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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第十二章 移動要塞バハムート

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515.機関室へ

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『僕の杖はこれです』


 職業体験にやってきた銀髪の少年は、十六歳とは思えないほど華奢な体格をしていた。少年が差しだした杖は小ぶりで、彼の手にもなじんでいたが、それを見たローラは鼻で笑った。


『坊やはママの杖が手放せないのかい』


『…………』


 塔の魔術師たちをすくみあがらせる、ローラの冷笑を浴びせられても、少年はひるむことなく、無言でにらみつけてくる。


 ぱっちりとした黄昏色の瞳には、どことなく炎の魔女の面影があった。レイメリアの魔石を握りしめた苦い記憶がよみがえり、それを振り払うようにローラは憎まれ口を叩く。


『僕ちゃん、それはあんたの杖じゃないだろう』


 レオポルドは無表情のままで、一人称を変えてきた。


『他の杖も試しましたが、ぼ……私の魔力の調整には、この杖が一番具合がいいのです』


『父親に頼んで作ってもらったらどうだい、自分の杖をさ』


『…………』


 唇をギュッとかみしめたのが、無言の拒絶であったと知ったのはずいぶんあと。





 卒業の直前にチョーカーがはずれ、すっかり大人の体格になったレオポルドが入団してくると、職業体験で接した塔の魔女たちは残念がった。


 もう唇をかみしめていた少年の面影はなく、ただローラに言われたとおり、淡々と修行をこなした。


 ローラの指導は厳しく、展開した魔法陣の陣形にわずかな乱れがあると、厳しくしかりつけて徹底的にしごいた。


 レオポルドは何も言わなかったが、時間ができると竜騎士団にでむき、訓練場で竜騎士たちに交じって汗を流した。


 どうやらそれが彼にとってのストレス発散だったらしく、いつのまにか竜騎士みたいに、アガテリスまで駆るようになった。


 一年かけて強大な魔力に見合うだけの、魔力操作をきちんと体に覚えさせ、広域魔法陣も難なく展開できるようになった弟子に、さっさと師団長の座をゆずると、ローラはようやく肩の荷をおろした気になった。





 ところが師団長としての初仕事となった、モリア山への遠征隊の出発式で、あらわれた錬金術師団長はレオポルドを怒鳴りつけた。


『お前にその杖を与えるのではなかった!』


『…………』


 傷がついてボロボロになったレイメリアの杖を見て、グレンが激昂したとき、ローラの全身も総毛立つ。


 ――ちがう!


 あの杖が傷だらけになるほどの、厳しい修行を課したのはローラだった。


 入団するまでは、レオポルドの杖は綺麗だった。大切に扱っていたのだろう、核として使われているペリドットには傷ひとつなかった。


 父親とはひとことも口を利かず、レオポルドは王城前広場に転移陣を展開し、部隊ごと一瞬でモリア山へと転移した。しばらく騒めきが続くほどの、派手な退場だった。


 グッと拳を握りしめ、それを見送っていた仮面の錬金術師に、ローラは駆け寄って呼びかけた。


『グレン!』


 白い仮面をつけた男が振りかえる。


『ローラか』


『あの杖がボロボロになったのは、あたしのせいだよ。だいぶ無茶な修行をさせたんだ。レオポルドはよくついてきたと思う』


 師団長同士とはいえ、ろくに話したこともない。グレンは吐き捨てるようにつぶやく。


『……だからこその師団長か』


『レイメリアは、あんたがあの子に杖を作ると言った。そしてあたしには、広域魔法陣を教えるよう頼んだ。だから……』


『…………』


『あんたがあの子に杖を作るんだろう?だってあの杖はレイメリアのもので、あの子のものじゃない。いずれ限界がくる』


 それがいつかはわからない。一年先か、それとも十年先か……ただ壊れてしまえば、レオポルド単独で広域魔法陣を展開するのは難しくなるだろう。


 単純な魔術ならともかく、師団長ともなれば杖は魔力の調律と行使にどうしとも必要だった。


『レオポルドはあの杖をとても大切にしていた。手入れだってきちんとして……修復もできる限り自分でやっている。頼むからあの子のために、魔術師の杖を作っておくれ』


 仮面の奥から冷えきった声がした。


『お前の頼みは不要だ』


『グレン!』


『それについてはもう、レイメリアから頼まれている』


 それだけ言って銀の錬金術師は転移して姿を消し、何年たっても杖が作られることはなかった。





 ユーリといっしょに機関室を見学していたわたしは、やってきたレオに向かって手を振る。


「レオ、こっちだよ!」


 うん、ちゃんと自然に彼を呼べた。彼はまっすぐにわたしのところにやってきて、待機の姿勢をとる。


 戦闘を終えてから時間がたっているけど、顔色が白いような気がして、心配になったわたしは彼の顔をのぞきこむ。


「あの、休んだほうがいいんじゃない?」


「これが私の仕事だ。それとも邪魔か?」


「そういうわけじゃないけど……」


 あまり心配しすぎてもよくないかもしれない。わたしは明るい声で彼をねぎらった。


「レオが主だった魔獣を片づけたおかげで、航海がぐっと楽になったみたい。今ね、ヌーメリアが毒をまいたから、しばらくは安全だと思う」


「毒?」


 意外そうな顔をする彼にむかい、わたしは胸を張った。


「第三部隊が持ち帰った素材から、ヌーメリアがコカトリスの毒を抽出して、それを海にバラまいたの。強い魔獣ほどいっぱい毒を取りこんで、石化して海底に沈むはず。錬金術師団だって、ちゃんと役に立つんだから!」


「失礼した」


「それでね、ユーリとも機関室を見学しながら相談したんだけど、定期航路開設にはまず港よね。候補地になりそうな場所を選んで、まずはそこを目指すことにするわ!」


「港を?」


 彼の疑問にはユーリが答えた。


「船の弱点は魔導機関が壊れたら、どうしようもないことなんです。海を漂流するしかありません。船の中で手に入る材料だけで間に合えばいいですが、そうでないときはドッグを備えた船の修理ができる港が必要です」

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