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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
カーター副団長一家のリコリス温泉旅行
503/560

503.温泉ゴーレム

風邪をひきました。皆様も体調崩されませんように。

カーター副団長一家のお話はこれでおしまいです。そろそろネリアに戻ります。

 カーター副団長は渋い顔をした。


「しかし私は身体強化など使えんぞ」


 体に巡る魔素で筋肉を強化し、力やスピードを上げる。うまくやれば鍛錬を効率的に行えるし、体が受けるダメージも減る。


 鍛えるどころか最近の副団長は、腹回りも気になりだした。これも料理のついでに味見をするからいけない。


 竜騎士などは呼吸をするように、サラッと自然に身体強化を身につけている。だがオーランドは首を横に振る。


「魔素など使わずとも、筋肉に負荷をかければ鍛えられます。まずは初心者でもムリのない、鍛錬メニューを考えましょう」


「ちょっと待て。私は温泉の魔素を利用する方法をだな……」


「では副団長が考えておられるあいだに、こちらは鍛錬メニューを組み立てておきます」


 筋肉は裏切らない。それに筋肉を見れば鍛えたくなる。そして鍛えあげた筋肉は美しい!


 筋トレをやる気がない副団長のために、オーランドは謎の三段活用で副団長向けのメニューを考えはじめた。


 ときおり副団長のプヨりかけた腹に目をやり、口の端をフッと持ちあげて楽しそうにしている。


 入浴中なのに顔色を悪くして、首をブンブン横に振るカディアンを見ると、副団長も嫌な予感しかしない。


 中途採用とはいえ、王城勤務も十五年以上、副団長の野生とも言うべきカンがここで働いた。


「待てえぇい、鍛錬は後回しだ。思いついたぞ!」


 クワッとオーランドが青い目を見ひらいた。


「む……何を思いつかれたのです」


「温泉から湧く魔素を、魔石のように結晶化すればいい。それならば動力源として使える」


「ですが……ヌーメリアの父君も魔石化には成功しておりません」


 オーランドの指摘に、カーター副団長は重々しくうなずいた。


「その通りだ。だから固めてしまわず、魔導回路の中を常に魔素が巡るように結晶構造を構築し、自走式温泉ゴーレムを作る」


 いうが早いか、副団長は魔法陣を展開した。鉱石の結晶を育てたときとくらべれば、温泉に含まれる微量の鉱物を集めるほうがたやすかった。


 とはいえ魔導回路を築きつつ、魔素が巡るゴーレムを形成するのは、副団長にとっても繊細な作業で骨が折れる。少しだけ弱気になり、一番弟子の顔を思い浮かべた。


(ここにオドゥがいれば……)


 副団長よりももっと器用に、ゴーレムを作ったかもしれない。それでもピョコピョコと動くゴーレムを手にした副団長は、額ににじむ汗を拳でぬぐい、ザバリと音をさせて温泉から立ちあがる。


「魔石をはめるくぼみ、あれをゴーレム用に改造する。魔素が減ればゴーレムたちは自分で温泉にやってきて、魔素を補充したら魔道具に帰る。そうと決まれば採寸をせねば!」


 そのままズダダダと山荘に駆けこんでいき……しばらくしてアナとメレッタのすさまじい悲鳴が聞こえた。


 ついで温泉の上に転送魔法陣が展開し、そこからポイっと素っ裸のカーター副団長が投げ落とされると、バシャーンと大きく飛沫があがり、エンツでメレッタの大声が降ってくる。


