491.家族旅行
ちょっと短めですが、よろしくお願いします。
「あなた、そろそろ休憩したらどうかしら」
アナがのんびり話しかけても、錬金術師団のクオード・カーター副団長は、自分の弟子になったばかりのカディアンをにらみつけている。
「まだだ。〝お掃除君〟ひとつ修理できんようでは、私の弟子といえん!」
「ひぃ!」
王子様は魔道具修理など覚えなくてもいい……というのは、カーター副団長には通用しない。すくみあがるカディアンに、アナはのんびりと謝った。
「ごめんなさいねぇ、この人ったらホント仕事熱心なのね。やりすぎないように注意してくれていいわよ」
「は、はひ……」
カディアンがどうやって副団長を注意するというのだろう……。けれどお掃除君が壊れたときに直してくれるのはありがたい。
カディアンは涙と鼻水を両方垂らしそうになっているが、メレッタはノートと教科書を広げて紫の瞳をキラキラと輝かせていた。
「オーランドさんの説明ってホント分かりやすいわ。学園の宿題まで見てもらえるなんて助かっちゃう!」
「メレッタさんはよく話を聞いてくださいますから、こちらこそ教えがいがあります。学生に戻ったような気分で私も楽しいですよ」
銀縁眼鏡のつるをクイッと持ちあげ、王城きっての武闘派文官オーランドは、弟並みのさわやかな笑顔でキラリと白い歯を見せた。
王子様が大好きなアナも、竜騎士団長ライアスがそのまま銀縁眼鏡をかけたような、オーランドにはつい見惚れてしまう。それに早起きすればオーランドとカディアンが鍛錬で汗を流すところが、毎朝見られて眼福なのである。楽しくってしかたない。だから彼女はウッキウキだ。
「ありがたいわねぇ、私だともうメレッタに質問されても、答えられなくって」
「うっ、うっ、オーランド……俺には優しくないのに」
カディアンがべそをかいたところで、クオードにビシッと注意された。
「カディアン、よそ見をするな。入団したら即戦力。どんどん仕事を任せるからな!」
「はひぃ……」
妻のアナがウキウキとゴキゲンなので、クオードも何のかんのいって機嫌がいい。自然とカディアンの指導に熱がこもる。そのとばっちりがカディアンにきていた。
「何だかカディアンかわいそうね……」
婚約者のメレッタが紫の瞳で心配そうにカディアンを見た。かわいい……カディアンの胸が弾んだところで、オーランドがすっと割って入る。
「メレッタさんが気にされることはありませんよ。さぁ、続けて魔導回路の並列についてやってしまいましょう。〝魔導回路の基本〟五十二ページを開いて」
「やった!複雑で苦手だったとこなの。卒業試験にも必ず出るでしょう?」
メレッタがオーランドを見上げれば、彼は力強くうなずいた。
「そうですね。そのぶんマスターしておけば、確実に点がとれますよ」
「うれしい!オーランドさん、よろしくお願いします!」
それっきりメレッタはカディアンのほうを見なくなった。オーランドの説明を聴きながら、熱心にノートを取っている姿は、いじらしくて応援したいと思う。けれど何となくさびしい。カディアンは気落ちしたが、アナはニコニコしている。
「ありがたいわねぇ。メレッタが王子様と婚約してくれて、ホントによかったわ」
(アナさんが喜んでくれるなら、まぁいいか……)
カディアンは鼻をスンッとすすって気をとりなおし、お掃除君を持ちあげた。
副団長「ふはははは!このまま主役を乗っとってくれるわ!」
アナ「あなたったら、張り切ると腰を痛めるわよ?」












