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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち
75/560

75.この世界、体脂肪計がなかったよ!

ブクマ&評価ありがとうございます!

 三人を見送ったあと、ソラに手伝ってもらって慣れない書類仕事をしていると、ノックの音が聞こえた。


「ネリア、今いいですか?ライガのことで相談したくて……」


 ユーリが師団長室に顔をだしたタイミングで、ヌーメリアから『エンツ』がきた。


「ネリア……?大変なんです……市場でヴェリガンが倒れてしまって……!」


「ええっ⁉」


 ユーリも反応する。


「ヴェリガンがなぜ市場に⁉」


「ヴェリガンに市場の野菜と果物を調べてくるよういって、ヌーメリアとアレクも一緒にでかけたんだけど……」


「ヌーメリアさんとアレク君がっ⁉」


 ユーリのうしろから慌てたようすで顔をだしたのは……えーと、最近よくユーリの部屋でみかける……。


「補佐官さん!」


「テルジオ・アルチニです……ネリス師団長……」


「そうそう、アルチニさん!」


「テルジオとおよびください!……それで、ヌーメリアさんとアレク君も一緒なんですね?」


 そうだ、補佐官さんとあいさつを交わしている場合じゃない!


「うん。わたし、行ってくるね!」


「ちょっと待ったあああ!」


 エンツを飛ばそうとしたわたしを強制的にさえぎったのは、補佐官さんだった。


「ヌーメリアさんもアレク君も市場に行ったことはありませんよね?」


「そうなの!だから気になって……」


 いそいでいるのに、こんなときに止めないでほしい。気がせくわたしに向かって、補佐官さんはキリッと表情をひきしめ、さらにたたみかけてきた。


「ネリス師団長は市場に行ったことは?」


「ないけど」


 わたしの返事に補佐官さんは目をまるくして、信じられないものをみるような目つきになる。


「市場がはじめての人間ばかり行ってどうするんですかっ!」


「……なんとかなるんじゃ?」


 補佐官さんは額を手で押さえて、なにやらブツブツとつぶやきだした。


「ダメだ……この危機意識の欠如……どうにかせねば……」


 こんなことしてる場合じゃないんだけどな……もうほうっておこうか……と思ったら、わたしの肩にポン、とユーリの手がおかれた。


「ネリア、ここは彼にまかせて大丈夫ですよ」


「えっ?そうなの?」


 おもむろに顔を上げた補佐官さんは、すぐに行動した。


「とりあえずヴェリガン・ネグスコは回収しましょう……ヘタに入院されるとやっかいです」


「そうだな」


 ユーリが同意し、補佐官さんがテキパキと『エンツ』を飛ばす。


「ヌーメリアさん?テルジオです……おふたりは無事ですか?」


 すぐにヌーメリアから返事がきた。


「テルジオ?私たちは無事です……」


「市場の警備担当に連絡します。むかえがくるまでおふたりともそこを動かないように。ヴェリガン・ネグスコは回収し、王城医務室に運びこみます……では手配してまいりますので失礼します」


 ビシッとしたままそう言いおいて、補佐官さんはさっそうと師団長室をでていった。


「すごいねぇ!あの補佐官さん……」


 わたしが感心していると、ユーリが少しあきれたような顔をした。


「ネリア……彼の名前覚えてないでしょ」


 ……バレたか……。






 ほどなくしてヌーメリアとアレクが帰ってきた。


 ヴェリガンとヌーメリアとアレク……市場に慣れていない三人のうち、いちばん活躍したのは、なんとアレクだったらしい。


 田舎育ちだけに旬の野菜や果物をちゃんと知ってたし、アレクの人なつこさとすきっ歯の笑顔が、屋台のおばちゃんたちにかわいがられた。


「このミダチロアはね、風邪のひきはじめにいいんだよ!」


「美白っていったら、ナランサの実だねぇ……美容にうるさい奥様がパック用に買っていくよ」


 ……などといった生活の知恵袋的な情報収集もばっちり、アレクが値段の交渉もしっかりやっている横で、ヴェリガンは人いきれに酔い、貧血をおこしてぶっ倒れてしまったらしい。どこの深窓の令嬢だよ!


 もうぜんぶアレクにまかせちゃおうかな……。






 いちおうわたしは責任者なので、ヴェリガン・ネグスコが運びこまれた王城の医務室にむかった。


 医務室ではジャバン・ララロアという、ミルクティー色の髪と瞳をした医師がでむかえてくれた。彼の診察ではとくに病気というわけではないらしい。


「疲労と栄養不足ですかね……彼、ちゃんと食べてます?」


「不摂生を絵にかいたような生活ぶりです」


「なるほど……それで病気にならないなら、逆に彼、じょうぶな人間かもしれませんよ」


 そういう考え方もできるのか……。青い顔をしてベッドに横になるヴェリガンは頬もこけ、ほんとうにガリガリだ。


「体脂肪率は?ヴェリガンのあの体格だと八パーセントぐらいですか?」


「たい……?」


 ハッ!なにげなく聞いて今気づいた!この世界に体脂肪計……なかったよ!


 そうだった……体脂肪って、もともとは……人を水中に沈めてはかった体重と空気中ではかった体重との差から身体密度を計算するとか……かなりめんどくさい方法で測定するんだった。


 乗るだけで体脂肪率が測れるタニタの体脂肪計なんて……今考えたら魔道具にしか思えないよ!


 いや、待てよ?


『空気置換法』があった!


「……人間がまるごとはいる大きさの錬金釜があれば、圧力変化を測定して身体密度を計測できるかも……うーん……」


 ひとりで考えこんだわたしは、ジャバン・ララロアが、ギョッとした顔になったのに気づくのがおくれた。


「れ、錬金釜に……人間をまるごと⁉」


 ん?


 顔を上げると、医務室にいた人たちの顔が青ざめている。


 え?


 ちがうよ!人間を錬金の材料にするわけじゃないから!


 ああっ!錬金釜に人間をまるごと……って、わたし言っちゃった!!


 しかもわたし、グレンの仮面つけてるし!


 いやああああ!絶対、グレンみたいなマッドサイエンティストだって勘違いされた!


 あわてて否定して、体脂肪率についてもきちんと説明したけれど、ジャバンはいまひとつ信用していない顔をしていたし。


 絶対疑われたよなぁ……そう思っていたら、やっぱり。


「ネリス師団長……『新しい師団長は錬金術師たちをメシも食わせず貧血をおこして倒れるまで働かせ、力つきたら植物の肥料にするか、錬金釜にまるごといれて錬金の材料にするらしい』というウワサが流れているのだが」


 後日、アーネスト陛下から心配そうな顔できかれて、わたしはひざからくずれ落ちそうになった。


 それ、わたしのせいじゃないから!ヴェリガンの自業自得だから!


 こうなったら絶対、ヴェリガンを健康体にしてやるんだから!

ありがとうございました。

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