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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち
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78.懸念事項をかたづけろ!

ブクマ&評価ありがとうございます!

 食事をしながら、ウブルグが行く『海洋生物研究所』の話になった。


「海の近くなんでしょ?そこって泳げるの?」


 わたしはなにげなく聞いた。ちょうど暑い日だったから、なんとなく泳ぎたい気分だったのだ。オドゥがにっこり笑って教えてくれる。


「研究所のまわりは磯になっているから泳ぐのには適さないけど、近くにマウナカイアビーチっていう、世界的に有名なサンゴ礁でできたリゾートがあるよ」


「サンゴ礁⁉えええ、行きたい!」


 サンゴ礁の美しい海で泳ぐなんて、こっちでもあっちでもやったことがない。


「じゃあ錬金術師団のみんなで行こうよ!アレクも一緒にさ、ぜったい楽しいよ!」


「海⁉」


「アレクも一緒に?……すてきですわね」


 アレクの目がキラキラと輝き、ヌーメリアまでうっとりとほほえむ。


「こらこら、わしは仕事でいくんじゃぞ!」


「いいじゃない……研究棟から『海洋生物研究所』までネリアに転移陣敷いてもらってさぁ、そしたら移動も楽だよぉ?」


「ほむ……それはたしかに」


 オドゥの提案はすごく魅力的だ……海にも興味があるし、とれたての魚だっておいしいに違いない。タコが見つかれば念願の『たこパ』ができる。それは食いしん坊のわたしにとって、魔道具開発のモチベーションアップにつながる!じゅるり。


 サンゴ礁……映像でしか見たことがないけど……キラキラと日差しに輝く白い砂、エメラルドグリーンの海……そしてヤシの木!わたしは想像をふくらませた。


 だがひとつ懸念事項がある。


「すこし検討させてもらえるかしら……」


 即答はできない。返事を保留にしたわたしにオドゥは、「よろしくねぇ」と眼鏡の奥の深緑の瞳を細めた。





 こないだ安易に錬金釜を使おうとして、妙な誤解を受けたわたしは、まずは雷の魔石をこまかく砕いたものを使い、微弱な電流をながす術式を組み上げた。


 そこからさらに試行錯誤しながら電気抵抗値を測定する術式を組みこみ、さらにそれを計算する術式をくわえ、ひとつの魔法陣に編み上げていって……数日かけてなんとかそれらしきものを作りだした。


 まずは錬金術師団の男たちで試してみたら、まずまずの結果がでたので、そうくるいはないだろう。けれどその数値が問題だ。


「みんなの数値がうらやましすぎる……」


 わたしが眉をひそめていると、彼らがふしぎそうな顔で次々に質問してきた。


「これ、なにに使うんです……?」


「数字がでてくるだけ……だよね」


「最初の数字はなんとなくあれかな?って思ったけど……最後のは?」


「ヴェリガンが九って?」


 この魔道具を役だたせるには、まずはこの世界の多くの人に使ってもらい、結果を集めて統計をとってみないとなんともいえないし、わかったからといって、それほどみんなの役にたつともおもえない。


「ネリアもやってみなよぉ」


「そうですな。師団長の結果も知りたいですな」


 オドゥ・イグネルが眼鏡のブリッジに手をかけわたしをうながすと、カーター副団長も興味ありげにこちらをみている。わたしは思わずあとずさりして、首をぶんぶんと横にふった。


「ぜったいイヤ!」


「えええ?使わないのになんで作ったの?」


「……あとで使うもん……それに、これにはだいじな役割があるの」


 わたしはできたばかりのそれを抱え上げる。これは門外不出の魔道具なのだ。おいそれと外に持ちだすわけにはいかない。


「だいじな役割?」


「そう、あえて言うなら『いましめ』かしら……」


「『いましめ』?」


 皆はけげんそうな顔をしたものの、わたしが深刻そうな表情だったので、それ以上追及してこなかった。それをいいことに、わたしはそそくさとその場をあとにする。


 そして!


 できたばかりの()()を、とりあえず居住区の風呂場の脱衣所においた。


 使い方を説明したら、アレクは面白がって乗ったり降りたりして表示をみていたし、ヌーメリアはなんだかショックを受けていた。


「いい?ヌーメリア、わたしからいくよ!」


「はい……」


 わたしは拳をギュッと握りしめる。


 この懸念事項を片づけなければ。


 わたしにサンゴ礁の海はほほえまない!


 そっと、そっと、足をさしだし上に乗り(そっと乗ったからって結果は変わらないのだが)、息をつめて結果を待つこと数秒……。


 わたしは膝からくずれ落ちた……。


 そう。


 わたしが作ったのは体脂肪計。


 乗れば体重も量れて体脂肪率も測定できる、板のようなアレだ。


 考えてみれば、この世界にきてからまともに体重すら量ってなかった。


「ソラにおいしいご飯つくらせて、ヴェリガン太らせて喜んでいる場合じゃなかった……」


 ひるま測った男達の数値が超うらやましい……皆二十もないし……ヴェリガンの九ってなんなの⁉そして、体脂肪率にどんな意味があるかなんて、あいつらは知らなくていいから!


 とうぜんこの魔道具は、販売する気もない。門外不出の品だ。なにがあっても秘匿したい。


 つぎに測定したヌーメリアも、数値を見ながらブルブル震えている。


「わ、私……転移陣はなるべく使わず……ウォーキングからはじめます!」


「わたしも!ヌーメリア、一緒にがんばろう!」


「はい!」


 仲間がいるってすばらしい!


 今ここ、錬金術師団長室居住区で女同士の熱い友情がまさしく生まれたのだ!


 同志(とも)よ!


 ただこの友情、熱すぎて地獄に落ちるときも一蓮托生なのである。


「うわっ!このテルベリーのカスタードパイ、濃厚なカスタードの上に甘く熟したテルベリーが合わさって、とろける舌ざわりに、パイのサクサクした食感がアクセントになってて……もぅ、最高なんですけど!……やーん、おかわり欲しい!」


「おともいたします!」


 同志(とも)よ!ともに地獄に落ちるというのか!


 はぁ……でも幸せ……。





 今日もオドゥが催促してくる。


「ネリア~?みんなで海にいく話、どうなった~?」


 わたしは遠くの空をみる。


「そうね……まだ検討中」


「ええ?」


「だって……いそがしいんだもの。魔道具ギルドにいく用事もあるし、魔術学園の職業体験もあるし」


 いそがしいのは本当だ。


「じゃあそれ終わったらぜったい行こうよ!……アレクだって楽しみにしてるんだよ?」


「う……前むきに検討します」


 返事を保留にしたわたしにオドゥは、「よろしくねぇ」と眼鏡の奥の深緑の瞳を細めて微笑んだ。





 ……いきたいよ!わたしだってサンゴ礁の海にいきたいよっ!


 ほんとうに、めっちゃいきたいんだよっ!


 ……キラキラと日差しに輝く白い砂、エメラルドグリーンの海……そしてヤシの木……おいしいお魚。想像がふくらんでゆく。


 がんばれ、わたし!


 懸念事項をかたづけろ!

男性で20%行く人は珍しいので、ネリアもそこまで落ち込まなくてもいいのですが…。


誤字報告でご指摘いただき、『体重を量る』に訂正しました。

ただし体脂肪率は道具を使い計算してわりだしているものなので、『測る』のままにしています。

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