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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる
57/560

57.レオポルドと白猫

『魔術師の杖 錬金術師ネリア、師団長になる』

https://izuminovels.jp/isbn-9784844398967

いずみノベルズ公式サイト

https://izuminovels.jp/

表紙と挿絵担当のよろづ先生より、Twitter用画像の掲載許可をいただきました。

よろづ先生、ありがとうございます!

 わたしの目の前に置かれた白いカップ。


 中身は、どろりとした青紫色の異臭がする液体。


 ふと見ると、ヌーメリアとカーター副団長の前のカップには普通のお茶らしきものが入っているではないか!青紫色ってわたしだけ⁉︎ヌーメリアもそれに気づいた。


「カーター副団長……もしかして師団長のカップの中身って……」


 ヌーメリア、知ってるの⁉︎


「『魔術学園』の生徒達の間では有名な『薬草茶』です……」


「まぁ、()()()()()()師団長はご存じなくても仕方ありませんなぁ」


 にやにやにや。カーター副団長はこちらを観察するように眺めながら、意地の悪い笑みを浮かべている。


『ネリア・ネリスに嫌がらせをする百の方法』って本が書けるよ、カーターさん!


『薬草茶』というからには『毒』ではないはず。もし毒なら『毒』のエキスパートのヌーメリアが何か言うはずだ。それにわたしには状態異常を防ぐ防御魔法がある。『毒』に限らず、たいていのものは防御魔法に無効化される。


 そう。きっと問題は、見た目と味と臭いだけだ!うわぁ……。


 わたしは、青紫色の液体を一気にあおった。その激烈な風味に息が詰まり気絶しそうになる。涙目になりながらも、吐かずにどうにか飲み込んだ。


 飲み干して顔を上げると、ヌーメリアはともかく……なんでカーター副団長まで目を丸くしてびっくりしてるの?


「さぁ!カーターさん!しなければならない手続きとか教えていただきましょうか!」


「あ?ああ……まず人事部門に行って『保護者』の届け出をして……『魔力持ち』の子なら養育費の補助の申請も……」


「それより師団長……今飲んだものは……」


「人事部門……行きましょう!補助の申請……やりましょう!」


 ヌーメリアが何か言いかけたが、わたしは、カーター副団長とヌーメリアを急き立てて人事部門に向かい、各種手続きをすませた。


 その後、カーター副団長がヌーメリアに王都の教育事情や『魔術学園』への入学準備について教えてくれるというので、それは任せて二人と別れてわたしは王城の中庭にでる。


 というか。


 さっきのあれを飲んでから。


 ……吐きそう……。


 おかしい。状態異常は無効化されるはずなのに。


 それともただの食あたりとかなのかな。凄い味と臭いだったし。


 結局、あれが何なのか聞きそびれた。


 ヌーメリアが何か言おうとしていたのに。


 吐いてしまった方が、楽になるだろうか……そう思ったとき、向こうからやってくる黒いローブが見えて、体から力が抜けた。


「おいっ」


 目を開けると、レオポルドの美麗な顔がわたしを見下ろしている。あれ?わたし倒れたかな?


 というか、さっきまで感じていた吐き気が治まり、気分もすっきりしている。身を起こし、大丈夫、と答えようとして。わたしは鳴いた。


「みゃあ」


 ……みゃあ?


 口元に手をやると、ツンツンしたヒゲが触る。


 え?何?自分の手を見ると白い毛が生えていて、可愛らしい肉球が……肉球⁉︎そして自分のお尻には揺れる尻尾。


(猫ぉおお⁉︎)


 わたしはどうやら。


 白猫になってしまったようだ。





 レオポルドは白猫になってしまったわたしの体を、脇の下に手を差し入れてひょいと持ち上げると、呆れたようにその秀麗な眉をひそめた。


「……お前は馬鹿か?三重防壁はどうした?」


 飲まされた青紫の液体は別に毒ではない。状態異常は……ただ猫になっただけで、気分は爽快……むしろ今は絶好調!……というわけで魔法陣の防壁は全く作動しなかったようだ。わたしは力なくうなだれる。


