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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第十二章 移動要塞バハムート エピローグ

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550/561

550.彼女からは目が離せない

一難去ってまた一難。

 氷で覆われた巨大なバハムートの赤い魔石は、太古の竜が持つ膨大な魔力をそのまま塊にしたかのようで、艶やかな表面には光沢があった。


 魔石を鳥かごのように取り囲む氷柱はそのまま海へと続き、海水を凍りつかせて足場を形作っている。


 ミニネリアの差しだした魔力ポーションをぐいっと飲み干し、魔羊にまたがったままローラは息を吐く。


「魔石の記憶を取りだせたら……ここには研究者も殺到しそうだね」


「これまでは天然の要塞でしたが、これからは人工の建造物として発展していくでしょう」


「ずいぶんと手際がいい」


 あきれたようにローラが言えば、黒髪の竜騎士は髪をかきあげて淡々と言う。


「街の再生をカレンデュラで何度かやった経験が生きています。それと……先に幻術を展開し、それに沿うように氷壁を形成しました」


「なるほど」


 ローラは顔をしかめた。エクグラシアにとっては重要な拠点となったバハムートだが、めんどうが増えたことには変わりない。


「あんたの婚約者は、ここまで考えてなかったようだけど」


 竜騎士の収納ポケットから、ミニネリアが得意そうに答える。


「うん、もちろん。レオポルドが全部考えたんだから」


「彼女が海中にカナイニラウまでの道を拓くなら、なるべく負担が少ないようにしたくて」


 ローラは黒髪の竜騎士をジロリと見た。


「言っとくけどね、カナイニラウまでの道を拓くなんて人間じゃないよ。精霊ならともかく」


「それでも彼女は……」


「人として生きたい、か……」


「…………」


 ローラだって塔で大魔女として過ごしてきたのだ。常人とは違う存在など、いくつも見知っている。それをそばに置くことの危険性すらも。


 黒髪の竜騎士は珍しく、困ったようにほほえんだ。


「目が離せません。ずっと塔を率いてきて、まさか見守る側になるとは思わなかった。ハラハラし通しです」


「おや。あんたにもあたしの気持ちがわかるようになったんだね」


 滅びの魔女の嫌味にも動じず、愛弟子はとつとつと続けた。


「それでも……生きてきた中で、私は今この瞬間が、いちばん幸せだと思える。生きているという実感があります」


「あたしもだよ」


 ローラの言葉に愛弟子は驚いたようだった。


「師匠も?」


「愛弟子がふたりとも幸せになり、それぞれの人生を生きている。ずっと魔術ひと筋で生きてきたあたしにとって、何よりのごほうびだ。こんな安らぎに満ちた世界が待っているなんてね」


「師匠……」


 無表情にレオはつぶやき、いぶかしげにまばたきをして首をかしげる。


「まだ死なないでください」


「死ぬなんてひと言も言ってないよ!」


 かみつくように言い返し、ローラはビシリとレオに指を突きつけて宣言する。


「あたしはフラウよりも長生きして、あの女の葬式で高笑いしてやるんだから!」


「…………」


 緑の魔女も同じことを言いそうである。どうして国の重鎮である大魔女同士が、こうも仲が悪いのか。探ろうと思えば探れるだろうが、さすがにレオもそこまでする気にならない。


(どうせ理由はくだらないことだろう)


 あっさりそう結論づけた。沖合に退避したハルモニア号に連絡しようとして、先にユーティリスからのエンツが飛びこんでくる。


「レオ、魔導機関室に侵入者!こちら応戦中!」


 ハッとしたレオの胸元にしがみつくようにして、ミニネリアが悲鳴をあげる。


「助けて、レオ!」


「あの状態では……彼女にはどうしようもない!」


「早くお行き!」


 師匠が叫ぶよりも早く、弟子の姿は転移して消えた。魔羊の群れを操り、ローラは氷壁を跳ぶように走る。


「退屈しないね……ったく!」





 ハルモニア号へ、そして魔導機関室へ転移したレオは、換装により双剣を両手に携える。


 すでにルエンを手にしたユーティリスが複数の影と戦っており、それにレオが加わることで、一気に形成が逆転した。背中合わせになりながら、竜騎士は王太子に呼びかける。


「敵は……⁉」


「まだ潜んでいた呪術師の残党がいたようです!」


 ユーティリスが捕縛陣を展開しながらルエンをふるう。魔導機関が破壊されれば船はここで立ち往生する。狭い船内での戦いだから、レオも転移を駆使しながら素早く敵を倒していく。


 剣戟で応戦すると見せかけて、素早く転移で間合いを詰めて魔法を叩きこむ。ズルみたいな戦いかただが、どこから飛んでくるかわからない敵の攻撃をかわし、ときには受けとめる。考えるヒマもなく体を動かし、敵をまず戦闘不能にしていった。


 しばらくたって戦いに終わりが見えたところで、レオは違和感に気がついた。


(おかしい……あまりにも手応えがない)


 魔羊牧場で戦ったときは、もっと剣に重みを感じた。傀儡が多いとはいえ、呪術師の攻撃はもっと多彩だったはずだ。


 最後の敵を床に転がして、レオはユーティリスのそばに跳ぶと彼を問いつめた。


「彼女は!」


 胸ぐらをつかんで怒鳴る竜騎士に、王太子は苦しそうな顔で答える。


「ネ……リアはヌーメリアが診ています」


 竜騎士の顔色が変わった。あっさりと片づいた襲撃。ネリアが構築した長距離転移陣を、敵は目の当たりにしたはずだ。レオが補助したとはいえ、彼女ひとりがやったように見えたろう。


「陽動だ!」


「急いで!ネリアの近くに何かいる!」


 ひと声叫んだ彼を、ミニネリアが泣きそうな顔で揺さぶった。


「どうしよう。彼女……まだ目覚めないの!」


 白猫になった彼女を保護したとき、三重防壁は眠った彼女が目覚める直前に発動した。今はピアスの魔法陣が彼女を守り、さきほどレオが魔力ポーションも飲ませた。


「間に……合え!」


 レオは歯を食いしばって転移陣を展開した。


 一瞬で変わる視界、床に倒れたヌーメリアとベッドに死んだように横たわるネリア。それに覆いかぶさるようにした何者かの刃が、その心臓へとまっすぐに振り下ろされた。

挿絵(By みてみん)

渋谷ヒカリエの穴場スポット。

シアターオーブの入り口がある11階。実はそこにローソンがありまして。

ロビーでからスクランブル交差点を見下ろしながら、街カフェできちゃいます。

渋谷ヒカリエ8F、渋谷〇〇書店。棚番号221『粉雪書店』

挿絵(By みてみん)

よろづ先生の渋谷〇〇書店用に描き下ろされたイラストを配布中。


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