433.ニーナの合流
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魔石亭の朝食を食べながら、テルジオがホッとしたように笑う。
「ネリアさんが元気になってよかったです」
「まだ本調子じゃないというか、だるさは残ってるけどね。砂漠での食事がこんなに豪華でいいのかな」
「魔石亭は酒場にちょっとしたステージもあって、夜は弾き語りなども楽しめるんですよ。全国から人が集まるのは、魔石鉱床があるおかげですね」
宿の食堂は朝食をとる人たちでにぎわっている。夜のステージは楽しめなかったけれど、朝はまた砂丘の上をライガでひとっ飛びして、風が作りだす自然の景色を楽しみ、魔石鉱床やルルスの町見学はいい思い出になった。
「また今度ゆっくりきたいな」
「いいですね、次はぜひ魔術師団長とごいっしょに」
「そ、そうだね……」
やっぱり照れる。照れてしまう。レオポルドと話したエンツの、終わりのほうはよく覚えていない。なにか変なこと言ってないといいけど。
つぎの魔導列車を待つあいだ、駅前をぶらぶらして魔石ランプを買い、駅で王都に送る手配をした。
ルルスの魔石鉱床自体は二百年ほど前に発見されたらしいけれど、グレンはそこをわざわざ通るように魔導列車の線路を敷いた。
魔石を動力源とする魔導列車を動かすためとはいえ、砂漠を突っ切る難工事だったらしい。デーダスの家でよくケンカしたおじいちゃんが、そんなにすごい人だとは思わなかったよ。
テルジオといっしょにホームで、到着する魔導列車を待っていたら、乗りこむ前にすごい勢いで列車を降りて、わたしに突進してきた人物がいる。
「ネリィ、やっとつかまえたわ!」
「ふぇっ、ニーナさん⁉」
いつもまとめ髪にしていた黄緑の髪はおろし、コートを着たニーナが若草色の瞳をパアッと輝かせた。
王都の五番街で服飾店を経営するニーナは、秋の夜会シーズンを成功させて、ドレス作りがひと段落したタイミングで、故郷の幼馴染とマウナカイアへ新婚旅行にでかけたはず。
そう思ったら彼女の後ろで、こんがり日に焼けた彼女の夫ディンが、麦わら帽子をかぶって手を振っている。どうやらマウナカイアから王都に到着してそのまま、魔導列車に乗ってわたしたちに合流したらしい。
「あらあらぁ、ちょっと。本当にステキなピアスね。まぁ話はタクラまでの道中で、ゆっくり聞かせてもらうわ」
「へっ?」
さっそく耳たぶにはまるピアスに目を留め、ニーナはにっこりとテルジオにあいさつをする。
「アルバーン魔術師団長より依頼を受けて参りました。彼女の衣装一式、制作を依頼されております」
「ああ、彼から知らせは受けてますよ。よろしくお願いします」
テルジオにも話が通してあるらしく、わたしはようやく気がついた。
「もしかしてレオポルドが昨夜言ってた、『手配した』ってニーナのことだったの?」
「そうよ。『いつも使う店がよかろう』ですって。なんと休暇中のミーナに私たちの実家伝いに連絡がきて、ミーナからマウナカイアにいる私にエンツが飛んできたってわけ。ふふん。私がどれだけあわてたかわかる?」
「えっ、まさか旅行を切りあげたんですか?」
「ちょうど帰ろうとしてたの。ミーナがね、『ネリィのことならニーナも張り切るでしょ』ですって。帰りは魔導列車じゃなくて海洋生物研究所の転移陣から、カイって人に送ってもらって、ソラという子が出迎えてくれたけど、めちゃくちゃかわいかったわ。創作意欲が刺激されちゃった」
エンツの向こうでミーナはクスクスと笑っていたといい、ニーナは自分用の収納鞄をポンポン叩いた。
「ドレスは『ミストレイ』を使い体にフィットして、ラインをきれいに見せるものを中心に、ネリィらしい妖精っぽさも生かしたいわね。マウナカイアでレイクラさんに会っていろいろ教えてもらったし、スケッチもたくさんしたの。鮮やかな柄を王都でも流行らせたいわ」
「おおー、すごいですね」
パチパチと拍手するわたしの全身に、ニーナはササッと視線を走らせる。
「まずは秋とサイズが変わってないかチェックするわよ」
「ひぃ⁉」
そして彼女は何か異変を感じたのか、思いっきり顔をしかめた。そういえばレオポルドに『あーん』って、食べさせられてばかりだった。ついでに言うと門外不出の魔道具にも、しばらく乗るのをさぼっていた。
「まさかあなた、そのままであの美形の隣に、立とうなんて思ってないでしょうね?」
「わ、わた、わたしは突っ立ってるだけですから!」
わたしがちっこくて目立たないのは、自分でもよく知っている。みんなきっと眉目秀麗で精霊の化身と評される、長身のレオポルドを見るはず。
そう、飾りたてるならむしろ彼のほうが、見栄えがすると思うし!
「もちろんパートナー用の衣装だって提案するわよ。今回は下着からぜんぶ作るんだから、さっさと脱ぎなさいよ。こっちは依頼されるのをずっと待ってたの!」
気合いのはいったニーナは、すでに目が据わっている。わたしはびっくりして聞き返した。
「えっ、レオポルドが下着まで注文したんですか?」
「そうじゃないけど、ドレスに合わせて作ることになるわ。『ミストレイ』を使ったドレスはピッタリしてるから、きれいなラインを作るのに下着が重要なの。夜会のときはネリィが自前でそろえたから、これでも妥協したのよ」
そういえば夜会のときは、下着は既製品で済ませたっけ。気を利かせたテルジオがニーナを促した。
「あ、では私は席を外しますから、採寸はコンパートメントでじっくりとなさってください」
「ええ、さっそく取りかかります」
澄ました顔でうなずき、ニーナはわたしを引きずるように、魔導列車に乗りこんできた。
「ひいぃ。ここにミーナさんもアイリもいないなんてぇ!」
わたしの悲鳴に、彼女は思いだしたようにつけ加える。
「あ、そうそう。ミーナとアイリのことなんだけど」
「ふたりがどうかしましたか?」
コンパートメントにふたりきりになったとたん、ニーナはコソッとわたしに耳打ちした。
「タクラでユーリやオドゥ先輩といっしょにいるみたい」
……何ですと⁉
そしてやっぱりわたしはニーナに、問答無用で脱がされてサイズを細かく測られ、その数値をこっぴどく叱られたのだった。
みんな『あーん』が悪いんや!












