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465.竜騎士団の演舞

【ライアス・ゴールディホーン】

挿絵(By みてみん)

(絵:よろづ先生)

 〝竜騎士たちの演舞〟は元々、〝風の精霊〟の流れを汲むとされるドラゴンたちを、称える目的で始まったらしい。


 精霊の力である風を表現するのに、大きな旗を使ったフラッグパフォーマンスはぴったりだった。陣形をとり竜騎士たちがそれぞれの位置につく。


 その中央にライアスは仁王立ちになり、しっかりとフラッグの竿を握りしめた。


 〝王族の赤〟を象徴するような赤地に、堂々たる〝蒼竜〟を刺繍したずっしりと重い旗の重量は三十キグにもなる。キッと眼を開いて、ライアスは腹の底から声を絞りだす。


「竜王ミストレイの加護を受けし、エクグラシアの民。タクラの諸君に捧ぐ。我ら竜騎士団一同!」


「「「「「「おおーっ!」」」」」」


 しっかりと大地に足を踏ん張り、重心を低くして大きく腰から体を回転させる。巨大な赤い旗がタクラの空にひるがえった。


 竿の長さは七ムゥもあり、地面につけずに操るのはとても難しい。振り回したら振り回したで、遠心力で体が持っていかれそうになる。彼のこめかみに汗が噴き出した。


「とこしえの護りを誓い、タクラのさらなる発展と繁栄を祝してーーっ!」


「「「「「「うおおぉーっ!」」」」」」


 彼に合わせて竜騎士たちもそれぞれの旗を振り回す。巨大な旗がひるがえり、港に集まった一同から歓声があがる。


 前に後ろに、横に斜めに、竜騎士たちは隊形を変えながら。次々にフラッグパフォーマンスを繰り広げている。


 荒々しいのに舞いであるからには、力強さだけでなく優美さもなくてはならない。


 晴れた青空にひるがえるドラゴンたちの刺繍は、蒼竜だけでなくアガテリスのような白竜のものもある。白銀の刺繍が陽光にきらめいた。


 ビシリとそろった動きもあって、目を奪うほどの美しさだ。ヤーンとアベルが旗竿を抱えて交差すると、屈強さを見せびらかすように、旗を抱えて全身をのけぞらせた。


 滴り落ちる汗が顔をそらせた彼らのノド仏を流れていく。圧倒的な迫力で迫る旗の饗宴は力強く、観衆たちは息をのんでそれを見守る。


 屈強な竜騎士たちが汗を散らしながら、グルグルと竿を回転させて軽々とフラッグをひるがえす。その一糸乱れぬ有様に、見物客はさらに湧いた。


 グオオオオオォ!


 ライアスが動けば動くほど、体の奥底から力がどんどん湧いてくる。大地を踏みしめる足は力強く、太ももの筋肉はガッチリとした張りを見せて揺るぎない。


 彼の興奮が感覚共有でミストレイにも伝わったのだろう。ひと際大きな咆哮がタクラ中に響くと、それに呼応してアガテリスも鳴いた。


 ブゥオオオオォ!


 広場の興奮は最高潮に達していた。ライアスは重たい旗を軽々とあやつり、最後に竿ごと空にほうり投げる。


 バッとひるがえった旗が青空に広がり、ふたたび落ちてきた竿を、彼はガシッと受け止めて獣のように吠えた。


「エクグラシア最強と称えよ!我ら竜騎士団ここにあり!」


 その瞬間、全員が抱える旗竿の先端からパンッと小気味いい音とともに、エクグラシアの国花である真っ赤な、たくさんのスピネラが飛びだしてきた。


 大歓声の中で赤い花びらが散り、スピネラの花吹雪が竜騎士たちの体を覆い隠す。


 そして片膝をついて旗竿を地に置き、頭を下げた彼の手元で、力強さの象徴だった竜王を刺繍した巨大な赤い旗は、ただの布に戻ってふわりと地面に落ちた。


 空気がもこもこと布を揺らすけれど、それもまたすぐに静かになる。竜騎士全員がそれに倣うと、広場からいっせいに拍手が沸いた。





 貴賓席からも惜しみない拍手が送られ、はじまるまでは退屈そうだった錬金術師団長も、満足したのか可憐な赤い唇をほころばせる。


「あら、彼もいい体してるじゃない。筋肉もバランスがいいし、さわると固いでしょうね」


 そのつぶやきが耳に入ったらしく、ぎょっとしている周囲に、あわてたテルジオが彼女に話しかけた。


「ネ、ネリアさんっ、人前でうかつなことを言うと、浮気と誤解されますよ」


 自分が婚約したばかりなのだと自覚してほしい。行動には気をつけないと婚約を面白くないと思う者が、どこで目を光らせているかわからない。


 テルジオはハラハラと、紫陽石とペリドットのピアスに目を走らせた。


「あら、浮気って言うけどぉ。その婚約者とやらはあたしをほっぽりだして、どこ行ったのかしらぁ?」


 華奢な細い指先で耳たぶのピアスをいじりながら、繰りだされた強烈なあてこすりに、テルジオの神経が限界に達した。


「テルジオ、あとは任せる」


 そう言って当のレオポルドは、演舞が終わったとたん、さっさと転移して姿を消した。


「魔術師団長は……そっ、そうだ……のっぴきならない用事で呼ばれたんです!」


「ふうん?」


 笑顔をひくつかせながら、それでもまわりにも聞こえるように、笑顔でハキハキと彼女に語りかける。


「それよりネリアさん、ノドが渇きませんか。タクラ名産、ピュラルのスパークリングゼリーカクテルなんかいかがです?」


(とにかく彼女をここから連れだそう)


 今のネリアはあまり人前にださないほうがいい。そう考えたテルジオの提案に、彼女はちょっとだけびっくりして、ふしぎそうに首をかしげた。


「あたしに?」


 彼女が興味を示したと感じたテルジオは、必死になってコクコクうなずく。スパークリングゼリーカクテルは、最後に日当たりの傾斜地で育ったピュラルの実を、ぎゅっと絞った果汁を加えて完成だ。


「テルジオが作ってくれるの?」


「テルジオ、頼んでいいか?」


 王太子からも心配そうに聞かれ、テルジオは誇らしげに胸をドンと叩いた。


「もちろんですとも。ピュラルでもミッラでも、あなたのために何でも絞りますよ!」


「…………」


 ネリアは無言になって、テルジオの顔をじっと見つめた。それからうつむいて考えこんでいる。


 急におとなしくなった彼女に、王太子の筆頭補佐官は不思議そうにまばたきをした。


「ネリアさん?」


「あたしが食べたいといったもの、テルジオが食べさせてくれるの?」


「ええまぁ。私にご用意できるものでしたら何でも。タクラの街にもおいしいものは、たくさんありますからね」


 ようやく彼女をこの場から連れだせると思い、彼はホッとしてにっこり笑った。


 少しもじもじと髪をいじってから、厄介な錬金術師団長はこくりとうなずき、小さな手を彼へと差しだしてくる。


「ん。じゃあ連れてって」


 こうして彼女を広場から連れだすことに成功したテルジオは、このとき王太子筆頭補佐官として堅実に、着々と築いてきた自分の人生が、ある意味最悪な方向に転換してしまった……とは知る由もなかった。

『魔術師の杖⑨ネリアと夜の精霊』

9巻の挿絵①では迫力あるミストレイと、旗を振るライアスをお楽しみ頂けます。

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