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473.手紙が明かす真実

 ユーリがふたりの会話に割って入る。


「オドゥ、ロビンス先生からも手紙を預かっています。今言うことじゃないかもしれないけど……」


「ロビンス先生だって?」


 オドゥが意表を突かれたのか動きを止める。


「オドゥ、我々はイグネラーシェを調査した」


「へぇ……何か見つけたかい?」


 こげ茶の髪をうるさそうにかきあげた男は、深緑の目を細め、どこか虚な表情で口をひらく。


「何もなかったろう?そうさ、何にも残ってないんだ。あそこは……」


「いいや。あそこに残されていた魔法陣がすべてを語った」


 言うなりレオポルドは杖を地面に突きさし、幻術を展開する。一瞬にして彼らの周囲に、緑深い山間の里イグネラーシェの光景が広がった。


 サラサラと流れる小川のせせらぎ、点在する白い家屋、庭先に広がる畑……オドゥが目を見開いて固まった。


「これは……」


 今にも戸口から人が飛びだしてきそうな情景に囲まれ、青ざめたオドゥが魔術師を問いつめる。


「お前は僕に何を見せるつもりだ!」


「真実だ!」


 レオポルドの怒鳴り声とともに、いくつもの魔法陣が構築されては形を失い崩れていく。それは時を刻む砂時計のように、ひとりの男を浮かびあがらせた。


「父さん……」


 オドゥと親子だと言われなくてもわかる、よく似た顔立ちの男は、長く伸ばした髪を頭の後ろでひとつにくくっている。


 彼は手に拳大の魔石を持っていた。ルルゥにせがまれて、オドゥがよく水の記憶を見せてやっていたあの石……。父親の姿を食い入るように見つめ、オドゥは動きを止めた。


「父さん……何をするつもりだ?」


 いつも家族に見せる柔和な笑顔ではなく、オドゥの父はかけていた黒縁眼鏡をはずして川に放りこむ。眼鏡を捨てた彼は水の魔石に向かって魔法陣を紡ぎはじめた。


「やめろ……何を……」


 オドゥの声がかすれて震えた。


「やめてくれ!」


 叫ぶなりかつての同級生だった魔術師に、攻撃をしかけるオドゥの動きを、ガキィッと音をさせてライアスが止めた。


「ライアス……きさまっ!」


「オドゥ、目をそらすなっ!」


 息を荒くしたオドゥの左目が金色に色を変える。それと同時に幻影の中でたたずむオドゥの父も左目の色が変わった。彼が手にした魔石から水の奔流がほとばしる。


 家屋が流されるのはあっという間だった。濁流が樹々をなぎ倒し、山が崩れて谷や沢を埋めていく。緑が運び去られたあとの地面は黒々とした山肌で……。


 すべてが流されても、現実のタクラ郊外にいる四人は、髪ひと筋すら濡れずにその場で立ち尽くしていた。


「なぜ……」


 がくりと膝をついたオドゥは、ズキズキと痛む左目を押さえた。


「オドゥ、イグネラーシェを襲った土石流は、お前の父がもたらしたものだ」


「……何を知っている」


 生気を失った顔でオドゥがレオポルドを見あげると、彼は淡々と告げた。


「ロビンス教諭からは、我々師団長あてにも手紙を預かっている。それを三師団長がそろった、この場で開封したい」


「三師団……?」


「はいっ、〝ネリア・ネリス〟はここにいます!」


 レオポルドの胸についた収納ポケットから、ヒョイっと顔をのぞかせた小さな人形に、全員の目が釘付けになった。


「え、は?」


 クリクリとした黄緑の目がかわいい人形は、レオポルドの胸にある煉獄鳥の魔石に、顔を映すと照れてウフフと笑っている。


「ミニサイズって何か新鮮ー魔石はバカでっかいし、ユーリまでおっきく見える!」


「僕はもともと成人してますよっ!」


 三人の男たちの物言いたげな目線から、そっと目をそらしてレオポルドは説明した。


「さきほど落ち合ったときに彼女から髪をもらい、造形魔術で作った雛形に封じて分身を……」


「レオポルド、お前それ……どう見ても人形遊びをするヘンタ……」


 オドゥの言葉を、凍えるような冷気を帯びた声がさえぎる。


「今すぐその口を閉じねば、妖精の銀針で縫いつけるぞ」


「や、だって……」


 ミニネリアはせっせとレオポルドの胸をよじ登り、肩に座ってウキウキと話しだす。


「えっとね、わたしがサルジアに出発しちゃうと、置いて行かれるレオポルドが寂しそうだから、『分身があるといいね』って話したら、その場で作ってくれたの!」


