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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート
521/560

521.移動要塞バハムート

マッグガーデン『MAGKAN』様にてコミカライズ、連載が決定しています。

挿絵(By みてみん)

続報をお待ちくださいm(_)m

 わたしたちは甲板に立って、バハムートの港を眺めた。倉庫だけでなく砲台や物見やぐらもある港は、外敵からの侵入にも備えた要塞のようだ。


 バハムートはつまり、海流に乗って漂い続ける浮島なのだという。


「海王が鍛えるアダマンティンの鎖はもともと、バハムートの島を海底に繋ぎとめるためのものさ。まぁ最近の海王はすっかり、鎖づくりをサボっているようだけど」


 ふぁ、とリリエラがあくびをした。


「ユーリは『いつ沈むかわからない』と言ってたよ」


「バハムート自体が海中に沈めば、激しい水流や波の発生で都市も壊滅的な打撃を受けるだろうが、その備え自体はしてある」


 レオがバハムートの造りを簡単に説明してくれた。


「都市の形をしてはいるが、いざとなれば分解して()()()のように海上に浮かぶ。被害を受けることを見越したうえで、生き延びる手立てを考えてある。マウナカイアとはまた違うが、海の民はたくましいぞ」


「海の民……」


「ユーティリスがどこまで渡りあえるか見ものだな」


「一介の護衛騎士に心配される筋合いはないですよ。師団長ならともかく」


 きちんと王太子の装束を着たユーリが不服そうに言い返し、テルジオは神経質そうに書類をめくった。


「ええと……定期航路開設のためには、まず交易協定を結ばなくては。移動要塞バハムートを管理する現在の代表者は、グストーという男です」


「代表者って?」


 王様みたいな統治者とは違うんだろうか……サルジアの勉強ばかりしていて、バハムートの情報は豊かな漁場に囲まれて、発展した寄港地という情報ぐらいしか知らない。テルジオは難しい顔でため息をついた。


「国家というよりは利権で団結した集団といった感じですね。損得勘定で動き、サルジアとエクグラシア……どちらにもつきます。味方になれば心強いですが、いつ寝返るかはわかりません。協定の破棄は彼らにとって裏切りでないのです」


「貿易都市ならではの自治権ってとこかな……国家として支配し管理するよりは、住民たちに任せておいた方が効率がいいってことね」


「そうなりますね。エクグラシアのドラゴンに縄張りがあるのは、広く知られていますし、お互い友好関係は築けていますが、もとは海賊の根城です。じゅうぶん用心してください」


 テルジオの注意をうなずきながら聞いていると、ユーリがあらためて注意してきた。


「ネリア、ライガは封印していてください。ハルモニア号での戦闘で、レオの力とあなたの防壁はじゅうぶん印象づけました。ライガは最後の切り札に」


「わかった。あとは出たとこ勝負?」


「まぁ、そんな感じです」


 苦笑したユーリは、レオには厳しい視線を向けた。


「レオ、ドラゴンを連れていない竜騎士は、侮られることもあるだろう。竜騎士を名乗るからには、竜騎士団の名を汚さないでくれ。くれぐれも自重を」


「承知している」


 神妙にうなずいているけど、レオが暴れん坊なのはもうバレてるもんね。そんなことを考えていたら、ユーリはわたしに向かって赤い瞳をきらめかせた。


「ネリア……他人事みたいな顔して聞いてますけど、彼が暴れたとしたら原因は絶対あなたですからね。刺激しないようにしてくださいよ」


 ……いいっ⁉


 しかもユーリの後ろでテルジオもローラも、うんうんとうなずいている。いや、生まれつきの性格はわたし関係ないよね⁉





「必要なのは魔石だな。エクグラシアには潤沢にあるのだろう?」


 グストーと名乗る男は、交易協定の申し出にズバリとこう要求してきた。


「こちらにはサルジアとの交易で、使いやすい優秀な魔道具はごまんと入ってくるんだ。魔石があればとても助かる」


「魔導大国と呼ばれたエクグラシアにも、優れた魔道具はありますよ」


 エクグラシアの王太子がにこやかに返事をすれば、グストーはニヤリと笑って首を横に振る。


「だが魔導列車はバハムートには必要ない」


 魔導列車以外に目玉となるような魔道具は、エクグラシアにはない……といわんばかりだ。ここでライガを出してもいいけど、それは最後の切り札だとユーリも言っていた。


「グレン・ディアレスが魔導列車を開発したのは三十年も前です。バハムートの情報は当時のままのようですね。今回の滞在ではその認識をあらためられるでしょう」


「そう願いたい。こちらは金持ち客の長期滞在は歓迎だ。王太子は初の外遊ともなれば、何の成果もなしでは帰りにくかろう。サルジアに向かう前にしっかり準備をされるといい」


 外交怖い!


 笑顔で相手のノド元に、ナイフ突きつける感じがなんともいえない。


 なんと停泊する日数分、ちゃっかり莫大な港の利用料も請求されるらしい。


 ハルモニア号に戻ってきたわたしは、はあぁーっと息を吐いた。


「定期航路ほしいって言ったけど、難敵だねぇ」


「そうですね。したたかで強欲であざとい。引きだせるものは全て引きだすつもりでしょう。ネリア、グストーをその気にさせることはできますか?」


「わたし⁉」


 ユーリはにっこりとウィンクしてくる。


「だって定期航路がほしいんでしょ?港がほしいならローラとレオでバハムートを攻め落とし、管理下に置くという手もありますけど……ネリアはそういうやりかたは嫌いでしょう?」


「私なら港を凍結させて白兵戦に持ちこむ」


 物騒すぎる提案はやめてよ!


「まぁ、そうだね。不可能を可能にする、錬金術師の出番かなぁ……」


 外交交渉までは仕事にないけれど!


「バハムートは自由に歩き回っていいそうですよ。夜には歓迎会があります。僕がエスコートしますから、ネリアはそれにも出席してください」


「そうだね。でもまずは……ヴェリガンがヌーメリアに持たせてくれた、ハーブティーでも飲んで、みんなで休憩しようよ」


 それまで緊張した顔でやり取りを聞いていたヌーメリアが、わたしの提案にほっこりとうれしそうにほほえんだ。

ネリアが何をするかは……これから考えます!

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