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魔術師の杖【コミックス1巻4月14日発売!】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第十三章 ネリアと死霊使い

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567.カディアンの受難

ニコニコ漫画、2月の更新は9日と23日です。

爽やかなライアスがご覧いただけます。

 ライアスが訓練場にやってくると、竜騎士たちが帰ってきたミストレイの世話をしていた。ヤーンが彼を見つけて駆け寄ってくる。


「団長、お帰りぃ!」


「おーっ、団長ひさしぶり!」


 王都で留守番していたレインに、ライアスは声をかける。


「留守中、変わりなかったか?」


「ドラゴンたちは絶好調だぞ!団長もちょっと見ないうちに、男ぶりが上がったんじゃねぇ?」


「だといいが」


 くすっと笑ってライアスは、ドラゴンたちのようすをチェックした。食欲も変わりなく、病気になった個体もないようだが、ちょっとしたケガにも注意は必要だった。


「爪から炎症を起こすこともある。亀裂がないかよく見ておけよ」


「了解!」


 きびきびと返事をして竜騎士たちがサッと散ると、副官デニスが銀縁眼鏡の補佐官を連れて入ってきた。


「団長、ちょっといいか!」


「兄さん⁉」


 振り返ったライアスが驚くと、彼の兄オーランドは銀縁眼鏡の縁をくいっと持ち上げて注意する。


「王城では『兄さん』はやめてくれ」


「あぁ、すまない……」


 ……ガンッ!


 つぎの瞬間、飛んできた拳を軽々受けとめ、さすがにライアスは眉を上げる。


「ちょっ、オーランド!」


「いいな。素早い反応だ」


 ヤーンがヒュウと口笛を吹いた。


「オーランドもよぉ、やってきていきなり団長に殴りかかるとか……変わんねぇな」


「王城でも第二王子の補佐官をしながら、鍛えているんだろ?」


 アベルが言えば、オーランドはうなずいた。


「ああ、それもあってライアスに話をしにきたんだが……」


「帰宅してからではダメなのか?」


 オーランドは銀縁眼鏡のレンズをキラリと光らせる。


「まだ正式に決定してないが、アルバーン公爵から公爵領にて雪上訓練をしたいと申し入れがあった」


「なんだって?」


 ドラゴンを使った雪上訓練ともなれば、当然ライアスもアルバーン領へ出向くことになる。


 さすがアルバーン公爵、仕事が早すぎるというか何というか……レオポルドの血筋というものを、ライアスはちょっと感じた。


「それとは別に、王家にあった打診のことも、すでに陛下から聞き及んでいると思うが……」


 オーランドの立場なら、この縁談に賛成することもあり得る。兄がどんなつもりでこの話を持ちだしたのかわからず、ライアスは困惑したように金の髪をかきあげた。


「ああ、今夜にでもみんなに話すつもりだった」


「なになに、雪上訓練だって?」


「やってもいいが、団長はゆっくりするヒマもないぞ」


 ヤーンやアベルが口を挟むと、オーランドはそれに答える。


「訓練でたがいの力量がわかれば、ムダな衝突を避けることにつながる。公爵の思惑はともかく、彼が保有する最新式の雪上魔導車には、王城としても興味がある」


「こちらも竜騎士団の実力を、彼らに見せつけることができる……というわけか」


「明日、師団長会議の議題になるだろう。これから書類をまとめるが、訓練には私も同行するつもりだ」


「オーランドが?」


 ライアスの兄は銀縁眼鏡の縁を持ち上げ、キリッとした顔でうなずいた。


「竜騎士たちは訓練に専念してもらいたい。報告書は私がまとめる」


「だがオーランドは、第二王子の筆頭補佐官をしているだろう。そちらの仕事はどうする」


「そこでだが……カディアン殿下も私に同行させようと思う」


 未成年の王子が訓練に同行することはあまりない。行くのはオーランドで、王子はただのオマケなのだ。


「そんなことが可能なのか?」


 卒業間近とはいえ、カディアンはまだ魔術学園の生徒だし、雪上訓練に同行するには学園を休まなければならない。


「すでに卒業試験は終えられた。不足している単位は、魔術師団長から直接補講を受けることにした。学園長からも許可を頂いている」


「そこまで段取りが済んでいるのか。カディアン殿下も希望を?」


 目を丸くしたライアスに、オーランドはキリリと顔を引き締めて確認する。


「いや、私が行きたいだけだ。かまわないか?」


 かまうもなにも……オーランドを止めるとしたら、それこそ竜騎士団長のライアスが力ずくでやらないと無理だろう。


 そこにいた誰もがそう思った。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そして奥宮では、メレッタとアナの親子を交えた楽しいはずのティータイムで、雪上訓練のことを知ったカディアンが頭を抱えていた。


「雪上訓練⁉なんで俺が⁉」


 考えるだけで寒すぎる。ドラゴンの背は風でびゅうびゅうだ。アルバの呪文を使ったって凍える。


「アルバーン領の視察もできると思えばいいではないか」


 のんびりした父の物言いに、カディアンは猛抗議した。


「冬のアルバーン領だぞ!雪しかないだろ!俺は……残り少ない学園生活をメレッタと……楽しもうと……」


「冬休みにたっぷり楽しんだだろう」


「オーランドがついてるんだぞ。楽しむとか……そんなんじゃなかったんだからな!」


「あら、私は楽しかったわよ?」


 こてりと首をかしげるメレッタに、できたら「行かないで」と止めてほしい。けれど彼女は湯気の立つ、ココアのカップを手にほほえむ。


「雪上訓練ね、父も行くんですって。なんでもアルバーン公爵が、たっぷり資金提供してくれたらしいの」


「えっ」


「お父さん、すごく張り切ってたわ。カディアンは弟子だもんね。ケガしないで戻ってきてね」


「め……メレッタは行かないよな……」


 メレッタも副団長の弟子ではあるのだが、彼女は残念そうに首を横に振った。


「私はドレスの仮縫いがあるもの。こればっかりはお母さんにつき合わないと」


「わたくしも楽しみにしていてよ」


 リメラ王妃がおっとりと言えば、アナもうれしそうにうなずく。


「カディアン殿下、お任せくださいな。ドレスのデザインはばっちり頭に入っていましてよ。それにね、最近の楽しみはそれだけじゃないんですの!」


 アナは奥宮を訪問するついでに、よく研究棟にも行くようになった。クオードもまんざらでもなさそうに出迎えるのだが、彼女の目当てはなんとソラだ。


「このあいだソラちゃんにセーターだけでなく、帽子とミトンをプレゼントしたら身に着けてくれましてね。ほら、これがフォト!」


「まぁ、かわいらしい!」


 リメラ王妃までフォトを手に、ほっこりとしている。なんだかんだいって、ソラは少年時代のレオポルドとそっくりなのだ。


 しかも「ネリアが喜ぶ」と言えば、まったく着せ替えを嫌がらないらしい。


「男の子はすぐ大きくなって、つまりませんもの。ソラは変わらないのね」


「今着ているシャツはシンプルでしょう?こんど服飾部門からレースの余りをもらって、ソラちゃんに合わせたらどうかしら」


「そのときは、わたくしもごいっしょしたいわ」


「えぇ、ぜひ!」


 盛り上がる女性陣を前に、カディアンが泣きたくなっていると、父のアーネストが知ったような顔で言った。


「男の子は大きくなると、つまらないそうだ」


(それは俺のせいじゃない!)


 暖かい奥宮で、カディアンの心にだけブリザードが吹き荒れた。

挿絵(By みてみん)

魔道具師のメロディにも初めてキャラデザがつきました!

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