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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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78.懸念事項を片づけろ!

ブクマ&評価ありがとうございます!

 食事をしながら、ウブルグが行く海洋生物研究所の話になった。


「海の近くなんでしょ?そこって泳げるの?」


 ちょうど暑い日だったから、なんとなく泳ぎたい気分だったのだ。オドゥがにっこり笑って教えてくれる。


「研究所のまわりは磯だから泳ぎには向かないけど、その近くにマウナカイアビーチっていう、世界的に有名な珊瑚礁のリゾートがあるよ」


「珊瑚礁⁉えええ、行きたい!」


 珊瑚礁が美しい南の海で泳ぐなんて、こっちでもあっちでもやったことがない。するとオドゥが前に乗りだした。


「じゃあ錬金術師団のみんなで行こうよ、アレクも一緒にさ。ぜったい楽しいよ!」


「海⁉」


「アレクも一緒に?……すてきですわね」


 アレクの目がキラキラと輝き、ヌーメリアまでうっとりとほほえむと、ウブルグがひげをなでる。


「こらこら、わしは仕事でいくんじゃぞ!」


「研究棟から海洋生物研究所まで、ネリアに転移陣敷いてもらえば、移動も楽だよぉ?」


「むほ……それはたしかに」


 オドゥの提案はすごく魅力的だ。南の海にも行ってみたいし、獲れたての魚だって食べられる。


 タコが見つかれば、念願の『たこパ』ができる。食いしん坊のわたしには、それだけで魔道具開発のモチベーションアップにつながる!じゅるり。


 珊瑚礁……映像でしか見たことがないけど、まぶしい日差しにキラキラと輝く白い砂、そして鮮やかなエメラルドグリーンの海……背が高いヤシの木!わたしは想像をふくらませた。


 ただし、ひとつだけ懸念事項がある。即答はできない。


「そうね、検討してみるわ」


「よろしくねぇ」


 慎重に返事をしたわたしに、オドゥは深緑の目を細めて、眼鏡に指をかけてうなずく。


 このあいだヴェリガンの体脂肪測定に、錬金釜を使おうとして、わたしは妙な誤解を受けた。


 まずは魔道具作りだ。


 雷の魔石を細かく砕き、微弱な電流を流す術式を組み上げる。つぎに電気抵抗値を測定する術式を書く。


「んと……これをなんとか、ひとつの魔法陣にして……」


 魔法陣をセットした魔導回路に計算式を加えて……数日かかったけれど、それらしきものを作ってみる。


 それから試作品を錬金術師団の男たちに使ってもらう。


「結果はまずまずだけど、みんなの数値がうらやましすぎる……」


 数字をガン見しているわたしに、彼らは不思議そうに次々と質問してくる。


 試作品に乗ったユーリが首をかしげた。


「これ、なにに使うんです?」


 次に乗ったオドゥも眼鏡のブリッジに指をかけ、魔道具の表示をしげしげと眺めた。


「数字がでてくるだけだよね。最初の数字はなんとなくあれかな?って思ったけど……最後のは?」


「ぼ……僕が九?」


「むほ。わしは二十七だぞ」


「うーん。この魔道具を役立たせるには、まずはこの世界でみんなに使ってもらって、統計を取らないとなんだけど……」


 数字の意味がわかったからといって、それほどみんなの役には立たないだろう。


「ネリアもやってみなよぉ」


「そうですな。師団長の結果も知りたいですな」


 オドゥがわたしをうながし、カーター副団長もギラリと目を光らせた。わたしは思わずあとずさりして、首をぶんぶんと横に振る。


「ぜったいイヤ!」


「えええ?使わないのになんで作ったの?」


「……あとで使うもん。これにはだいじな役割があるの」


 わたしはまじめな顔で、作ったばかりの魔道具を抱えた。これは門外不出にして、外への持ちだしは禁止しよう。


「だいじな役割?」


「そう、あえて言うなら『戒め』かしら……」


「いましめ?」


 みんな何か聞きたそうだったけれど、わたしはそそくさと魔道具を居住区へと持ち帰る。


 そして!


