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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート
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524.グストー邸へ

挿絵(By みてみん)

ちっちゃいユーリとネリア

(絵:よろづ先生)

 歓迎会に出席するのはユーリとわたし、魔術師ローラと錬金術師ヌーメリアと竜騎士のレオだ。


 ヌーメリアはメニアラ産の光沢があるシルクを、ふんだんに使ったシックな紺色のドレスで、シンプルながら光を浴びると艶やかに輝く。彼女が身動きをするたびに、揺れるドレスのすそが色っぽい。


「わぁ、ヴェリガンやアレクにも見せたいね!」


「ありがとうございます。ネリアは白の……デビュタント用ですか?」


「うん。王城の服飾部門で用意してくれたの。デビュタント用のドレスはいちばんの正装なんだって。シンプルだけどとても上品だよね」


 もとはストンとしたシルエットだったらしいけれど、お城の舞踏会では使わなかったので、今回は外交使節団用に手を加え、華やかなレースが取りつけられている。


 くるりと回ってポーズを決めれば、軽やかなレースがふわりと広がる。


「サルカス産のレースですね。手工芸品も商談の材料にするらしいです」


「そうらしいね。バハムートにとっても、定期船を迎えるメリットがあると思わせんだって」


 街の様子を見て船に戻ったわたしたちは、交易品のリストを見ながら、売りこむ商品を見直すことにした。


「知恵を絞って上手に暮らしているし、むしろ生活は豊かだよね。ぜいたく品も意外と人気がでるんじゃない?」


 そういうとユーリはちょっと考えて、テルジオを手招きした。


「そうですね。鮮やかな染料で染めたメニアラ産のシルクに、サルカス産のレースを合わせた装いを、女性陣にはしてもらいましょう。きっと目をひきます」


 シルクは錬金釜で作った合成染料にも染まりやすい。バハムートでは貝や海草から採れる天然染料で布を染めるけれど、量が少ない上に海風にさらされるとすぐに退色してしまう。


「うん。向こうが興味を持ったものについては、情報を小出しに与えよう。しっかりと食いついてきたら、交渉の材料にしよう」


「うわ、ネリアも考えますねぇ」


 わたしとユーリは共犯者のように、ほほえみ合う。こういうときユーリはすぐに、全部を説明しなくても察してくれる。わたしは彼にいつも助けられていた。


 テルジオが報告書を取りだした。


「ではこちらからも報告を。本物の補佐官たちが頑張ってくれましたよ。バハムートは交易の中継地点としてだけでなく、飛行クジラの捕鯨を行うことで栄えているようです。砦や船の装備が物々しいのはそのせいだそうで」


「飛行クジラって……クジラが空を飛ぶの?」


 言語解読の術式がちゃんと働いているなら、確かに飛行クジラと聞こえたんだけど。ふしぎに思って質問すると、テルジオは意外そうな顔をする。


「えっ、ネリアさん自分も空を飛ぶくせに、そんなことも知らないんですか?」


「ライガで空を飛べることとは関係ないと思うの」


 この世界でクジラは空を飛ぶ。これ常識。うん、わかった。


「もちろんクジラが空を飛びます。といっても群れの先導をする、ボスだけが空を飛ぶんですよ」


「じゃあ飛ぶのは一頭だけ?」


 ユーリがサーデを唱えて、〝海の魔物図鑑〟を取り寄せる。


「ええ、ほかのクジラは海中を泳ぎます」


 〝海の魔物図鑑〟によると、飛行クジラは海流に乗って、群れで世界の海を移動する。群れを攻撃するとボスが怒るので、クジラ漁ではまずボスを狙うと書いてある。


「ボスともなると巨体ですから、一頭捕まえるだけで、全島民が余裕でひと月は暮らせます。それだけでじゅうぶんな収穫になりますからね」


「ボスを失った群れはどうなるの?」


「散り散りになりますが、またいずれ新たなボスが生まれます。巨大な魔獣なので、クジラを狩れるようになったのはつい最近じゃないかな」


「せっかく群れのボスになっても空を飛ぶと、人間たちから狙われてしまうなんて……かわいそうだね」


「ほっとくとどこまでも大きくなるので、被害が甚大なんですよ」


 巨体になった飛行クジラは、船を飲みこんでしまうこともあるし、ボスを狩ることでバランスを取っているのだとか。異世界の生態系、奥が深いよ!


「バハムートでは魔導ランプではなく、クジラの脂を原料にしたロウソクが使われています。とても明るい光ですよ」


 サメ皮を使った財布や、魚の骨や貝殻を材料にした楽器やアクセサリー。こんな浮島で豊かな生活を維持するためには、いろいろな工夫があるようだ。





 わたしをエスコートするのは王太子のユーリ、そして錬金術師ヌーメリアと魔術師ローラがつき従う。しんがりには竜騎士のレオが控えていた。


 リリエラは船がバハムートに着くなり、ふらりとどこかに消えたから、今ごろは人魚に戻って泳いでいるのかもしれない。


「テルジオ、僕はどんな感じに見える?」


「そうですねぇ……美女三人に囲まれた、とっぽい王子様って感じです」


「とっぽいが余計だろ!」


 ユーリがテルジオと言い合っている横で、わたしは身悶えしていた。


「どうしよう、レオがすごくカッコいい」


「何を今さら」


 無口はいつものことだけど、騎士服を着て黒髪を束ね、ビシッと立っている姿がカッコいいのなんのって!


 制服ヤバい。ちょっと歓迎会に連れて行きたくない。昼間の街歩きでもバハムートの女性たちから、熱い視線を送られてたんだもの!


(ドレスのこと……『キレイだ』ぐらい言ってほしいけど、今は婚約者じゃないもんね)


 そんなモヤっとした気持ちになりながらも、ローラが転移魔法陣を展開し、トンと杖で床を突いただけで、わたしたちはグストー邸の決着点に移動していた。


 グストー邸で待ち構えていた人たちだろう、周囲からどよめきが上がり、ささやきが交わされる。


「本当にあらわれた……」


「見て、あの衣装!」


 決着点はどうやら中庭にあるようで、バハムートでは珍しく大きく枝を伸ばした木に、ロウソクを灯したランタンがいくつもぶら下がっている。


 ごちそうが並んだテーブルにも燭台が置かれ、明るい炎がゆらめいていた。


 楽師たちもスタンバイしていて、歓迎会の準備も万端と言ったところだ。


「夜だというからもっと暗いと思ってた。明かりは全部クジラのロウソク?」


 わたしがキョロキョロとまわりを見回していると、エスコートするユーリがにっこり笑ってささやく。


「魔導ランプだと魔石が必要ですから。さてネリア、三重防壁を展開して下さい。今夜の毒味は任せますから、好きなだけ食べてくださいね」


 ……そういう目的で使うんじゃないんだけどなぁ!


 だけど食欲に関しては遠慮したくない。ちょうどそこへ不敵な笑みを浮かべたグストーが両手を広げて近づいてくる。


「ようこそエクグラシア王太子一行。バハムートのグストー邸へ」


 わたしがはじめてシャングリラにきたときみたいに三重防壁をきらめかせると、両手を広げた姿勢のまま固まって、動きを止めたグストーの口があんぐりと開いた。

グストー邸、ゴツゴツとしたバハムートの中では、キレイな場所というイメージ。

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