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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる

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54.収納鞄の術式(ユーリ視点)

ブクマ&評価ありがとうございます。

 いろいろなタイプの試作品を製作中だったミーナたちは、ユーリの注文に快く応じてくれた。


 色は黒で女性ものと違い、そこそこ大きくて手で持てるだけでなく、背負って両手が使えるタイプ。


 ユーリはミーナと何度も打ち合わせて、金具の色やポケット、ラインの位置にもこだわり、満足のいく鞄を作ってもらった。


 届けられた鞄の箱を、さっそく研究棟で開ける。ネリアは箱をのぞきこんだ。


「おお!かっこいい!……なんだか大きいね?」


「大人の体格に合わせてもらいました。今の体格に合わせると、体が大きくなったときに困りますから」


「ユーリって成長期これから?弟くん大きかったもんねー」


「はは」


 ユーリは手に入れたばかりの収納鞄を持ち、研究棟の三階にある自分の研究室に戻る。ドアを閉めてカギをかけ、机にふたつの鞄を置いた。


「失敗したな……三つにしておけばよかった」


 ひとつは使って、もうひとつは大切にとっておきたい。今からやることを考えれば、もうひとつ必要だった。


「まぁ、また注文すればいいか……」


 ユーリは机の引きだしから、器具をいくつか取りだし、新品の鞄をためらいなく切り裂いていく。


 ザクッ。ビリビリビリビリ……。


 それから慎重な手つきで、術式を壊さないように気をつけながら、鞄を分解しはじめた。


 研究棟で働いているとはいえ、ユーリは学園を卒業してまだ二年……錬金術師としては駆けだしの見習いに近い。


 だからといって職業体験でくる学生たちに、負けるわけにはいかない。


 それにユーリがまだ十八歳なら、ネリアだってまだ二十歳なのだ。


 収納鞄の設計図と術式は、魔道具ギルドでユーリも確認している。けれど術式の配置や重ねかた、実際にどう働くかは実物を調べるしかない。


 幸いネリアの術式はシンプルで、ニーナたちもよけいな手を加えていないから、ユーリにも読み取りやすい。


(これは空間というより亜空間……だから収納鞄ごとに個別の空間があるのか)


 鞄とどこかの空間をつなげて、物を収納しているわけではなく、鞄のなかに亜空間を作って利用していた。


(ネリアはそれを『収納空間』と呼んでいた。亜空間の安定性と安全性……彼女がこだわっているのはここか)


 ユーリは脇に置いていたライガの術式を取りあげる。ネリアが説明会で学生たちに配った、いわばライガの設計図だ。


(ああ、これだ……ライガも腕輪に亜空間を作り、収納している)


 収納鞄とライガ、それぞれの術式に共通点を見つけ、ときどきメモを取りながら、ユーリはその部分を読みこんでいく。


 ライガの術式……そんなすごいものを、学生たちに配っていいのかと、ユーリも最初は思った。


 けれど中身を見て納得した。たとえ書かれている術式を、そっくり再現したとしても、ライガは作れないからだ。


 グレンの術式は荒削りで、実用性がまったくない。


 ネリアはそれを改良したというけれど、グレンの術式を踏襲しているのはごく一部で、残りはまったく別物だ。


 たとえばライガを浮かせるために、グレンは重力魔法を使っているが、それだとただ浮かぶだけだ。


 ネリアは風魔法を組み合わせて機動性を持たせ、さらに魔素を推進力に変える術式を加え、ライガを自在に操れるようにしている。


 風に乗るだけではムリな動きもできるし、流す魔素がそのままスピードに反映されるため、理論上は魔力の多い者ほど速く飛べる。ドラゴンを超えるのも夢ではない。


 それはすごいことだけど、風に頼らないということは飛ぶだけではなく、加速や飛行中の姿勢制御といった、すべての操作に魔力が必要だ。


(羽もないのになぜ飛べるのかと思っていたが、力技だったんだな……彼女は上昇も下降も、空中で静止することすら自在にやっていた)


 それは魔素を流しっぱなしにしつつ、ライガの動きをすべてイメージどおりに、コントロールしていたことになる。


 かんたんそうに見えたが、化け物並みに魔力があり、ライガの操作に慣れていなければできない。


(まいった。これを量産化……無理だろ)


 乗る人がいてこその量産化だ。ネリアのライガをそっくりまねて作っても、飛行テストすら難しく誰も乗りこなせない。ユーリは術式の束をパラパラとめくる。


(なんだ?このメモ書き?)


