表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第十二章 移動要塞バハムート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

530/561

530.市場に開店

挿絵(By みてみん)

ネリア

(絵:よろづ先生)

 翌日からわたしたちは忙しくなった。


 急ごしらえで作った屋台には、ヌーメリアとローラ・ラーラがならび、白衣の錬金術師と黒衣の魔術師の組み合わせは、それぞれの髪色もあってとても目立っている。


 ローラが簡単な問診をして、その結果をもとにヌーメリアが最適なレシピを選びだす。


 コールドプレスジュースは、実はヴェリガンが大量に作って、第二倉庫に冷凍してあった。野菜や果物を持ちこむより日持ちするし、かさ張らないから、保存技術さえあれば長い航海にも向いていた。


「ヌーメリア、イイ感じだね!」


「ヴェリガンのジュースは、私も毎日飲んで効果を実感していますもの。彼にもいいお土産話ができますわ」


 ヌーメリアはほほえんで、グラスに手際よく浄化の魔法をかけると、新しいジュースを注いで、訪れるお客さんに手渡していた。


 お客さんたちは最初はおっかなびっくり、ひと口飲んで「飲みやすい!」と目を輝かせ、それぞれのグラスの中身について盛りあがっている。


 海風にさらされて生活するバハムートの人たちは、女性も男性もよく日に焼けていて、色白のヌーメリアはそれだけで人気者だ。


 コールドプレスジュースを飲みながら、肌の手入れに悩む人には海草を使ったパックを教えたり、冬だから手荒れの相談にも乗ったりしている。


 ヌーメリアは穏やかに話をしながら、彼女お手製のハンドクリームまで、お客さんたちに手渡して喜ばれている。


 話にあいづちを打つヌーメリアも楽しそうだ。


 髪飾りをほめられて、「夫から婚約期間中に贈られたアミュレットなんです」と恥ずかしそうに答え、新婚だとわかると口々に、お祝いの言葉を投げかけられていた。


「どんな人?」と聞かれて、ポツポツとほほを染めて答えるものだから、いつのまにかバハムートの人たちにも、ヴェリガンの名が知れ渡っている。


 彼女はいつも遠慮して、六番街の市場にもなかなか行かないから、積極的に売り子をするなんて思ってもみなかった。


「仕事だと思えば……がんばれるのかな」


 ぽつりとつぶやいた声を、ローラが拾う。


「だねぇ。顔すらまともに上げられない子だったのに。錬金術師としての十年があの子を育てたのか。それにしてもあの問題児とくっつくとは……」


「そうですねぇ」


 うんうんとうなずいていると、ローラはあきれたように片眉をあげた。


「あんたもだよ。まさかあの問題児を受けいれられる女がいるとはねぇ」


 何となく聞き捨てならない。


「あの、その言いかた……ヴェリガンもレオポルドも、ローラにとっては同じ扱いなんですか?」


 ローラは金の瞳をくるりと回す。


「似たようなもんだろ」


「「ぜんぜん違います!」」


 そこはヌーメリアとわたしの声がハモった。


「レオポルドはああ見えて、だれよりも努力家なんです。魔術の本をいつも読んで術式を検討してるし……ミッラひとつ焼くのにも手を抜かないんです!」


「……ミッラ?」


 わたしが食ってかかれば、ローラは眉をあげて背後に立つレオを見る。ふいっとレオがそっぽを向いて、ヌーメリアだって拳を握りしめた。


「ヴェ、ヴェリガンは私より先に、アレクと家族になってくれたんです。彼の研究室にはアレクの居場所がちゃんとあって……」


 それはガトの木のうろだったり、ホウメン苔の上だったり。退屈するとアレクはよくヴェリガンの研究室にでかけて、そこで虹色トカゲまで捕まえてきた。


「私だけじゃ……アレクは研究棟での暮らしに、なじめなかったかもしれません……」


 もじもじと指をこねるヌーメリアを優しい目で見つめ、ローラはプハッと噴きだした。


