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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
番外編

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490/561

490.竜騎士レオ

なんとマッグガーデン様よりコミカライズ決定しました!

WEBコミックMAGKAN様にて月刊連載、単行本は書店に並びます!

皆様の応援に本当に感謝です!!!

「それがジェイさん?」


「職業体験で塔にやってきたこいつは、まだほんのチビだった。魔力の制御に苦労していて、護符で固めなければ、まともに生活もできなかった。だが入団してきたときには、すでに化け物だった」


「化け物……」


 はじめて会った時、レオポルドもわたしのことを『化け物』と呼んだ。ふり向いたジェイが自分の手をひらくと、そこからきれいな魔法陣の陣形がふわりと浮かぶ。


「こいつに広域魔法陣を教えたのは俺だ」


 天候すら操る広域魔法陣をレオポルドに教えたのは、師団長のローラではなくジェイだという。


「魔力の強さ、それを制御する力、術式を構築するスピード……どれが欠けても成り立たない。魔力の強さはこいつが上だが、塔での経験は俺のほうが勝っていた」


「じゃあジェイさんには、ずいぶんとお世話になったじゃない」


 そのわりに偉そうなレオポルドに文句を言うと、彼は無表情に首をかしげた。


「あれは世話になったというか……」


「まぁ、ちがうな。俺は単に自分の力を見せつけようとしただけだ。その時点で俺も冷静じゃなかった。自分より下だと思っていた相手が、脅威となって立ちはだかる。このままでは師団長になれないという焦りがあった。ローラ・ラーラもお前を可愛がったしな」


「…………」


「レオポルドはジェイさんのこと意識してた?」


 精霊のように超然として見える彼は、少し昔を思いだすように遠くを見た。まばたきで薄紫の瞳は複雑に色を変える。


「いいや。今なら私にもジェイの気持ちが分かるが……当時はローラの指導についていくだけで必死だった」


「だれだって負けたくない。だから自分に有利な条件で勝負を持ちかけた。師団長たちが魔力を捧げる竜王神事に倣い、魔力勝負をした。容赦なく叩きのめすつもりでな。結局、叩きのめされたのは俺だ」


「それはちがう。あれの勝負はついていない」


 レオポルドはわずかに眉を寄せて、ジェイの言葉を否定した。


「どういうこと?」


「たがいの魔力圧に耐えながら、魔法陣を維持するのは集中力を要する。神経をすり減らす勝負でジェイの陣形がほころび、端から崩れていった。その時点で続行不可能になった」


 淡々と語るレオポルドに、黒髪の元魔術師は吐き捨てるように言う。


「俺のほうが実力は上だった」


「ああ」


 静かに彼の言葉にうなずくレオポルドを、ジェイは意外そうに振りかえる。


「否定しないんだな」


「魔術師としての力は、実戦経験もあるジェイのほうが、まちがいなく上だった。学園時代は己の魔力に振り回され、いつもギリギリで耐え抜いた。とっさに魔力の制御が狂わなかったのはそのためだ」


 ジェイは肩をすくめた。


「……結果がすべてだ。自分のミスに動揺した俺の術式は崩れ、情けないことに魔力暴走をひき起こした。しょせん師団長の器じゃなかったんだ。数ヵ月療養して……そのまま復帰せず、俺は塔を辞めた」


「それがなぜピュラル農家に?」


 わたしの質問にジェイはようやくニヤリと笑った。


「俺は食事をする気力も失って、ただ医局のベッドで寝ていた。ピュラルだけが食えたんだ。もう一生これだけ食って過ごそうと思ったら、栽培するのがてっとり早いだろ」


「なるほど」


 わたしはピュラルの実を眺める。野生のものとちがい、きちんと手をかけて育てられた果物は、ジェイが真面目に取り組んだ結果だろう。


「それに塔でさんざん努力して、それでもうまくいかなかった。まったく違うことをやりたくなった。世話になったローラには悪いが、俺は今の生活が気にいっているし、塔に戻る気はない」