 ユーリはしげしげと真面目な顔で人形を観察した。


「その場で作るって、魔術師団長の執念を感じます」


「本体とはつながってないの。レオポルドが絆を深めてくれたら、わたしたちお話しできるかも」


 きゅるんと頭を振って首をかしげる人形に、ユーリは納得したようにうなずいた。


「あ、じゃあ恋の進行具合も、人形を見ればわかるわけだ」


「でもわたし、ネリアの『レオポルドが好き』って気持ちを固めたものだから、本体のほうは気持ちが薄くなってるかも」


 ミニネリアの言葉に、ユーリは目を丸くする。


「わ、それ……レオポルドは自分で恋の難易度上げてますよねぇ」


「ほっといてくれ」


「レオポルド……」


 何とも言えない顔をしたライアスから目をそらし、人形に指を伸ばしたユーリの手をバシッと払い落したレオポルドは、収納ポケットから封筒を取りだした。


 ミニネリアとライアス、レオポルドの三人の手で封印が解かれると、魔法陣が解けて手紙の封が切られる。





 ――本題に入る前に、私とグレン・ディアレス、そしてオドゥの父ラムゥ・イグネルが、友人同士であったことを述べておこう。もっとも友人だと思っているのは、私だけかもしれないがね。


 私たちはそれぞれの旅の途中で出会った。イグネルは……オドゥの父ラムゥのことだが、とにかく腕っぷしが強く、旅する我々を助けてくれた。


 若いころは私もグレンも、一ヵ所に留まることがなかった。私は魔法陣を追いかけ、グレンは未知の素材の探求に明け暮れていた。


 カレンデュラでガイドとして雇ったラムゥは、山での生活に慣れている少年だった。彼は私の職業を聞くと、魔術学園について聞きたがり、いつか学園で学びたいと言って私を質問攻めにした。


『僕は無理でもさ、いつか子どもたちを通わせたい』


 彼はそう語っていた。私はレオポルド・アルバーンとオドゥ・イグネル、ふたりの入学を心待ちにしていた。


 同い年だったからね、たがいに切磋琢磨しあえるだろうと考えた。実際そのとおりだったよ。学園でのことは私からグレンへ報告していた。


 レオポルドはよく他の生徒とぶつかっては、ケンカしていた。保護者への説明が必要だった。オドゥ・イグネルが助手に採用され、研究棟に出入りするようになると逆に、グレンから私へ報告させた。


 身寄りがないのは知っていたから、バイトを禁止することはなかったが……まだ未成年だったオドゥが働くには早いと感じていた。


 さて。きみたちがイグネラーシェを調べたという話を聞き、私からも補足しておく必要があるだろう。まずはあの里の成り立ちから……あの場所に人が住みはじめたのは、エクグラシア建国以前だったと思われる。


 彼らの祖先はサルジア出身で、故国からなるべく遠く離れたところに、住まいを定めた。そうしなければならない理由があった。


 なぜなら過去の精霊契約により、最初からイグネラーシェには〝滅び〟が定められていた。


 サルジアの建国神話は精霊にとっては最大の禁忌。〝対価なき精霊契約〟にあたる。


 レオポルドが目をみはり、文面を見てつぶやく。


「対価なき精霊契約……たしかに。〝地の精霊〟から力を与えられた人間は、何も対価を支払っていない。だがサルジアに反映をもたらした力の対価とは……それがつまり〝滅び〟なのか?」


「待てよ。それなら滅亡するのはサルジアのはずだろう!」


 オドゥの声が震えた。


 助けられたのはたったひとり。きみたちがよく知るオドゥ・イグネル。彼こそがほかのすべてを対価にして、ラムゥ・イグネルが守り抜いた〝イグネラーシェの希望〟だ。


「希望だって?僕が?」


 青ざめたオドゥがふらりと立ち上がる。ロビンス先生の手紙は、最後はこう締めくくられていた。


 だから三師団の長たちに願う。きみたちの力でオドゥを、〝イグネラーシェの希望〟を支えてほしい。

作詞にチャレンジ。元気な女の子の旅立ちの朝、ワクワクした気持ちを表現しました。

「旅立ち」「走りだす心」「ブルーベルの咲く森で」

画面下、ポニーテ―ルのアリスちゃんからYouTubeで歌を聴けます。

いつかこの子をヒロインにした小説を書くつもりです。

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