表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十章 ネリアと魔導列車の旅
437/560

437.オーランドの提案

ただいま7巻最終チェック中です。

今週いっぱいかかるかも。

「いきなりごめんなさいねぇ。カディアン殿下があなたを手伝うって聞いて、大変そうだしメレッタも連れてきたの」


「まぁね、カディアンとお父さんだけじゃ、かわいそうかなって」


「俺はアナさんにメレッタを誘っていいかたずねたら、それを聞いた母上が見学したいって言いだして」


 カディアンがオロオロと、副団長とソラとアナを順に見回す後ろで、リメラ王妃は上品に口元に手をあて、ほぅ……とため息をついている。


「わたくしはせっかくですから差しいれでも……と。午後は予定が空きましたの。ご迷惑でしたかしら?」


「とんでもございません……仰向けでのごあいさつとなり、こちらこそ失礼を」


 カーター副団長の威厳が、みごとに崩れ去った。もういっそリメラ王妃のヒールで踏み潰されたい。国王一家と家族ぐるみのつきあいなど、レオポルドに教わっただけの、にわか仕込みの対貴族スキルではどうしようもない。


 リメラ王妃はソラに茶菓子を渡し、アナがうれしそうに毛糸の束と、編針のはいった袋を持ちあげる。


「あとね、冬でもソラちゃんの服って変わらないけど、見た目に寒そうでしょ。かわいいカーディガンを作ってあげようかと。ソラちゃんのサイズならすぐ編めるし」


「カーディガンですか」


 副団長の頭上ではソラとアナが会話を交わす。午前中の業務は真面目にこなした副団長にとって、タイミングが最悪だったとしか言いようがない。


「そうよ。ネリス師団長が着ていた、ラベンダーメルのポンチョとおそろいになるよう、カディアンが柄をスケッチしてくれたの」


「ネリア様とおそろい」


 カディアンが持ってきたスケッチブックを見て、ソラはパチパチとまばたきしながらデザイン画に見入った。繊細なタッチの鉛筆で描かれたソラには、色鉛筆で軽く彩色がしてある。


「俺なりにアレンジして、手袋や帽子も考えたんだ」


 小物のデザイン画まで添えてあり、ポンチョと同じ柄のカーディガンを羽織った、ソラのイラストはホコホコして暖かそうだ。


「ステキねぇ。かわいくできたら、ネリアさんも喜ぶわよ!」


「ネリア様が喜ぶ……よろしくお願いします」


 副団長はガバリと起きた。


「ならば採寸は私がっ!」


「お父さんはこの部屋から出てくれる?」


 メレッタの冷たい声に、クオードの全身が凍りついた。





 採寸を終えたアナはそのまま師団長室で、リメラ王妃とお茶を飲む。


「魔術師団長がほんの小さいころ、よくここでレイメリアとお茶をしましたの」


 琥珀色の目を細めて、リメラ王妃は懐かしむようにほほえんだ。


「んまっ、ステキですわねぇ。ソラちゃんとそっくりだったのですって?」


「もっと愛らしい子でしたわ。元気いっぱいで部屋にいるより、中庭で白いモフモフと遊んでいることが多くて。師団長室の内装はとくに変わらないから、当時を思いだしますわ」


 工房ではメレッタがあきれた声をだした。


「ちょっとお父さん、扉に何張りついてるのよ」


「ぐぬぬ……師団長室のようすが気になる」


「もぅ、せっかく手伝いにきたのに」


 むくれるメレッタの横で、カディアンが首をかしげる。


「そういえばオーランドから、ミネルバ書店を調査するって聞いたけど……」


「そうだった!」


 カーター副団長はネリアから頼まれていたことを思いだした。


「ふん、一番弟子のためとあればしかたあるまい。カディアン、オーランドに魔導車の準備をさせろ。ミネルバ書店に向かう」


「はっ、はい!」


 ちゃっかり魔導車まで用意させて、カーター副団長はカディアンやメレッタ、補佐官のオーランドまでひきつれて、二番街のミネルバ書店に乗りこんだ。





 王都二番街にあるミネルバ書店は、魔導書から何から世界中の本が集められるだけでなく、出版も手がけている大型書店だ。一階は雑誌や流行りの小説があり、専門書や趣味の本は二階にある。


 三階にはお茶を飲みながら読書を楽しむロビーに、著者による講演会や四番街の俳優による朗読会など、季節ごとに催しが変わるホール、製本師と本の相談をするカウンターなどがあり、ゆったりとくつろいですごせる。