「子どもはどんな環境でも、すぐに順応するもんだよ。王都に連れてきたあんたが、そうだったようにね。あんただって自分の居場所を、作りたくてがんばったんだろう?」


「……はい」


 ヌーメリアがこくりとうなずいてほほえむ。晴れやかな笑みを浮かべる彼女は、最初に会ったときよりもずっときれいになった。


「ヌーメリア、きれいになったよねぇ」


 うれしくなってそういうと、彼女は驚いたように灰色の目をちょっと丸くして、くすっと笑って首をかしげた。


「あら、ネリアもですよ。だれかさんのおかげですね」


「そ、そんなことは……」


 恥ずかしいからすぐ後ろにいる、本人の前でいわないでほしい!


 順調そうな屋台はヌーメリアとローラに任せ、わたしとレオは魔羊牧場を見学させてもらうため、船着き場にやってきた。





 魔羊が暴れて人間の居住区になだれこまないよう、魔羊牧場は船でないと行けない場所に造られているという。


 そして今回も、黒縁眼鏡をかけた補佐官見習いのユーリが、わたしたちに同行している。


「もう、ふだんの格好で視察してもいいんじゃ?」


 わたしが微妙な気分で首をかしげると、ユーリはにっこり笑う。


「僕のことはお気になさらず。テルジオさんからも『早く仕事を覚えろ』といわれてまして」


「絶対いわないと思うよ」


 口をとがらせて文句をいうと、ユーリは目を丸くした。


「わ、ネリアさんのイヤそうな顔。テルジオさんの気持ちがちょっとわかりましたよ」


「口調まで似てるじゃん……」


「すみませんねぇ、ネリアさん。何しろ私だれかさんのおかげで、超忙しいものですから!」


 書類の束を抱えたテルジオが、せかせかと歩いていった。バハムートとの交渉のほか、ハルモニア号に積んだ物資の管理、エクグラシアへ送る報告書の作成など、やることが山のようにあるらしい。


「ユーリはあっちを手伝ったほうがいいんじゃ?」


「僕がいてもじゃまですよ。たぶん」


「それもそっか」


「ひどいなぁ」


 ポリポリと頭をかいて、ユーリはわたしとレオに続いて、迎えにきた小型船に乗りこむ。要塞を離れてぐるりとバハムートを回りこめば、鋭く切り立った崖がそびえる場所にきた。


 岩場のところどころに、白い魔羊の姿が見える。何匹かは警戒するように、ガッガッとヒヅメで足を踏み鳴らしている。


 グストーは牧場前の波止場で待機しており、船から投げられたロープを手際よく、突きでたビットにくくりつける。


 レオの手を借りて船から波止場に降りると、わたしは彼にあいさつをした。


「今日はよろしくお願いします。グストーさんが案内してくれるんですか?」


 彼は帽子のつばに手をあて、ニヤリと笑うと軽く会釈をした。


「いや、悪かった。本当にあんたがトップだったんだな」


「トップ?」


 そういえば師団長は国王とならび立つとされているから、王太子一行でも使節団の代表という扱いになるんだっけ……。


「最初は王太子が連れている、キレイどころのひとりかと思ったが……つまりは、すべての決定権はあんたにあるってことだ。なら俺が相手をしたほうが話が早いだろ?」


 そういうと彼は愛想よく、わたしに手を差しだす。


「魔羊に近づくときは、くれぐれも気をつけてくれ。気性が荒いヤツは突進してくる。まぁ、心配するな。俺は後ろのだんまり竜騎士より、よっぽど頼りになるからよ」


 ……そういう挑発、やめてもらえませんか⁉


 びくびくと後ろを振りかえれば、苦笑するユーリと無表情にたたずむレオがいる。うん、顔にはでてないけど……今、めっちゃ不機嫌だよね⁉


「…………」


 これ絶対、わたしのせいじゃないよね⁉


ヌーメリアがしっかりしてきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆11/1コミカライズ開始!☆☆
『魔術師の杖 THE COMIC』

『魔術師の杖 THE COMIC』

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