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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート

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518.ヌーメリアの毒コレクション①

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 艦橋に戻って錬金術師団長用に用意された座席に座りこみ、わたしはユーリが差しだしたココアのカップを受けとった。


 すすると優しい甘さと、ほっこりするショコラの甘い香りがする。


「ううう……生きがえる、ユーリありがどうぅ」


「どういたしまして」


 これだけ大きな船を守った達成感はあるものの、戦闘を間近でみたショックで体の震えが止まらない。


 防壁はあらゆる物理衝撃からもわたしの体を守ってくれるけれど、目や耳から直接流れこむ刺激はどうしようもない。


「ネリアは艦橋で見学でもよかったんですけど……」


 気の毒そうな顔をしたユーリの言葉を、ローラは一蹴した。


「今までこの娘が師団長を務めてこられたのは、グレンが育てた錬金術師たちと、やつが遺した遺産があったからだ。レオ坊に嫁いで終わりってんならそれでもいいけど、師団長を続けて国の代表として外交の場にも立つ気なら、力を出し惜しみせず最大限に使うことだ。今のうちにビシバシ鍛えないとね」


「はい……」


 レオポルドを鍛えただけあって、ローラの指導は厳しい。


 それでも彼女はわたしやレオポルドの将来を、真剣に考えてくれている。


(ちょっとお好み焼き屋の女将さんを思いだすなぁ)


「ふふん、なかなか骨があるじゃないか」


「はいっ、がんばります。まつ子さん!」


「マツコ……?」


 ……それは女将さんの名前だった。ローラはちょっと変な顔をしたけれど、最後にこうつけくわえた。


「だけどもう戦闘には参加しなくていいよ。あんたの能力をぜんぶ見せる必要はない」


「能力って言われても……全部どころか、いっぱいいっぱいなんですけど⁉」


 ローラは肩にかかった白髪を払いながら、ニィっと笑う。


「無いものをさも在るように見せるのは、錬金術師の得意技だろう?」


 話はそれで終わり、彼女の関心は船の計器に向かった。記録されている戦闘の流れを、もういちど眺めておさらいしている。


 真剣な表情で展開される図を見つめる横顔は、キリリとしていてとてもカッコいい。


(あれが前魔術師団長……)


 彼女にしてみれば秘蔵っ子の愛弟子を、得体の知れない女になんて渡したくないだろう。


 グレンの遺したものの後片づけが終わったら、いつでも辞めてライガに乗って飛び立ち、自分の目で世界を見て回るつもりだった。


 今いる場所は仮の宿、本当の故郷に帰れなくなったわたしは、大切な人と出会ったとしても、また別れて旅立つのだと……何となく思ってた。


『きみこそ逃げるなよ』


 そう言ったって、レオポルドは国内に残るんだから。そう思っていたのに。


 いつのまにかレオも加わって、ローラや戦闘員たちと、戦いの流れについて話し合っている。


 消耗の少ない戦いかた、火力の高いレオやローラが動きやすい配置、激しい乱戦になったときの戦闘員の配置、守るべき要所の確認……ひとつの戦闘から得られる貴重なデータは、すべて後方支援で控えるスタッフたちの手により解析され、次の戦闘に生かされていく。


(わたしはまたここで、自分がどうやったら役に立てるか、考えなきゃいけない……)


