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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十章 ネリアと魔導列車の旅
436/560

436.副団長とソラ

『魔術師の杖⑦ネリアと魔術師レオポルド』

6月30日(金)発売決定です!

今回の表紙は過去イチ鮮やか!SSも3つ用意しました!

 ネリアをはじめ、主だった錬金術師たちが不在のため、研究棟の業務はどうしたって、カーター副団長が中心になる。


 朝から研究棟の工房で副団長は黙々とポーションを作り、ビンにつめて箱に並べ、それがいっぱいになると竜騎士団から預かった防具に、倉庫からせしめてきた素材を使って、効果付与の実験をはじめていた。


「素材をケチらんでいいのは助かるな。今回は火竜との戦闘でダメージを負った防具が多い。熔けた装甲に自己修復の魔法陣を再構築するぞ。オドゥ……」


 ここにいない、片腕になりつつあった一番弟子の名を呼び、副団長はチッと舌打ちをした。


「いかんな、無意識に弟子を頼りにしすぎていた」


 見習いを含め七年のキャリアがあるオドゥは、コミュニケーション力もあり仕事もできて使い勝手がいい。今はユーリといっしょらしく、ネリアたちに合流したらそのままタクラから、サルジアに向けて出発するだろう。


「オドゥめ……それをいいことに、ギリギリまで仕事をせんつもりか」


 サルジアに向かう王太子一行には、魔術師団からは前魔術師団長のローラ・ラーラ、竜騎士団からもひとり竜騎士が同行する。錬金術師団からだせるのはオドゥぐらいしかいないのだ。


 けれどそれを見越したかのように、ネリアからは魔術師団長に協力するだけでなく、クオード自身もオドゥの研究室で何か気づいたことがあれば、独自に調査するようエンツで命じられた。


『何でもいいの。ずっとオドゥを見てきたカーター副団長から見て、気になったことを教えてちょうだい』


 オドゥの研究室には本や文献が数多くならんでいた。あとは劇のパンフレットや小物がいくつか。


 調べると本の大半は、二番街にあるミネルバ書店で購入されていた。おそらくテーマを決めて、それに関する文献を集めるよう依頼していると思われる。


(ミネルバ書店を調べてみるか……)


 仕事を終えたら世界中の本が集まるといわれる、ミネルバ書店に行くことにして副団長はソラに指示をだす。


「ソラ、秋に収穫した素材から、防虫剤に必要な成分の抽出をすませ、保管しておくように。それで素材庫のスペースがだいぶあくだろう。あいた場所には竜騎士団からの素材を詰めるからな」


「わかりました」


 こくりとうなずいたソラは風をあやつり、ネリアがよくやるように風選で素材から不純物をとり除く。


 こまごまとした雑用をソラがこなす横で、カーター副団長はミスリル鎧の効果を確認したり、アムリタ薬品に卸す防虫剤の原料を準備したり、ポーションの作成もこなしたりした。


「ふむ。ソラひとりと私がいれば、たいていのことは何とかなるな」


 遅めの昼食をとるのに気分を変えるかと、師団長室でネリアの椅子にどっかりと座り、置いてあった収納鞄の術式を眺め、それからグリドルで思いついた改良点を書きだす。何だか師団長気分も味わえて得した気になる。


「わははは、順調順調。だが何かすっかり忘れているような気がする……」


 午後は魔術学園から戻ってきたカディアンも手伝いにくる。天井まで届く壁一面の本棚を、ぐるりと見まわしていると、とことことやってきたソラが、小首をかしげて澄んだ水色の目をまたたいた。


「カーター副団長、お昼はカレーです」


「うむ。カディアンが楽しみにしておったからな」


 このオートマタはあいかわらず、ネリア以外にはにこりともしない。それを考えると魔術師団長のほうが、だいぶ愛想はいい。


(むしろ彼からは敬意をもって、接してもらっているような……これもネリス師団長が来てからか?)


