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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第十二章 移動要塞バハムート

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538/560

538.ユーリの通訳

『魔術師の杖⑨ネリアと夜の精霊』発売中!

挿絵(By みてみん)

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「ネリス師団長、きみは……」


 なにか言おうとしたレオに、わたしはあわてて食い下がる。


「だってレオはひとりで行くつもりなんでしょ?」


 彼の目が驚いたように見開かれた。今回、彼は身軽に単独行動をするつもりだと、なんとなく感じていたのは当たったみたい。


 けれどわたしはそれを、じっと待っているほうがつらい。


「わたしはここにいても、やることはないもの。それとも時間がかかるの?」


 彼は息を吐くと首をかしげて、わたしに問いかけてくる。


「そんなに見たいのか?バハムートの深淵を」


「えっ?」


「…………」


 レオは無言でわたしを見つめて、じっと返事を待っている。えーと見たいって……バハムートの深淵を?なにそれ?


「えっと、その……」


 ユーリがコホン、と咳払いした。


「レオ……ネリス師団長は、きみがそばを離れると心細いから、いっしょにいたいんじゃないかな。だから行き先がバハムートの深淵じゃなくとも、『いっしょにいく』と言うと思うよ」


「……そうか」


 表情は変わらないまま、ふいっと顔をそらせたレオに、わたしも真っ赤になってもじもじとしてしまう。こ、こんなことしてる場合じゃないんだけど!


 ユーリは肩をすくめて、バタバタ動き回っているテルジオ相手にぼやいた。


「テルジオ、見つめ合って動かないふたりに、通訳がいるこの感じ……どうしたらいいんだ?」


「はぁ⁉わかるんなら殿下がそのまま、通訳すればいいでしょう。つまんないことで呼びとめないで下さいよ!」


 話しかけられるのも迷惑といった感じで、振り向いたテルジオは投げやりに答え、また急ぎ足であっちに行ってしまう。


「僕だって照れるんだよ!」


 そのうしろ姿に叫ぶユーリも、心なしか耳が赤い。うん、ごめん。さりげなく自然に振る舞いたいのに、なんだかみんなに気を使わせてしまう。この感じ、いたたまれない。


「あの、それで……バハムートの深淵ってなに?」


「きみは……」


 レオはまばたきをすると、眉間にシワを寄せてこめかみを押さえた。


「知りもしないのに『いっしょにいく』と言ったのか?」


「し、知らないからいくんだもん!」


 べつにレオポルドといっしょにいたい……とかじゃないから!


 置いていかれるのがイヤだとか、待っているのがつらいとか……そんなこと思ってるけど、そんなに思ってないもん!


 むぅっとほっぺたをふくらませて、整いすぎるほどに整った顔立ちのレオをにらみつけると、わたしを見下ろしていた彼は、おもしろそうにクッと口の端を持ち上げる。


「いや……わかった。本当にコロコロと表情がよく変わる。あなたの婚約者はさぞかし、かわいらしいと思っているだろう」


「はあぁ⁉」


 もしかしてまたわたし百面相してた⁉


 それがおもしろいと⁉


(いや、待って。『かわいらしいと思っているだろう』とか何言ってんの。それ自分じゃん。えっ、それってレオポルドが回りくどく、わたしに『かわいらしい』って言ってんの?どういうこと?そういうこと?)


 頭の中がグルグルしだしたわたしのほっぺを、レオは長い指でチョンとつつく。


「ふおぉう⁉」


「失礼、ゴミがついていた」


 クスッと笑うけどさぁ、わざとでしょ!ぜったいわざとでしょ!


 動揺させんのやめてよ!


 すっと笑みを消してレオはいつもの無表情に戻り、バハムートの深淵について説明してくれた。


「地上にある要塞部分は、住人に見つからずに潜伏するのは難しい。だから呪術たちを探して地下に潜るつもりだ」


「呪術師たちが地下にいる可能性が高いってこと?」


 レオはこくりとうなずく。


「バハムートの本体はほとんど海の中にある。海面にでている部分よりずっと大きい。精霊の時代から生きる古竜という伝説だが……昨夜のうちに索敵の魔法陣で地下の構造を調べた」


「索敵の魔法陣で?」


 船でも見せてもらったけれど、目の前に魔物の気配が光る魔素の塊になって表示された。彼が左手を閃かせると大きな塊に、細い亀裂のような筋が縦横無尽に走っている立体図があらわれる。


「モリア山の遠征でも使う術だ。バハムートの全体にアリの巣のように入り組んだ……細い洞窟が確認できた」


「レオひとりでいくつもりだったの?」


「敵も動揺しているはずだ。ネグスコ女史もおそらくそこにいる。やつらが体勢を整える前に保護したい」


「うん。わたし……いける?」


 戦えないわたしは足手まといになる可能性も高い。けれどヌーメリアの無事だっていちばんに確認したい。彼は難しい顔をして髪をかきあげ、悩ましげにため息をついた。


「いけるというか……連れていけるのはきみしかいないだろう、とは思っていた」


「へ?」


 彼はふいっと目をそらし、ブツブツと不満そうに続ける。


「その三重防壁なら、内部に毒ガスが溜まっていても平気だし、いざとなれば先ほどのように、一瞬で地上に転移で戻れるだろう」


「おおっ、そういえば!」


 バッチリじゃないですか。なんでそんなにイヤそうなのよ。


 両の拳を握りしめて、じーっとレオを見つめていると、わたしと視線を合わせた彼は、またふぃっと横をむいてため息をつく。


 にらみ合っているというより、彼はふいっと横をむいたままで、ぜんぜん話が進まない。ヌーメリアだって心配なのに、なんなの⁉


 拳を握りしめる手に力が入ったところで、そばにいたユーリがコホン、と咳払いした。


「ネリア……彼はあなたの気持ちもわかってはいるけど、危ないところに連れていきたくないんですよ。だから渋っているんです」


「あ……」


 ふいっと彼は顔をそらしたまま、わたしとは目も合わせてくれないけれど、なんとなく耳たぶが赤い。それに気づいたとたん、わたしもカァッと顔が熱くなる。


「あのですね、僕だって照れるんですよ……ホントに。ふたりそろって恋愛初心者とかやめて下さいよ!」


 もうユーリの声がとても遠くで、響いているような感じだった。

『魔術師の杖⑨ネリアと夜の精霊』

挿絵②ヌーメリアのキャラデザ!

挿絵(By みてみん)

よろづ先生描き下ろし人物紹介つき!証明写真風に美男美女が並んでます。

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― 新着の感想 ―
緊迫してて大ピンチで大変なはずなのに、なんだか和んでしまいますねえ〜
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