 何もせず甘えて待っているなんて性に合わない。レオポルドの横に立つと決めたのは、自分自身だから。


 少しだけ冷めたココアに口をつければ、お腹までじんわりと温かい甘さが沁みていく。


「ねぇ、ユーリ。さっきの戦闘はユーリの目から見てどうだった?」


「そうですね、いちばん最初の戦闘よりは動きもよくなったし、だいぶ派手になりましたよね。防壁で船が守られているから、レオもローラも大暴れで」


「うん……」


「とっても目立つと思います。だれが見ても」


「そうだよね」


「僕が間者だったら恐れを抱くでしょうね」


 カップから顔をあげれば、ユーリの赤い瞳とパチリと目が合った。


「つぎにこう考えます。『やつらは何でこんなことができるんだ?』『船が沈むのが怖くないのか?』って。そして目の当たりにするんです、ネリアの三重防壁を」


 何もかもお見通しの賢い王子様に、わたしは眉をさげて意見を聞く。


「……効果あると思う?」


「グレン老が刻んだ術式でしょう?それだけでも興味を持つんじゃないかな……けれどレオは心配でしょうね」


「だから置いてきたかったのに……」


 自分の身を平然と囮にするところなんて見せたくなかった。


 もともとこの世界に存在しない人間、いなくなっても何の問題もない。


 そう思ってることを知ったとき、彼はわたしの前に膝をついたのだ。


『私は何をすればいい』


 そんな……レオポルドに何かを求めたりなんて、しなかったのに。でも無意識のうちに助けを求めて、生きたいと彼にすがりついたのは自分だ。


「港に着けば、動きがあるかな」


「わかりません。けれど何か起こったほうが、ネリアはホッとするのでは?」


「それはそうだね」


 〝星の魔力〟とつながっている限り、グレンのほどこした三重防壁に守られたこの体は無敵だ。どんな攻撃をしかけられたって、対処できる自信がある。


 そのかわり……この身を危険にさらすには、大切な人たちからは距離を置こうと思っていたのに。


 ユーリもヌーメリアも、それぞれが抱えている宿命を持って。リリエラは海の精霊の分身として、何かを見届けるために。わたしに同行してくれる。


 ユーリは赤い髪をくりゃりと握って、ため息をついた。


「もともとは僕が招かれたんであって、ネリアが体を張る必要はないんですよ。レオポルドのためなんでしょうが、無理はしないでください」


「気をつけるよ」


「その『気をつける』が信用ならないんだよなぁ」


 小さな声でつぶやいたせいか、彼は眉をあげてため息をついた。


「まぁ、いいや。ヌーメリアのことですが海にでたせいか、素材集めを熱心にやっています。今もレオに頼んで集めたパラツァの毒袋から、抽出と精製にかかりきりで、毒のコレクションがまた増えてます」


「ふえっ⁉」


 ヌーメリア、何やってんの。ユーリはわたしにコンコンと釘をさしてくる。


「彼女が毒を作るのは防御反応で、ネリアの防壁と同じですよ。何かあったときに自分自身を守るための心の支えです。だから作業は止められません。ネリアに師団長としての判断を、仰ぐような事態になってほしくはないですが……」


「うう、わかった。ちょっとヌーメリアのようすを見に行く」


「お願いします。僕は王太子としての仕事もあるので……」


 艦橋に張りついているユーリは、テルジオたちとともに、ひっきりなしに打ち合わせをしている。


 刻々と入ってくるサルジアや、エクグラシア国内の情勢について、報告を聞くだけでもかなり時間がかかる。


 みんなそれぞれに忙しそうだけれど、それでも航路の安全をレオとローラが受け持っているから、船の乗組員たちはだいぶ楽なのだそうだ。


(それにしても……またヌーメリアの毒コレクションが増えているなんて)


 わたしが研究棟に来る前に、ヌーメリアがどうして過ごしていたかなんて知らないけれど……レオポルドの業火で焼却処分した毒も、彼女がその気になればあっというまに作り直せるだろう。


(ヌーメリアもユーリも、それにレオポルドだってサルジアへの想いをそれぞれ抱えている。それにオドゥも……)


 ココアのカップをきゅっと握りしめて、わたしがため息をついたところで、ユーリが明るい声をだして話題を変えた。


「そうそう。つぎの寄港地の場所を捕捉したんですよ。僕もはじめて行くところだから楽しみだな」


「どんなところ?」


 ユーリの赤い瞳がいたずらっぽく輝く。ワクワクしているような表情だった。


「前に説明したでしょう?眠る要塞、寄港地バハムート。豊かな漁場に囲まれた発展した街ですよ。そこがいつ水に沈むかわからないことを除けば」

バハムートになかなか着かない……。

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