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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる

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49.初めての契約

よろしくお願いします

 アイシャ・レベロはテキパキと話を進めていく。


「魔道具ギルドにもぜひ登録してちょうだい。『錬金術師団長』がウチの登録会員なら、こっちもハクがつくし、仕事上必要があればギルド員を紹介するわ」


「わたしの『信用』については、もういいんですか?」


「そうね……『信用』がないなら、積み上げていけばいい……だったかしら?わたしもあなたの考えが気に入ったわ」


「はは……じゃあ、契約は無事できるんですね……」


 わたしは、へたりと椅子に座り込んだ。力が抜けて立っていられなくなったからだ。ニーナとミーナが抗議する。


「もぅ!ひどいよアイシャ姐さん!黙って見ていろっていうから見てたけど……ネリィにきつく当たり過ぎ!」


「おぃちゃんのばかぁ!黙ってみてるの辛かったんだからねぇ!」


「ごめんよぅ、ニーナぁ、ミーナぁ、おぃちゃん、これが仕事なんだよぅ……」


「悪かったわね……駆け出しの魔道具師って、製品にどんなに誇りを持っていても、商人に買いたたかれたりする事も多いの……それに、製品として一旦売りだしてしまえば、それを購入するお客様に対して責任が生じる……事業を拡げれば従業員の生活も守っていかなければならない……あなたにその覚悟があるか知りたかったの」


「そうか……試されたんですね……わたし……」


「でも『信用』に関しては、あなたの『弱点』だと思っているわ。あなたが『師団長』になるのに、『錬金術師団』でひと騒動あったのは把握しているの。だから今日はあえてそこをつついてみたのよ」


「弱点……そうですね」


 そこをつつかれれば、もうどうしようもない。途方にくれた時、ユーリが口を挟んだ。


「ネリア・ネリスの『信用』については、僕が保証しましょう……僕自身、現時点で誰よりもネリア・ネリスが『師団長』にふさわしい……そう考えています」


「貴方が、保証を……?」


 眉をあげたアイシャに対して、ユーリは頷いた。


「ユーリ?」


「これでも僕んちは歴史ある名家なんですよ……黙って見ているつもりでしたが、ネリアにここまでされたら、僕だって何かの役に立ちたい」


 ユーリは紙と見たことのない銀色のペンを取りだすと、机の上でさらさらと何かを書き始めた。書き終わると更に術式を重ねて、魔力を流し、紙に固定している。


 紙全体がパァッと光り、術式の固定がすむと、紙自体がひとつの魔道具になる。あれは、改ざんも破損も許されない、たしか正式な書類の書き方だった。


「さあどうぞ、『ネリア・ネリス』が信用に足る人物だと、『僕』が保証する書類です」


 受け取ったアイシャが、さっと目を通して、驚いた顔をした。


「まさか……!」


「どうしました?書類に何か不備でも?」


「いいえ……いいえ……書類は完璧です。文句のつけようがない……」


「なら、問題ありませんね」


 畳みかけるようににっこりとユーリが言うとアイシャは頷いたが、その顔色は心なしか青ざめている。


「ええ……全く、問題はありません。では先ほどの変更点を書き換えて、三者で正式な契約を結びましょう」


 それから、わたしと、メロディ・オブライエン、ニーナとミーナがそれぞれ契約書にサインして、『錬金術師団』、『メロディ・オブライエンの魔道具店』、『ニーナ&ミーナの店』の間に契約が結ばれた。


 それを今度は本物の公証人の人が確認し、ギルド長のアイシャが魔道具ギルドの印を捺す。


「それと、ギルドからしばらくビル・クリントを貸しだすわ、ギルドから融資を受けて、七番街に工房と倉庫を借り、生産体制を整える手伝いをさせましょう」


「でも私達、まだそこまでは……」


 および腰のニーナに対してアイシャが首を横に振る。


「こういうのは前倒しでやるの。収納鞄が売れてから、慌てて工房や倉庫を探しても遅いんだから……いい?何もかも準備中で、全体像も掴めないって時に、全ての準備をすませておくの」


