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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十二章 移動要塞バハムート
508/560

508.港を探せ

よろしくお願いします!

 サルジアの魔道具には危険なものもある。わたしは海図を眺めるレオや、テルジオと話すユーリをちらりと見た。


(レオポルドやユーリがつけたチョーカーを、使いたいと考える人はきっとエクグラシアにもいるはず)


 魔術師団長として活躍するレオポルドや、錬金術師として存在感が出てきた王太子、その姿をだれかの親が見たら、親じゃなくても魔力持ちの子を見つけたら……こう考えるかもしれない。


 ――あのチョーカーをつけさせたい。


 サルジアに優れた技術があったとして、それをそのままエクグラシアに持ってくるのは危険だ。でも杖作りにはきっとそれが必要になる。


 それに姿を消したオドゥ、彼はきっとサルジアに向かった。彼はどんな真実にたどりつくだろう。


 それがハッキリしたら、わたしたちはどうすればいい?


(グレンやオドゥのルーツが、あの国にあるのだとしたら。やっぱりレオポルドが来てくれてよかったのかも)


 開けてはいけないパンドラの箱。あっちの世界で科学技術がもたらしたのは人類の発展、けれど同時に滅びへのカウントダウンも加速させた。


 わかっている……星の命にくらべれば、どんな種族も繁栄を謳歌できるのは一瞬だ。


(精霊がもたらす滅び……どんなものか予想もできないけれど……)


 わたしはきゅっと唇をかみしめてから、艦橋で声を張りあげた。


「わたしたちは未来を築くためにサルジアに向かいます。人間同士が戦わなくても済む未来を。サルジアとかエクグラシアとか関係なく、豊かさと幸福を未来の子どもたちに贈るために」


 ザワついていた艦橋が、ピタリと静まり返る。その場にいるひとりひとりの顔を見回し、わたしは言葉を続ける。


「今を生きることが、全員の未来につながると信じています。まずは定期航路開設に取り組みましょう。サルジアに到着するまでにひと仕事片づけます。ユーリ、定期航路開設の障害となる問題点を挙げて」


 振りむくとユーリは赤い髪をかきあげ、緊張したように顔をひきしめる。


「挙げだしたらキリがないですよ」


「うん、わかってる。それでも可能性がゼロでないのなら、実現に向けてチャレンジしたいの」


 わたしの目をじっと見つめ返して、ユーリはあきらめたように息をつくとテルジオに声をかけた。


「僕だけでなく、航海士や魔道具師たちの意見も聞きましょう。手が空いてる者だけでも、この場に集めてくれ」


「かしこまりました」


 走りだした船は順調に航行し、港を出てまだ一アウルほどでも、もう陸地は見えない。艦橋には船長や航海士だけでなく、魔導機関を動かす魔導機関士にも来てもらった。


「ありがとう、機関室からも人を寄越してもらって」


 魔導機関士のエリスは首を横に振り、ピシッと敬礼をしてほほえむ。


「完全にドラゴンの領域を離れたら忙しくなりますが、今はまだだいじょうぶです。それで定期航路の開設ですか……機関士の立場から申しあげますと、船が確保できたとしても利用できる港が必要です」


「港?」


「ハルモニア号は、最新鋭の魔導機関を積んでいます。水上を走る船は、魔導列車よりも動かしやすいですが……もしも魔導機関が壊れたら、修理に使える部品や素材がなければ、動力を失った船は漂流してしまいます」


「船ごと漂流することになるのね。魔導機関ってそんなによく壊れるものなの」


「ええ」


 あっさりうなずき、エリスは苦笑した。


「思いがけないトラブルなんて、しょっちゅうです。航行中に魔導機関が故障したら、あるもので修理して陸にたどり着かなければお手上げです。港に寄るのは食料や水の確保だけでなく、ドッグで船の修理や手入れをするためです」


