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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる
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46.魔道具ギルドに行きたい

よろしくお願いします。

 ここの所かかりっきりだった収納鞄の術式が完成したので、『エンツ』でメロディやニーナさん達と連絡を取り合い、魔道具ギルドで正式な契約を交わす事になった。


 わたしが「魔道具ギルドに行きたいので付き添って」と頼んだら、ユーリは最初、難色を示した。


「王城に呼びつければ良いじゃありませんか、わざわざ師団長が出向かなくても」


 でも今回ははじめての契約だし、魔道具ギルドにも行ってみたい。


 契約自体は『ネリア・ネリス』の名前で行うから、錬金術師団長である事はバレてしまうけど、ギルドまではお忍びで行きたい。そう訴えても、ユーリの顔は渋いままだ。


「なんで僕まで……」


「契約事なんてはじめてだから、『成人』のユーリに付き添って欲しいの。他に頼めそうな人は錬金術師団に居ないし」


 お願い!……と訴えたら、ユーリはしばらく考えこんでいたが、ため息をつきつつ一緒について来てくれる事になった。


「ネリアのそういう強引な所は、『師団長』らしいと思います……」


 王城広場前から、三番街方面に向かう魔導バスに乗る。


「公用車を使えばいいのに……」


「そしたら、お忍び感がでないじゃん!……にしても、その髪色……」


 ユーリはいつもの赤い髪や瞳を、茶色く変えている。


「どうです?『ネリィ』と二人だから、デートっぽく見えるように服も意識したんですよー」


「デートじゃないからっ」


 自称『十八歳の成人男子』のユーリは、どう見ても十五歳ぐらいの少年にしか見えない。ふたりで並んで歩いても、デートと言うよりも買い物中の姉弟みたいだ。


「あはは……まぁ僕は師団長みたいに、いつも仮面つけて過ごしてるわけじゃありませんからね、外に出る際に最低限の変装は必要かと」


「ユーリも有名人ってこと?」


 グレンが有名なのは知っているけど、他の錬金術師達の知名度がどれくらいなのかは、見当もつかない。


「……そう言うわけでもないですが、『錬金術師』はいわば『金の成る木』ですからね、普通に誘拐とかされますよ」


 えっ!そうなの⁉︎


「国内ならまだしも国外に連れ去られたら面倒ですし……皆用心してます。デーダスのグレンの家も正確な場所は誰も知らなかったぐらいです」


 研究が当たれば莫大な利益を生む可能性もあるが、ある意味金食い虫の『錬金術師』を何人も抱えられるという事は、その国の国力を示すのだという。


 また、グレンの『業績』は他国にもあまりにも有名なのだそうだ。王城の師団長室にグレンの住居が整えてあったのも、王城からださず囲い込む意味合いもあったのだとか。


 そんな話をしているうちに、『メロディ・オブライエンの魔道具店』の近くまでやって来たので、バスを降りる。店でメロディと落ち合い、一緒に魔道具ギルドに向かうのだ。


「いらっしゃい、ネリィ!……と、そちらの方は……」


「メロディこんにちは!彼は同僚のユーリ……師団で魔道具担当なの。これでも成人してるから、今回の契約について来てもらったのよ」


 メロディはパチパチとその緑の目を瞬かせながら、ユーリに向かってぎごちなく挨拶をしようとする。


「それは……お越しいただいて……光栄で……ございます?」


 メロディが礼をとろうとするのを、ユーリが苦笑して止めた。


「堅苦しい作法はなしで。僕も彼女も『お忍び』ですから……」


「ええと……ユーリ様、とお呼びすれば?」


「ネリィは『ネリィ』なんでしょ?僕の事も『ユーリ』で構いません。彼女の部下ですし」


 メロディが挙動不審だ、なんかおかしい……と思っていたら、急にわたしは彼女に奥の工房に引っ張っていかれた。


「ちょっとちょっと!ネリィ!」


「な、何?」


 突然の事に驚いているわたしに向かって、メロディは声を潜めて問いかけてきた。


