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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第十一章 ネリアと夜の精霊

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464.ユーリの機転

【ユーリ・ドラビス】

挿絵(By みてみん)

(絵:よろづ先生)

 その日タクラは朝からお祭り騒ぎだった。タクラのそこかしこで、こんなささやきが交わされた。


「竜騎士団が演舞をやるらしい。タクラで演るのは数年ぶりだぞ!」


「しかも竜騎士団長はライアス様でしょ。筋肉よ、筋肉が見られるわ!」


 女性たちは手軽に撮影できるフォトの魔道具を購入し、それを握りしめて身を震わせた。


「とにかくいい場所を確保しなきゃ!」


 ステージ真ん前の貴賓席に座れるのはごく一部。


 魔術師団長と錬金術師団長に王太子、それに魔術師や錬金術師といった各師団員に、タクラを統括するアンガス公爵夫妻、それを支えるスタッフで占められている。


 真ん前はあきらめて、望遠でも写りのいい場所を求める者が多かった。その騒ぎは当然、黒髪の娘にも聞こえた。


「ライアスたち……何やるんだろ?」


 気になるけれど、きっとそこには彼もいる。そしてネリア・ネリスという名の錬金術師団長もいるはず。


(自分の姿なのに、いっしょにいるところを見たくないなんて……変なの)


 彼にエンツを送れば、きっと話を聞いてくれる。それ思ったけれど、結局そのまま何もしなかった。


 気を紛らわすようにタクラの街を歩きまわり、お気に入りの場所はいくつも見つけた。


 けれどせっかく見つけたカフェでも、最近はため息ばかりこぼしてしまう。


(少しだけ……少しだけなら、見に行ってみようかな。ちょっとだけのぞいて、それからコソコソ帰ればいいよね)


 好奇心に勝てなかった黒髪の娘は、ちょっぴり彼の姿も眺めたくて、港にある海遊座がよく見える場所へと向かった。





 タクラ港から回廊でつながる〝海遊座〟の貴賓席に、しばらく体調不良だった王太子と第二王子がようやく姿を見せた。


「公式行事でもないのに、すごい人出だな」


「ライアスは僕より人気だからね」


 カディアンが目を丸くして広場を見回すと、王太子もなぜか得意そうに答えた。


「〝竜騎士たちの演舞〟をこんな近くで観られるなんて!」


 カディアンの隣に座るメレッタには、ニーナたちがコートと帽子を用意した。何の用意もしていなかった彼女には、いつもつけているカチューシャを元に、アイリが花の図案を考えて刺繍した。


 アンガス公爵夫妻の案内でやってきた、アルバーン公爵親子が王太子へあいさつにやってくる。


「エクグラシアの若獅子にごあいさつを申しあげます。竜王の加護と祝福を賜らんことを」


「アルバーン公爵もタクラに滞在するのか」


「冬の王都は閑散としていますからな。サリナにも気分転換が必要かと思いまして」


 ふたりはアンガス公爵家に滞在し、王太子殿下の出発後もタクラにとどまるという。


 潤むような大きな緑の瞳が美しい公爵令嬢のサリナには、カディアンがうれしそうに話しかけた。


「間に合ったみたいだな、サリナ」


「ごきげんようカディアン殿下、メレッタ様。アンガス公爵夫人から勧められたわ。あなたたちのために企画したのですってね。わたくしもとても楽しみです」


 サリナはカディアンの隣に座るメレッタにも、にっこりとほほえみかけた。カディアンは照れくさそうに、メレッタにクシャリと笑いかける。


「そうなんだ。タクラ訪問の記念に、メレッタも参加できるような軽い催しを……って考えてくれたんだ」


「ね、楽しみだわ!」


 笑顔で楽しそうに会話するふたりを、サリナはまぶしそうに見つめた。公爵家の跡取りである彼女は、婿を取らないといけない。


 レオポルドの許婚にと先代の公爵が決めたせいで、彼女が親しく話せるのは、親戚でもあるユーティリスやカディアンぐらいだ。学園でも彼女に言い寄ってくる者などいなかった。


(こんなふうに視線を交わせる相手がいるなんて、うらやましいわ……)


 公爵夫妻が相手を厳選するにしても、まず会話を交わすところからはじめないといけない。


 数回会っただけで決断を迫られ、サリナが気にいらなければ、また次が紹介されるだろう。それを考えただけでも気が重くなる。


 ユーティリスはそんなサリナをちらりと眺め、ムスっと座っているアルバーン公爵に目をやった。


(今のネリアと会わせるのは、ちょっとやっかいだな……)