「そうですね、それがいいです」


 わたしが同意すると、アイシャの目つきが鋭くなった。


「ネリア・ネリス、あなたまだ何か考えがあるみたいね」


「ええ、量産化のめどが立ったら、新たに『保冷』と『保温』の術式を組み込みたいんです」


「『保冷』と『保温』……」


「!……つまり、冷たいものは冷たいまま、温かいものは温かいまま運べるって事?」


「それ、凄く便利だわ……」


「できたての料理を温かいまま運んだり冷たいまま運んだり……王都内なら出前がやりやすくなりますね」


 収納鞄の、『容量が大きいものをコンパクトに運ぶ事ができる』という特性を使えば、弁当箱ひとつのサイズの鞄で、家族全員分の食事を運ぶ事もできるだろう。


「それに、この間王都を見て回って気づいたんですけど、シャングリラ中央駅から、人は転移門で移動してましたが、貨物は環状線で王都内を運んでましたね」


「そうよ、手荷物ぐらいなら人が持って転移門で移動できるけれど、貨物のような大きくて大量の荷物は環状線を使うわ」


 転移陣を使って物を移動させる事はできるが、ずっと転移陣に魔素を流し続ける必要があり、大量の荷物を送るには効率が悪い。


 魔導列車は、駆動系を動かすのに魔石のエネルギーを使うが、操作自体は魔力がなくてもできる。


「三十年前に魔導列車が実用化されて、国内の物資の輸送は飛躍的に進化したのよ」


「それをさらに一歩進めましょう」


「なんですって?」


「環状線から各貨物駅で下ろした荷物はどうするんですか?」


「一旦貨物駅の倉庫に保管され、『荷受人』が駅まで取りに行くわ。運ぶのが大変なものは、『配送』を頼む事もあるけれど」


「収納鞄を使えば、貨物駅で荷受けした後の持ち運びが楽になります」


 わたしが考えたのは、収納鞄のお洒落なタイプだけじゃなくて、コンテナやクーラーボックスのような、実用的なものだ。


「それに、もしも最初から地方で収納鞄に詰めたものを魔導列車で輸送する事ができれば、シャングリラ中央駅で受け取った荷受人が、転移門で移動すれば配送は完了です」


「それって……新しい業態ができるわよ」


 アイシャが目を細めた。そう、荷物を簡単に手軽に持ち運び、届ける事ができる……宅配ビジネスだ。


「ええ、『物流』の構造が変わります。より細かく機敏に、より速く便利に」


 わたしが口の端を上げて見せると、その場に居合わせた全員が、息を呑んだ。


 個人が使うとしたら、そんなに大きな収納空間は必要ない、収納空間は小さくても、魔力消費の少ない使い勝手の良い物を作って、皆で使おう……それはメロディやニーナ達のアイディアだ。


 それを教えられた時、新しいアイディアがどんどん湧いてきた。


 もうひとつアイディアがあるけれど、それには別の魔道具が必要になる。


「まぁ、まずは『収納鞄』を広く認知させる事、『量産化』のめどをつける事を中心にやっていきましょう。それにわたしは『錬金術師団長』なので、物流ビジネスまで手をだすつもりはないです」


「そういう将来が来る事も見据えて動く……という事ね」


 アイシャは何か頭の中で計算をはじめたようだ。メロディが手を上げた。


「私はまだ余裕があるから、『量産化』については私がビルに手伝ってもらってやるわ。ニーナ達には鞄作りに集中して欲しいし」


「メロディ……」


「ニーナとミーナは、『収納鞄』を広く認知させるために、いい鞄を作ってちょうだい」


「ええ」


「任せて」


 メロディ・オブライエンは手元の契約書類を眺めた。最初は、便利そうな鞄があるから、作って売りたい……それしか考えていなかった。


 でも、こうして魔道具ギルドにやって来て、アイシャやビル、ネリアの話を聞いているうちに、事態は予想以上の拡がりを見せはじめている。


「これはもう『事業』なのよね……私達、ひとつの『事業』を起こすんだわ……絶対成功させましょう!」


「「「「おー!」」」」


「ハハ、元気のいい事だ」


 わたし達は元気よく声を上げ、ビルのおいちゃんは楽しそうに笑った。





 それぞれが帰宅の途についた後、アイシャ・レベロはギルド長室の机で、一枚の書類を眺めていた。


 ビル・クリントがアイシャの前に、その無骨な外見に似合わない丁寧な仕草で、淹れたてのコーヒーを置く。


「どうした?その書類は本物なんだろ?」


「ええ……だから驚いているのよ……公の場には一切姿を見せないとされる方だから……」


「あの噂……『グレンの呪い』がかけられた王子……という噂は本当なのかもな」


「そうね……」


 アイシャの手には、ユーリの記した書類が握られていた。

ネリアを実業家にしたいわけではないので……異世界の物流ビジネスは人任せです。

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