと決めている男性……第一王子筆頭補佐官が、わたしたちの背後で、ぶうぶう文句を言う。


「王城に呼びつければいいじゃありませんか、わざわざ師団長が出向かなくても」


「前にも聞いたなぁ……そのセリフ」


 そういってユーリをちらりと見れば、彼も苦笑している。補佐官は首をかしげた。


「どうかしましたか、ネリアさん」


「ううん、なんでもない。それよりどうして補佐官さんがついてくるの?」


 変に悪目立ちしたくないんだけどな。ジト目になったわたしに、彼は大きくため息をついた。


「テルジオとお呼びください。むしろなんでふたりだけで、でかけてるんですか」


「え?だって前回もそうしたし、なにも困らなかったよ?」


 ユーリも彼に向かって不満そうに口を尖らせた。


「どこにでもついてくるから、僕が『保護者つき』ってオドゥにバカにされるんだよ。わかってる?」


「そういわれましても、私これが仕事ですから!未婚の男女をふたりきりで外出させるわけには」


 うわ、なにそれ。


「補佐官さん……発想がやらし~よ。なに想像してんの?バカじゃないの?」


「やらし~ですよね……ほんとバカですよね」


「あっ、ひどい!」


 そんなやりとりをしつつ魔道具ギルドに着いて、ブローチをかざせば、重厚な扉がゆっくりと開いていく。


 うわぁ、『ひらけゴマ!』みたい。


 そして魔道具ギルドはなんと、熱帯の海になっていた。まるで水中を歩くみたいな景色に、わたしはあわてて息を止めてしまったぐらいだ。


 クマノミみたいな鮮やかでかわいい魚たちが、メモをくわえてスイスイ泳ぐ。タコが何枚もの書類を吸盤にくっつけて運んでいる。


 というか、タコ!この世界にもいるんだ!『たこパ』の夢がふくらむ。


 ギルド員たちはテーブルサンゴで書類を広げ、その足元ではヤドカリたちが、ゴミをハサミで片づけ、エイやウミガメが背中に魔道具を載せて運んでいる。


 フワフワと漂うクラゲたちは、ゆったりとしたその動きに癒される。


 ところがクラゲのひとつがいきなり、シュッと触手を伸ばして、飛んでいた小さな羽虫をキャッチすると、パクッと食べてしまった。


「こいつら……クラゲのフリしてるだけなの⁉」


 水中に見えるだけで、ここは地上だからあたりまえだけど……なんだかだまされた感がある。


 なにごともなかったように、クラゲはまた漂いだした。


「どうだ、クラゲ型捕虫機は。夏は虫が多いからな……インテリアとしても人気だぞ」


 わたしが目を丸くしていたら、コワモテのおぃちゃんビル・クリントが声をかけてきた。


 クラゲ型捕虫機……エクグラシア版蚊取り線香みたいなものかしら。自分から虫を捕まえにいくなんて積極的だね……。


「欠点は毎日水をやらないと、朝ひからびて床に落ちていることかな」


 朝起きると、ひからびたクラゲが床に⁉


 ……いやああああ!無理!


「……わたしはほしくないかも」


「そうか?」


 柱から生えたイソギンチャクやウミユリが、カラフルな体を揺らめかせていて……くぅ!マウナカイアビーチへの憧れが増すじゃないか!


 早いとこ懸念事項を片づけないと、オドゥの目よりも、アレクのキラキラした瞳がプレッシャーになって……きつい。


 熱帯魚の鑑賞もそこそこに、わたしたち一行はすぐに二階のギルド長室に通された。


「さすがに錬金術師団長と第一王子を、一般のギルド員と同じに扱うわけにもいかなくてな。あんたたちは顔バレもしたくなさそうだし」


「ご配慮感謝します……」


 ギルド長のアイシャ・レベロとビルを相手に、まずはグリドルの仕様書を読んでもらい、実際の調理を見せる。


 収納鞄で持ってきたホットプレート……〝グリドル〟を使い、実際に目玉焼きと切ったハムを焼いた。


 ふたりに定温調理のメリットや、プレートの種類を取りかえるだけで、さまざまな料理が作れることを説明する。


 アイシャは熱心に仕様書を読んでから、ビルに渡す。


「つまり、調理関係の魔道具を作る工房を紹介してほしいのね?」


「調理関係である必要はないです。術式自体はあるので、注文に合わせたプレートを作れるメーカー……つまり、金属加工が得意な工房であれば」


「どうかしら、ビル」


 ビルは仕様書を見ながら、アゴに手をあてて考えこんでいる。


「これまたドカンと儲けそうな魔道具だなぁ」


「そうでしょうか?」


 そういわれても半信半疑だ。わたしは楽しいと思うけれど、使う習慣がないエクグラシアの家庭で、どこまで普及するかわからない。


 人は新しいものに飛びついても、結局は使い慣れた道具に戻っていく。


「温度管理ができるなら、料理の質にバラツキがなくなる。火加減の調節に不慣れでも扱いやすい。このあいだの宅配ビジネスや出前と組み合わせりゃ、食事すら産業になる」


「あ、なるほど。そういうことにも使えますね」


 そこまでは考えてなかった。宅配ピザのチェーン店みたいな業種ができるってことかな?


「そういうつもりで考えた魔道具じゃないのか?」


「え?違いますよ。みんなで『たこパ』するんです」


「たこぱ?」


 たこ焼きから説明するのはめんどくさい……。


「ええっと……つまり、みんなで楽しくワイワイとグリドルを囲んで、おいしい物を食べて幸せな気分になるんです。なので家庭用で考えてました」


「みんなで楽しくワイワイ……」


「おもしろいわね。〝朝ごはん製造機〟のコンセプトとは真逆ね」


 調理用魔道具の代表、〝朝ごはん製造機〟は「起きたらすぐに朝ごはん!」というキャッチフレーズで売りだされ、大ヒットした魔道具だ。


 夜に小麦粉と卵とベーコンを入れておけば、朝にはベーコンエッグトーストができているという、なんと累計販売台数百万台を突破した人気商品らしい。


 するとビルが眉をあげた。


「おいおい、ぶつけるつもりかぁ?」


「……選ぶのは消費者よ、そうでしょう?」


 アイシャの返事に、ビルは腕組みをして黙ってしまい、わたしは思わず口をはさむ。


「そっちはひとり用なので、グリドルとは住みわけできるかと……」


「それがそうでもないのよね。〝朝ごはん製造機〟のメーカーはパロウ魔道具といって、もともと調理用魔道具に定評のある工房だけど、家族向けの新製品を売りだすの」


 なんですと⁉大ヒット商品と……まさかのバッティング⁉

ホットプレート…英語ではElectric griddle【電気グリドル】と言います。

ネリアは頭では『ホットプレート』と考えながら、販売名は『グリドル』にする事にしました。

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