76.中庭で朝食を
更新2分前に書き上げるとか…間に合った…(ぜえぜえ
意識をとり戻したヴェリガンに聞いてみたけど、彼は断食をしているのでも、拒食症でもなかった。
……食べるのがめんどくさいだけだと⁉
ヴェリガンは家に帰るのもめんどくさがり、自分の研究室で寝泊りしていたので、彼も朝食の席に加えることにした。
栄養補助食品を使うことも考えたけれど、健康体ならしっかり食べて、自分の消化力で吸収したほうがいい。
朝と夕は食事をだし、昼はコールドプレスジュースでいいだろう。
居住区はヌーメリアとアレク以外は立ち入り禁止だから、中庭にテーブルを置いて、アレクに彼を起こしにいく役を頼む。
「アレクでも起きなかったら、ソラを行かせるから」
「うん」
実際には、ソラを行かせたのはいちどだけだった。
「刺客……刺客……送りこまれた……師団長怖い」
なぜだか師団長室にあらわれたヴェリガンは、青ざめてガクブルしていて、そのあとはちゃんとアレクだけで、彼は起きてくれるようになった。
中庭でいちばん大きな木、コランテトラの下にテーブルを置いて、椅子を並べる。
季節は夏だけれど湿気もなく、木陰にはさわやかな風が吹いて涼しい。ソラがアイスティーを準備してくれた。
「……で、なんであなたたちまで……」
こげ茶の髪に眼鏡をかけたオドゥ・イグネルが、深緑の目を細めて、人のよさそうな笑みを浮かべる。
「え~?だってヴェリガンばっかりずるいじゃない。いっしょにコランテトラの下で並んで朝食をとるなんて、特別な関係って感じだよね!」
「しないから!特別な関係じゃないから!」
ウブルグ・ラビルが手にした資料から顔をあげ、ソラからアイスティーを受けとると、うれしそうに顔をほころばせる。
「いや、すまんな。荷造りしていたら、つい昔の資料を読みふけって泊まりこんでしまってのぅ……」
ウブルグの横でどっかりと、威厳たっぷりに座っているのは副団長のクオード・カーターだ。たしか娘さんもいて……既婚者じゃなかったっけ?
「なんでカーター副団長まで……家で朝ごはん作ってもらえるでしょ」
「家で朝食ですか……作ってもらえたときもありましたな……」
カーター副団長!遠い目しないで!
雰囲気が重い!重いよ!……もしかして、ふれちゃいけない話⁉
「ユーリだって、王城で食事でるでしょうに……」
オドゥの隣、ウブルグの正面に座ったユーリが肩をすくめる。
「王城の食事は冷めてることが多くて。ここならソラとネリアが調理したもので安心ですし、できたてで温かいですから」
「温かい食事とはうまいものですな。何年ぶりだろうか……」
カーター副団長!遠い目しないで!
「……まぁ、いいけど。スープは鍋を大きくすればいいんだし。言っとくけど、たいしたものはだせないわよ?」
ソラにスープやサラダ、飲み物の配膳をまかせ、わたしはホットプレートでパンケーキを焼き、それぞれの皿にのせていく。
「ネリアは手際がいいのぅ……ふだんから料理していたのか?」
「まぁね、母も働いてて手際がよかったから、その影響かな?休日は下ごしらえを手伝わされたし、ひとり暮らしする予定もあったしね」
わたしはつけ合わせのベーコンとハッシュドポテトを用意する。これをあとはカリカリに焼くだけだ。
「下ごしらえさえしておけば、あとは煮たり焼いたりするだけだし……そんなに手間をかけなくても、おいしいものは作れるよ」
「ネリアの親御さんは今どうしとるんじゃ?」
なにげなく聞いてきたウブルグの言葉に、わたしはハッとする。
わたし、さっきなんて言った?
