506.ネリアの困惑
「レオネリの絡みもドンドンあってほしい」とマシュマロでメッセージを頂きました!
8巻はふたりのエンツでの会話シーンを増やしました。
誤字報告や感想もありがとうございます。
背は高くてよく通る低い声、まっすぐな黒髪に黒曜石の瞳。竜騎士のレオはわたしが知る人物にとてもよく似ていて、けれど着ているのはローブではなく、紺地に銀のラインが入った騎士服だった。
ハルモニア号でわたしは、護衛騎士となったレオと向かいあう。
「あの……」
「はい」
彼はかすかに口の端を持ちあげてほほえむ。わかってる、大頬骨筋を持ちあげているだけってことは。
瞳の色がちがうだけで、髪の色がちがうだけで、それに騎士服を着ているだけなのに、もうレオポルドとは呼べない。
「レオはなぜ、わたしの護衛騎士に?」
さらりとした黒髪が吹きつける風に舞い、整った目鼻立ちの中でも黒曜石のような輝きを放つ瞳が、まっすぐにわたしを見つめた。
「カーター副団長からの推薦です。それに父の故郷でもあるサルジアを、この目で見ておきたい」
「副団長の推薦なんだ……」
言っていることはウソじゃないのだろう。彼はドラゴンにも乗れるし、剣も扱える。それに魔法だって得意だ。対抗戦をきっかけに、たびたび塔にいくようになった副団長と、護衛騎士の話になったのかも。
それにレオが護衛騎士として同行することは、ライアスやローラ・ラーラも知っていた。わたしはすぐそばにいるユーリを振りむく。
「ユーリは知ってた?」
「いいえ」
首を横に振ったユーリは、わたしよりも前に進みでた。
「レオ、ひとつ確認したいことがある」
「……どうぞ」
「今回サルジアに招待されたのは僕で、ネリアは師団長として同行する。きみはあくまで護衛騎士で、公の場で彼女をエスコートするのは、僕になるけどいいのか?」
問いかけるユーリの横顔が緊張している。わたしも最初のころ、彼と話すのは緊張したものね。がんばれ、ユーリ!
心の中でグッと拳を握ってユーリを応援していると、レオはうなずいて落ち着いた低い声で返事をする。
「おふたりの安全は、この身にかけてお約束を」
「それは頼もしいね」
きっぱりと言い切ったレオと、少しにらみ合うようにしてから、ユーリはわたしを振り返って苦笑する。
「僕もまさか彼がここまでやるとは思いませんでした」
「え?」
ユーリは赤い色に戻した髪を、くしゃっと握りしめて遠い目をした。
「あなたの婚約者ですよ。何よりも職務を優先すると思っていた。この人選は彼の意向でしょう。信用できる人物をあなたのそばに置きたいみたいだ」
「え……そんなに心配かけたのかな?」
だからってどう見ても、この竜騎士は彼本人じゃないですか!
「どうやらそういうことみたいです。自覚なしですか?」
「引きかえすなら、まだ間に合うよね?」
わたしはチラッと彼を見あげて確認する。
「ええとレオ……ナルドさん、エクグラシアでのお仕事はどうするつもり?」
「部下が何人かいますが、みな優秀です。留守を任せても問題ありません」
「ぜったい部下の人は困っていると思います!」
「さて?」
塔にいるバルマ副団長やマリス女史の、困り果てた顔が目に浮かぶ。師団長が仕事ほっぽりだしてどうすんのよ!
けれど竜騎士のレオは無言のまま、薄くほほえむだけだ。大頬骨筋を持ちあげているだけだってのはわかっている。
「あなたなら今からでも、転移して戻れるのでは?」
彼は不思議だとでもいうように首を傾げた。
「できますが、お断りします」
「ユーリ……」
わたしが困ってユーリを見ると、彼はいたずらっぽく赤い瞳を輝かせた。
「ネリア、気持ちはすごくよくわかりますが、彼ほど戦力としても頼もしい人物はいませんよ」
「いいっ⁉」
そのままユーリはおかしそうにフッと笑い、黒髪の竜騎士をちろんと眺める。
「むしろあれだけ挑発したのに、岸壁でのんびり見送るわけないでしょう、彼の性格からいって」
「…………」
なんか王太子と護衛騎士のあいだで、バチバチと火花が散る。ちょっと待って。あんたたち港でやんちゃしただけじゃ、まだ足りないの⁉
だれか……だれかコイツに何か言ってやってください!
キョロキョロとまわりを見回すと、わたしと目が合ったローラが肩をすくめた。
「あたしはうまい茶が飲めればそれでいい」
「お淹れします」
「ん」
わたしの秘書として乗りこんでいるリリエラは、海風に吹かれながら物憂げに返事をする。
「あたしも~退屈しないなら何でもいい」
「あ、あの……」
ヌーメリアがそっと手をあげた。
「王都ではヴェリガンがとてもお世話になって……私たち魔術師をメラゴの根で襲ったり、ヘリックスで踏んだりしたのに……」
「対抗戦は全力勝負ですから、お気になさらず」
にっこりと笑っているけれど怖いから!
サルジアでは何があるかわからないし、エクグラシアの守りだって手薄になる。影武者を立てて、あくまで竜騎士として参加しているけれど……。
ユーリがテルジオに合図を送る。
「ネリア、とりあえず動きやすい服に着がえましょう。あと一アウルも進めばドラゴンの領域を離れて外洋にでます。マウナカイアと違い、穏やかな海ではありません。大型の魔物がでてきます」
「うん。海を越えるのも大変なんだよね」
わたしは大きく息を吐いた。
「ええと……レオ、同行は認めるけれど、特別扱いはしない。いい?」
「はい」
カチリと目が合う、黒曜石の瞳はあくまで他人、護衛騎士の眼差しで。だからわたしも背を向けて、彼を意識から締めだした。ユーリが彼に声をかける。
「レオ、お前の腕前を見せてくれ」
「……承知」
すっと頭をさげて、彼は転移して姿を消した。
「ネリス師団長とヌーメリアは、あたしたちといっしょに艦橋へ移動するよ」
「はい。ローラさん、よろしくお願いします」
「あたしはここでいい」
リリエラはのんびりと言った。
「でも揺れるし、危ないよ」
海に溶けてしまいそうな藍色の髪をなびかせ、リリエラは艶然とほほえんだ。
「海にきて〝海の魔女〟を心配するのは、あんたぐらいのもんだよ、ネリア」
ネリアよりまわりの方が受けいれるの早かった。
投票数29、アンケートにご協力ありがとうございました!
1.ネリア 5
2.レオポルド 16
3.オドゥ 6
4.その他 2
レオポルド強し!
この結果から、8巻はレオポルドでスタート→ネリアと書き進めました。
オドゥのシーンもがっつり加筆してあります。









