565.竜王の帰還
明けましておめでとうございます!
『魔術師の杖』粉雪書店
1月18日 文学フリマ京都 みやこめっせ3階 第3展示場【け11】
1月25日 関西コミティア インテックス大阪2号館 【Iー29】
イベント参加のため、今月は渋谷〇〇書店での店番はありません。
港湾都市タクラでハルモニア号の出航を見届けたあと、ライアスはミストレイを駆ってエクグラシア中をめぐった。
王城に帰還したミストレイが咆哮をあげると、竜舎で待機していた白竜たちもそれに応える。
城中の窓という窓がビリビリと震え、皿などの食器がカタカタと鳴ったものの、竜王の帰還に城全体が沸き立つような活気に包まれた。
国王アーネストはケルヒ筆頭補佐官を連れ、いそいそと竜騎士団へ向かった。
「おお、ライアス!戻ったか!」
背が高い金髪の美丈夫、ライアス・ゴールディホーンは、疲れなど感じさせないようすで振り向き、さわやかな眩しい笑みを浮かべた。
「ミストレイ、無事帰還しました。報告は明日、師団長会議でする予定ですが……デニス、休憩にしよう。団長室は片づいているか?」
「はい、すぐに茶を運ばせます」
緑髪の副官デニスがうなずき、ライアスとアーネストは団長室で向かい合って座った。
アーネストは眉を下げて情けない顔をする。
「いやぁ……三師団長がそろわぬと、城も火が消えたようでな」
「もしかして、お寂しかったのですか?」
くすっと笑うライアスは伸びた無精ひげが、ワイルドな精悍さが増していた。うんうん、と国王は素直にうなずいた。
「カディアンはすぐに戻ってきたが、王太子と錬金術師団長は旅立ったし、竜騎士団長までタクラからなかなか戻らんとなると……俺だって寂しい」
「……レオポルドがうまくやっているはずでは?」
「ああ、そちらは問題ない」
ふたりとも、塔にいるレオポルドが替え玉だと知っている。本物は錬金術師団長について、今はハルモニア号船上だ。
重要機密であるため、ケルヒ補佐官にもこのことは伏せてあった。
「ミストレイで国境域を見て回りました。ドラゴンであればふつうの人間では気づかぬことも察知できますから」
北のモリア山や西のカレンデュラ、南のマウナカイアから東の樹海まで……竜王の背に乗って、ドラゴンの縄張りとされる国境伝いに、ライアスはぐるりと一周した。
直線だとそれほどでもないが、まるまる一周したのだ。それなりに時間はかかった。
「タクラからアンガス公爵が自慢がてら、こーんな長い感謝状をよこしたぞ」
「陛下、そこは文句をいうところではありません」
口を挟んだケルヒ補佐官にも、アーネストはぶつぶつ言った。
「俺が見ていないのをわかっていて、細かく描写してよこしたんだ。ぜんぶ読んで返事を書くのが大変だった」
「さすがに公爵あての返事は、私が代筆するわけにもいきませんからね」
肩をすくめるケルヒ補佐官を、うらめしそうに眺めるアーネストに、ライアスは簡潔に報告する。
「群舞の評判は上々でした。カディアン第二王子も立派に参列していました」
「そうなんだ!それも長々と書いてきおって……服は到着してから気を使って用意してもらったらしくてな。それでリメラは残念がるし、城の服飾部門からも嫌味をタラタラと……」
「それは大変でしたね」
どうやら国王にとっての年明けは、あまりいいものではなかったらしい。彼の大きな手で持つと、広口のティーカップが小さく見える。
「ふん、まぁかまわん。俺が報告を受けたのは、お前たちがタクラに発ったあとだったしな」
「あのときは……俺はともかく、レオポルドが急いでいましたので」
「それに関してはカディアンとメレッタがかわるがわる話を聞かせて、リメラの機嫌もよくなった。なんと彼女は俺に向かって、『カディアンの成長を感じられました。心配するばかりではダメですね』と言ったのだぞ!」
「はぁ」
ライアスがあいづちを打つと、ケルヒ補佐官が咳払いをして、アーネストへ教えた。
「陛下、竜騎士団長はまだ独身ですから、夫婦や親子の機微を聞かせてもわかりにくいかと」
「だったら、なおさら参考になるだろう!」
「ゴールディホーン団長、てきとうに流してくれていいからな」
神経質な中間管理職といった感じのケルヒ補佐官が、やれやれというふうにため息をついた。
「こら、てきとうにとかいうな!」
「だいじょうぶですよ。茶を飲みつつ聞いてますから」
「ライアス、お前本当にちゃんと聞いてるか?」
「もちろん。王城に帰ってきた実感が湧くなと考えておりました」
「俺はべつにいつもボヤいているわけじゃないぞ!」
「あ、ボヤきだという自覚はあったんですね」
「ライアスゥ~」
あっさりとしたライアスの返答に、アーネストは不満そうに下唇をつきだした。それをすかさずケルヒ補佐官がフォローする。
「すまんな、いつもならアルバーン師団長が陛下の相手をして下さるが、最近は忙しいらしく塔にこもりきりなのだ」
「レオポルドが……そうですか。俺もあとでようすを見に行ってみます」
「もしよければだが、アルバーン魔術師団長が忙しいときは、ときどき陛下がここにきてもいいだろうか?」
「わかりました。これも師団長の務めですか」
そういえばレオポルドも、国王が夜にときどき訪ねてくると言っていた。顔をキリっとさせてライアスが返事をすれば、ケルヒ補佐官もホッとしたように弱々しく笑う。
「そうしてもらえると助かる。陛下の行き先がハッキリしないと、リメラ王妃が心配されるのでな」
「なるほど」
どうせならリメラ王妃も、竜舎にくればいいのにとライアスは思った。夫のことが気になるなら、そばにいて監視すればいい。
ただし王妃はいつも国王と一緒というわけでもなく、心配しつつも好きにさせているようにも見える。
(これが夫婦の機微というヤツだろうか……やっぱり俺にはよくわからんな)
ライアスは茶が冷めないうちに、ごくごくと飲んだ。