みんなの視線が、わたしに集中しているのがわかる。なにか答えなきゃ。
「……もういない。もう会えないよ」
「亡くなったのか?それは気のどくじゃったな……」
「うん……」
『死んだ』のは、わたしのほうだけどね……。
両親はまだきっと生きてる。もう会えないけれど。
静かになった食卓の雰囲気を変えようと、ユーリが立ち上がった。
「僕、手伝います。ベーコン焼くぐらいならできますよ」
「あら、ありがとう!ユーリ」
「それにしても……これ……すごく便利ですね」
ヌーメリアの目がホットプレートに釘づけだ。
そう、この世界は火の魔石を利用した、卓上コンロみたいなのはあっても、定温調理ができるホットプレートはなかった。
「でしょう?温度管理をしながら調理ができるの!」
錬金術師たるもの、温度管理ぐらいできなくてどうするよ!
食いしん坊のわたしは、食べたいものを思い浮かべながら、必死でホットプレートのために術式を書き上げたのだ。
「肉なら二百セシもあれば焼けるしね!揚げものなら百八十セシくらいかな。火を使わないから、うっかり小さな子がさわっても、ひどいヤケドにはならないの」
そこまで話したところで、みんなが目を丸くしているのに気づく。
「肉を焼くのは二百セシ……」
「料理に温度管理を使うとは……」
「錬金術師にはない発想ですねぇ……」
ウブルグがほくほくした顔で、ひとりうなずく。
「ネリアと話しとると、目からウロコというか……おぬしと話すのは楽しいのう……」
「そう?前にグレンにもそう言われたことはあるけど、面白いことはなにもしゃべってないけどなぁ」
オドゥが眼鏡のブリッジに手をかけ、ダダをこねるみたいにほほをふくらませ、むくれた口調でいった。
「なにそれ!グレンずるい!ネリアとのおしゃべり、ひとり占めしてたなんて!僕ももっとおしゃべりしたい!これから毎朝食べにくるからね!」
「えええ?」
ユーリはベーコンを焼きながら、じーっとホットプレートをにらんでいる。
「ネリア、これ販売しませんか?魔道具ギルドに持っていきましょう!売れますよきっと」
「ええ?でもこないだメロディのお店で見た、〝朝ごはん製造機〟のほうが便利じゃない?」
〝朝ごはん製造機〟は「起きたらすぐに朝ごはん!」というキャッチフレーズで売りだされた調理用魔道具だ。
夜に小麦粉と卵とベーコンを入れておくだけで、朝起きたら『ベーコンエッグトースト』ができているという、なんと累計販売台数百万台を突破した大ヒット商品だ。
改良を重ねた今では、十種類ぐらいのメニューが作れるようになっているらしい。
ソラがいなかったら、わたしも飛びついたかも。
「〝朝ごはん製造機〟は一人分しか用意できんからのぅ……人数分の〝朝ごはん製造機〟が食卓に並んでいる光景はなかなかシュールじゃぞ」
「そうなんだ……それはあんまり楽しくないかもね」
ホットプレートは、みんなでわいわい囲むから楽しいのだ。そう、こんなふうに。わたしはちょっと考えた。
「製品化するなら、『たこパ』とかもしたいなぁ……」
「たこぱ?」
たこ焼きパーティ……つまり『たこパ』!
この世界にタコがいるか、まだわからないけど!たこ焼きプレートを作って……魔法陣を敷いて、その上で『たこパ』とか!
みんながまじめな顔でのぞきこんでいるところを想像してひとりでウケた。
「じゃあ製品化したら、第一号は副団長にあげるね!お家で『たこパ』できるよ!」
「わ、私に⁉」
「ええ⁉ずるい!なんで副団長に⁉僕のは?」
「オドゥはひとり身じゃん……もしも結婚するときは、お祝いにあげるね!」
「ええっ?それならネリア、いますぐ結婚しようよ!」
「しないよっ!」
そんなわけで師団長室の中庭は、朝からにぎやかな場所になった。
たこ焼きパーティの略って『たこパ』でいいんですよね?
ネリアが用意したので『ハッシュドポテト』という料理名ですが、この世界のポテトっぽいものは『トテポ』という名前です。









