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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十章 ネリアと魔導列車の旅
443/560

443.すきゃーだび

 ニーナをいったん帰し、コンパートメントでひとりになったわたしは、首飾りのプレートから杖の設計図を呼びだした。


「きれい……きっとグレンも、レオポルドのことを見ていたのね」


 未完成ながらも、グレンの力強い線で描かれた術式は、息をのむほど美しく構築されている。時間を追ってレオポルドの成長に合わせ、何度も書き直した跡があるけれど、やがて彼が成人したことで、迷いのない線になっていく。


 魔石に伸ばした線だけがあやふやで、グレンも自分の魔石がどんなものか、はっきりとわからなかったのだろう。レオポルドが杖を持つ堂々とした姿を思い浮かべ、わたしはため息をついた。わたしだけの力では、この杖を作れない。


「オドゥやユーリの意見も聞きたいなぁ……助けてもらわないと、きっとムリだ」


 ちょっといじって、また直して。そしてまたため息をつき、ピアスにふれて考えこむ。


「グレンの設計図通りに作るんじゃなくて、わたしなりの色を加えられないかな……」


 夕食を終えたあと、本を持ってきてくれたテルジオにお礼を言って、ミモミのハーブティーを運んでもらう。


「ありがとう、これから寝るまでまたニーナさんと打ち合わせなの。だからテルジオさんは先に寝てて」


「かしこまりました。私は部屋で休ませてもらいますが、何かあれば呼んでくださいね」


「うん。おやすみなさい」


「おやすみなさい、ネリアさん」


 テルジオが一礼して部屋をでていくと、わたしは深呼吸してからエンツを唱える。


「レオポルド」


 すぐにつながったけれど、聞こえてきたのはビュウビュウという風の音。


「……風の音がすごいね!」


 叫ぶように話しかければ、遮音障壁を展開したのか、すぐに無音になった。低くよく通る声がコンパートメントに響く。


「アガテリスでタクラへ向かっている」


「王都の調査も済んだの?」


「ああ。きみと話したいことがたくさんある」


 目を閉じれば彼がすぐそばにいるみたい。わたしは深く息を吸うと思いきっていった。


「あのね、ピアスのこと……王都へ帰ったら、アルバーン公爵夫妻やロビンス先生、お世話になった人に謝りに行こうね」


「謝る?」


「うん。テルジオさんからくわしく話を聞いて、びっくりしたんだから」


「話はついてる」


 そうじゃなーい!


「ちゃんとご挨拶に行こうっていってるの、ふたりで」


 わたしが「ふたりで」を強調すると一瞬彼は黙り、そして口をひらいた。


「意外だな。きみが公爵夫妻のことまで気にするとは」


「レオポルドが気にしなさすぎなんだよ」


 そういえばこのひと、誰にも頭をさげたくないから、師団長になったんだった。


「でもすごくうれしかった。このピアスもとても気にいってるの。光にかざすと魔法陣がキラキラして本当にきれい」


「そうか。もうはめてもだいじょうぶなのか?」


 彼の声音がやわらかくなった。


「うん。心配してくれてありがとう。それにニーナさんに連絡してくれて。ニーナさん、ドレスを張りきって作ってくれるって。お返しの贈りものは何がいいかな。レオポルドがほしいものってある?」


「きみをエスコートできるなら、これ以上の喜びはない」


「~~~~」


 ……またこの人は。臆面(おくめん)もなくいきなり言ってくるから、本当に心臓に悪い。心臓をバクバクさせながら、わたしは努めて平静な声をだした。


「何がいいかなぁ、みんなとも相談して考えるね。あのね、わたしと婚約してくれてありがとう、レオポルド」


 言いきってから彼の返事を聞くまえにエンツを終えた。部屋にある備えつけの鏡をみれば、耳元で揺れるピアスがキラリと光る。


「おとなしく守られておけ」


 そういわれたような気がした。同時にわたしが何かやらかすのを見越して、守りをほどこしてくれたようにも感じる。


 わたしはクローゼットから収納鞄をとりだすと、荷物を詰めはじめた。


「きっとレオポルドに怒られるよねぇ……まぁ、再会したらまた怒られればいっか」


 やがてニーナがペンとデザイン帳だけを持って、コンパートメントにやってきた。昼とはうってかわって、男物のシャツを着てズボンにブーツを合わせて、その上にコートを着ていた。


