表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/568

49.初めての契約

よろしくお願いします

 アイシャ・レベロはテキパキと話を進めていく。


「魔道具ギルドにもぜひ登録してちょうだい。錬金術師団長がウチの会員なら、こっちもハクがつくし。必要ならギルド員を紹介するわ」


「わたしの信用については、もういいんですか?」


「そうね、これから積みあげていけばいい……だったかしら?私もあなたの考えが気に入ったわ」


「はは……じゃあ、契約は無事できるんですね……」


 力が抜けて、わたしは立っていられなくなり、椅子にへたりと座りこんだ。ニーナとミーナがアイシャに抗議する。


「もぅ!ひどいよアイシャ姐さん!黙って見ていろっていわれたけど……ネリィにきつく当たりすぎ!」


「おぃちゃんのバカぁ!黙って見てるの、つらかったんだからねぇ!」


「ごめんよぅ、ニーナぁ、ミーナぁ。おぃちゃん、これが仕事なんだよぅ……」


「悪かったわね。駆けだしの魔道具師って、製品にどんなに誇りを持っていても、商人に買いたたかれたりすることも多いの。それに製品として売りだしたら、購入するお客様に対しても責任が生じるわ。事業を拡げれば従業員の生活も守らないといけない。そういった覚悟があるか知りたかったの」


