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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第十二章 移動要塞バハムート

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533.襲撃

挿絵(By みてみん)

大人ユーリ(変装中)

(絵:よろづ先生)

 グストーはうなった。


「錬金術師……不老不死をエサに、金持ちから金をせしめる詐欺師かと思っていたが……」


「どういう認識なんですか、それ」


「サルジアのヤツがそう言っていた」


 ぼそりとつぶやかれたその言葉に、ユーリが反応する。


「だれですか、それは。サルジアの者がバハムートにもいると?」


 けれどグストーが口を開く前に、レオがいきなり索敵の魔法陣を展開する。


「うおっ⁉」


 視界に広がる立体図に、ハンドルを握るグストーが動揺し、ガタンと大きく車体が揺れた。その首筋にレオの白刃がピタリと当てられた。


「襲撃者、その数二十。スピードを落とさずこのまま突っ走れ」


「なっ、無茶いうな!」


「襲撃者って⁉」


 後ろを振り向こうとしたわたしを、レオが一喝する。


「しっかり前を見て、体を固定しろ。魔羊に紛れて近づく者がいる。羊飼いではなさそうだ」


 ユーリが低い声をだした。


「どういうことですか、グストー」


「お、俺は何も……」


「何が狙いだ」


 白刃を見下ろして、あえぐグストーにレオが畳みかける。ガタガタと揺れる車内だと、ひょっとした弾みで流血の惨事になりそうだ。


 ……っていうか刃物があるの、わたしのすぐ横なんだけど!


 グストーがぐんと魔導車のスピードを上げた。けれど首にあてられた刃はピクリともしない。


「わーったから、そいつを引っこめろ。俺は魔羊に興味のありそうな、その姉ちゃんを牧場に案内しただけだ!」


「なぜ待ち伏せされている」


 レオの詰問にグストーが怒鳴りかえす。


「知らねぇ。危険だとわかってりゃ、自分で首突っこんだりしねぇよ!」


 ユーリが叫んだ。


「来ます!敵は呪術師……魔法戦だ!」


「……あれ!」


 魔羊の姿が何匹か融けるよう崩れ、緋色のローブを着た人影に変わる。鮮血のような赤は血まみれの人間を思わせる。


 地面に魔法陣が展開し赤く輝いたかと思うと、そこにボコリと大穴が開く。グストーがハンドルを切って穴を避けると、近くにいた運の悪い魔羊が鋭い叫びを上げて、穴に吸いこまれていった。


「チッ……〝奈落の陣〟なんか張りやがって」


「〝奈落の陣〟……って?」


 レオの白刃がスッと引かれ、彼も術式の展開を始める。


「どんなものかは知らねぇ。落ちて帰ってきたヤツはいないからな。あんな物を目の前で使われて、消えていくヤツを見たら、従うしかねぇだろ!」


「もう一陣、来ます前方!」


 進路をふさぐように、赤々と禍々しい魔法陣が展開した。陣を張られた地面の草がボロボロと崩れ、穴に飲みこまれていく。


「やべっ!」


「スピードを落とすな!」


 グストーの叫びにレオの檄が飛び、車体はさらに加速して〝奈落の陣〟に突っこんでいく。


「きゃああぁ!」


 魔法陣の端にかかった車体がガクンと前のめりになり、助手席に座るわたしの目に、ぽっかりと開いた〝奈落〟が飛びこんでくる。


 どこまでも底が見えない……ただの穴。


 その瞬間、魔導車の周囲に魔法陣が展開し、わたしたちは車ごと転移していた。ドゴンとすごい衝撃とともに、タイヤが石くれや泥をまき散らして着地する。


「た、助かったのか⁉」


 グストーは冷や汗をぬぐったが、レオの表情は厳しいままだった。


「一時しのぎだ。相手の人数が多い。消耗戦になると魔法戦は厄介だ。魔力が尽きれば負けだからな」


「魔力……」


 こんなときは魔力バカのくせに、わたしは何の役にも立たない。ぎゅっと唇をかみしめると、ユーリが身を乗りだした。


「どこかで態勢を立て直しましょう。グストー、時間稼ぎに逃げこめるところはないですか?」


「ここでか⁉」


「僕もレオもそこそこ戦えます。相手はあなたの命だって惜しくないんだ。協力してください!」


「ぐっ……」


 一瞬だけグストーはためらったが、呪術師たちが続々と魔導車を追って、転移してくるのを見て顔色を変えた。


「一ヵ所だけ、すぐ近くに魔羊よけの結界を張った場所がある。そこなら……」


「ならそこへ。僕らで二十名の呪術師を蹴散らしたら、錬金術師団長の提案を前向きに検討してもらいますよ。いいですね」


「あぁ、俺が生きて帰れりゃな!」


 吐き捨てるように言って、グストーは大きく進路を変えた。





 呪術師だちは〝奈落の陣〟だけではなく、〝捕縛陣〟も繰りだしてくる。気づかれたと知った後は、炎や雷撃まで飛ばしてくる。


 レオが風の刃で呪術師たちを狙い、ユーリが手持ちのルエンで魔法陣を斬り裂き応戦する横で、わたしは三重防壁を車全体に広げることで、炎や雷撃といった直接攻撃を防いだ。


「すげぇな、この防壁……」


「そのかわり魔力消費がもの凄い。彼女が集中力を失くせば終わりだ」


 グストーがちらりとわたしを見た。


「だからサルジアのヤツら、『最初にひとり減らす』ってあんたを名指ししたのか……」


「わたし⁉」


「まったく……自覚がないのは困る」


「ホントですよ。おかげで僕らいかなるときでも、備えを万全にしておかなきゃいけない。気が休まりません」


 ちょっと、なんで三人して『やれやれ』みたいな顔してんのよ!


 わたしは日々、目立たないよう努力して生活してるのに!


 それに巻きこまれたのはわたしであって、元はきみたちの事情なんだからね!


「レオ、防戦一方だけど反撃に出られるか?」


「……タイミングを見ている」


 おそらく彼は呪術師を相手にするには、魔術師として戦ったほうがやりやすい。けれどそれは彼の正体を敵に教えることになる。


(彼の魔術を封印したまま、戦わせることになるなんて……)


 けれどユーリが言うように、わたしのライガと同じく、彼の魔術は最後の切り札なのだ。


(それはきっと今じゃない……でもそれだって、生き残れば言えることだ!)


 わたしは進行方向をにらみつけた。


「グストー、結界に守られた避難場所はまだ?」


 歯を食いしばっているせいで、グストーからはくぐもった声で返事が返ってきた。


「もうすぐだ。あそこにはバハムートの者しか入れねぇ」


「それは……」


 至近距離で炸裂する攻撃をかいくぐりながら、グストーは爆音に負けないぐらいの声で叫んだ。


「あんたが言ったんだろう!俺たちが大事に隠しているデルモスの畑だ!」


 目の前に切り立った崖がある。グストーはスピードを落とすどころか、どんどん加速して魔導車ごと岩壁に突っこんだ。


「きゃ……!」


 わたしはとっさに頭を抱えて目をつむる。





 覚悟したような衝撃は何もなく、結界を通り抜けたわたしがそっと目を開けると、車は岩壁にできた亀裂に入りこみ、天然の細い通路を進んでいた。


 攻撃はピタリとやみ、キレイにならされた薄暗い道を、魔導車は静かに進む。前方に通路の終点と白い光が見え、まぶしくてわたしは目がくらむ。


 徐々に目は光に慣れていき……。


「すごい……」


 わたしたちの目の前に広がるのは、赤や黄色に咲き乱れる花畑……それは天国のような美しい光景だった。


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