 まもなくレオポルドが婚約者をエスコートしてあらわれる。今の彼女は言動も不穏で、最後に入場することになっていた。


(できたらアルバーン公爵が、居眠りでもしてくれると助かるんだけど)


 公爵はギンギンに目を光らせて、自分のスタッフに竜騎士団の名簿も持ってこさせている。サリナのために独身の竜騎士を、みずからチェックする気満々だった。


 あのネリアに公爵を会わせるなど、ユーティリスも考えるだけで頭が痛い。公爵親子が参加すると聞いただけで、レオポルドの眉間にもググッとシワが寄っていた。


 けれど貴賓席で鉢合わせするのはどうしようもない。





 レオポルドを助けるのは面白くないけど、ネリアのために王太子は公爵へ声をかけた。


「アルバーン公爵、レオポルドの婚約おめでとう」


「は⁉何がめでたいと⁉」


 ギリッとアルバーン公爵は歯を食いしばる。彼にしてみれば寝込みを襲われて、貴重な紫陽石のコレクションを強奪されたようなものだ。


 しかも妻のミラはサリナどころかニルスもほったらかしで、〝聖地巡礼〟とやらに旅立ってしまい、彼にとっては何もかもがおもしろくない。


 ただ彼の歯ぎしりなど、いつもカーター副団長を見慣れている、ユーティリスにとっては迫力不足でたいしたことはない。


(レオポルドの眉間のシワのほうが、よっぽど迫力あるよなぁ……)


 壮絶なまでに整った美形に、にらまれるだけで恐ろしい。塔で魔術師団長をやれるのも納得だ。


 王太子がそんなことを考えていると、広場にどよめきが起きて、タクラを吹く潮風に、きらめく長い銀髪をなびかせた魔術師団長が姿をあらわした。


 赤茶のふわふわ踊る髪をサイドで束ねた、婚約者の〝ネリア・ネリス〟を連れている。


 今日の錬金術師団長は仮面をつけておらず、素顔は妖精のように愛らしい顔立ちで、キラキラと輝く濃い黄緑色の瞳が印象的で、耳には婚約で贈られた、紫陽石とペリドットのピアスが揺れている。


 ユーティリスはすかさず公爵にたたみかける。


「アルバーン公爵、ふたりの婚約披露は王城で執り行ってもかまわないか?」


「王城で?」


「錬金術師団長と魔術師団長であれば……師団長同士の婚約だし、彼女のお披露目は僕がエスコートする約束で、ドレスの製作も済んでいる」


「何ですと⁉」


 アルバーン公爵は目をむいた。彼にしてみれば思いがけない話で、当のネリア本人もすっかり忘れている約束だなんて知りもしない。


(あのドレス、どこで使うか迷ってたんだよなぁ)


 ユーティリスはのんびりと考え、キラキラ王子様スマイルで、公爵に向かってにっこりとほほえむ。


「彼女は僕が部下としても、王家としてもしっかり支えよう」


「何をおっしゃるかと思えば……」


 レイメリアの弟ニルスにしてみれば、魔術師になった姉が帰ってこなくなったと思ったら、いつのまにか研究棟に住んでいて、子どもまで生まれていた。


 荒れ狂う父を必死になだめるため、彼はものすごく苦労した。姉も姉だが、父も父だった。おかげで雪深い北部では魔導列車がまだ普及していない。


(こ、ここで後れを取るわけには……)


 アルバーン公爵はガタッと音を立てて、椅子から立ち上がった。


 彼も姉に似て怜悧な美形であり、秀でた額にすっと通った鼻筋は、レオポルドと同じ系統の顔立ちをしている。


「レオポルド、そなたたちの婚約披露の宴は、アルバーン領で大々的に執りおこなう。よいな!」


 レオポルドはあいかわらず無表情に、叔父からの申し出にまばたきをした。


「まだ婚約者を紹介しておりませんが」


「いまここで紹介すればいいだろう!」


 そして当のネリアは、こてりと首をかしげただけだった。


「あんた、叔父さんいたの?」

ユーリはネリアのために、ちょっと頑張りました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 召喚したから事故が起こったんじゃなくて、召喚の条件に合ったのが事故直後の奈々だったんですかねえ。 つらいですね。
[一言] うーーーわ。 暫く見ないうちにカオスが混沌を極めて大事故になってない? どうした、オドゥ。 ホットチョコでも飲め? そして頭を冷やせ??(いや温めるのか?ん?)
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