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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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74.コールドプレスジュース

なろうでも怒涛の展開で突っ走り、書籍化を決めた部分。2巻に収載されています。

挿絵(By みてみん)

【2巻あらすじ】

未来の錬金術師たちを発掘せよ!

魔術学園の生徒たちを迎えた職業体験が始まり、ネリアは新製品の魔道具を売りだすべく王都を跳び回る。

一方、赤の錬金術師ユーリのまわりでは恐るべき陰謀が……。

 ヌーメリアたちが加わって、居住区の朝はにぎやかになった。


 アレクは〝ニーナ&ミーナの店〟で、寝ぐせなおし機能つきパジャマを買ってもらった。おかげで寝起きなのに髪がサラサラだ。ウケる。


「ヌーメリアも新しい服を買ったの?顔色が明るく見えるね!」


 いつも地味な色ばかり選んでいたヌーメリアが、今朝は明るいベビーピンクのブラウスを着ている。


「アレクが『これがいちばんいい!』って言ったんです……」


 恥ずかしそうに教えてくれた彼女は、お姉さんなのにかわいい。


 ピンクとグレイって相性いい組み合わせだもんね。アレク、グッジョブ!


 ふたりがきてからは、わたしもベッドで朝食をとるのはやめて、いっしょにテーブルを囲むようになった。


 ベッドで朝ごはん……ぜいたくだけど、病人みたいでスッキリしない。たまにならいいけど。


 今朝はソラが作った卵サンドをパクつきつつ、温野菜とコンソメスープをいただいている。健康的!


 居住区の窓からみえる中庭は、コランテトラの葉が風にそよいで涼しげだ。


 ソラが家事全般を片づけてくれるため、ここの暮らしはとても快適だ。ヌーメリアも時間に余裕があるから、アレクと楽しそうに関わっている。


 デーダス荒野にいたときのグレンは、生活に無頓着だったのに、どうやら王都では細かく注文をつけていたらしい。


 おかげでうちのオートマタは、優秀すぎるほど優秀なのだ。


「ネリア様、食後のアイスティーは中庭へお持ちしましょうか?」


「お願い」


 なんだろう、喉が渇いたな……と思うまえにアイスティーが用意されているこのすばらしさ。


 これはこれで……人としてアカン気がする。


 そよそよと風が吹く木陰で、のんびりアイスティーを飲みながら、今日の仕事予定をチェックする。


 仕事以外、何もしなくていい……というのは助かるけれど、気がつけば仕事だけしているような。


 それはそれで……人としてダメな気がする!


 わたしはちょっとだけ危機感を覚えたのだった。


 ヌーメリアとふたりで、中庭からちょこっと歩いただけの研究棟に出勤すると、一階にある研究室で植物を栽培しているヴェリガンが、収穫物を素材として持ってきてくれた。


「これ……たのまれてた素材……収穫できた……」


 彼の研究室はもともとアトリウムだったらしい。わたしは受け取った素材よりも、ひどすぎる顔色のほうが気になった。


「ところでヴェリガン……朝ごはんは何を食べたの?」


 彼はボサボサの髪をぽりぽりとかく。


「……記憶に……ない……」


 これだよ!


「いちおうヴェリガンは働き盛りなんだからさぁ……不摂生してたら、いい仕事できないよ!」


 わたしの注意に、彼はボソボソと答える。


「……食べるの……めんどう……」


 もっとダメ人間がここにいた!


 仕事のまえにやることがある!


「ソラ、野菜と果物を台所から持ってきて。ナマでも食べられて、水分の多いものがいいわ。あと葉物も」


「かしこまりました」


 こういうとき、サッと動いてくれるソラはマジで優秀だ。ヌーメリアも心配そうにヴェリガンの顔を見ている。


「ヴェリガン、本当に顔色が悪いですよ……ちゃんと寝てますか?」


 彼はヒュッと息をのんで、アワアワしながら、ボサボサの髪をかき集めて自分の顔を隠す。何やってんの……。


「気がつくと……寝てる……から……だいじょうぶ」


 それ、倒れてるっていうんじゃ……。


「もー!ヘタすりゃ死んじゃうよ!」


「死んだとしても……僕のだいじな子たちの……養分に……なるんだし」


 妙に達観したような答えが返ってきた。昔の人は言いました。


 西行『願わくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月の頃』


 ……いや、研究棟でそれやったらダメだから。


 だいたいそれ書いたときの西行さん、六十過ぎだし!ヴェリガンはまだ三十代なんだから!


「ネリア様お持ちしました」


 ソラが持ってきた、野菜とくだものが山盛りになったカゴを見て、ヴェリガンはげんなりする。植物バカのくせに、野菜は好きじゃないのかよ!


