表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート エピローグ
554/560

554.カイの提案

七夕!すべりこみです!

 カナイニラウから呼び寄せた人魚たちは、その優れた身体能力で海に落ちた人や、避難し遅れた人たちを助け、幸いなことにバハムートの住人に死者はいないという。


「……行方不明になった者はいる。神出鬼没だった呪術師に関係していたのだろう」


 ケガの手当てを受けたグストーが重い口を開いた。彼をはじめとして怪我をした人は多いし、住む場所を失ったみんなはぼうぜんとしていて、一時的な虚脱状態に陥っている。


(考えなきゃいけないことは多いけど……)


 コートを着て艦橋をペタシペタシと歩き回るカイに、わたしは肩の力がふっと抜ける。レオとカイは決して仲がよさそうには見えないのに、わたしが倒れている間は協力して行動してくれたんだろう。


 わたしは冷気を発していた主に向き直り、その手を両手で包みこむようにしてキュッと握った。


「レオ、わたしを助けてくれる?」


「…………」


 黒曜石の瞳が軽く見開かれ、彼はまばたきをして無言でわたしを見下ろした。その瞳をのぞきこむようにして、どうか彼の深淵に届くようにと語りかける。


「わたしが倒れているあいだ、レオがすごくがんばってくれたんでしょ?」


 魔術師は人の願いをかなえる存在だ。師団長でもある彼をこうして独占しているのは、気が引けるのだけど……『うれしい』と感じている自分もいる。だからこそいっしょにいられる大義名分がほしい。


「バハムートの人たちにカナイニラウの門を開いたのはわたし。だけどこれまでお互いをまったく認識していなかったんだもの、きっと住人たちと人魚のあいだでも衝突が起こる」


 ハルモニア号でやってきたわたしたちにも、彼らは好意的ではなかった。


「でもわたしが回復したらすぐに、ハルモニア号はサルジアに出発する。だからその前に……もうひとつやりたいことがあるの」


「何をやるつもりだ」


 彼の眉間にぐっとシワが寄り、どう見ても機嫌が悪そうなその反応に、わたしはついうれしくなった。いつだって難しい顔でにらんでくる、その内側で彼は彼なりに考えているのだと、だんだんわたしにもわかってきたから。


「まずはみんなの住まいを整備して、それからバハムートの人たちと人魚たちが、いっしょに楽しめることを考えたいの。レオも手伝ってくれる?」


 ぎゅっと握りしめた手に力をこめると、彼はわたしからそっと視線を外し、ぽつりとつぶやいた。


「……きみが望むなら何なりと」


「ありがとう」


 漂う冷気がだいぶ和らぎ、艦橋にどよめきがあがる。アルバが次々に解除され、乗組員たちは信じられないような顔をして、わたしとレオを眺めている。


「ネリアの瞳の輝きはレオの氷も溶かすのか……」


 ユーリが感心したように言えば、ペタシペタシと音をさせてカイが戻ってくる。


「いいな、それ。じゃあ俺がレオに歌を教えてやる」


「……は?」


 わたしに手をとられたまま、けげんな顔をしたレオの胸を、エメラルドグリーンの髪と瞳を持つ人魚の王子様はひとさし指でトンと突く。


「顔もいい。声もいい。なのになぜお前は歌わない。ネリアはな……この俺が渾身の想いをこめた恋唄でも落ちなかったんだぜ」


「え……たしかに歌は聴いたけど、それはユーリもいっしょだったし」


 ちょっと待ってほしい。ここでまた艦橋に冷気が満ちたら困る。だいたいマウナカイアで、そんなロマンティックなシチュエーションなんてなかったもん。


「ほらな、ぜんぜん響いてねぇ」


 カイはわたしをアゴでしゃくり、肩をすくめて大げさにため息をつく。レオは眉間にシワを寄せたまま、わたしに向かって問いただした。


「人魚の恋唄が響かないとは……きみはどんな耳をしているのだ」


「こんな耳ですがなにか⁉」


 言い返すとレオまでもが深くため息をつく。解せぬ。カイはレオに挑発するような視線を投げかけた。


「人魚はな、想いが通じるまで毎晩相手に向かって歌いかけるんだぜ?お前はそれぐらいしたのか?」


「…………」


 いやいや、待って。この人負けず嫌いだからね、変な挑発はしないでほしい。わたしはあわててふたりのあいだに割って入る。


「あの、わたしは彼の歌聴いたことあるし、そんなことしなくても……」


「えっ⁉」


 わたしの言葉にユーリが驚くと、艦橋にいた全員も同じように考えたみたいだ。


「呪文の詠唱も授業でありますから、歌えないということはないでしょうが……」


 たしかに彼が歌っているところなんて、ふだんの姿からは想像もつかないだろうけど。するとカイはわたしに聞いてきた。


「で、ネリアはどう思ったんだ?」


「どうって……ステキだったよ」


 もごもごと答えるとカイはレオをうながした。


「だとよ。やるのか、やらねぇのか?」


「……やる」


 レオはきっぱりと答え、ユーリはよろめいて後ずさった。


「うわ、チョロ。ネリア……いったい彼にどんな魔法を使ったんです?」


 すごく恐ろしげにわたしを見てくるけど。わたしホントに何もしてないから!

レオの歌は6巻SSに出てきます。

挿絵(By みてみん)

コミカライズでお世話になります。

マッグガーデン様から月刊誌(6月号)をお送り頂きました!

ぜいたくすぎる記念撮影。

白薔薇に囲まれたダリヤちゃんがすごく爽やかで、黒薔薇に囲まれたオドゥは妖しさ全開(汗

せっかくなので渋谷〇〇書店に置かせて頂きますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆MAGKAN様にてコミカライズ準備中!続報をお待ちください☆☆
WEBコミックMAGKAN

☆☆『7日目の希望』NovelJam2025参加作品。約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
9巻公式サイト
『魔術師の杖⑨ネリアと夜の精霊』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天

☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
シリーズ公式サイト

☆☆作詞チャレンジ(YouTubeで聴けます)☆☆
↓「旅立ち」↓
旅立ち
↓「走りだす心」↓
走りだす心
↓「ブルーベルの咲く森で」↓
ブルーベルの咲く森で

↓「恋心」↓
恋心

↓「Teardrop」↓
Teardrop
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