「にゃあ……」


「……この臭いは……なるほどな」


 レオポルドはなにか察したらしい。わたしを抱えるとそのまま魔術師団長室へ転移した。師団長室には副団長のメイナード・バルマともうひとり女性が居て、猫を抱えたレオポルドを見て目を丸くした。


「師団長?……その猫どうしました?」


「あら、可愛らしい白猫!黄緑色の瞳が鮮やかね」


挿絵(By みてみん)


 白猫になったわたしを抱えたまま、レオポルドは不機嫌そうに告げる。


「……私の猫だ」


「師団長の?」


 メイナードが信じられないような顔で聞き返す。


「魔法使いが『猫』を飼って何が悪い」


「でもそれ、『白猫』……」


 ふいっ。


 レオポルドはそっぽを向くと、それ以上詮索は許さず自分の机に向かう。それを見た二人は、机の向こうでこそこそと話し始めた。


(マリス女史!見た⁉︎今の見た⁉︎師団長が……照れたよぉ!)


(えぇ!バッチリですとも!貴重なシーン、いただきましたぁっ!)


 二人は何やら目を輝かせて話し込むと、やおらこちらに向き直った。


「でしたら、食事は師団長と一緒に何か運ばせましょうか?ミルクとか」


「子猫には見えないし、生き餌がいいんじゃ?ネズミとか小鳥とか」


(生き餌⁉︎無理!無理だから!)


 いくら猫になっているとはいえ、人間の意識はあるのだ。ネズミや小鳥を生のまま、バリバリモシャモシャ食べられるわけがない。


 ひとり焦っていたら、黄昏色の瞳と目が合った。


「いや……餌はいい。私の食事を普段より多めにしてくれ」


「師団長の食事を分けるんですか?」


「存外、こいつは食いしん坊でな」


(バレてる⁉︎)


 レオポルドは自分の机に座ると、わたしを膝に載せたまま、書類の束を手に取る。


(……って言うか、膝の上⁉︎)


「動くな」


 慌てるわたしの動きを封じるように、レオポルドの大きな左手が背中に載せられる。


「余計な事はするなよ」


 そう言われると邪魔しないように縮こまるしかない。それにどうやらメイナードとマリス女史もここで仕事をするらしい。


 仕方なしにレオポルドの膝の上でじっと丸まる。部屋の中ではしばらく、書類をめくる音と、紙を滑るペンの音だけが聞こえていた。


 やがて、マリス女史が昼食を運んできた。


「はい、大盛りにしてもらいましたよ!」


(いい匂い……)


 気になるけれど、レオポルドの手にぐっと押さえつけられる。ぐぇ。


「大人しくしてろ」


(猫ってどうやって食べたらいいんだろう)


 心配していたら、レオポルドが肉の塊を器用に切り分けると、小さく切ったものをわたしの口へ運んでくれた。


(美味しい!)


「……気に入ったか」


(うん!うん!もぅ最っ高!)


 お肉を幸せな気持ちでもぐもぐしていると、小さく切ったひと切れが、また差しだされる。


「ほら」


「みぃ」


(やばい!変な声でた)


 レオポルドがふっと笑った。


(こいつ……愉しんでやがる!)


 そりゃそうだよね!わたしだってムカつく奴が目の前で猫になっていたら、猫じゃらしで釣って遊び倒したりとか!マタタビ与えてメロメロになった所を笑ってやるさぁ!こんな所でこんな奴に餌を与えられるとは!一生の不覚!


 絶対こいつの手から餌を食べるもんか!と決意した次の瞬間、目の前に外はカリカリで香ばしく、中はホクホクの揚げトテポが。


 ぱくん。


 ……猫って難しい事考えられないんだね……。 

食事中のメイナードとマリス女史の会話。


(マリス女史!見た!?今の見た!?師団長が…笑ったよぉ!)

(えぇ!見ましたとも!2か月ぶりぐらいですかねぇっ!)


ところでこの世界では『揚げトテポ』が正解です。ポテトっぽい何かです。


異世界ということで猫やカラスも実は『猫っぽい何か』、『カラスっぽい何か』なのですが、イメージのしやすさを考えて『猫』、『カラス』という表記にしている……ネリアの脳内ではそういう風に翻訳されていると考えてください。

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