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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる

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51.学園長との対話(ユーリ視点)

今回は、初めてのユーリ視点です。

 シャングリラ魔術学園は、王都の八番街にある。


 ここで十二~十六歳までの少年少女が、魔力の伸びざかりに学び、卒業後は錬金術師や魔術師、竜騎士や魔道具師など魔力を活かした仕事に就く。


 そして夏季休暇を使って最終学年の五年生は、実際に希望する師団で、それぞれ職業体験をすることになっている。


 ユーリは新しく錬金術師団長に就任したネリア・ネリスとともに、学園で行われる職業体験説明会にやってきた。


「十二~十六歳の成長期に、いちばん魔力が伸びるんです。その時期に魔力持ちの子は学園に通い、自分の魔力の性質を見極めて、扱いや制御方法を学ぶんですよ」


 彼の説明を聞きながら、ネリアはもの珍しそうにキョロキョロしている。


「魔術学園……その響きだけでかっこいい。いいなぁ、わたしも通ってみたかった。社会人入学とかないのかしら」


(ネリアはどこで魔術を学んだのだろう?まさか本当にグレンから教わっただけなのだろうか……)


 ユーリはちょっとふしぎに思う。すると建物からでてきた、紺色のローブを着た恰幅のいい人物が、彼らを見つけてにこやかに話しかけてくる。ナード・ダルビス学園長だった。


「やぁ、ユーリ・ドラビス!ひさしぶりだ」


 なつかしい恩師の顔にユーリはうれしくなって、元気よくあいさつした。


「ダルビス学園長!おひさしぶりです」


「元気にやっていたかね?」


「はい、おかげさまで!ダルビス学園長、ご紹介します。こちらが錬金術師団の……」


「ああ、紹介はいらんよ」


「えっ?」


 ユーリが隣に立つネリアを紹介しようすると、学園長は手を振ってその言葉を遮る。彼女に向ける眼差しは、いつも穏やかな彼とは思えないほど、冷たく侮蔑に満ちていた。


「学園の卒業生でもないエセ錬金術師など、名を覚える必要もない。神聖な学府に立ちいることさえ許しがたい」


「それは……でも彼女の実力は本物で!」


 ユーリに最後までしゃべらせず、ダルビス学園長は渋い顔で首を横に振る。


「ユーリ……きみには悪いが、錬金術師団の希望者はゼロだ。優秀な学園生たちを、エセ錬金術師のもとにやるわけにはいかん」


 そう言い捨てて踵を返した彼に、ユーリはあわてて追いすがった。


「待ってください!ダルビス学園長!」


「ユーリ、君が師団長に就任した暁には、あらためて卒業生を推薦しよう。では失礼する」


 振り返った学園長はそっけなく言うと、足早に去っていった。その後ろ姿を見つめてネリアはボソリとつぶやく。


「ねぇ、アイツ燃やしていいかしら?」


「ネリアは攻撃魔法使えないでしょ」


「そうね。でもアルバーンは無理でも、アイツなら燃やせそうな気がするの」


 拳を握りしめる彼女の表情は、仮面でわからない。ユーリは眉を下げた。


「あんな失礼な言われかたをされたら、怒って当然ですけど……困りましたね。ネリアが学園を卒業してないことが、こんなふうに影響するとは……」


「学園長って職業体験を阻止できるの?」


「学生に与えられた権利ですから、彼らが希望すれば叶えられるはずです。けれど学園長に逆らってまで、希望する者がいるかどうか。もういちど学園長に掛けあってみます」


「あっ!ユーリ?」


 ユーリはその場にネリアを残し、学園長の後を追った。一階にある学園長室は、学園時代に優等生だった彼が、よく訪れた場所だ。


 金文字で書かれた金属のプレートに、彼は学生時代に引き戻されたような気がした。


 彼が学園長室のドアをノックすると、すぐに応答がある。


「入りたまえ」


「失礼します」


 学生時代に彼が何度も入った、なつかしい部屋は置かれた小物の位置もそのままで、時を止めたような雰囲気が漂う。


 学生時代のユーリは、この部屋を訪れるのが好きだった。


 穏やかで深い知識を持つ学園長との語らいは、学生たちとはまた違う刺激を彼に与えた。


 学園長もそんなユーリを、将来有望な学生として扱ってくれていた。


「学園長、お話が……」


 当時と同じように窓辺に立ったまま、学園長はユーリを振り向く。その顔に影が差していた。


「ユーリ、きみには失望したよ。きみが学園を卒業して錬金術師団に入るとき、なんと言ったか覚えているか?」


 ユーリは赤い目をまたたかせた。答えようとして、ノドの奥がつまる。まるで石がつまっているみたいに、言葉がなかなかでてこなかった。


「……僕は……『つぎの錬金術師団長になる』と言いました」


 彼がようやく絞りだした言葉に、学園長はうなずく。


「そうだ……きみは魔力もあり、魔術の才能にも優れていた。それなのに魔術師団や竜騎士団を選ばなかったのは、すでにレオポルド・アルバーンやライアス・ゴールディホーンが、頭角を現し活躍していたからだ」


