78.懸念事項を片づけろ!
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食事をしながら、ウブルグが行く海洋生物研究所の話になった。
「海の近くなんでしょ?そこって泳げるの?」
ちょうど暑い日だったから、なんとなく泳ぎたい気分だったのだ。オドゥがにっこり笑って教えてくれる。
「研究所のまわりは磯だから泳ぎには向かないけど、その近くにマウナカイアビーチっていう、世界的に有名な珊瑚礁のリゾートがあるよ」
「珊瑚礁⁉えええ、行きたい!」
珊瑚礁が美しい南の海で泳ぐなんて、こっちでもあっちでもやったことがない。するとオドゥが前に乗りだした。
「じゃあ錬金術師団のみんなで行こうよ、アレクも一緒にさ。ぜったい楽しいよ!」
「海⁉」
「アレクも一緒に?……すてきですわね」
アレクの目がキラキラと輝き、ヌーメリアまでうっとりとほほえむと、ウブルグがひげをなでる。
「こらこら、わしは仕事でいくんじゃぞ!」
「研究棟から海洋生物研究所まで、ネリアに転移陣敷いてもらえば、移動も楽だよぉ?」
「むほ……それはたしかに」
オドゥの提案はすごく魅力的だ。南の海にも行ってみたいし、獲れたての魚だって食べられる。
タコが見つかれば、念願の『たこパ』ができる。食いしん坊のわたしには、それだけで魔道具開発のモチベーションアップにつながる!じゅるり。
珊瑚礁……映像でしか見たことがないけど、まぶしい日差しにキラキラと輝く白い砂、そして鮮やかなエメラルドグリーンの海……背が高いヤシの木!わたしは想像をふくらませた。
ただし、ひとつだけ懸念事項がある。即答はできない。
「そうね、検討してみるわ」
「よろしくねぇ」
慎重に返事をしたわたしに、オドゥは深緑の目を細めて、眼鏡に指をかけてうなずく。
このあいだヴェリガンの体脂肪測定に、錬金釜を使おうとして、わたしは妙な誤解を受けた。
まずは魔道具作りだ。
雷の魔石を細かく砕き、微弱な電流を流す術式を組み上げる。つぎに電気抵抗値を測定する術式を書く。
「んと……これをなんとか、ひとつの魔法陣にして……」
魔法陣をセットした魔導回路に計算式を加えて……数日かかったけれど、それらしきものを作ってみる。
それから試作品を錬金術師団の男たちに使ってもらう。
「結果はまずまずだけど、みんなの数値がうらやましすぎる……」
数字をガン見しているわたしに、彼らは不思議そうに次々と質問してくる。
試作品に乗ったユーリが首をかしげた。
「これ、なにに使うんです?」
次に乗ったオドゥも眼鏡のブリッジに指をかけ、魔道具の表示をしげしげと眺めた。
「数字がでてくるだけだよね。最初の数字はなんとなくあれかな?って思ったけど……最後のは?」
「ぼ……僕が九?」
「むほ。わしは二十七だぞ」
「うーん。この魔道具を役立たせるには、まずはこの世界でみんなに使ってもらって、統計を取らないとなんだけど……」
数字の意味がわかったからといって、それほどみんなの役には立たないだろう。
「ネリアもやってみなよぉ」
「そうですな。師団長の結果も知りたいですな」
オドゥがわたしをうながし、カーター副団長もギラリと目を光らせた。わたしは思わずあとずさりして、首をぶんぶんと横に振る。
「ぜったいイヤ!」
「えええ?使わないのになんで作ったの?」
「……あとで使うもん。これにはだいじな役割があるの」
わたしはまじめな顔で、作ったばかりの魔道具を抱えた。これは門外不出にして、外への持ちだしは禁止しよう。
「だいじな役割?」
「そう、あえて言うなら『戒め』かしら……」
「いましめ?」
みんな何か聞きたそうだったけれど、わたしはそそくさと魔道具を居住区へと持ち帰る。
そして!
とりあえずそれを居住区の風呂場に持っていき、脱衣所の床に置く。
アレクに使いかたを説明すると、彼はおもしろがって乗り、表示を見ている。
ヌーメリアは緊張した顔で見守っている。
「いい?ヌーメリア、わたしからいくよ!」
「はい……」
わたしは拳をギュッと握りしめる。
この懸念事項を片づけなければ、わたしに珊瑚礁の海は永遠にほほえまない!
裸足になったわたしはそっと足を載せて、息を潜めて結果を待つこと数秒……。
わたしは膝から崩れ落ちた。
「ソラにおいしいご飯作らせて、ヴェリガン太らせて喜んでいる場合じゃなかった……」
そう。
わたしが作ったのは体脂肪計。
乗れば体重と体脂肪率が測定できる、板のようなアレだ。
わたしはこの世界にきてから、まともに体重を量ってなかった。
昼間測った男たちの数値が超うらやましい。ウブルグ以外はみんな二十もなかったし、あとヴェリガンの九ってなんなの⁉
そして体脂肪率の意味なんて、あいつらは知らなくていいから!
この魔道具はぜったいに販売しない。門外不出の品として、なにがあっても隠し通す!
つぎにヌーメリアが恐る恐る測定し、数値を見つめてブルブル震えだした。
「わ、私……転移陣はなるべく使わず……ウォーキングからはじめます!」
「わたしも!ヌーメリア、一緒にがんばろう!」
「はい!」
仲間がいるってすばらしい!
今まさに女同士の熱い友情が、研究棟の居住区で生まれたのだ!
同志よ!
ただこの友情は熱すぎて、地獄に落ちるときも一蓮托生だった。
「うわっ!テルベリーのカスタードパイ、濃厚なカスタードに甘く熟したテルベリーの酸味が合わさって、とろける舌触りに、パイの食感がサクサクしてて……もぅ最高!おかわりほしい!」
「おともいたします!」
同志よ!ともに地獄に落ちるというのか!
はぁ……でも幸せ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日も研究棟では、オドゥがわたしに催促してくる。
「ネリア~?みんなで海にいく話、どうなった~?」
わたしは師団長室の窓から遠くの空を見る。
「そうね……まだ検討中」
「ええ?」
「だって……忙しいんだもの。魔道具ギルドにいく用事とか、魔術学園の職業体験だってあるし」
忙しいのは本当だ。オドゥはため息をついて、わたしに念を押した。
「じゃあそれ終わったら、ぜったい行こうよ!……アレクだって楽しみにしてるんだよ?」
「う……前向きに検討します」
「よろしくねぇ」
またもや返事を保留するわたしに、オドゥは眼鏡のブリッジに指をかけ、深緑の瞳を細めてほほえんだ。
すました顔でオドゥを見送り、わたしはこっそりお腹の肉をつまむ。
もにゅ。わたしは絶望して机に突っ伏した。
「……行きたいよ!わたしだってサンゴ礁の海に行きたいよっ!本当に、めっちゃ行きたいんだよっ!」
ジタバタと脚をバタつかせて目をつぶれば、わたしの想像がふくらんでいく。
……まぶしい日差しにキラキラと輝く白い砂、そして鮮やかなエメラルドグリーンの海……背が高いヤシの木……そしておいしいお魚。
がんばれ、わたし!
懸念事項を片づけろ!
誤字報告でご指摘いただき、『体重を量る』に訂正しました。
ただし体脂肪率は道具を使い計算してわりだしているものなので、『測る』のままにしています。