「お父さんのバカ!変態!もう帰ってこないで!」


 ただ副団長自身は気絶して、ゴーレムを抱いたまま目を回し、プカ~と温泉に浮かんでいたので、メレッタの声が聞こえていたかはわからない。


 思いっきり湯をかぶったカディアンは、岩にしがみついたまま副団長を尊敬の眼差しで見つめている。


「クオードさんすごい……俺、メレッタとアナさんがいるところに、全裸でなんて飛びこめない……」


「カディアン殿下、副団長は何も考えていなかっただけです」


 冷静に指摘したオーランドが、温泉から副団長をひっぱりだし、カディアンはピョコピョコ動く温泉ゴーレムを手にとった。


「けっこうコイツかわいいかも。服を着たら図書室の奥にある魔道具を採寸しよう」





 温泉でのぼせ、メレッタの転送魔法陣で目を回した副団長のかわりに、それからはカディアンが指揮をとった。


 彼がデザインしたゴーレムポケットに、温泉ゴーレムたちがトコトコと歩いていき、ピタリとはまると留め具がカチリとかかる。


 それがなんとなく布団をかぶって、ゴーレムたちが寝ているように見え、かわいいもの好きなアナが目を輝かせた。


「まぁ、かわいい!ゴーレムに服を作ってもいいかしら?」


 ソファーで伸びている副団長がうめき声をあげる。


「やめろ……どうせ温泉につかるのだ。服など着せても濡れる」


「あら、残念ねぇ。でもリコリス温泉の名物になるかも。ゴーレムサブレとか作ったらどう?」


「おお、それは名案ですね」


 ゴーレムたちがスヤスヤ休んでいるあいだに、魔道具は気圧や気温、湿度などの測定を終えて気象の予測を弾きだす。


 魔素が減ってくれば、温泉ゴーレムは自分でポケットから抜けだして、トコトコ歩いて温泉につかりにいく。


 ゴーレムたちが場所をゆずりあって、湯気のなか並んで温泉につかるさまは何となくかわいい。


 そして魔素を補充するとまた山荘に戻っていくのだ。


「かわいいわねぇ、見ていてちっとも飽きないわ」


「お母さんてば……それでいいの?」


 トコトコ歩く温泉ゴーレムを見守っていたアナに、メレッタが唇をとがらせた。


「あら、何が?」


「結局、お父さんたら仕事ばっかりじゃない」


「そうね、でも楽しいわよ。王都にいるよりずうっとね」


 アナはふふふと楽しそうに笑って、レース編みを取りだした。


「そのレース編み……」


 さっそく目を留めたカディアンに、アナはパッと顔を輝かせる。


「あら、気がついた?」


「すごく編み目が細かい……針と糸は何を?」


 赤い瞳をキラキラと輝かせて質問するカディアンに、アナはちょっと得意そうに説明する。


「私も新しいことに挑戦したくなったの。シルクの糸はとてもキレイに染まるから、それを使って今までより細かいレース編みをやろうかなって」


「たしかに繊細なレース編みなのに、発色がいいから目に飛びこんでくる。かわいいのに、とても力強い!」


「でしょう!」


 盛りあがるふたりの会話に、メレッタはついていけない。カディアンはそんなメレッタの気持ちには気づかず、うれしそうに彼女へ話しかけた。


「俺、本当についてきてよかった。鍛錬も課題も、錬金術の修行も大変だけど……すごく癒される。温泉旅行って楽しいな!」


 それを聞いたメレッタは微妙な顔をした。


「私、あんまり楽しくないかも」


 それだけ言ってメレッタは、トコトコ歩く温泉ゴーレムをツン、とつついて倒す。


「ええっ」


 こてりと倒れた温泉ゴーレムは、またすぐに起きあがって歩きだし、メレッタはそれを横目で見ながら冷めた口調で言った。


「カディアンもそんなに話が合うんなら、お母さんと結婚すれば?」


「はっ、えっ、何で?俺がアナさんと?」


「知らないっ」


 オロオロするカディアンからプイっと顔をそむけ、メレッタはスタスタと部屋を出ていってしまう。


「あらあら」


 アナが困ったように首をかしげれば、ソファーで伸びている副団長をあおいでいたリョークが感心したように言う。


「青春だなぁ」


「青春ねぇ」


 カディアンはくるりとふたりをふり向き、必死に迫った。


「メレッタとどうやったら仲直りできるか、教えてください!」


「いや、俺ひとり身だし。参考になんねぇよ」


「あせらなくても、帰るまでに仲直りすればいいわよ」


 リョークは気まずげにポリポリと頭をかくし、アナはオーランドに淹れてもらったお茶で、ゆったりとくつろいでいる。


「帰るまでじゃ、遅いんで!」


 王都を離れての温泉旅行、おたがいにフリーだったマウナカイアとちがい、少しは期待していた。


 あんなことやこんなことをメレッタと……できなくてもいいから、せめて今までよりも仲良くなりたい。


「そう言われてもねぇ……」


 アナはメレッタと同じ紫の目をまたたかせた。マウナカイアのときより、ふたりの距離はぐっと縮まっている。その証拠にリコリスでは、メレッタのほうがカディアンを見ていた。


(カディアンはそれどころじゃなかったろうけど……)


 ただそれを教えるのはやめにして、アナはふたたびレース編みの針を手に取る。


 小さな花をたくさん編んで、卒業パーティーで着るドレスを飾りたい。きっとカディアンがステキなデザインを考えてくれるだろう。


 春がくるのを心待ちにしながら、アナは温泉旅行を楽しんでいた。

転送魔法陣と転移魔法陣は違っていて、転送魔法陣は物を送るのに使うものなので、扱いが乱暴というか『放りだす』に近いです。

ケースが充電器になったワイヤレスイヤホン、ありますよね。家族がよく「イヤホンがない」「充電器どこだっけ」と探すのです。そこで自分で充電(?)しに行ってくれる湯ノ花ゴーレムを思いつきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今ではカーター副団長が一番のお気に入りです。
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