表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート
525/560

525.歓迎会

挿絵(By みてみん)

レオポルドとネリア

(絵:よろづ先生)

 歓迎会はむしろなごやかなムードだった。グストーは最初から上機嫌で、酒が入ると豪快に笑いながら、バハムートでの生活をおもしろおかしく話してくれる。


 宴には市場にいた店主たちも招かれていて、わたしたちが買い物をしたことは、彼らの口を通して既にグストーにも伝わっているのだろう。


(『エクグラシアの国力を示す』と言っていたユーリと同じように、グストーもバハムートの豊かさをわたしたちに見せたいんだ……)


 テーブルに並ぶ料理は魚料理だけでなく、魔羊のチーズを使ったコクのあるスープもあった。岩場に生える草を食べ、塩気の強い気候でも生きられる。


「何年か前にバハムートに連れてきたんだ。痩せていてアテにしていた肉はたいして取れなかったが、このスープにみんなハマっちまってなぁ」


「家畜まで育てているんですね」


 魔羊のスープは美味しいけれど独特の臭いもあり、臭い消しの香草もいくつか入れて、いっしょに煮込んでいるようだ。


「魔羊の毛は水を弾くし、火にも強い。けれど交易で手にいれるに金がいる。それならバハムートで育てようってな」


 グストーの話をうなずきながら、熱心に聞いていたユーリが、にこやかに提案する。


「魔羊が増えてきたならエクグラシアから、糸紡ぎの魔道具と自動織機を導入したらどうですか。ぐっと生産性が上がりますよ」


「ほぉ。見積もり次第では検討してもいい」


「では品目に入れておきましょう」


 招かれたわたしたちがおいしく食事をしている横で、市場にいた店主たちも目を輝かせて、ごちそうにがっついている。中には料理を包んで持って帰ろうとして、注意される人までいる。


 食卓を飾る華やかな花やくだものはないけれど、手をかけた料理はどれもおいしい。


(この食事はバハムートで暮らす人たちでも、限られた者しか口にできないのかも……)


 市場といっても露店で、流木を組み合わせただけのバラックだった。


「目の前が海だからな、釣ったばかりの生魚を、バハムートならいつでも食べられる」


「おいしいです!」


 タレに漬けた白身魚の薄づくりをもきゅもきゅとかむと、しっかりした歯ごたえがあって濃厚な味わいと甘味を感じる。


「わ、歯ごたえがぷりっぷり!」


 同時にわたしの三重防壁が、キラキラと輝いた。


「…………」


 もうひと口、魚の切り身を食べてゆっくりとかみ、こくんと飲みこむ。こんどは魔法陣が光ることはなかった。


 しょうゆみたいな茶色いタレは、色が薄いのにしょっぱくて、風味からして魚醤だと思われた。


 わたしはまた同じ魚を取り、タレにベッタリ漬けてからぱくりと勢いよく食べる。


「ん、やっぱタレがあったほうがおいしい!」


 わたしが目を輝かせると、展開した魔法陣がキラキラときらめき、グストーも楽しそうにうなずいて盃を掲げる。


「そうだろう。この味がわかる嬢ちゃんは酒飲みになる素質がある」


 それを合図にみんなの盃に酒が注がれ、ユーリは平然とグストーにつき合って盃を飲み干した。


「さすがはエクグラシアの王太子、いい飲みっぷりだ」


 ユーリを称えて、グストーはふらりと立ち上がり、酌をしていた家人から酒のビンをひったくると、よろめきながら歩きだした。


 彼が目指したものはすぐにわかった。


「ここは俺の屋敷で、中庭なら外敵の侵入を心配する必要はない。護衛騎士にも飲ませてやろう」


「…………」


 グストーに酒ビンを突きつけられても、竜騎士のレオは無言のまま、直立不動で立っている。


 酔っているのかフリなのか、目の据わったグストーはレオにしつこく絡んだ。


「せっかくの機会だ。エクグラシアを統べるドラゴンたちを駆る者とも、俺は飲み交わしたい。おい、盃を持て!」


「ひっ!」


 迫力のある怒号にびっくりしたのか、ヌーメリアがハンカチを取り落とし、白いサルカス産のレースがタレで汚れた。


「だ、だいじょうふです。帰ったら浄化の魔法をかけますから」


 この場で注目を浴びるのがいたたまれずに、ヌーメリアはハンカチをそそくさとしまうとうつむいた。


「ほら、どうした」


 レオは眉間にシワをよせ、あからさまにため息をつくと、迷惑そうに口を開く。


「師団長と王太子殿下の許しがあれば、いただきます」


「だとよ!」


 目の据わったグストーが、わたしたちに向かって声を張りあげ、ユーリは肩に力を入れてぐっと拳を握りしめた。


「……許します」


 わたしが先に言葉を発し、ユーリの肩からふっと力が抜ける。


「僕も許そう。レオ、バハムートの主グストーからもてなしの盃を受けるといい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆MAGKAN様にてコミカライズ準備中!続報をお待ちください☆☆
WEBコミックMAGKAN

☆☆『7日目の希望』NovelJam2025参加作品。約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
9巻公式サイト
『魔術師の杖⑨ネリアと夜の精霊』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天

☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
シリーズ公式サイト

☆☆作詞チャレンジ(YouTubeで聴けます)☆☆
↓「旅立ち」↓
旅立ち
↓「走りだす心」↓
走りだす心
↓「ブルーベルの咲く森で」↓
ブルーベルの咲く森で

↓「恋心」↓
恋心

↓「Teardrop」↓
Teardrop
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