「はい……」


「隠居同然のグレン・ディアレスがいる錬金術師団なら、師団長になれる可能性がある。そう言って若者らしい野心で、きみは錬金術師団を選んだのではなかったかね」


「…………」


 学園長が語る、過去の自分を埋めてやりたい、とユーリは思った。愚かで生意気で、そして傲慢だった。


「あのネリア・ネリスとやらはろくな錬金もせず、防虫剤を作っただけで満足し、高価な稀少素材を使いまくり、かの〝エヴェリグレテリエ〟に菓子など作らせ、王都をふらついて錬金術師団の名で自分の鞄を作らせるなど、好き勝手していると聞く」


「……クオード・カーターがそう言ったのですか?」


 副団長と学園長は親しい。クオードは嘘は言っておらず、真実にちょっぴり悪意ある解釈を混ぜて、悪意のあるウワサを伝えたのだ。


 実際に錬金を行うときの、常識を超えたネリアのやりかたや、魔道具ギルドで交わされた収納鞄の契約内容は、きちんと伝えられていない。


 ただそれをユーリが説明しても、学園長が理解できるとも、彼女に対する認識を改めるとも思えなかった。


 ユーリは信じられない気持ちで、学園長室に立っていた。


 目の前にいる学園長ではない、ユーリが驚いていたのは、自分に対してだった。


 二年前の彼は学園長を、深い洞察力と知識を持った人格者で、教育者だと考えて尊敬していた。


 その相手が狭い世界に生き、自分の物差しでしか物事を見ようとしない人物であることに、成長したユーリは気づいてしまった。


(この男は、ネリアに師団長の座を譲った僕に、勝手に失望している)


 慕っていた恩師の姿は、学園長という人物の一面でしかなく、今のユーリが見ている男もまた彼なのだ。


 気づいてしまった事実が、苦い味でユーリの中に広がっていく。


(僕だって、彼のことをいえたもんじゃない……)


 ユーリはネリアの邪魔はしなかったけれど、積極的に助けもしなかった。あの状況で師団長室にはいり、〝エヴェリグレテリエ〟と契約を交わす彼女を黙って見ていた。


 どこかおもしろがってもいた。


 ユーリとヌーメリアだけが見ている前で、誰も知らないやりかたで、彼女は素材から成分を取りだして見せた。


 ソラに菓子作りを教えながら、「自分の錬金術が誰を幸せにするかちゃんと考えろ」とネリアは彼に語った。


 魔道具ギルドでは自分が得られる利益を投げだして、「錬金術師団のイメージを変えていく。錬金術師たちには自分の好きな研究をしてほしい」と話した。


 収納鞄の術式をギルド長に見せ、この国の物流に関する将来の展望を語ったのだって彼女だった。


 真実を語るウワサは、それらを少しも伝えていない。


(学園長にとって僕はまだ、教え諭して導いてやらねばならぬ子どもなのか……)


 ユーリは下をむいて唇をかむ。どれだけ言葉を尽くして伝えようと、彼が知る彼女の姿を、正しく学園長に伝えられる気がしない。


 ふと、握りしめられたネリアの拳が思い浮かぶ。小さな手は、ユーリのよりもっと細く華奢で……。それを思いだしたとたん、生来の負けん気が頭をもたげた。


(いや、違う。今の僕は錬金術師だ。顔を上げろ!ユーリ・ドラビス!)


「たしかに学生時代の僕は、傲慢で計算高い男でした。王都三師団に入るなら、師団長になれなければイヤでした」


 顔をあげ、学園長をにらみつけるユーリの赤い瞳が、窓から差しこむ陽光で炎のようにゆらめく。


「だが今の僕はネリア・ネリスを、誰よりも師団長にふさわしい、そう思っています!」


 その気迫に学園長は言葉を失い、顔から血の気が引いた。


「僕に失望したとおっしゃる学園長に、これ以上お話することはありません!失礼します!」


「待ちたまえっ!……ユーリっ!」


 学園長室を飛びだし、ユーリは駆けた。靴音が廊下に響く。


 学生のときに彼が校舎内を走ったことなどなかった。


(走るなんてルールも守れない、子どものすることだと思っていた。なのに、今は一刻も早く、彼女に会いたい!)


 走って、走って。息が切れて……それでも。白いローブを着た娘を、ユーリの赤い瞳がとらえた。


 特徴的な錬金術師団のローブにグレンの仮面をつけ、ユーリがさっき置き去りにした場所に、ネリアはまだいた。


 息を切らしながら戻ってきたユーリに、ネリアは驚いた声をだす。


「えっ!何?ちょっと、ユーリ?どうしたの?」


 ユーリは腕を伸ばして、彼女の小柄な体を抱きしめる。


「僕に力があれば……ネリアを守るだけの力があればいいのに」


「ユーリ?学園長に何か言われたの?」


 まだ細い腕にもすっぽりと納まる体は、しっかりと抱きしめても、すぐにでも消えてしまいそうで。


「すみません、ネリア……すみません」


「?わかんないけど、だいじょうぶだよ。ユーリ、なんとかなるから……ね?」


 ネリアを離そうとせず謝り続けるユーリを、彼女はポンポンと背中を軽くたたきながら、戸惑ったように優しくなで続けた。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
テンプレ傲慢学園長、キタ━(゜∀゜)━! これは速攻ザマァの予感! しかし、「噂」の内容には笑う。表面的には何も間違ってない。これは確かに世間知らず弾丸台風娘の所業(笑) そして、ユーリの心に火を…
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