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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる
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52.兄弟

よろしくお願いします

 しがみついてきたユーリが落ち着くまで、背中をトントンと撫でながらじっとしていると、校舎の方から叫び声が聞こえてきた。


「貴様ぁっ!ユーリから離れろぉおおっ!」


 ユーリの力が緩んで、わたしが彼の腕から抜けだすと、向こうから赤い髪の生徒が凄い勢いで走ってくるのが見えた。生徒はわたしの前まで来ると、人を指さしながら顔を真っ赤にして怒鳴りだした。


「その白いローブ……錬金術師団の者だなっ!こっ、このような場でいたいけなユーリに抱きつくなどっ!恥を知れっ!」


(ええ⁉抱きつくって……逆、なんだけど⁉︎)


「いたいけ……って、お前ね……」


 ユーリが頭痛がするようにこめかみを押さえた。


「大丈夫か、ユーリ!何か無体な事はされてないよな⁉」


「いや、それ誤解だから……だいたいなんで僕の方がやられる前提なのさ……」


 赤い髪の生徒は、顔立ちがやや少年ぽさを残しているかなといった程度で、わたしやユーリよりも頭ひとつ分は背が高く、体格も立派だ。肩まで伸ばした赤い髪を、風になびかせている。何か誰かに似ているなぁ。


 しげしげと仮面越しに眺めていたら、無反応なのにイラついたらしく、わたしに向かってさらに怒鳴ってきた。


「おいっ!なんとか言ったらどうだ!聞こえていないのか⁉︎」


 その態度にカチーンときたが、落ち着こう、わたしは錬金術師団長……悪ガキの相手をしているひまはない。


「うっさいわね坊や!……わたし達は仕事しに来てるの!変な言いがかりやめてもらえる?」


「なっ!『坊や』だとっ!貴様!俺を誰だと思ってる!」


「礼儀も知らない子ども相手には『坊や』で十分よ!……で、アンタ誰?」


「……っ!」


 赤い髪の生徒は、顔を真っ赤にして絶句した。ユーリは堪えきれず笑いだした。


「あはははっ、師団長にはかないませんね!カディアン、きちんと挨拶しなさい。お前の態度は大変失礼だ」


 カディアン、と呼ばれた生徒はユーリにたしなめられて、渋々……本当に渋々、といった感じで名乗った。


「……カディアン……エクグラシアだ」


 カディアン……エクグラシア……?


 その途端、『赤獅子』の異名を持つ国王陛下の顔が思い浮かんで、目の前の生徒の顔と重なった。


「ああ!あのオッサンの息子ね!」


「オッサン……」


 カディアンは青ざめ、言葉を失っている。


 もしかして、息子が二人居るから嫁に来いって……息子ってこいつかよ!ナイナイ!絶対ナイ!


「ふっ!あははっ!はーすっげぇおかしっ!カディアン……ネリアは偉いんだよ?直属の上司であるアーネスト国王陛下以外には頭を下げる必要がないんだ……それも公式な場でだけだしね。ふだんはオッサン扱いだよね……くくく」


「ええ?わたしそんな傲岸不遜な人間じゃないもん」


 カディアンはわたしとユーリの顔を見比べながら、やり取りを聞いていたが、やがて眉根を寄せてユーリに話しかけた。


「……兄上、こんな女が『師団長』で本当に大丈夫なのか?」


 兄上⁉︎わたしが目を丸くしてユーリを見ると、ユーリは苦笑して謝った。


「ええ、二つ下の弟です……すみません、師団長にとんだご無礼を……」


「ああ、そっかー、同じような赤い髪だもんねー……ん?そうすると、ユーリも王子様?」


「えぇ、まぁ……ふだんは『ユーリ・ドラビス』と名乗ってますし、これからもそれでお願いします」


「これまで通りでいい、って事ね?了解!」


 というか、カディアンが『兄上』と呼ぶんだから、ユーリって本当に成人しているんだね……背丈といい顔つきといい、どうみても兄弟が逆転して見える。まぁ、態度はユーリの方が確かに大人だけど。


 でも良かった、さっきは何だか落ち込んでいたけれど、カディアンが現れて、ユーリもふだんのユーリに戻ったみたいだ。


「ところでカディアン、お前も五年生なんだから今日は『職業体験説明会』に参加するんじゃないのか?」


「俺は、兄上を迎えに来たんだ……今日、来られると聞いたから……」


 カディアンはユーリに話しかけられて、赤くなりながら、嬉しそうにもじもじしている。ユーリに「ありがとう、じゃあ案内を頼むよ」なんて言われて、目を輝かせて一緒に歩きはじめた。


