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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート
520/560

520.迎えにきたレオ

挿絵(By みてみん)

シャングリラ魔術学園生 メレッタ・カーター

(絵:よろづ先生)

よろづ先生はコミカライズのキャラクターデザインにも、アドバイスを頂いてます。

お忙しい中、ありがとうございます!

 そのときハルモニア号の汽笛が鳴った。もうすぐバハムートに到着する合図だ。


「もうすぐバハムートだから、ヌーメリアもいっしょに上陸しようよ」


 ヌーメリアを誘って艦橋に向かおうとドアを開ければ、なんとそこにはレオがたたずんでいた。


「レ、レオ……いつからそこに?」


「王太子に聞いて。つい先ほど」


 まだ船内だというのに、警護してたんだ……。レオに遠慮したのか、ヌーメリアはおずおずと申しでる。


「あの……ネリア、私はやっぱり部屋で精製の続きを」


「ダメだよ、それじゃ。アレクやヴェリガンにお土産探そうよ。婚約したら贈りもののし合いっこするんでしょ?」


 そう言うと彼女はうつむいた。


「あ……私、アミュレットのお返しをまだ考えてなくて……ネリアがうらやましいです」


「わたしが?」


「だって……ネリアはアルバーン師団長に杖を贈るのでしょう?」


「うん、そうしたいと思っているけど……」


 黙ったまま注がれるレオの視線を、痛いほど意識しながら答えると、うつむいたままでヌーメリアはもじもじと指をこねる。


「私が作れるものといったら、マヒ毒とか神経毒とか溶血毒とか……がんばっても解毒剤とかで……ヴェリガンのために心をこめて贈りものをしたくても……何をしたらいいのか……」 


 ヌーメリアはわたしに、すがりつくような視線を向ける。


「それでどうしようか考えていたら、手が勝手に動いてどんどん毒を作ってしまって」


 ……ヌーメリアが毒作りにのめりこんでいた原因はコレかぁ!


「いっしょに、いっしょに考えよう!」


 わたしがあわててヌーメリアの両手をとると、彼女は灰色の瞳を潤ませて、ホッとしたように顔をあげた。


「本当に?ネリアもいっしょに考えてくれますか?」


 わたしは勢いよくコクコクとうなずく。彼女の目を毒からそらせなくては。


「うん、もちろんだよ。アレクへのお土産もいっしょに考えよう。バハムートで何か珍しいものが見つかるかもしれないよ。ヴェリガンやアレクに渡したいもの、たくさん見つけようよ!」


「はい!」


 花がほころぶような笑顔になったヌーメリアは置いといて、わたしはくるりと黒髪の竜騎士をふり向いた。


「それでさ、レオ。ヴェリガンとアレクが喜びそうなものって、バハムートに何かあるかな」


 彼が眉を寄せた。顔をしかめてもイメケンって何だかズルいよね。べつにいいけど。


「なぜ私に聞く」


「だってレオは男の人じゃん。それに上陸したら、ずっとわたしたちに同行するんでしょ?」


 ざっくりと分類すれば彼は男性なので、わたしたちよりはヴェリガンやアレクの感覚に近いはず。それに決断力もあるから、贈りもので悩む迷える子羊たちの助けになってもらおう。


 それにそれに。ヌーメリアにアドバイスするレオのようすを近くで観察しながら、彼の好みも探るのよ!わたしのためにもなるナイスアイディアじゃん!


「それはそうだが……」


 ムダを嫌う彼らしく渋い顔になったけれど、わたしも言い募った。


「あの、本当にヌーメリアは困ってるの。ほかの人から見たら、『それぐらい』と思うことでも、真剣に悩んでるし、アドバイスがほしいし、だれかに背中を押してほしいの。だからそれをわたしとレオとでやるの」


 これ以上、毒を増やさないためにも!


『わたしとレオとで』と言ったところで、彼は目を見ひらいた。


「グレンはわたしを幸せにするために、わたしが幸せに暮らせるようにと考えて行動してくれた。だからわたしの行動はすべてだれかを幸せにするためのもの。師団長だからじゃない、ネリア・ネリスとしての……それが意志なの」


 もちろんそれにはレオ自身の幸せも含まれているのだけど……。


 レオはため息をついて吐き捨てる。


「本当に幸せを願うなら、そばにいてやればいい。彼らが本当にほしいものは、形のあるものじゃないだろう」


 ヌーメリアがびくりと身を震わせた。わたしは彼女の前にでて、レオをぐっとにらみつける。


「それができないから相談してるんだよ。わたしたちには役目がある。それはエクグラシアの安全な研究棟にいてはできないの」


「だれもそこまでの働きは求めていない」


 レオポルドだったら、怒りに瞳をきらめかせるだろうけれど、暗闇を思わせるようなレオの黒い瞳は、ただ意志の強さを感じさせるだけだった。


「あの……」


 にらみ合うわたしたちに割って入るように、ヌーメリアが声をあげた。


「ヴェリガンへの贈りものは、私が自分で考えます。アレクへのお土産だけ……相談に乗っていただければ」


 彼女はうつむいてキュッと唇をかむ。


「私が作った魔力制御の腕輪が……アレクが手にしたはじめての贈りものなんです。ヴェリガンが自分とおそろいで作った、アミュレットのチョーカーもとても喜んでいたけれど……もっと無邪気に喜べるものを何かあげたくて」


「…………」


「レオ、十歳ぐらいの男の子が喜びそうなものって……わかる?」


 ヌーメリアは本当に何かを見つけたいのだ。アレクを喜ばせる何か、ヴェリガンに彼女の心を伝えられる何か、きっとそんなものを。


 そんな彼女のようすを見守っていたレオは息をつき、肩の力を抜いて言葉を発する。


「リコリス女史の気持ちはわかった。心に留めておこう。それと声を荒げたりして失礼した」


「いいえ。あり……がとうございます」


 唇を震わせながらも何とかお礼を言うと、ヌーメリアはほほえんだ。


「ネリアを真剣に心配しているからこその、言葉だとわかっていますから。同行して頂いて心強いです」


「礼を言われるほどのことではない。それと……私ではアドバイスは難しいかもしれない。十歳頃といえばアルバーン領で、幽閉同然の生活を送っていたころだ」


 そう言うと、彼は船窓から見える外の景色を見つめた。


「そのころの夢は自由になって、風のように世界を駆け巡ることだった。そういう意味では、今まさに私は願いを叶えたと言える」


 ふっと笑う横顔には、苦みと憧憬のようなものが感じられて、わたしは息をのんだ。


 ――ああ、そういえばわたしはまだ、彼のことを全然知らないんだ。


 少しずつわかり合っていけばいい、そう思うのに過ぎていく時間がもどかしい。


「バハムートはレオもはじめてなんだよね?」


「そうだ」


「じゃあ、いっしょに楽しめるかな?」


 願いをこめて見つめていると、彼は船窓から視線を外してわたしの顔を見た。


「きみはどこでも楽しめるのだろう?何もないデーダスの暮らしすら、きみは楽しんでいた。きみといっしょにいるなら、どこであろうと楽しくないはずがない」


 ゆっくりと沁みこむように心に入ってきた言葉を、わたしがようやく全部理解するころには、船はバハムートの岸壁に接岸していた。


次こそようやくバハムート。

サイン入り最新刊を20名様にプレゼント。ご応募ありがとうございました

12月発送のため、SSS『夜の精霊と銀の魔術師』はクリスマスカードに挟んでお届けします。

挿絵(By みてみん)


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