7.魔導列車の旅(魔道具師メロディ)
メロディ・オブライエンは王都シャングリラの三番街に、自分の店を持つ魔道具師だ。
魔道具師の父を持つ彼女は、魔術学園を卒業すると魔道具ギルドで修行し、小さいけれど自分の店を持ったばかり。
魔道具師は食いっぱぐれのない職業とされているが、メロディはそれだけでは飽き足りなかった。
「私は自分が使いたいと思う魔道具を作りたいの」
最初は売れ筋の魔道具を店に並べ、修理の仕事をギルドや父親からも回してもらい、手間賃を稼ぎながらオリジナル商品を開発した。
看板商品がひとつあれば、お客は修理や調整を作者に頼むし、人にも勧めてくれる。
経費はなるべく節約するため、たまに店を閉めてサルカス産地まで素材の買いつけに出かける。ずっとひとりで店を切り盛りしているから、メロディにとってはいい気分転換になっていた。
材料に使う皮を直接選んで購入すれば、魔道具に仕立てるときも愛着が湧く。不思議なもので、譲りたくないと感じる品ほど先に売れていく。
錬金術師と魔道具師は、似て非なる職業だ。
『無から有を生む』といわれる錬金術師は、物質の本質に作用する高い魔力を有し、素材の錬成を行うだけでなく、魔道具も作りだせる。
魔道具師は魔道具の修理や開発・製作が主な仕事で、素材錬成ができるほどの魔力はない。
二百年前、エレント砂漠に大規模な魔石鉱床が発見された。魔石のおかげで高い魔力がなくても扱える、生活用魔道具が普及し、魔道具師が活躍するようになった。メロディもそのひとりだ。
王都三師団と呼ばれる魔術師団、錬金術師団、竜騎士団は王城に本拠地を置き、シャングリラ魔術学園の卒業生でも毎年、入団できる人数は一~二名というエリート集団だ。それもあって錬金術師と魔道具師は微妙な関係だという。
魔術師や錬金術師たちが、魔道具師やその仕事を見下すこともあるし、逆に魔術学園で魔術を学びながら、三師団への入団をあきらめて魔道具師になった者が、劣等感を感じることもあるらしい。
もっとも錬金術師になりたがる者は変わり者が多く、入団希望者も数年に一人いるかいないかだ。
メロディは自分の親も魔道具師だったし、生活に根差した道具を作る、自分の仕事に誇りを持っていた。北の山脈で獲れる素材を買いつけた帰りに出会ったネリアは、魔道具師を変に見下すこともなく、メロディの話に素直に反応する。
素材のことから、店で売っている魔道具の話になると、メロディも話が止まらない。
ネリアも錬金術師であるから、うんうんとうなずきながら、興味深く話を聞いている。
それがよほど嬉しかったのか、メロディはサルカスで購入したミュリスの箱を取りだし、食べたことがないネリアのために封を開けた。
ネリアは瞳を輝かせて、ミュリスをつまんでは歓声をあげる。
サルカス周辺で獲れるミッラの実を使ったミュリスは、サルカス土産としても有名な焼き菓子だ。
「わたし、人生、損してたかも、しれないです」
ネリアはほほを染めて、むぐむぐと口を動かしながら、真剣な表情でミュリスに向き合っている。
メロディは知り合ったばかりのネリアの横顔を、ホクホクとした気分で見つめて、うっとりとほほえむ。
(かわいいは正義!)
メロディ・オブライエンの信条の一つだ。
ネリアの肩につくぐらいの赤茶色の髪はふわふわしていて、ペリドットの瞳は好奇心にあふれて煌めいている。唇は紅をさしていないのに赤く、頬はふっくらとして面差しはあどけない。
綺麗というよりはかわいらしい顔立ちのネリアは、メロディのどストライクだったのである。
(ハァ……ずっと見ていても見飽きないわぁ)
性的指向は男性に向かうが、女子のかわいらしさも愛でられる。
「そんなアタシはセンスいい!」と思っているメロディにとって、くるくる表情が変わり、錬金素材の話にもついてこられて、商売道具の魔道具の話もできるかわいらしい顔立ちの錬金術師は、ぜひともお近づきになりたい。
これからネリアは王都の錬金術師団に向かうという。
魔術師団ほどの花形ではないが、王都に六人ほどしかいない錬金術師も、じゅうぶん注目を浴びる存在だ。
ネリア・ネリスという錬金術師の名は知らないけれど、話してみると素材にもくわしくて、その知識は確かだった。
(サルカスまで行くのは大変だったけど!お土産のミュリスも荷物になるかもってためらったけど!これぞ旅の醍醐味!)
「ネリアは錬金術師なんでしょう?もし魔道具を作ったら見せて!ウチの店に置かせてもらうわ!」
「ホントですか⁉︎うわぁ、うれしい!今度お店に持って行きますね!」
(買っておいてよかった!ミュリス最っ高!おかげでネリアとお近づきになれた!)
メロディがニマニマとほほを緩めていると、なにげなく車窓を見やったネリアが、「あ」と目を見開いた。
「あれって、もしかしてドラゴン⁉︎」
そう、ドラゴンが飛んでいた。
女同士だとにぎやかになりますね。
誤字報告で『志向』→『嗜好』ではないかとご指摘をいただきました。
これについては作者も気がつかず、うっかりしておりました。
ニュアンス的には『指向』が正しいので、そのように直させていただきます。