 ん?お兄ちゃん大好きっ子かよ!そかそか、それでさっきはすっ飛んで来たわけね……これは使えるかも。


「弟くんは、『職業体験』どうするか決めてるの?」


「俺は『竜騎士団』志望だ!ドラゴンに乗ると決めている!」


 ユーリが一緒で機嫌がいいのか、カディアンは偉そうな態度は崩さないものの、聞かれたことには素直に答えてくれる。


「なるほど……ねぇねぇ、『体験先』って一ヵ所しか選べないの?」


「そんな事も知らんのか!希望すれば複数受ける事は可能だ。迷っている奴や決めかねている奴だって居るしな。各師団、日程をずらして十日間ずつ取ってある」


「そっかぁ、じゃあ例えば『竜騎士団』希望の学生に、『錬金術師団』を体験してもらうのもアリなんだね……」


「ハッ、『魔術師団』ならともかく、変人の巣窟の『錬金術師団』を体験したがる奴なんて、怖いもの見たさの物好きしか……っと、兄上⁉︎すみませんっ」


「うん、カディアン……よく考えてからしゃべろうね」


「ごめんなさい!兄上……」


「……それと、外では『兄上』じゃなくて『ユーリ』だからね?何度も言ってるだろ」


「はいっ!ユーリ!……気をつけます」


 後ろで見ていると、凸凹な2人のやり取りが凄く面白い。ユーリがちゃんとお兄ちゃんだよ……カディアンもユーリの言う事は素直に聞くんだねぇ。



 説明会場である講堂に着くと、見覚えのある竜騎士が居た。ウレグからシャングリラへ飛ぶ時に、『アマリリス』に乗っていたレインさんだ!見知った顔に嬉しくなる。


「おおお、ネリア嬢!……じゃなかった、ネリス師団長!お久しぶりです!」


「レインさん!竜騎士団から説明会に?ドラゴンも連れて来ているの?」


 レインさんは首を振った。


「ドラゴンを知らない奴なんて居ないからな。俺は具体的な訓練内容やスケジュールを説明しに来ただけだ」


「『竜騎士団』は人気ありそうだね!」


「そうだな!今年の五年生は八名居るんだが、三名が『竜騎士団希望』、五名が『魔術師団希望』だそうだ。『竜騎士団』は訓練に耐えられる体力と風魔法は必須だから……こんなもんだな」


 ちなみに、各師団に実際に入団できるのは毎年一~二名程度、夏季休暇の間に憧れの『職業体験』で王都三師団を体験した後は、秋からの魔道具ギルドなどでの実習を経て、本格的に進路を決定するらしい。


「錬金術師団希望は?……って聞くまでもないか……」


「まぁ、そりゃなぁ……ていうか、ネリア嬢、錬金術師団なんて放っておいて、さっさと団長のヨメになっちまえよ。こないだの休みはいい感じだったんだろ?休み明けの団長、ゴキゲンだったぜえ?」


「だめだよ!ライアスが色々と気にかけてくれるのは、わたしが師団長だからだもの。お仕事をおろそかにする訳にいかないの!」


「ええ?そういう認識?うわぁ、手強い……」


「あ、そーだレインさん!ちょっと頼みがあるんだけど……」


 わたしの頼みをレインさんは、「お安いご用だ」と請け合ってくれる。やった!


 その時、黒いローブの人物が近づいて来て、わたしはギクッとする。学園長に言いたい放題言われた後に、さらにあいつの嫌味を聞くのは心臓に悪い……と思ったのだ。


 けれど、やって来たのは『彼』とは別の人物だった。


 黒いローブを身にまとった美形は、紫色の髪をしていて、わたしににっこりと微笑みかけてくる。


「私からもネリス師団長にご挨拶を……魔術師団副団長のメイナード・バルマと申します。ネリス師団長のお噂はかねがね」


 ……うわぁ、愛想がいいよ。


「?どうかしましたか?」


「いえ……黒いローブの人に罵倒される事もなく、普通に会話できるのがなんだか不思議な感覚で」


 正直にそう答えたら、メイナードさんは「ああ」と納得したような顔をする。


「うちは師団長がアレですからねー。どうしても副団長をしているとフォローに回る事が多々あって」


 ああ……察し。

お兄ちゃん大好きっ子のカディアン君。

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