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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート
526/560

526.グストーの要求

挿絵(By みてみん)

ライガで飛ぶネリアとレオポルド。

(絵:よろづ先生)

「……では頂戴しよう」


 その場にいる全員の注目が、レオに集まる。女性たちのほほが上気し、眼差しに熱がこもるのは、仕方ないのかもしれない。


 竜騎士の装いをしていても、レオは筋骨隆々といった感じはしない。


 整った顔立ちはまだ若く、長いまつ毛に縁どられた黒曜石の瞳はキラリと輝く。ミスリル製の装備は月の光を集めたようにきらめいて、ツヤのある黒髪を留めている。


 精霊のようだとささやかれる美貌は、髪や瞳の色が変わっても健在で、むしろ闇の色をまとったぶん、深みというか危うげな凄みが増していて、だれもがハッとしたように動きを止めて、彼の姿に見入っていた。


「そうかそうか」


 グストーが満足そうに笑い、レオに盃を渡すとすぐに、なみなみと酒が注がれる。


「…………」


 クジラのロウソクを燃やす炎は明るく、盃には揺れる炎がいくつも映りこむ。ユラユラと盃の中で揺れる火を見おろし、レオはすっと腕をあげてそれを掲げる。グストーが音頭を取った。


「中庭で宴をするのは、世界を魔素で満たすといわれるふたつの月を、こうして盃に映すため。我らの出会いと今後の発展を祝して乾杯だ!」


 ――カツン!


 重い音を立てて金属のカップが打ち合わされ、グストーが酒をあおると同時に、レオものどを鳴らしてゴクゴクと勢いよく飲み干していく。


(かなり強い酒なのに、あんなペースで飲むなんて……)


「プハッ、さすがはドラゴンを駆る者。いい飲みっぷりだ!」


 グストーが相好を崩すと、盃をカラにしたレオは拳で、口の端から垂れる酒をぐいっと拭い、凄絶なほほえみを浮かべる。


「いい酒だ」


 見る者の魂が奪われてしまいそうな、美しい笑みを目の当たりにして、何人かは膝から力が抜けて崩れ落ちていた。


 グストーも虚を突かれたように、レオの顔に釘づけになったまま、黙りこんでいる。


「だが、酔うには少し物足りない」


 ――コツリ。


 レオが一歩踏みだしただけで、彼が何をしたわけでもないのに、囲んでいた者たちが足を引いて後ずさる。


「物足りない、だと?」


 にっこりとレオと晴れやかな笑みを浮かべ、わたしはあわてて隣に座るユーリの袖を、クイクイと引っぱった。


「ねぇ、あれ……レオはお酒に酔ってるの?」


「え、そこまで弱くはないはずですが、僕も彼と酒を飲んだことはないので……」


 ユーリもとまどったように返事をするけれど、それが何とも自信なさげで心許ない。


「我々に協力してハルモニア号に港を使わせてほしい。それだけでなく、エクグラシアとバハムートをつなぐ、長距離転移陣を設置したい」


 レオポルドは直球勝負でスパーンと切りだした。


「は?そこの王太子ならともかく、一介の護衛騎士が口を挟むことでは……」


「私ではない」


 グストーの言葉をさえぎり、レオは右手のひらを上に向け、手でわたしを指し示した。


「魔法陣を設置するのは錬金術師団長だ」


「わたし⁉」


 そりゃ研究棟からマウナカイアへの転移陣を、引いたのはわたしだけど……。グストーがギロリとわたしをにらみつけた。


「それがどういうことかわかっているのか。エクグラシアから、バハムートへの出入りは自由になるってことだ!」


 ……ええい、怒鳴ればこっちが引くと思ったら大間違いなんだから!


 わたしバンッと両手でテーブルを勢いよく叩いて立ちあがった。


「そのために危険な外海を使わずに交易できるのよ。お互い便利じゃないの!」


 グストーも負けずに言い返す。


「それはあんたのような魔力持ちがいて、魔石がふんだんに採れるエクグラシアだからだ。こっちは装備を整えて海にでて、ようやく魔石を持つ魔物を狩れるんだぞ!」


「……それで思いだした」


 静かにレオがいい、懐から無造作に何かを取りだすと、テーブルの上にごとりと置く。


「くる途中で退治したクラーケンの魔石だ。エクグラシアまで持ち帰るのも荷物になる。こちらに進呈しよう」


 ……わたしの護符を作るとかいってたクラーケンの魔石!


 わたしがイヤがったものだから、レオってばちゃっかりグストーに押しつけてる!


 けれど魔石を見たグストーの顔色が変わった。


「ク、クラーケンの魔石だと?」


 がばりと石に飛びつき、ひっくり返して念入りに調べたあと、素材店主に渡した。


「どうだ?」


「少々お待ちを……」


 店主は小さく魔法陣を展開し、魔道具らしきモノクルを左目にあてて、魔石を調べ終えてから息を吐いた。


「まちがいありません。クラーケンの魔石です。まさか人の身で倒せるとは……」


「これをバハムートに……」


 グストーは息をのんでから、わたしたちに向きなおった。チラチラとレオの顔を見ながら、唇をなめてから一気にまくしたてた。


「さきほどの申し出について考えてもいい。そのかわりその護衛騎士を置いていけ。こちらで雇いたい。そっちはひとりぐらいいなくたって、どうにかなるだろう」


「冗談じゃないわ。彼はわたしの護衛騎士なの。そして返事は『おことわり』よ!」


 間髪入れずに、わたしが叫ぶように返事をすれば、グストーは目をむいた。


「はぁ⁉すこしぐらい検討したっていいだろう!」


「私の護衛騎士だって言ってるでしょう。だいたいドラゴンもいないのに、竜騎士なんか必要ないでしょうよ!」


「これから飼う!」


 グストーは叫んだ。


「魔羊と同じだ。ドラゴンだって卵から育てりゃ、バハムートを縄張りにするだろうよ。竜騎士をひとり、それとドラゴンを一匹譲ってくれれば、港は使わせてやる」


「竜騎士とドラゴンがほしいのか?」


 思いもしなかったようすでユーリが問うと、グストーは吐き捨てた。


「他に何がある。エクグラシアが強国となれたのは、ドラゴンが国を守るからだ。外敵や魔物から身を守りたいのは、バハムートだって同じだ。協力してくれたら、快く港を提供してやろう」


 そのうえでグストーはレオに笑いかけた。


「待遇は保証する。独身ならばここで所帯を持ったっていい。さっきから女たちが落ち着かない。少しは言葉を交わしてやってくれ」


「…………」


 そんなこといわれたって。その人はわたしの婚約者です!


 ……そうはいえないものだから、わたしはぎゅっと唇をかみしめた。

グストーはレオに興味津々。

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