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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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75.この世界、体脂肪計がなかったよ!

ブクマ&評価ありがとうございます!

 三人を見送ったあとソラに手伝ってもらって、わたしが慣れない書類仕事をしていると、ノックの音が聞こえて、ユーリが師団長室に顔をだす。


「ネリア、今いいですか?ライガのことで相談したくて……」


 するとヌーメリアからもエンツが飛んできた。


「ネリア……?大変です……市場でヴェリガンが倒れてしまって……!」


「ええっ⁉」


 ユーリがふしぎそうに首をかしげた。


「ヴェリガンがなぜ市場に⁉」


「彼に『市場の野菜と果物を調べてきて』って頼んで、ヌーメリアとアレクもいっしょにでかけたの」


「ヌーメリアさんとアレク君がっ⁉」


 ユーリのうしろから顔をだしたのは……えーと、最近よく彼の部屋でみかける……。


「補佐官さん!」


「テルジオ・アルチニです……ネリス師団長……」


「そうそう、アルチニさん!」


 ぽんと手を打つと、補佐官さんはキリッと表情を引き締める。


「テルジオとお呼びください!……それで、ヌーメリアさんとアレク君もいっしょなんですね?」


 そうだ、彼とあいさつを交わしている場合じゃない!


「うん。わたし、行ってくるね!」


「ちょっと待ったあああ!」


 立ち上がってエンツを飛ばそうとしたわたしを、補佐官さんが勢いよくさえぎる。


「ヌーメリアさんもアレク君も市場に行ったことはありませんよね?」


「そうなの!だから気になって……」


 急いでいるのに、こんなときに止めないでほしい。けれど彼はキリッと表情をひきしめ、さらにたたみかけてくる。


「ネリス師団長は市場に行ったことは?」


「ないけど」


 補佐官さんは目をまるくして、とんでもないというような目つきでわたしを見る。


「市場がはじめての人間ばかり行ってどうするんですかっ!」


「……なんとかなるんじゃ?」


 すると彼は額を手で押さえて、なにやらブツブツとつぶやきだした。


「ダメだ……この危機意識の欠如……どうにかせねば……」


 こんなことしてる場合じゃないんだけどな……もう放っておこうか……と思ったら、わたしの肩にポンとユーリの手が置かれた。


「ネリア、ここは彼に任せてだいじょうぶですよ」


「えっ?そうなの?」


 その言葉どおり、顔を上げた補佐官さんは、すぐに行動開始した。


「とりあえずヴェリガン・ネグスコは回収しましょう。ヘタに入院されるとやっかいです」


「そうだな」


 ユーリがうなずき、補佐官さんがテキパキとエンツを飛ばす。


「ヌーメリアさん?テルジオです……おふたりは無事ですか?」


 すぐにヌーメリアから返事がきた。


「テルジオ?私たちは無事です……」


「市場の警備担当に連絡します。迎えがくるまでおふたりとも動かないように。ヴェリガン・ネグスコは回収し、王城医務室に運びます。では、手配してまいりますので失礼します」


 ビシッと言い終え、彼はさっそうと師団長室をでていった。


「すごいねぇ!あの補佐官さん……」


 わたしが感心していると、ユーリが少しあきれたような顔をした。


「ネリア……彼の名前覚えてないでしょ」


 ……バレたか……。


 しばらくしたら、ヌーメリアとアレクが帰ってきた。


 ヴェリガンとヌーメリアとアレク……市場に慣れていない三人のうち、いちばん活躍したのは、なんとアレクだったらしい。


 田舎育ちだけに、ちゃんと旬の野菜や果物を知っていて、彼の人懐こさとすきっ歯の笑顔が、屋台のおばちゃんたちにかわいがられた。


「このミダチロアはね、風邪のひきはじめにいいんだよ!」


「美白っていったらナランサの実だねぇ。美容にうるさい奥様がパック用に買っていくよ」


 ……などといった、生活の知恵袋的な情報収集もばっちりで、アレクが値段の交渉もしっかりやってくれたそうだ。


 その横でヴェリガンは人に酔い、貧血を起こしてぶっ倒れてしまったらしい。どこの深窓の令嬢だよ!


「もうぜんぶアレクにまかせちゃおうかな……」


「へへっ、僕がついてればヴェリガンはだいじょうぶだよ!」


 ……頼もしい。


 いちおうわたしは責任者なので、ヴェリガン・ネグスコが運びこまれたという、王城の医務室に向かった。


 医務室ではジャバン・ララロアという、ミルクティー色の髪と瞳をした医師が彼を診察していて、とくに病気というわけではないらしい。


「疲労と栄養不足ですかね。彼、ちゃんと食べてます?」


「不摂生を絵にかいたような生活ぶりです」


「なるほど……それで病気にならないなら、逆に彼、じょうぶな人間かもしれませんよ」


 そういう考えかたもできるのか……。青い顔をしてベッドに横になるヴェリガンは頬もこけ、ほんとうにガリガリだ。


「体脂肪率は?ヴェリガンのあの体格だと八パーセントぐらいですか?」


「たい……?」


 ハッ!なにげなく聞いて今気づいた!この世界、体脂肪計がなかったよ!


 そうだった……体脂肪ってもともとは、人を水中に沈めて量った体重と空気中で量った体重との差から、身体密度を計算して……かなりめんどくさい方法で測定するんだった。


 乗るだけで体脂肪率が測れるタニタの体脂肪計なんて、今考えたら魔道具にしか思えないよ!


 いや、待てよ?


 空気置換法があった!


「……人間がまるごと大きさの錬金釜があれば、圧力変化を測定して身体密度を計測できるかも。うーん……」


 ひとりで考えこんだわたしは、ジャバン・ララロアが、ギョッとしているのに気づくのが遅れた。


「れ、錬金釜に……人間をまるごと⁉」


「ん?」


 顔を上げると、医務室にいた人たちの顔が青ざめている。


「え?ちがうよ!人間を錬金の材料にするわけじゃないから!」


 ああっ!錬金釜に人間をまるごと……って、わたし言っちゃった!!


 しかもわたし、グレンの仮面つけてるし!


 いやああああ!絶対、グレンみたいなマッドサイエンティストだって勘違いされた!


 あわてて否定して、体脂肪率についてもきちんと説明したけれど、ララロア医師の目はいまひとつ、信用していない感じだった。


 絶対疑われたよなぁ……そう思っていたら、やっぱり。


「ネリス師団長……『新しい師団長は錬金術師たちをメシも食わせず、貧血で倒れるまで働かせ、力尽きたら植物の肥料にするか、錬金釜にまるごと入れて錬金材料にするらしい』というウワサがあるそうだが」


 後日、アーネスト陛下から心配そうな顔で聞かれ、わたしはひざから崩れ落ちそうになった。


 それ、わたしのせいじゃないから!ヴェリガンの自業自得だから!


 こうなったら絶対、彼を健康体にしてやるんだから!

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
〉メシも食わせず貧血をおこして倒れるまで働かせ、力つきたら植物の肥料にするか、錬金釜にまるごといれて錬金の材料にする なんたる悪鬼ww しかも要素は全て事実w これは極悪非道の師団長に違いないwww
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