「……ライアスの次はユーリ⁉︎」


「ち、違っ!ほんとに同僚だから!」


 慌てて否定するわたしの顔を見つめながら、メロディは頬に左手をあてて、ひとり頷いている。


「……そうよねぇ……『新聞記事』ではライアスとうまくいってそうだったものねぇ……」


「えっ?新聞記事?」


 メロディが無言で差しだした『王都新聞』の記事を読んで絶句したわたしの横から、ユーリがヒョイと新聞を取り上げた。


「なになに?……『かの竜騎士団長ライアス・ゴールディホーンは、『レイバート』に『ネリィ』と呼ばれる妙齢の小柄で可憐な女性を伴って現れ、ライザ・デゲリゴラル嬢との『婚約説』をキッパリと否定。その後、『ネリィ』嬢に絡んできた酔っ払いも華麗に撃退。竜騎士団長は、彼女と川下りを楽しんだという……今後の展開に注目したい』……ネリィって……馬鹿?」


「あうぅ……」


 ユーリが呆れたように溜息をつき、わたしは身を小さく縮こませた。


「王城で仮面つけて過ごして顔バレ防いでも、当の『ネリィ』が有名になってどうすんです」


「うぅ……まさか、ご飯食べに行くだけで『新聞記事』になるなんて思わないじゃん……」


 有名人……舐めてたよ……。


「まぁ、ある意味ライアスにとってはラッキーかな……?ライザ嬢と『婚約成立』まで時間の問題、と周りには思われてましたから。彼の知らぬ間に国防大臣が外堀埋めまくってたし」


「えええ⁉︎怖っ!」


 貴族位はある意味ポスト的なもので、血縁や血族にこだわる事はなく、『魔力持ち』が中心になって、一族を盛り立てていく役割を担うらしい。


「溺愛している一人娘のライザ・デゲリゴラル嬢は魔力が少ないんで、国防大臣は『魔力持ち』の婿を欲しがっているんですよ……ライアスは性格も温厚だし、デゲリゴラル家も武門の家系ですからねぇ」


「そんな理由も絡んでいるんだ……」


「『ネリア・ネリス』もですよ……『師団長で独身、魔力持ち』……その条件に当てはまるでしょ?顔なんてどうでも魔力だけで貴族の男達に狙われますよ……王城内でも油断できません」


(マジですか⁉︎)


 わたしをびびらせておいて、ユーリは店内を見回した。


「へえぇ……市販の魔道具はバラエティーに富んでますね……面白いなぁ」


「でしょ!それに少ない魔力で動かせるように工夫されているの……王城の魔道具も術式を効率化して、少ない魔素で動かせるようにすれば、魔力の負担が減ると思うのよね……例えばここの術式なんだけど」


 ユーリは並んでいる魔道具のひとつ『眠らせ時計』を手に取ると、目を輝かせていじり始めた。


「ほんとだ……これ、買って帰って研究したいなぁ……経費で落ちます?」


「う……まぁ……そのぐらいなら」


 購入した魔道具をメロディに包んでもらい、戸締りをするという彼女を残して、わたし達は先に店をでた。






「あの子、分かってるのかしら……」


 鍵を掛けながら、メロディはひとりごちる。魔道具店にはセキュリティのひとつとして、買われた魔道具が悪用されるのを防ぐために、入り口に来店した客の『真実の姿』を映す仕掛けが設置されている。


 だから髪や瞳の色を変えたとしても、メロディには『真実の色』が分かる。だから、メロディにはユーリが何者であるか、だいたい見当がついた。


 ユーリも当然そういう仕掛けがあるのは知っていて、メロディが気づいた事は承知しているようだった。


 でも、ネリアのあの様子では、ひょっとして知らないのではないだろうか。


 エクグラシアに住んでいれば、誰もが知っている常識中の常識なのだが……。


「『赤』がエクグラシアの『王族の色』だってこと……」


『王族の色』は遺伝ではなく、竜王と契約した『エクグラシアの統治者』の証。


 そして現在、『赤』を持つ王族は三人。アーネスト・エクグラシア国王陛下と、ユーティリス・エクグラシア第一王子殿下、そして現在魔術学園に在籍しているはずの、第二王子殿下の三人のみであることを。

魔道具ギルドまで辿り着けなかった…。

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