「ネリア、こんなにどうするのですか?」


「ヴェリガンの顔色だと、いきなり食事をとらせても、お腹に負担がかかりそうだと思って。んと……柑橘類は避けたほうがいいかなぁ」


 不思議そうに聞くヌーメリアに、わたしは説明しながら野菜や果物を選びはじめる。


「お腹によさそうなのは……ミッラやテルベリーの実と、あとタラスの葉っぱもいいかなぁ……根菜のディウフも入れようか」


「いったいなにを?……野菜ジュースでも作るのですか?」


「うん、野菜ジュースではあるんだけどね……〝低温低圧圧縮方式〟で〝コールドプレスジュース〟を作るの」


「こーるどぷれす?」


「難しいことじゃないの。温度を上げずに圧力のみで、野菜や果物から栄養や水分を取りだすと、時間をかけて消化しなくても、スムーズに吸収できるの」


 野菜や果物を熱したり砕いたりすれば、本来持っている栄養素を壊してしまう。


 わたしは材料を錬金釜に放りこむと加圧をはじめた。熱を発生させないように気をつけて、圧力のみで搾汁するのだ。


 なんだか錬金釜をいいように使っているけれど、『錬金術師が内部の空間を支配できる』という便利機能は本当に使える!


「いい?ナマの果物をそのまま食べた場合、消化に時間がかかるわりに、吸収率は二割もない。〝コールドプレスジュース〟ならすぐに消化して、しかも吸収率は六割以上!これならめんどくさがりのヴェリガンにも合うわ」


 でてこい、栄養素ちゃん。


 できあがった〝コールドプレスジュース〟を、ヴェリガンだけでなくヌーメリアやアレクにも試飲してもらう。


 ……うん、多少タラスのクセがあるけれど、これなら飲みやすい。


 恐る恐るといった感じで口をつけたヌーメリアが、こくりと飲んで感心したように目をみはる。


「あら。おいしいです……これならアレクも飲めますね」


「うん」


「意外と……飲み……やすいね」


 ヴェリガンもボソボソいいながら飲んでいる。飲み終えた彼に、わたしはさっそく仕事を与えた。


「ヴェリガンにお仕事をあげる。自分の健康のためにも、〝コールドプレスジュース〟のレシピをいくつか開発してちょうだい」


「レシピ?」


 仕事がふられるとは思わなかったのか、ヴェリガンはぎょろつく目でわたしを見た。ほほがこけた彼の顔が、さらにシュールな感じになる。


「錬金素材ならともかく、市場で売っている野菜や果物のことは、わたし詳しくないの。だから体にいい組み合わせを目的別に、ヴェリガンがいくつか開発してみて」


「かっ、体にいい組み合わせ?……ヒック!」


 驚きすぎたのか、ヴェリガンはしゃっくりをする。


 これにはもうひとつ野望があって、こっちの世界にある食材の効果がハッキリしたら、サプリメントを開発したい。


 確かビタミンCが美肌、ビタミンB群が口内炎やニキビ予防、葉酸は赤ちゃんの発育にいいんだっけ?


 きっとこっちの世界にだって、同じような物質があるだろう。


「うん!たとえば美肌とか整腸とかデトックスとか……季節によって旬の素材も違うし、いろいろ考えられるでしょ。ヌーメリアもヴェリガンを手伝って、市場で使う食材の組み合わせを見つけてね!」


「ええ……おまかせください」


「えっ!ちょっ、ヌーメ……ヒック!」


 あせったヴェリガンが情けない顔でヌーメリアを見ても、彼女は穏やかにほほえむだけだ。


「そうそう、アレクも連れて行くといいよ。アレクだって王都に慣れたほうがいいしね!」


「まぁ!アレクも市場に⁉それはステキですわ……ね、ヴェリガン?」


 喜んだヌーメリアがふわりとほほえむ。


 ヴェリガンは「あー」とか「うー」とかうなって、やがて頭を抱えてうずくまった。


「しくしく……ヒック!……僕の平穏が……ヒック!」


 わたしはできるだけ優しく、そうヌーメリアみたいに彼へ話しかける。


「ヴェリガン……竜騎士団で『これからは師団長に協力する』って言ったのはだぁれ?」


「僕でふぃ……ック!……うぅ……僕の……平穏……ック!」


 ヴェリガンは市場に売られる子牛のような顔をしていたけど、ローブを脱いできたヌーメリアがベビーピンクのブラウスを着ているのを見て、少し顔色がよくなった。


 紺色の髪をしたヴェリガンが、青い髪のアレクを連れてでかけると、なんだかまるで親子みたいだった。

作者はコールドプレスジュースを飲んだことはありません。

高感度なおしゃれ女子が飲んでいるイメージ。

目新しいものではないですが、ヴェリガンには飲ませたくなりました。

挿絵(By みてみん)

表紙と挿絵を担当してくださっているよろづ先生から、2巻発売記念イラストを頂きました!

大感謝です!ネリアがめっちゃいい笑顔!元気がもらえる!

2巻は錬金術師のローブがばっちり決まった、ネリアとユーリが目印です。

小説版の最後、気に入ってます。

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― 新着の感想 ―
ドナドナド~ナ~♪ 植物好きなのに~♪ ドナドナド~ナ~♪ 野菜は嫌いなの~♪ いや、気持ちは分かるがなんでだよ(笑) 大好きな植物は自らの手で愛でてこそ研究者。なんしかスムージー?作り、頑張れ。
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