 それまで黙って話を聞いていたライアスが声をあげた。


「待ってくれ。たしかにレオポルドたちは、ようすを見て来てくれとローラ・ラーラに頼まれはしたが、きみを塔に呼び戻せとは言われていない」


「……俺は魔術師団というものをよく知っている。師団長が何の目的もなく動くことはない。それはローラにもレオポルドにも言えることだ」


「レオポルド、そうなのか?」


「…………」


 ライアスの確かめるような問いかけにも、レオポルドは無言のままだった。ジェイは先に立つと今来た道を戻りはじめた。


「すくなくともこいつは、ローラ・ラーラの意図を理解しているはずだ。俺がそれに乗りたくないってのもな」


「ローラ・ラーラの意図?」


 ジェイのいうことがわからず首をかしげると、彼は困ったように笑った。


「俺の口からは、ちょっとな。こんな土地だからモイラは客をもてなすのが好きだ。メシを食ったら帰ってくれ」


 家に戻るとそのまま、海に面したバルコニーに通される。モイラは山積みになったピュラルの実を指さした。


「ドラゴンたちにピュラルの実をあげてもいいかしら?」


「かまいません。ありがとうございます、レディ」


 ライアスがさわやかな笑顔を見せると、照れたモイラは恥ずかしそうに、両手で自分のほほを押さえた。


「やだ、レディなんてガラじゃないわよ。うれしいわ、ドラゴンにピュラルを食べさせたなんて、実家の父さんに自慢できるわね」


「お父さん?」


「父もピュラル農家なの。父が経営している果樹園に、ジェイが『栽培法を教えてほしい』と訪ねてきたのよ。それが縁で結婚したの」


 そういってモイラはピュラルの実を、パカッと開いたミストレイやアガテリスの口に放りこんでは、きゃっきゃと無邪気に喜んでいる。


「……女性の好みもだいぶ変わったのだな」


 とんでもないことを言いはなつレオポルドに、ジェイの顔色が変わった。


「おまっ、ここで塔時代の話を、ひと言でも話したらぶっ殺すぞ」


「話す気はないが、今のお前では殺せまい」


「聞こえてるわよ、ジェイ」


 そのひと言でジェイを黙らせたモイラは、わたしにウィンクして大きなスープ鍋から、湯気を立てるキルシュを器に注いだ。


「ごめんなさいね、ジェイったら口が悪くて。でも天気がいいし、日当たりのいいベランダで食事ができるよう、彼が寒さ対策の結界を張ったのよ」


「たしかに……ひなたぼっこしているみたいにポカポカです!」


「でしょう。私たち仕事が終わると夕方は、いつもここでぼんやり海を眺めるの。ジェイはここからの景色が大好きだから、みなさんにも見てもらいたいだろうと思って」


「そう言われたら俺がまるで、のんびりしたヤツみたいだろ」


 不思議だけどジェイもモイラの前では、すねた子どもみたいになる。


 ムンチョのから揚げにピュラルの汁を絞って食べ、ピュラルの輪切りを漬けた、温かいスパイス入りのホットクマルはまろやかで、わたしたちは話し好きなモイラと、王都やタクラの話をしながらなごやかに食事をした。


 めいめいの皿がカラになり、魔力持ちの食事らしく浄化の魔法を使って皿をきれいにしたあと、レオポルドはおもむろに話を切りだした。


「術式を構築し、己の魔力を極限まで高めていく……そんな塔での暮らしとはまったく違う。ここに根を下ろし、果樹園を守っていきたいという意志は理解した。だがそれを曲げてもジェイ、お前に助力を乞いたい」


 苦い顔をしたジェイは目をつぶり、大きく息を吐きだした。


「やっぱりそう来たか。いいか、俺はここで果樹園を守るという……」


「ジェイ、行ってらっしゃいよ」


 彼の言葉を途中でさえぎったモイラは続けた。


「やり残したことがあるんでしょ、魔術師として。師団長自ら訪ねてくるなんて、あなたも感じるものがあったはずよ。果樹園は実家に連絡して手伝いを寄越してもらうわ」


「モイラ……」


「ジェイ、頼む」


 レオポルドが頭を下げて、モイラへ言い返そうとしていたジェイは凍りついた。顔をゆがませ、握った拳を震わせると、テーブルをドンと叩く。


「あのクソババァ……お前が頭を下げたら俺は断らない、そう見越してやがったな」


「ジェイ」


 たったひと言、レオポルドは呼びかけただけだった。それをギロリとにらみ返してジェイは続ける。


「レオポルド、塔で過ごしていた頃の俺は、ホントの俺じゃなかった。『そうありたい』と思い描いていた理想の姿ではあったが……力も才能も何もかも失った俺に残されたものは、唯一……ホントの俺自身だけだった」


「ああ、理解できる」


「……錬金術師団長」


「はいっ!」


 突然呼びかけられたわたしが背筋を伸ばすと、ジェイはさっきまでとは打って変わって、キビキビとした調子で話しだす。


「ヴェリガンと緑の魔女をここに寄越してくれ。数日で引継ぎを終えたら、タクラに出頭する。それでいいな?」


「は、はいっ!」


 そこでようやくわたしは気がついた。


(この人、レオポルドに似ているんだ……)