「そうか……試されたんですね……わたし……」


「でも信用に関しては、あなたの弱点だと思っているわ。師団長就任の際、王城でひと騒動あったのは、こちらも把握しているのよ」


「弱点……そうですね」


 そこをつつかれれば、もうどうしようもない。とほうにくれたとき、ユーリが口を挟んだ。


「ネリア・ネリスの信用については、僕が保証しましょう。現時点で、彼女は誰よりも師団長にふさわしい。僕自身もそう考えています」


「あなたが保証を?」


 眉をあげたアイシャに対して、ユーリはうなずいた。


「ユーリ?」


 わたしに向かって、ユーリはにこっと笑う。


「これでも僕んちは歴史ある名家なんです。黙って見ているつもりでしたが、ネリアにここまでされたら、僕だって役に立ちたい」


 ユーリは紙と見たことのない銀色のペンを取りだし、さらさらと何かを書いた。書き終わった上から術式を重ねて魔力を流し、紙に固定すると全体がパァッと光る。


 術式の固定された紙は、それ自体が改ざんも破損も許されない、正式な書類になるという。


「さあどうぞ、ネリア・ネリスが信用に足る人物だと、()が保証する書類です」


 受け取ったアイシャがさっと目を通し、驚いた顔をする。


「……まさか!」


「どうしました?書類に何か不備でも?」


「いいえ、いいえ……書類は完璧です。文句のつけようがない……」


「なら、問題ありませんね」


 ユーリがにっこりしてたたみかければ、アイシャは静かにうなずいたけれど、なぜか顔が青ざめて強張っている。


「ええ……まったく問題はありません。では変更点を反映し、三者で正式な契約を結びましょう」


 わたしとメロディ、ニーナとミーナがそれぞれサインして、錬金術師団とメロディの魔道具店、ニーナ&ミーナの店は契約を結んだ。


 それを今度は本物の公証が確認し、ギルド長のアイシャが魔道具ギルドの印を捺す。


「それとギルドから、しばらくビルを貸しだすわ。融資を受けて七番街で大きな倉庫を借り、工房にして生産体制を整えなさい」


「でも私たち、まだそこまでは……」


 ミーナがいえば、アイシャが首を横に振る。


「五番街の店では手狭よ。収納鞄が売れてから、あわてて物件を探しても遅いわ。それなら最初から準備をしたほうがいい。前倒しでやるぐらいで、ちょうどいいのよ」


「そうですね、それがいいです」


 わたしが同意すると、アイシャの目が鋭くなった。


「ネリア・ネリス、あなたまだ何か考えがあるみたいね」


「ええ、量産化のめどが立ったら、新たに保冷と保温の術式を組むつもりです」


「保冷と保温……」


「つまり冷たいものは冷たいまま、温かいものは温かいまま運べるってこと?」


「それ、すごく便利だわ……」


「できたての料理を温かいままや、冷たいままで運んだり……王都内なら出前がやりやすくなりますね」


 収納鞄の『容量が大きいものをコンパクトに運べる』という特性を使えば、弁当箱ひとつのサイズで、家族全員ぶんの食事だって運べる。


「それに、このあいだ王都を見て回って気づいたんですけど……シャングリラ中央駅から、人は転移門を使って移動するのに、貨物は環状線で運ばれていました」


「そうよ、手荷物ぐらいなら人が持って移動できるけれど、貨物みたいな大きい荷物は環状線を使うわ」


 物を移動させることは転移門でもできるが、魔素を魔法陣に流す必要があり、大量の荷物を送るには効率が悪い。


「魔導列車は駆動系を動かすのに、魔石のエネルギーを使うけれど、魔力がなくても操作できるから、三十年前に実用化されて、物資の輸送は飛躍的に進化したのよ」


「それをさらに一歩進めましょう」


「なんですって?」


「貨物駅で下ろした荷物はどうするんですか?」


「いったん貨物駅の倉庫に保管され、荷受人が駅まで取りにいくわ。運ぶのが大変なものは、配送を頼むわね」


「収納鞄を使えば、貨物駅で荷受けしたあとの、持ち運びも楽になります」


 ファッション小物としての収納鞄だけでなく、わたしはコンテナやクーラーボックスのような、実用的なものも考えた。


「もしも最初から、地方で保冷つきの収納鞄にいれて、魔導列車で輸送することができれば、シャングリラ中央駅で受け取った荷受人が、転移門で移動すれば配送完了です」


「それって……新しい業態ができるわよ」


 アイシャが目を細めた。そう、荷物を簡単に手軽に持ち運び、届けることができる。いわば宅配ビジネスだ。


「ええ、物流の構造が変わります。より細かく機敏に、より速く便利に」


 わたしが口の端をあげて見せると、その場にいた全員が息をのむ。


 個人が使うとしたら、そんなに大きな収納空間は必要ない、それなら魔力消費が少ない、使い勝手のいいものを作って使おう……それはメロディやニーナたちのアイディアだ。


 それを教えられたとき、新しいアイディアがどんどん湧いてきた。


 もうひとつあるけれど、それにはべつの魔道具が必要だ。


「まずは収納鞄を広く認知させて、量産化のめどをつけることを目的にしましょう。それにわたしは錬金術師団長なので、物流ビジネスまではやりません」


「そういう将来も、見すえて動くということね」


 アイシャは頭のなかで、計算をはじめたようだ。メロディが手を上げた。


「私はまだ余裕があるから、ビルに手伝ってもらって、工房の手配をやるわ。ニーナたちは鞄作りに集中してちょうだい」


「メロディ……」


「ふたりとも、いい鞄を作ってよ!」


「ええ」


「任せて」


 メロディ・オブライエンは手元の契約書類を眺めた。最初は便利そうな鞄があるから、作って売りたい……それしか考えていなかった。


 でも、こうして魔道具ギルドでアイシャやビル、ネリアの話を聞いているうちに、事態は予想以上の大きくなりそうだと感じた。


「これはもう事業なのよね。私たちで興すんだわ……ぜったい成功させましょう!」


「「「「おー!」」」」


「ハハ、元気ないいな」


 わたしたちは元気よく、拳を突き上げて声をだし、ビルのおいちゃんは楽しそうに笑った。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それぞれが帰宅の途についた後、アイシャ・レベロはギルド長室の机で、一枚の書類を眺めていた。


 ビル・クリントがアイシャの前に、その無骨な外見に似合わない丁寧な仕草で、淹れたてのコーヒーを置く。


「どうした?その書類は本物なんだろ?」


「ええ……だから驚いているのよ……公の場には一切姿を見せないとされる方だから……」


「あの噂……『グレンの呪い』がかけられた王子……という噂は本当なのかもな」


「そうね……」


 アイシャの手には、ユーリの記した書類が握られていた。

ネリアを実業家にしたいわけではないので……異世界の物流ビジネスは人任せです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆『魔術師の杖 THE COMIC』☆☆
月曜更新ニコニコ漫画

毎月1日更新!『MAGKAN』(先行配信)

『魔術師の杖 THE COMIC』
☆☆アプリ『コミマガ』でも配信中!☆☆
作画:ひつじロボ先生

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