 そんなことを考えながらソラをぼんやりと眺め、副団長はとつぜん思いだして叫んだ。


「あぁっ⁉」


「?」


 水色の髪を揺らしてソラが振りかえり、カーター副団長は威厳を保って咳払いをする。


「うおっほん、何でもない」


「そうですか」


 カレーを運んでお茶を淹れるソラを、彼はジトリとした視線で見守りながら、ネリアが夏に研究棟へあらわれるまでに、抱いていた野心を思いだした。


(待てよ。あの小娘がいない今ならば……)


 自分が師団長となったら資料庫に保管してある、グレンが遺した研究資料を精査し、素材を好きなだけ使って研究するつもりだった。


 けれど彼女のおかげで研究棟の資金繰りは改善し、錬金術師たちの地位も向上しつつある。今では予算獲得のために雑用を引き受けることもなく、研究に関してはわりと自由が利く。


 それですっかり忘れていたが、彼にはどうしても研究したいものがあった。今は生意気なユーリも、何を考えているかわからないオドゥもいない。ヴェリガンやヌーメリアだって留守にしている。


(こっ、これはソラを好きなだけ観察する……千載一遇のチャンスなのでは⁉)


 そのことに気づいて一気に心拍数が上がった副団長の前に、戻ってきたソラが紅茶のカップをコトリと置く。


「どうぞ」


「うむ」


 副団長は内心の興奮を抑えて、重々しくうなずくと紅茶をグビリと飲む。


(関節の駆動系もだが、筋肉の収縮も見たい……皮をはぐわけにもいかんだろうが、服を脱がせるぐらいなら……)


 目が血走ってギラギラしだした副団長に、部屋のすみに戻ったソラはふしぎそうに小首をかしげた。


「ソラ、ちょっと……その、だな」


「何でしょう?」


(どうやって動くのか知りたい。動きを司る術式に、肝心の魂を封じた精霊契約の魔法陣も……見たいっ!)


 指をわきわきと動かし考えこんでいたら、いつのまにかソラがスッと寄ってきて、副団長は飛びあがった。


「紅茶のおかわりは?」


「もらおう!」


 またぐびぐびと紅茶を飲みほし、ふーっと息を吐きだして、副団長は忙しく頭を働かせた。カラになったカップに、またとぷとぷとソラが紅茶を注ぐ。それをまた勢いよくあおる。


 ――ぐびぐび。


 ――とぷとぷ。


 いつも塔でレオポルに淹れてもらうときと違い、まったく紅茶を味わっていない。副団長の頭はソラのことでいっぱいだった。


(だがどうやって。ただ『調べさせてほしい』ではソラも応じぬだろうし……ううむ)


 ――ぐびぐび。


 ――とぷとぷ。


 飲みすぎて副団長のお腹がタプタプになったところで、ソラはカラになったティーポットを手に、こてりと首をかしげた。


 副団長はすごくノドが渇いていたようだ。もしかしてカレーが辛かったろうか。人間の味覚はオートマタの体ではわからないのだ。


「ぐうぇっふ、ふぅー。あの、ソラちゃん?」


「ソラちゃん?」


 派手なげっぷとともに、勇気をだして話しかけたものの、こちらに向けられる澄んだ水色の瞳を、副団長は見返すことができずに目を泳がせる。


「ふ、服を脱いで、すすす寸法を計らせてくれるかな?」


 ぱちりとまばたきをして、ソラは彼を見守っている。


「なぜですか?」


「なぜって……そっそっそ、それはアナが、ソラの服を作りたいと言っていて……」


 とっさに思いついた、苦し紛れの言いわけをしている最中に、師団長室の扉がバアンと開いた。


「まあっ、あなた。なぜ私の考えていることがわかったの?」


「ふおおぅっ⁉」


 アナの声にびっくりした副団長は飛びあがって、椅子から転げ落ち床にひっくり返った。

悪いことはできない副団長。

7巻のSSテーマ募集にご協力ありがとうございました!

『恋のお守り』ミーナとメロディがネリィを応援しようと相談します。

『いつか見せたい青い空』過去編。ライアスの父ダグ視点のお話。

他にも書きました!


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