 魔力を使う時のクセや、厳しい顔をした時の目の光……瓜二つというほどではないけれど、何となく思い起こさせる。


 そんなことを考えていると、ザッとレオポルドが立ちあがり、ライアスもそれに倣った。


「では用は済んだ。モイラのもてなしに礼を言う。タクラに戻り、ラーラに報告する」


「私からも礼を。ミストレイやアガテリスもピュラルの実に満足したようだ」


「あっ、わたしもごちそうさまでした。ピュラルかきも楽しかったです!」


 ほほえんで聞いていたモイラは、最後に慌ててあいさつしたわたしのセリフに目を丸くした。


「あなたったら、師団長にそんなことやらせたの?」


「やるとは思わなかったんだよ」


 むすっと答えて、ジェイはわたしの顔をじっと眺めた。


「ようやくわかってきたぞ。そもそもあんたが災厄の原因だな」


「わたし⁉」


 ジェイの言うことがさっぱりわからない。けれどレオポルドは彼にうなずいた。


「理解が早くて助かる」


 何で⁉


 その後タクラに戻ったわたしたちは、ローラにジェイと会って果樹園で過ごしたことを報告して、ヴェリガンと緑の魔女をライアスが送り届けた。





 数日たってからジェイがローラを訪ねてきたその意味を、わたしがようやく知ったのは船の甲板でだった。


「ネリア、きみに同行する竜騎士レオナルドを紹介する」


「は?え?は?」


 ライアスに紹介されたのは黒髪の、数日前にみんなと食事をした男性で……だけど彼は魔術師だったはず。


「マイレディ、我が剣をあなた様のために使うお許しを。どうか『レオ』とお呼びください」


 レオナルドと紹介された竜騎士はスッとひざまづき、わたしが着ているローブのすそに口づけを落とす。


「えっ、レオ……?」


 聞き覚えのある声にぎょっとしてライアスを見れば、彼は少しだけ困ったような顔でわたしに告げる。


「カーター副団長の考えだ」


「えっ、カーター副団長の⁉」


 慌ててローラといっしょにいるはずの、わたしの婚約者を振りかえれば、銀髪を背に流した男が仏頂面で立っている。


「こんな時に()()()()()()()()()()()()()と言ったら、こいつだけだからね」


 銀の魔術師は胸に手を当て、ていねいに頭を下げた。黒いローブの胸にある煉獄鳥の魔石も、いつもつけているもので。そう、いつもの彼なのに……。


「お帰りをお待ちしております。ラーラ前師団長」


「ん。頼んだよ」


 いや、そうではなく。わたしのそばに竜騎士として立っているのは……本来はあかん人では?


 サルジアに狙われているかもしれない銀髪の……。


 口をパクパクして言葉がでないわたしに、黒髪の竜騎士レオはにっこりと涼しげな笑みを浮かべた。


「どこまでもお供しますよ、マイレディ」


 いや、そうではなく……。それじゃあかんのでは?


 ねえっ、ホントにそれでいいの⁉


 内心パニックになっているわたしの気持ちなどお構いなしに、船はタクラを離れた。

挿絵(By みてみん)

よろづ先生からもお祝いイラストをいただきました!ありがとうございます!

いっしょに作品を創りあげてきただけに、『キャラクター原案よろづ』とクレジットされるのが本当に嬉しいです。

果たしてコミカライズで読者さんは喜んでくださるだろうか……正直迷いました。出版社まで出向き、なろう版を最新話まで読破しての打診と伺って決意しました。

1巻分を1年半かけて連載して頂けるそうです。その先は評判次第……ということで目指すは10年連載!(7巻ラストまでそれぐらいかかります)

そちらの準備もありまして、更新が不定期ですみません!(平伏

タクラ編の改稿も8巻発売までには終わらせます。

8巻の表紙はオドゥとユーリで行くと、よろづ先生にもお伝えしています。

あと1,2巻の改訂作業を進めています……〆(・・;)

購入済みの電書は自動的にアップデートされます。

紙書籍はすみません、稀少な初版ということでご容赦下さい。

裏で何かしら作業はしているので、ご意見ご要望はいつでもどうぞ!

やる事いっぱいですが、ひとつひとつ片づけていきます(^^)9

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☆☆11/1コミカライズ開始!☆☆
『魔術師の杖 THE COMIC』

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小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
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