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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる

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57.レオポルドと白猫

『魔術師の杖 錬金術師ネリア、師団長になる』

表紙と挿絵担当のよろづ先生より、SNS用画像の掲載許可をいただきました。

よろづ先生、ありがとうございます!

 わたしの前に置かれた白いカップの中身は、どろりとした青紫色の液体で異臭がしている。


 みるとヌーメリアとカーター副団長のカップには、ふつうのお茶らしきものが注がれているではないか!青紫色ってわたしだけ⁉︎ヌーメリアもそれに気づいた。


「カーター副団長……もしかして師団長のカップの中身は……」


「ヌーメリア、知ってるの⁉︎」


「魔術学園の生徒たちには有名な薬草茶です……」


「まぁ、卒業生でない師団長はご存じなくてもしかたありませんなぁ」


 にやにやにや。カーター副団長はこちらを観察するようにうかがいながら、意地の悪い笑みを浮かべている。


『ネリア・ネリスに嫌がらせをする百の方法』って本が書けるよ、カーターさん!


 薬草茶というからには毒ではないはず。もし毒ならエキスパートのヌーメリアがなにかいうはず。それに状態異常を防ぐ防御魔法がわたしにはある。毒に限らず、たいていのものは無効化される。


 そう。きっと問題は見ためと味と臭いだけだ!うわぁ……。


 わたしは青紫色の液体を一気にあおった。その激烈な風味に息が詰まり、気を失いそうになる。涙目になりながら、どうにか吐かずに飲みこんだ。


 飲み干して顔をあげれば、ヌーメリアはともかく……カーター副団長まで目を丸くしてびっくりしている。


「さぁ、カーター副団長!しなければならない手続きとか教えてください!」


「あ?ああ……まず人事部門にいき保護者の届けをだして、魔力持ちの子なら養育費補助の申請を……」


「それより師団長……今飲んだものは……」


「人事部門……いきましょう!補助の申請……やりましょう!」


 ヌーメリアが何か言いかけたが、わたしは、カーター副団長と彼女を急き立てて人事部門に向かい、各種手続きをすませた。


 カーター副団長は王都の教育事情や、魔術学園の入学準備についても教えてくれるという。ヌーメリアがそれを聞きたがったので、ふたりと別れたわたしは王城の中庭にでる。


 というか、さっきのあれを飲んでから。


 ……吐きそう……。


 おかしい。状態異常は無効化されるはずなのに。


 それともただの食あたりなのかな。すごい味と臭いだったし。


 結局、ヌーメリアがなにか言おうとしていたのに、あの薬草茶がなんなのか聞きそびれた。


 吐いてしまったほうが、楽になるだろうか……そう思ったとき、向こうからやってくる黒いローブが見えて体から力が抜ける。


「おいっ」


 パチッと目を開けると、レオポルドが美麗な顔の眉間にくっきりとシワを寄せて、わたしを見下ろしていた。あれ?わたし倒れたかな?


 なぜかさっきまで感じていた吐き気が治まり、気分もすっきりしている。身を起こし、「だいじょうぶ」と答えようとして。わたしは鳴いた。


「みゃあ」


 ……みゃあ?


 口元に手をやると、ツンツンしたヒゲが触る。


 え?何?自分の手を見ると白い毛が生えていて、かわいらしい肉球が……肉球⁉︎そして自分のお尻には揺れる尻尾。


(猫ぉおお⁉︎)


 わたしはどうやら、白猫になってしまったようだ。


「…………」


 レオポルドは白猫になったわたしの体を、大きな手を脇に差しいれてひょいと持ちあげ、あきれたように秀麗な眉をひそめた。


「……お前はバカか?三重防壁はどうした?」


 飲まされた青紫の液体は毒ではなかった。状態異常は……わたしがただ猫になっただけで、気分は爽快……むしろ今は絶好調!


 というわけで、魔法陣の防壁はまったく作動しなかったようだ。わたしは力なくうなだれた。


「にゃあ……」


「……この臭いは……なるほどな」


 レオポルドはなにかを察したらしい。わたしを抱えて、そのまま塔の魔術師団長室へ転移した。ひぃん、こんな格好でおじゃまします……。


「師団長?その猫どうしました?」


 師団長室には副団長のメイナード・バルマともうひとり女性がいて、猫を抱えたレオポルドに目を丸くする。


「あら、かわらしい白猫!黄緑色の瞳が鮮やかね」


 白猫のわたしを抱えたレオポルドは、不機嫌そうにふたりへ告げた。


「……私の猫だ」

挿絵(By みてみん)

「師団長の?」


 バルマ副団長が信じられないようすで聞き返す。


「魔法使いが猫を飼ってなにが悪い」


「でもそれ、白猫……」


 ふいっ。


 レオポルドはそっぽを向くと、それ以上詮索させずに自分の机に向かう。それを見たふたりは、部屋のすみでコソコソと話しはじめた。


(マリス女史!見た⁉︎いまの見た⁉︎師団長が……照れたよぉ!)