 そして今、三階にある結着点ではなく表玄関の車寄せに、一台公用の魔導車が乗りいれた。


 魔導車を降りた副団長一行はズカズカと二階に上がり、クオードが奥にある重厚な扉をにらみつけていると、中から扉が開き明るいオリーブグリーンの髪で、金の瞳に片眼鏡をかけた壮年の男性があらわれた。


「ようこそミネルバ書店へ。お越しいただき光栄です、カディアン第二王子殿下と婚約者様、カーター錬金術師団副団長、ゴールディホーン第二王子筆頭補佐官。当店で製本師をしております、ダイン・ミネルバと申します」


「よろしく頼む」


「うむ」


 三人に向かってうやうやしく頭を下げたダインに、カディアンと副団長が重々しくうなずき、オーランドはぺこりと会釈をする。


「ではダイン、案内を頼みます。邪魔が入らない静かな個室で相談に乗っていただきたい」


「かしこまりました。私どもでお役に立てればよいのですが」


 三階に上がってすぐは、壁全体がぐるりと天井まで届く本棚になっている。椅子にかけて本を読むひとびとのあいだを、トレイを持ったスタッフや、台車を押したスタッフが静かに行き交っていた。


「すごいな……図書館みたいだ」


「蔵書数でいえば相当数ございます。あいにく稀少本の類は、依頼があれば売買を仲介するという形で、在庫自体は少ないのですが」


 目を輝かせるカディアンにダインはにっこりと笑って答える。


 メレッタはため息をついた。


「ちょっとうらやましいわね。オドゥさんみたいに私もタクラに行ってみたいわ」


「俺たち、まだ学園の授業があるもんな」


 タクラまでは魔導列車で四日かかる。往復だと八日……卒業を控えて単位はほぼ取り終えているとはいえ、魔術学園の授業だってあるから、そんなに長く休めない。


 マール川があり交通の便がよかったから、タクラまでの長距離転移陣は設置されていない。けれどオーランドは銀縁眼鏡をキラリと光らせて、意外なことを言った。


「いえ、行くことはできますよ」


「何だって?」


 聞き返すカディアンに、彼は簡単に説明する。


「強行軍になりますが、ドラゴンを使えば可能です。学園が終わった夕刻に出発して夜通し飛び、週末に二日間滞在し、また学園が始まる休み明けの朝に戻ってくるのです」


「それなららたしかに行けるけど……」


 カディアンは驚いて目を丸くした。タクラまでドラゴンで移動するなんて、思いつきもしなかった。


「ミストレイとアガテリスがタクラに飛ぶことになっています。もちろん竜騎士団長と魔術師団長に、同行の許可を得なければなりませんが」


 それを聞いてがっくりとカディアンは肩を落とした。


「やっぱりそうか。師団長たちに許可を得るなんて、そんなのムリに決まってる」


「……おや?」


 銀縁眼鏡のブリッジに指をかけたオーランドは、レンズをキラリと光らせて口の端に挑戦的な笑みを浮かべた。


「ユーティリス殿下なら、きっとどうにかします。彼らを納得させる理由を、殿下もご自分で考えられては?」


「ぐ……」


 言い返せずにカディアンは唇をかみ、ギュッと拳を握りしめた。師団長たちを納得させる理由……たしかに彼の兄ならば、無理矢理にでも思いつきそうだ。オーランドが彼に助け舟をだす。


「ひとりでは無理でもメレッタさんと考えれば、何か思いつくかもしれません。期限はシャングリラに戻った師団長たちが、ドラゴンでタクラに出発するまで。彼らの説得を含めてお任せします。やってみますか?」


 つまりはふたりで考えろということだ。カディアンがハッとして顔をあげれば、真剣な表情のメレッタと目が合う。


「私、やってみたいわ」


「メレッタ……」


 そうだ、ふたりで考えればあるいは。


 自分たちはもうすでに、不可能を可能にすると言われる、錬金術師の卵なのだから。

さて、どうなる⁉️

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆MAGKAN様にてコミカライズ準備中!続報をお待ちください☆☆
WEBコミックMAGKAN

☆☆『7日目の希望』NovelJam2025参加作品。約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
9巻公式サイト
『魔術師の杖⑨ネリアと夜の精霊』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天

☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
シリーズ公式サイト

☆☆作詞チャレンジ(YouTubeで聴けます)☆☆
↓「旅立ち」↓
旅立ち
↓「走りだす心」↓
走りだす心
↓「ブルーベルの咲く森で」↓
ブルーベルの咲く森で

↓「恋心」↓
恋心

↓「Teardrop」↓
Teardrop
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