「タクラのような設備がある港はどれぐらいなの?」


 航海士のジャグが海図の魔法陣を操作すると、青い点が三つ光った。


「大きな港湾設備を持つ場所は三つ、タクラ、ガルコ、そしてサルジアのレトリス。ガルコの港が使えれば定期航路には便利ですが……」


 ジャグが言葉を濁したので、わたしは首をかしげた。


「何か問題が?」


「その港を支配しているのは海賊です。国家を相手にするのとは違い、利用するにも積み荷の何割か要求されますし、交渉も気分次第で足元を見て吹っかけてきます」


「海賊⁉」


 ちょっと想像がつかないけれど、航行する船を狙う海賊は多いらしい。


「制圧しようにもガルコの海域は群島になっており、海岸線も複雑で入り江も多い。目立たないよう船を隠せますし島にも潜める。まともに戦えばやっかいなんですよ」


「うわ……」


 海賊が支配する港なんて聞くだけでもビビる。武装した勢力による自治領みたいなものかな。


「船同士の連絡はどうやってるの?」


「魔道具でたがいを検知するか、魔力持ちがいればエンツでやりとりを。ただし未知の相手には送れません。あとは通信用魔道具を使います」


 船長が取りだして見せてくれた魔道具には見覚えがあった。


「あ、ウレグ駅で見たことある。鳥みたいに飛んでいくんだよね」


「これも実はサルジア産なんですよ。エクグラシアではエンツが主流なので……わりとふっかけられてます」


「けっこう手探りの航海なんだね……」


 わたしのそばに控えて、黙っていたレオが口を挟んだ。


「竜王が守護するエクグラシアは、風の精霊による影響が強い。だからエンツは広範囲に届くが……よそに行っても同じだと思わないほうがいい」


「なるほど」


 なにか航海の助けになるものも、あったほうがよさそうだ。ぼそりとレオが言う。


「ひと昔の船は帆を張り、魔術師が風を喚んで走らせていた。そのころにくらべれば進化したのだがな」


「船乗りの魔術師かぁ……よく日に焼けてそうだね!」


 ふふっと笑ってレオに返事をすれば、彼は微妙な表情でわたしを見下ろした。


「まじめな話をしていたかと思えば、でてくる感想がそれか」


「それとは何ですか、それとは」


 むっとして言い返せば、彼は口の端をおかしそうに持ちあげた。一瞬だけ頭の中で勝手に、セーラーカラーを着て手旗信号を送るレオポルドを想像したことは、本人には黙っていよう。


 ユーリは海図をにらみつけて、難しい顔をしている。


「ライガが使えれば陸地との連絡もつけやすくなります。このためにも開発を進めたいですね」


「そうだね」


 魔道具好きな王子様は、マウナカイアにいたときみたいに、船でもライガを組み立てだしそうだ。


 航海士のジャグがガルコまでの距離を計算した。


「海賊の領域まではまだ十日ほどかかります。あともうひとつ候補地はあるんですが……」


「候補地?」


 ジャグは言いにくそうに、わたしたちへ告げる。


「……バハムートです」


「あの移動要塞か」


「レオ知ってるの?」


「海流に乗って移動する巨大な浮き島だ。ガルコの海賊よりもさらに強い」


 海賊の強さのレベルがわかんない……。ユーリが赤い髪を指でクシャッとしてため息をついた。


「まずはドラゴンの領域をでてからの、海の魔物たちとの戦いですね」


 それを聞いて機関士のエリスが立ちあがった。


「では私は持ち場に戻ります。ぜひ魔導機関も見学にいらしてください」


「ありがとうございます、おじゃまします!」


 あいさつをしてエリスを見送ると、レオも立ちあがって手袋をはめる。


「レオはどこか行くの?」


「聞いていなかったのか?」


 黒曜石の瞳がまっすぐに向けられて、その強い眼差しに心がざわりとするけれど、平静を装ってわたしは彼に問いかける。


「何を?」


「ドラゴンの領域を出れば、竜王の守護はなくなる……海の魔物たちと戦闘開始だ」


「もし戦いがはじまったら、わたしは何をすれば?」


「マイレディ、きみに何かできるとしたら……船からは決してでないこと。それから三重防壁を忘れずに」


 そう言うと彼は薄く笑った。

時間を見つけて小説を書けるというのは楽しいですね。

いつもキャラクターたちと一緒にワタワタしてます。

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Teardrop
― 新着の感想 ―
[一言] うーむ。レオポルドがキャラ崩壊ぎみにデレてる……
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