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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート
531/560

531.魔羊牧場

挿絵(By みてみん)

錬金術師ネリア

(絵:よろづ先生)

(歓迎会で酒や料理に何か混ぜたか……なんて、聞いてもしらばっくれるだろうし)


 もちろんグストーは歓迎会にはふれず、波止場の横にあるガレージから、装甲つきのゴツい魔導車を引っ張りだしてきた。牧場内をこれに乗って案内してくれるらしい。


「道は整備されていないから、舌をかまないようにしてくれ」


 ぎゅっと座席脇の手すりを握りしめると、魔導車はガタガタと車体を揺らしながら、切り立った岩場を走りだした。


 この世界の生物は、みんな多かれ少なかれ、魔素を持っている。


 とうぜん野生動物も大きな個体は魔力持ちなわけで、高い知能を持つ魔羊はその毛を求めた人間たちが、共存に心を砕いてきたらしい。


「うわ、大きい。崖にポツポツいるときは、そんなに大きく見えなかったのに」


「成体は一頭で数家族分のセーターになる。突進されると俺でも跳ね飛ばされるから気をつけてくれ」


 牧場で飼われているといっても、ほぼ放牧で人に慣れているわけではない。大きなものは百キグを超え、毛刈りも数人がかりで行うという。


 わたしたちは装甲つきの魔道車で、魔羊牧場に向かう道を進んだ。グストーが運転して、わたしが助手席に座り、後部座席にはレオとユーリが並んでいる。何だかサファリパークみたいだ。


 ふたりともついてきたくせに、しらーっとした顔で座っている。いかにもお仕事でしかたなくついてきました……って感じ。実際そうなんだろうけども。


「魔羊のエサはどうしているんですか?」


「そんなぜいたくなもんはねぇよ。だから痩せてるだろ」


「モコモコに見えますけど……」


「あれは毛だっつーの」


「あっ、なるほど」


「まぁ腹が減りゃ、海草でも何でも食うぜ」


 後部座席でボソボソと声がする。


「魔羊牧場ぐらい、エクグラシアでも見学できるのに」


「まったくだ」


 あなたたち聞こえてますから。もう少し物珍しそうな顔ぐらいすればいいのに。


 グストーは後部座席のふたりは完全に無視して、わたしに話しかけてくる。


「で、どうだバハムートの港は。ここで暮らすヤツに怠け者はいないし、みんな親切だろ?」


「そうですね……身近な素材をうまく使っているなって思いました」


「ああ。あるもんで工夫するしかねぇからな。竜騎士に来てもらいたいってのは、俺の憧れもあって。バハムートではミスリルなんて採れないからな」


 そう言いながら、グストーはハンドルを切る。このあたりの地形はすべて頭に入っているのだろう。ハンドルさばきもスムーズだ。


 魔羊の頭の両脇には立派な角が巻いており、身軽に崖を駆けあがっていくのが見えて、足元は崩れやすいのか、バラバラと岩のカケラが落ちてきた。


「いちどピッカピカのミスリル鎧を拝んで見てぇよ。後ろの竜騎士が髪につけている装具、あれはミスリル製か?」


「はい」


「やっぱそうか。交易品の品目に入れてもらっても、俺たちには手がでない。けど身につけた竜騎士が派遣されるんなら、ミスリルを手にいれるのと同じことだ」


「そのわりにはこの装甲車といい、かけるところにはちゃんとかけているようですけど」


 後ろに座るユーリが口をはさむ。グストーは気にせずハンドルを切った。


「みんなの生活を守るためだ。かけるところにはちゃんとかけねえと。真冬に船の甲板で茶を飲むヤツらに言われたかないね」


 ……ちゃんと見てたんだ。


「でもドラゴンを連れてくるのは難しいそうです」


 ドラゴンの繁殖期は数十年にいちどで、それは竜王の代替わりを意味している。ミストレイはまだ若く、わたしたちがドラゴンの卵を見られるのは当分先らしい。


「俺は竜騎士だけでもかまわない」


「ドラゴンがついてこなくても?」


 ガタン、と大きく車体が揺れた。ひゅおっ!


「竜騎士ってのは要は魔法剣士だろ。ドラゴンに合わせて肉体を鍛え上げた、魔力持ちの剣士だ。まぁ、どんな勇者でも弱点はあるだろうけどな。俺だけじゃない、サルジアもはじめて見る竜騎士に興味津々だろうさ」


 ……しまったあぁ!


 グレンの息子だから……という理由で、魔術師団長のレオポルドをエクグラシアに残していくことにしたのに。


 竜騎士がそんなに注目されるなんて。


「ええと、ドラゴンに乗れるだけですよ。空を飛ぶのはドラゴンですし、たいしたことないです」


「へぇ?あんまり頼りにされてないんだな」


「…………」


 後部座席から無言で刺さる視線が痛い!


 だってそうとしか言いようがないじゃん!


 ええとどうしよう、何か言わなきゃ。何かこう……ビシッとグストーを黙らせられるような。


 けれどわたしより先に、グストーが口を開く。


「こっから先は下りだ。しっかり捕まっててくれ!」


「へ?」


 また大きくガタンと車体が揺れて、衝撃が足裏から伝わる。そして目の前には海が広がった。ふわりと感じる無重力。


 これっ、下りっていうより……垂直落下ーっ!


 魔導車は勢いよく崖からダイブしたのだった。





 ガタガタと車体がバラバラになりそうな勢いで、魔導車は崖を下っていく。後部座席のようすなんて見る余裕はなく、わたしは必死に座席と手すりにしがみついた。


 歯も食いしばってないと……舌をかむ!


 どれぐらいそうして走っていたろうか。崖下の地面がどんどん近づき、着地した瞬間、ドゴッと鈍い音と衝撃が走った。


「ひはっ……」


 バハムートにしては珍しい、平地にでたようだ。灰色をした魔羊の群れが、いきなりあらわれた魔導車に驚いて、いっせいに走りだした。


 車はそのまま群れを蹴散らすように、まっすぐに突っこんで縦断していく。


 あわてている魔羊たちには悪いけれど、太陽の光を浴びて疾走する群れは、しなやかな肢体にその躍動感が美しく、わたしは言葉を失って見惚れてしまった。


「すごい……」


「ようやくこれだけの群れになったんだ」


 わたしの横でハンドルを握るグストーが、前を見つめたまま誇らしげに言った。わたしはその横顔に向かって話しかける。


「グストー、最初に言っておきます。竜騎士の派遣はできない」


 竜騎士団のことはライアスが決める。わたしにもユーリにも権限はない。勝手な約束はできなかった。


「じゃあ、港を使わせる件なしだ」


「いいえ、港は提供してもらいます。かわりに錬金術師をひとり派遣します」


「錬金術師……だと?」


 グストーの目がわたしに向いた。


魔羊は気が荒いイメージ。

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