「私の荷物はディンが運んでくれるって。ライガだと寒いかしら?」


「アルバを使うからだいじょうぶだと思います。外に転移してライガを展開するから、ちょっと危険ですけど。やっぱりわたしひとりで行ったほうが……」


 新婚のニーナまでつき合わせるのは、どうしても気が引けてしまう。けれど彼女は真剣な表情で首を横にふる。


「ダメよ。ひとりでなんて行かせないわ。タクラははじめてなんでしょう?」


「本当は……会えないとさびしいし、声を聴くだけでもホッとするし、ずっといっしょにいたいです。でも彼が真剣にわたしのこと考えてくれるから」


「ネリィは納得できないのね」


「そう、ですね……わたし、彼にふさわしい人間になりたい!」


 言ってしまって自分で納得した。そうだ、慣れない生活をはじめて、師団長の仕事を必死にやってきたのは。


 ――彼に会えるから。


 ポロポロと涙があふれて止まらなくなったわたしを、ニーナは包みこむようにしてキュッと抱きしめる。


「それ、彼にちゃんと伝えた?」


「まだです……ふぐっ、うえぇ……ニーナさぁん!」


「じゃあ次に会ったらちゃんと伝えないとね。だいじょうぶ、ネリィならできるわ」


 その日はじめて、わたしは彼以外の前で泣いた。胸がいっぱいになったわたしがしゃくりあげていると、ニーナは優しく背中をなでる。


「もう……ネリィったらまるで失恋したみたいよ。そんなにみごとな紫陽石のピアスを、彼から贈られるような女の子は、世界中探したってあなたしかいないのに」


 私をギュッと抱きしめて、ニーナはここにいないレオポルドに文句を言う。


「魔術師団長もすぐ飛んでくればいいのに。ネリィに考える隙なんか与えちゃダメなのよ」


 そうだった……彼はもうアガテリスでタクラを目指している。こうしている時間も惜しい。わたしは目をゴシゴシとこすって、メローネの秘法を自分にかける。


「ちょっとネリィ……魔法はもっと優しくかけなさいな。魔女は何よりもまず、自分をいたわるものよ」


「すぐでます。ニーナさん、準備はいいですか?」


「人の話聞いてる? いいけどさ」


 ニーナのペンとデザイン帳を収納鞄にしまい、わたしはクローゼットにかけていたラベンダーメルのポンチョを羽織る。それから深呼吸すると、ニーナの腕をとって転移魔法陣を描いた。


 次の瞬間には虚空(こくう)にふたりそろって放りだされ、ニーナは絶叫した。


「きゃああぁ、何てとこに転移すんのよ!」


 ニーナの腕を必死につかみながら、わたしは説明する。


「転移した先に鳥とか飛んでたらイヤじゃないですか。それに地面に近かったらすぐ激突しちゃいます!」


 左腕からライガを展開し、すとんと腰をおろすと、ニーナはわたしにしがみつくようにして、後部座席にまたがった。ぜぇぜぇと息を切らしながら、真っ青な顔でガタガタ震えている。


「も、もうちょっと平和な脱出はなかったの……?」


「だからちょっと危険だって言ったのに」


「ちょっとどころじゃないわよ。死ぬかと思ったわ!」


「スカイダイビングしただけですよ」


「すきゃーだびって何よ、すきゃーだびって!」


 ライガに乗るのはなぜか夜中が多い。星空の海をどこまでも飛ばしていけば、自分が世界に溶けてしまいそう。


「ルルゥ!オドゥのところに案内して!」


「え……闇夜にカラス?」


 ニーナが目を丸くする前で、わたしは収納鞄から魔力入りクッキーをサッと取りだし、伸ばした左腕にルルゥをとまらせた。

4巻発売1周年ということで、カイがふらりと王都にやってくる話を短編集に書いています。

さてアンケートです。レオポルドはカイをどこに連れていく?

1.ガード下の居酒屋っぽい店でワイルドオヤジ風に。

2.やっぱ踊ってパーリィナイトやろ。

3.カジノとか会員制のヤバめな場所。

4.こんだけ筋肉がいるなら闘技場に決まってる!

5.竜騎士団でタコパしようぜ。

6.その他(ご自由にどうぞ)

1番の居酒屋になりました!ご協力ありがとうございました!

挿絵(By みてみん)

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☆☆MAGKAN様にてコミカライズ準備中!続報をお待ちください☆☆
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☆☆『7日目の希望』NovelJam2025参加作品。約8千字の短編☆☆
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↓「旅立ち」↓
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↓「走りだす心」↓
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↓「ブルーベルの咲く森で」↓
ブルーベルの咲く森で

↓「恋心」↓
恋心

↓「Teardrop」↓
Teardrop
― 新着の感想 ―
[気になる点] 成り代わりってものすっごいストレス溜まる! レオポルド、まさか本気で騙されてないよね? 騙されてたらちょっと……いや、かなり軽蔑するわ [一言] ネリアはもう少し居場所に執着しなきゃね…
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