(えぇ!バッチリですとも!貴重なシーン、いただきましたぁっ!)


 二人はなにやら瞳を輝かせて話しこみ、やおらこちらに向き直った。


「でしたら猫ちゃんの食事は、師団長といっしょに運ばせましょうか?ミルクとか」


「子猫じゃなさそうだし、生き餌がいいんじゃ?ネズミとか小鳥とか」


(生き餌⁉︎無理!無理だから!)


 いくら猫になっているとはいえ、人間の意識はあるのだ。ネズミや小鳥を生のまま、バリバリモシャモシャ食べられるわけがない。キャットフードでもイヤかも!


 ひとりであせっていたら、黄昏色の瞳と目があう。軽くため息をつかれた。


「いや……餌はいい。私の食事をふだんより多めにしてくれ」


「師団長の食事をわけるんですか?」


「こいつは食いしんぼうでな」


(バレてる⁉︎)


 レオポルドは自分の机に座ると、わたしを膝に載せたまま書類の束を手にとる。


(というか、膝の上⁉︎)


「動くな」


 あわてるわたしの動きを封じるように、レオポルドの大きな左手が背中に載せられる。


「よけいなことはするなよ」


 そういわれると、仕事のじゃまをしないように縮こまるしかない。それにバルマ副団長とマリス女史も、ここでいっしょに仕事をするらしい。


 しかたなく、わたしはレオポルドの膝でじっと丸まる。室内ではしばらく、書類をめくる音と、紙を滑るペンの音だけが聞こえていた。


 やがて、マリス女史が昼食を運んできてくれる。


「はい、大盛りにしてもらいましたよ!」


(いい匂い……)


 気になって伸びをしたとたん、レオポルドの手にぐっと押さえつけられる。ぐぇ。


「おとなしくしてろ」


(してるもん!)


 シャーッと牙をむいても、レオポルドの表情は変わらない。


(猫ってどうやって食べたらいいんだろう)


 心配していたら、彼は器用に肉の塊を切りわけ、小さくしたものをわたしの口へ運んでくれる。


(おいしい!)


 やわらかく口のなかでほぐれて、舌の上に肉のうまみが広がる。


「……気にいったか」


(うん!うん!もぅ最っ高!)


 お肉を幸せな気持ちでモグモグしていると、小さく切ったひと切れが、また差しだされた。


「ほら」


「みぃ」


(やばい!変な声でた)


 あわててぷにっとした肉球で口を押さえれば、レオポルドがふっと笑った。


(こいつ……愉しんでやがる!)


 そりゃそうだよね!わたしだってムカつくヤツが目の前で猫になったら、猫じゃらしで釣って遊び倒して、マタタビ与えてメロメロになったところを笑ってやる!


 こんなところでヤツにエサを与えられるとは!一生の不覚!


 絶対こいつの手から餌をもらうもんか!と決意した次の瞬間、目の前に外はカリカリで、なかはホクホクの香ばしい揚げトテポが。


 ぱくん。


 ……猫って難しいこと考えられないんだね……。モグモグモグ……しあわせぇ。


食事中のバルマ副団長とマリス女史の会話。

(マリス女史!見た!?いまの見た!?師団長が…笑ったよぉ!)

(えぇ!見ましたとも!二ヶ月ぶりぐらいですかねぇっ!)


⭐︎この世界では『揚げトテポ』が正解です。ポテトっぽい食べものです


異世界ということで猫やカラスも実は『猫っぽい何か』、『カラスっぽい何か』なのですが、イメージのしやすさを考えて『猫』、『カラス』という表記にしている……ネリアの脳内ではそういう風に翻訳されていると考えてください。

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― 新着の感想 ―
強制変身魔法薬…!? ハ○ポタのポ○ジュース薬みたいなやつだったの…?? 「姿形を変える」は十分に状態異常の範疇だと思うのだが…。あれか? 本人が覚悟の上で自ら飲んだから適用外? それともあの薬草茶…
[良い点] 悶絶しそうになるイラスト!素敵です。 [気になる点] 今後、明らかになるであろう主人公が研究対象だったという理由。 [一言] テンポよく、どんどん読めてしまいます。強気で頑張り屋さんな主人…
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