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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート
535/560

535.戦闘

挿絵(By みてみん)

奈々とレオポルド

(絵:レオポルド)

 魔羊牧場に戻るまで、時間はそれほどたっていない。


 ルエンは魔素で形成された刃で、魔法陣や魔術を斬り裂ける魔道具だ。それを手にあらわれたユーリと、ミスリルの双剣を抜き放ったレオに、呪術師たちは距離をとって散らばっている。


 ふたりともローブや服に術式を仕込み、目立たない護符も身につけている。少々の魔法攻撃では動じないが、奈落の陣を見たばかりだ。


 ルエンを握るユーリの背中に、じわりと汗がにじむ。明確な殺意にさらされて、ひやりとすくみそうになる心臓を叱りつけた。


(こういうことは何度も頭の中で演習したはずだろ!)


 横に立つ涼やかな美貌の竜騎士をちらりと見上げた。男は何ごとにも動じず、超然としているように見える。


 湧きあがる対抗心を抑えて、ユーリは低い声でたずねた。


「どうする、レオ」


「まず陣形を崩す。複数攻撃の魔法陣を構築されるとやっかいだ」


 いうなりレオは走りだし、双剣を手にしたまま風の防御を発動する。そのままつむじ風のように呪術師たちに襲いかかった。


(早い!本物の竜騎士に引けをとらない!)


 すぐにユーリは彼が学園時代から、ライアスやオドゥ相手に鍛錬をしていたのだと思いだす。


 遅れをとるまいと転移で移動すれば、彼の声だけが飛んできた。エンツの派生形だ。


「よけいなことを考えるな。ただ生き残ることに集中しろ」


「……!」


 そんなことはわかっている。何度もオドゥに言われたセリフだ。


『勝つってのは結局、生きるってことだからさ』


 ――僕は生きる!


 ユーリは赤いローブの懐に飛びこんだ。





 ズシャリと嫌な音を立てて、呪術師の体が崩れ落ちた。赤いローブのすきまから、ボロボロと歯車やネジがこぼれて、ルエンを手にしたユーリが毒づく。


「傀儡……遠隔操作か、クソッ!」


「本体は別にいるようだな」


 五体目の傀儡を倒したレオが、剣を払うと走りだす。


 襲ってきた呪術師たちの中には、生身の者もいたと思われるが、デモニスの花畑に避難している間に姿を消した。後に残されたのは制御を失った傀儡ばかりだった。


「動きといい精巧な作りといい、記憶している魔法陣の種類……皇家が使役する傀儡で間違いあるまい。数が多いのは、それ自体が目でもあるからか」


 また一体。レオが双剣をひらめかせて関節部を斬り裂けば、潤滑油が血のように噴きあげた。動きを止めた赤いローブのフードから、綺麗な女の顔がのぞく。なまじヒトガタであるだけに始末が悪い。


「おそらくマグナゼだろう。アイツは僕を研究棟で襲ったときも、遠隔操作で呪術をしかけてきた」


 ユーリは悔しそうにルエンを握りしめ、レオは冷静に分析する。


「呪術は制限が多い。まず場を築き、材料をそろえる必要がある。跳ね返された場合の備えもいる。自分の身は安全なところに置いておきたいのだろう」


「研究棟でそれを逆手にとり、道を開いたのは僕だけど、彼に深刻なダメージを与えたのはネリアだ」


「彼女を狙うのはそのためか」


 眉をひそめるレオに、ユーリはうなずいた。


「おそらく」


「攻撃系の呪術には共通の材料が使われることが多い。おそらくマグナゼ自身は、それらを扱えなくなった。だれかがかわりにやるしかない」


「傀儡を用いた遠隔攻撃でも、じゅうぶん迷惑だけどね」


 傀儡はヒトガタをしていても、人間にはあり得ない動きをするし、命令を忠実に迷いなく実行して、呪術の中継地点としても働く。


 相手が傀儡でよかった……と思う点は、遠慮なくたたき壊せるところぐらいか。レオは形を留めていない、土くれに戻った何かから、赤いローブの切れ端を持ちあげた。


「情報を得るのは、相手が傀儡でもかまわないのだが」


 ぼそりとつぶやく竜騎士に、ユーリが眉をあげる。


「〝レブラの秘術〟はだからこその秘伝だ。サルジアはどこまでも僕たちの力を侮っている」


「だが彼女が狙われていることがハッキリした以上、アーネスト陛下から了承を得て、私が使節団に同行したのは正解だったな」


 そこはユーリもうなずくしかない。


「正直、きみがこんなに器用だとは思わなかった」


 素直にほめたユーリに、レオはゆるく頭を振ってため息をつく。


「私とて最初からこうだったわけではない。竜騎士団で訓練していたときは、こうなるとは予想もしなかった。それに彼女は何をやらかすかわからん」


「そういえばさっき、ネリアに何を言った?」


「さっき?」


 聞き返した竜騎士に、ユーリは赤くなりながら口ごもる。


「さっき魔導車を降りてすぐ、遮音障壁を展開して彼女に何か話しかけていた。そしたら彼女の顔色が変わって……言いたくなければいいけど」


 黒髪をかきあげ、困ったように眉を寄せてから、レオはぼそりと口にする。


「彼女には『嫌わないでくれ』と言った」


「はぁ⁉」


 思わず目を丸くしたユーリに、レオは不思議そうに首をかしげる。


「どうした」


「あ、いえ。イメージとだいぶ違うというか、そんな心配をするのかと」


「いったいどんなイメージを私に抱いているのだ」


「それは……」


 グレンの血を引く天才魔術師、その魔力量も紡ぐ魔術の巧みさも、ほかに並ぶ者がいない。


 淑女たちはみな彼の話をするときはほほを染めるし、リーエンの従者レクサも手放しでほめたたえていた。けれど本人は淡々としていて、寄せられる賞賛や好意には無関心に思えた。


「ええと、女性に嫌われる心配なんてしなさそうだなって……」


「べつにだれに嫌われてもかまわん。だが彼女に嫌われたら困る」


 きっぱりと言い切ったレオを、ユーリはやっぱり不思議なものを目にした気分で見つめる。


「それよりマグナゼだ。距離が離れ術式が複雑になるほど、魔力が必要になる。遠隔といっても近くにはいるだろう」


「つまり、バハムートにいると」


 竜騎士はミスリルの双剣に浄化の魔法をかけて鞘に納めた。


「グストーに聞かねばなるまい」


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