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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート
528/560

528.雲海の上を

挿絵(By みてみん)

ライガで飛ぶネリアとレオポルド。

(絵:よろづ先生)

「でも……料理やお酒は無礼講で、参加した人たちはみんな口にしていたよね?」


 ヌーメリアはこくりとうなずく。


「そうですね。少し言動がおかしくなっても、酒に酔ってハメを外したかな……ぐらいの変化しかないはずです。微量なら薬としても使えます。元気がでて活動的になるはずです」


『長期滞在は歓迎だ』


 それを考えると、グストーの言葉が別の意味を持ってくる。わたしはぶるりと震えた。絶海の孤島で麻薬を栽培するとか、あっちの世界でもあるかもしれない。


「これをもしも長期間、日常的に口にしていたら……」


「グストーの意のままになる傀儡……人格すらも破壊されて廃人となる可能性があります」


「…………」


「レオにも飲ませようとしたってこと?」


 わたしがギュッと唇をかむと、ユーリは考えこむようにアゴに手をあてた。


「それだけじゃありません。ドラゴンのエサに混ぜられた場合は、どうなるか……」


「……やはり沈めるか?」


 腕を組み壁にもたれたレオが、ぽつりと口にする。


「ですがバハムートは中継地としては魅力的です。港の設備も整っていますし、素材を処理する人手や技術もあります」


 高額で取引できる商品があるからこそ、潤沢な資金を要塞の整備に回せる。船や砦の設備が整っているのも、ただ交易で儲けているだけじゃなかったのだろう。


 街の素材屋で見るかぎり、素材の加工技術も発達しているようだった。それが麻薬の栽培によるものだとしたら皮肉だ。


「だがグストーに手を貸せば、バハムートにおけるヤツの権力を決定的にする。あの手この手で竜騎士を取りこもうとするだろう。竜騎士とドラゴンは一対だけでも、軍隊ひとつに匹敵する」


 テルジオが口を挟んだ。


「寄港地はほかにもいくつか候補があります。ややこしい事態になるようでしたら、ひとまず結論は避けて穏便に出発してはどうでしょうか。目的地はサルジアです」


「そう、なんだけどね……」


 あっちの世界でも、ひとびとが麻薬の密売に手をだすのは、それが簡単に金になるからだ。売るだけでなく自分たちも日常的に摂取し、クスリに依存していく。


 でも、そういった生活の犠牲になるのは、いつだって幼い子どもや女性たち……社会的弱者と呼ばれる者たちだ。


「バハムートの資金繰りはわかったけれど、このままにはしておけないと思う」


「でも、どうするんですか。僕らはただの客人ですよ。どうにかしたい気持ちはありますが」


 ユーリはぐしゃぐしゃと赤い髪をかき乱した。


「うん。時間をちょうだい。少し考えるね」


 わたしは立ちあがった。


「あくまで態度は友好的に。船から降りて街にでかける者には、解毒剤か解毒の魔石を持たせよう。船内への薬物の持ちこみは厳しくチェックして。それとわたしたちも市場に店をだそう」


「店を?」


 わたしはヌーメリアに向かってにっこりする。


「ヌーメリアが中心になって、ヴェリガンのコールドプレスジュースの屋台を、市場で開店するの」


「私が……」


「そう。住んでいる人たちの健康相談にも乗って、体調について聞きとりをして。あの毒物は輸出用で、住人たちは口にしていないかもしれない」


「……かしこまりました」


「忙しくなるけど、よろしくね。テルジオさん、船の調理スタッフで手が空いている者は、ヌーメリアを手伝ってもらって」


「手配いたします」


 テルジオにうなずいて、わたしはレオを見た。


「レオはわたしにつき合って。もう遅いけど、少し散歩をしたいの」


 レオがうなずき、わたしはみんなを見回した。


「それじゃあ、解散。おやすみなさい!」


「おやすみなさい、ネリア」


「僕らも寝ます。おやすみなさい」





 ユーリの部屋をでて、わたしはレオとふたり、船内の廊下をてくてくと歩いていく。彼の低い声が降ってきた。


「どこに行くつもりだ」


「うーん。実をいうと……歩くより飛びたいんだよね」


「ライガか?」


「うん。バハムートから離れた場所に転移して、展開しようと思うの。つき合ってくれる?」


 見上げると彼はふっと笑った。


「どこへでも」


 それだけで気持ちがほぐれて、勇気が湧いてくるから不思議だ。


「ありがとう!」


 うれしくなってパアッと笑いかけると、彼はわたしの肩を抱き寄せた。


「雲の上に転移する。地上からは見えないはずだ。きみはライガを展開してくれ」





 ……次の瞬間には、わたしたちはふたつの月に照らされた、白く輝く雲海のうえにいた。レオは寒くないようにアルバを唱えて、わたしは左腕につけた腕輪から、ライガを展開する。


 風の魔法陣を操って、わたしを抱いたまま、ふわりとライガにまたがったレオは、ハンドルに手をかけた。


「脱出に手を貸したのだ。私にも操縦させてくれるのだろう?」


「何それ、確信犯⁉」


 冗談めかした物言いに、笑って言い返す。けれどそのままハンドルを握らせ、わたしは彼にもたれかかった。


「散歩っていうかね、ちょっと甘えたくなったの」


「私に?」


「うん……」


「心配したのか?」


 歓迎会でレオはグストーから勧められた酒を、そのまま飲み干した。あれにも薬物が入れられていたかもしれない。彼ならユーリみたいに、何らかの対処はしているだろうとは思ったけれど、それでも落ち着かなかった。


「うん。少しね、やっぱり怖かったの」


「…………」


「あとは焼きもちかな」


 彼の腕の中にすっぽり納まったまま、すり……と身を寄せる。雲海には月が落とすライガの影が落ちて、ふたつの人影は寄り添い、ひとつに重なっていた。


「私はきみが……私の目の届かないところに行くのが怖い」


「どこにも行かないよ」


「それはどうかな」


 彼が右手でわたしのほほをするりとなでた。

イチャイチャ来たー!

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