567.カディアンの受難
ニコニコ漫画、2月の更新は9日と23日です。
爽やかなライアスがご覧いただけます。
ライアスが訓練場にやってくると、竜騎士たちが帰ってきたミストレイの世話をしていた。ヤーンが彼を見つけて駆け寄ってくる。
「団長、お帰りぃ!」
「おーっ、団長ひさしぶり!」
王都で留守番していたレインに、ライアスは声をかける。
「留守中、変わりなかったか?」
「ドラゴンたちは絶好調だぞ!団長もちょっと見ないうちに、男ぶりが上がったんじゃねぇ?」
「だといいが」
くすっと笑ってライアスは、ドラゴンたちのようすをチェックした。食欲も変わりなく、病気になった個体もないようだが、ちょっとしたケガにも注意は必要だった。
「爪から炎症を起こすこともある。亀裂がないかよく見ておけよ」
「了解!」
きびきびと返事をして竜騎士たちがサッと散ると、副官デニスが銀縁眼鏡の補佐官を連れて入ってきた。
「団長、ちょっといいか!」
「兄さん⁉」
振り返ったライアスが驚くと、彼の兄オーランドは銀縁眼鏡の縁をくいっと持ち上げて注意する。
「王城では『兄さん』はやめてくれ」
「あぁ、すまない……」
……ガンッ!
つぎの瞬間、飛んできた拳を軽々受けとめ、さすがにライアスは眉を上げる。
「ちょっ、オーランド!」
「いいな。素早い反応だ」
ヤーンがヒュウと口笛を吹いた。
「オーランドもよぉ、やってきていきなり団長に殴りかかるとか……変わんねぇな」
「王城でも第二王子の補佐官をしながら、鍛えているんだろ?」
アベルが言えば、オーランドはうなずいた。
「ああ、それもあってライアスに話をしにきたんだが……」
「帰宅してからではダメなのか?」
オーランドは銀縁眼鏡のレンズをキラリと光らせる。
「まだ正式に決定してないが、アルバーン公爵から公爵領にて雪上訓練をしたいと申し入れがあった」
「なんだって?」
ドラゴンを使った雪上訓練ともなれば、当然ライアスもアルバーン領へ出向くことになる。
さすがアルバーン公爵、仕事が早すぎるというか何というか……レオポルドの血筋というものを、ライアスはちょっと感じた。
「それとは別に、王家にあった打診のことも、すでに陛下から聞き及んでいると思うが……」
オーランドの立場なら、この縁談に賛成することもあり得る。兄がどんなつもりでこの話を持ちだしたのかわからず、ライアスは困惑したように金の髪をかきあげた。
「ああ、今夜にでもみんなに話すつもりだった」
「なになに、雪上訓練だって?」
「やってもいいが、団長はゆっくりするヒマもないぞ」
ヤーンやアベルが口を挟むと、オーランドはそれに答える。
「訓練でたがいの力量がわかれば、ムダな衝突を避けることにつながる。公爵の思惑はともかく、彼が保有する最新式の雪上魔導車には、王城としても興味がある」
「こちらも竜騎士団の実力を、彼らに見せつけることができる……というわけか」
「明日、師団長会議の議題になるだろう。これから書類をまとめるが、訓練には私も同行するつもりだ」
「オーランドが?」
ライアスの兄は銀縁眼鏡の縁を持ち上げ、キリッとした顔でうなずいた。
「竜騎士たちは訓練に専念してもらいたい。報告書は私がまとめる」
「だがオーランドは、第二王子の筆頭補佐官をしているだろう。そちらの仕事はどうする」
「そこでだが……カディアン殿下も私に同行させようと思う」
未成年の王子が訓練に同行することはあまりない。行くのはオーランドで、王子はただのオマケなのだ。
「そんなことが可能なのか?」
卒業間近とはいえ、カディアンはまだ魔術学園の生徒だし、雪上訓練に同行するには学園を休まなければならない。
「すでに卒業試験は終えられた。不足している単位は、魔術師団長から直接補講を受けることにした。学園長からも許可を頂いている」
「そこまで段取りが済んでいるのか。カディアン殿下も希望を?」
目を丸くしたライアスに、オーランドはキリリと顔を引き締めて確認する。
「いや、私が行きたいだけだ。かまわないか?」
かまうもなにも……オーランドを止めるとしたら、それこそ竜騎士団長のライアスが力ずくでやらないと無理だろう。
そこにいた誰もがそう思った。
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そして奥宮では、メレッタとアナの親子を交えた楽しいはずのティータイムで、雪上訓練のことを知ったカディアンが頭を抱えていた。
「雪上訓練⁉なんで俺が⁉」
考えるだけで寒すぎる。ドラゴンの背は風でびゅうびゅうだ。アルバの呪文を使ったって凍える。
「アルバーン領の視察もできると思えばいいではないか」
のんびりした父の物言いに、カディアンは猛抗議した。
「冬のアルバーン領だぞ!雪しかないだろ!俺は……残り少ない学園生活をメレッタと……楽しもうと……」
「冬休みにたっぷり楽しんだだろう」
「オーランドがついてるんだぞ。楽しむとか……そんなんじゃなかったんだからな!」
「あら、私は楽しかったわよ?」
こてりと首をかしげるメレッタに、できたら「行かないで」と止めてほしい。けれど彼女は湯気の立つ、ココアのカップを手にほほえむ。
「雪上訓練ね、父も行くんですって。なんでもアルバーン公爵が、たっぷり資金提供してくれたらしいの」
「えっ」
「お父さん、すごく張り切ってたわ。カディアンは弟子だもんね。ケガしないで戻ってきてね」
「め……メレッタは行かないよな……」
メレッタも副団長の弟子ではあるのだが、彼女は残念そうに首を横に振った。
「私はドレスの仮縫いがあるもの。こればっかりはお母さんにつき合わないと」
「わたくしも楽しみにしていてよ」
リメラ王妃がおっとりと言えば、アナもうれしそうにうなずく。
「カディアン殿下、お任せくださいな。ドレスのデザインはばっちり頭に入っていましてよ。それにね、最近の楽しみはそれだけじゃないんですの!」
アナは奥宮を訪問するついでに、よく研究棟にも行くようになった。クオードもまんざらでもなさそうに出迎えるのだが、彼女の目当てはなんとソラだ。
「このあいだソラちゃんにセーターだけでなく、帽子とミトンをプレゼントしたら身に着けてくれましてね。ほら、これがフォト!」
「まぁ、かわいらしい!」
リメラ王妃までフォトを手に、ほっこりとしている。なんだかんだいって、ソラは少年時代のレオポルドとそっくりなのだ。
しかも「ネリアが喜ぶ」と言えば、まったく着せ替えを嫌がらないらしい。
「男の子はすぐ大きくなって、つまりませんもの。ソラは変わらないのね」
「今着ているシャツはシンプルでしょう?こんど服飾部門からレースの余りをもらって、ソラちゃんに合わせたらどうかしら」
「そのときは、わたくしもごいっしょしたいわ」
「えぇ、ぜひ!」
盛り上がる女性陣を前に、カディアンが泣きたくなっていると、父のアーネストが知ったような顔で言った。
「男の子は大きくなると、つまらないそうだ」
(それは俺のせいじゃない!)
暖かい奥宮で、カディアンの心にだけブリザードが吹き荒れた。