 とりあえずそれを居住区の風呂場に持っていき、脱衣所の床に置く。


 アレクに使いかたを説明すると、彼はおもしろがって乗り、表示を見ている。


 ヌーメリアは緊張した顔で見守っている。


「いい?ヌーメリア、わたしからいくよ!」


「はい……」


 わたしは拳をギュッと握りしめる。


 この懸念事項を片づけなければ、わたしに珊瑚礁の海は永遠にほほえまない!


 裸足になったわたしはそっと足を載せて、息を潜めて結果を待つこと数秒……。


 わたしは膝から崩れ落ちた。


「ソラにおいしいご飯作らせて、ヴェリガン太らせて喜んでいる場合じゃなかった……」


 そう。


 わたしが作ったのは体脂肪計。


 乗れば体重と体脂肪率が測定できる、板のようなアレだ。


 わたしはこの世界にきてから、まともに体重を量ってなかった。


 昼間測った男たちの数値が超うらやましい。ウブルグ以外はみんな二十もなかったし、あとヴェリガンの九ってなんなの⁉


 そして体脂肪率の意味なんて、あいつらは知らなくていいから!


 この魔道具はぜったいに販売しない。門外不出の品として、なにがあっても隠し通す!


 つぎにヌーメリアが恐る恐る測定し、数値を見つめてブルブル震えだした。


「わ、私……転移陣はなるべく使わず……ウォーキングからはじめます!」


「わたしも!ヌーメリア、一緒にがんばろう!」


「はい!」


 仲間がいるってすばらしい!


 今まさに女同士の熱い友情が、研究棟の居住区で生まれたのだ!


 同志(とも)よ!


 ただこの友情は熱すぎて、地獄に落ちるときも一蓮托生だった。


「うわっ!テルベリーのカスタードパイ、濃厚なカスタードに甘く熟したテルベリーの酸味が合わさって、とろける舌触りに、パイの食感がサクサクしてて……もぅ最高!おかわりほしい!」


「おともいたします!」


 同志(とも)よ!ともに地獄に落ちるというのか!


 はぁ……でも幸せ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 今日も研究棟では、オドゥがわたしに催促してくる。


「ネリア~?みんなで海にいく話、どうなった~?」


 わたしは師団長室の窓から遠くの空を見る。


「そうね……まだ検討中」


「ええ?」


「だって……忙しいんだもの。魔道具ギルドにいく用事とか、魔術学園の職業体験だってあるし」


 忙しいのは本当だ。オドゥはため息をついて、わたしに念を押した。


「じゃあそれ終わったら、ぜったい行こうよ!……アレクだって楽しみにしてるんだよ?」


「う……前向きに検討します」


「よろしくねぇ」


 またもや返事を保留するわたしに、オドゥは眼鏡のブリッジに指をかけ、深緑の瞳を細めてほほえんだ。


 すました顔でオドゥを見送り、わたしはこっそりお腹の肉をつまむ。


 もにゅ。わたしは絶望して机に突っ伏した。


「……行きたいよ!わたしだってサンゴ礁の海に行きたいよっ!本当に、めっちゃ行きたいんだよっ!」


 ジタバタと脚をバタつかせて目をつぶれば、わたしの想像がふくらんでいく。


 ……まぶしい日差しにキラキラと輝く白い砂、そして鮮やかなエメラルドグリーンの海……背が高いヤシの木……そしておいしいお魚。


 がんばれ、わたし!


 懸念事項を片づけろ!

誤字報告でご指摘いただき、『体重を量る』に訂正しました。

ただし体脂肪率は道具を使い計算してわりだしているものなので、『測る』のままにしています。

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― 新着の感想 ―
ネリアさんもヌーメリアさんも、見た目何も問題なさそうでは有るが…。まあ、これは自分自身との戦いか。 とは言え研究職に就いている以上は、どうしても運動不足にはなるもので。 体内脂肪をぶち殺す毒()とか…
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