 飛行システムの術式の脇に記された、それは走り書きのようなネリアのメモ。


(……UFOのように自在に飛ぶ……『UFO』?)


 鳥でもなく紙飛行機でもない、風に頼らない不思議な動きは、ネリアには手本にしたものがあるらしい。


『UFO』


 ユーリはその形を認識できたものの、なにを表す言葉なのか見当もつかない。


 飛行システムだけではない。空を飛ぶという特性上、重量は軽いほうがいい。ネリアのライガは駆動系と外殻のみで、シンプルな構造だった。構造は丸見えだが、使われている素材がわからない。


(紙のように軽いのに、鉄よりもじょうぶな素材?そんなものでもなければ無理だ……)


 あるいは素材錬成で、そんな夢のような素材を創りだしたのか。


 ユーリは思いつく限り、ライガの問題点を書きだすと、椅子に深くもたれてため息をついた。


(これをどうやって改良するんだ?)


 おそらくネリアは結果を求めていない。たった十日ほどの職業体験で、学生たちに何ができるというのか。


 グレンとネリアの術式を読んで、何らかの案をだしてくることができたら、錬金術師の素質はある。


 これを完成させたいならば。


 ライガを自分の手で飛ばしたいと思うならば。


 錬金術師団へ来い!


(これは入団テストだ。学生たちに叩きつけた挑戦状。ネリアらしいというか、なんというか……)


 魔術学園の生徒たちは、みなエリート意識が強くてプライドが高い。


 国中から集めた貴重な魔力持ちを、国の将来を支えるべく、五年もかけて鍛えるのだ。


 過去のユーリがそうだったように、自分の能力におごった、鼻っ柱の強い生徒たちばかりだ。


(彼らは『入団してください』とお願いされても、見向きもしないだろうが……)


 その顔面に挑戦状を叩きつけられたならば。


 自分の能力に絶対の自信がある者ほど、これに反応して挑発に乗りたくなるだろう。


(試されているのは僕も同じか)


 なぜなら。


 この挑戦は。


 とてつもなく面白い。


 変人の巣窟と言われる錬金術師団に、学生たちが職業体験にくるのも異例なことだが。


(錬金術師団のありかた、そのものを変えるつもりか……)


 肩につくぐらいの、ふわふわと軽い赤茶色の髪は風に踊る。唇は紅をさしていないのにふるりと赤くて、ほほもふっくらした、小柄であどけない面差しの娘。


 とても錬金術師団長には見えないのに、そのペリドットのような黄緑の瞳が強く意思を持って輝くとき、ユーリが持っていた常識をひっくり返すようなことが起きる。


 それを誰よりも近くで見たい。その横に並び立ちたい。ユーリの心に強い思いが湧く。


 これまでユーリは、自分に寄り添ってくれる女性を探すのだと思っていたのに。


(……彼女は決してそんなことは考えない)


 ユーリはペンをグッと握りしめると、ふたたび術式を書き留めはじめた。

『収納鞄』と『ライガ』を、『四次元ポケット』と『タケコプター』に置き換えると、ユーリが可愛く見えます。

学生達の『職業体験』については、3章で取り上げる予定です。

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― 新着の感想 ―
壁は高い、と言うか異次元(異世界)だぞ、大丈夫か少年(ユーリ)…。
再度失礼します。 「ユーリに読めない文字」がセリフとして入っていたとの事で更にわからなくなりました。 読めない文字が書いてある、という表記ではなく、UFOとはっきり書かれておりましたので。 異世界の文…
何語でUFOと書かれていたのでしょう。 転移後の世界にアルファベットがあるのか、元世界の文字なのか。 その辺が引っ掛かります。
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