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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十章 ネリアと魔導列車の旅
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433.ニーナの合流

ブクマ&評価、イイねや誤字報告もありがとうございます。いつも感謝です!

 魔石亭の朝食を食べながら、テルジオがホッとしたように笑う。


「ネリアさんが元気になってよかったです」


「まだ本調子じゃないというか、だるさは残ってるけどね。砂漠での食事がこんなに豪華でいいのかな」


「魔石亭は酒場にちょっとしたステージもあって、夜は弾き語りなども楽しめるんですよ。全国から人が集まるのは、魔石鉱床があるおかげですね」


 宿の食堂は朝食をとる人たちでにぎわっている。夜のステージは楽しめなかったけれど、朝はまた砂丘の上をライガでひとっ飛びして、風が作りだす自然の景色を楽しみ、魔石鉱床やルルスの町見学はいい思い出になった。


「また今度ゆっくりきたいな」


「いいですね、次はぜひ魔術師団長とごいっしょに」


「そ、そうだね……」


 やっぱり照れる。照れてしまう。レオポルドと話したエンツの、終わりのほうはよく覚えていない。なにか変なこと言ってないといいけど。


 つぎの魔導列車を待つあいだ、駅前をぶらぶらして魔石ランプを買い、駅で王都に送る手配をした。


 ルルスの魔石鉱床自体は二百年ほど前に発見されたらしいけれど、グレンはそこをわざわざ通るように魔導列車の線路を敷いた。


 魔石を動力源とする魔導列車を動かすためとはいえ、砂漠を突っ切る難工事だったらしい。デーダスの家でよくケンカしたおじいちゃんが、そんなにすごい人だとは思わなかったよ。


 テルジオといっしょにホームで、到着する魔導列車を待っていたら、乗りこむ前にすごい勢いで列車を降りて、わたしに突進してきた人物がいる。


「ネリィ、やっとつかまえたわ!」


「ふぇっ、ニーナさん⁉」


 いつもまとめ髪にしていた黄緑の髪はおろし、コートを着たニーナが若草色の瞳をパアッと輝かせた。


 王都の五番街で服飾店を経営するニーナは、秋の夜会シーズンを成功させて、ドレス作りがひと段落したタイミングで、故郷の幼馴染とマウナカイアへ新婚旅行にでかけたはず。


 そう思ったら彼女の後ろで、こんがり日に焼けた彼女の夫ディンが、麦わら帽子をかぶって手を振っている。どうやらマウナカイアから王都に到着してそのまま、魔導列車に乗ってわたしたちに合流したらしい。


「あらあらぁ、ちょっと。本当にステキなピアスね。まぁ話はタクラまでの道中で、ゆっくり聞かせてもらうわ」


「へっ?」


 さっそく耳たぶにはまるピアスに目を留め、ニーナはにっこりとテルジオにあいさつをする。


「アルバーン魔術師団長より依頼を受けて参りました。彼女の衣装一式、制作を依頼されております」


「ああ、彼から知らせは受けてますよ。よろしくお願いします」


 テルジオにも話が通してあるらしく、わたしはようやく気がついた。


「もしかしてレオポルドが昨夜言ってた、『手配した』ってニーナのことだったの?」


「そうよ。『いつも使う店がよかろう』ですって。なんと休暇中のミーナに私たちの実家伝いに連絡がきて、ミーナからマウナカイアにいる私にエンツが飛んできたってわけ。ふふん。私がどれだけあわてたかわかる?」


「えっ、まさか旅行を切りあげたんですか?」


「ちょうど帰ろうとしてたの。ミーナがね、『ネリィのことならニーナも張り切るでしょ』ですって。帰りは魔導列車じゃなくて海洋生物研究所の転移陣から、カイって人に送ってもらって、ソラという子が出迎えてくれたけど、めちゃくちゃかわいかったわ。創作意欲が刺激されちゃった」


 エンツの向こうでミーナはクスクスと笑っていたといい、ニーナは自分用の収納鞄をポンポン叩いた。


「ドレスは『ミストレイ』を使い体にフィットして、ラインをきれいに見せるものを中心に、ネリィらしい妖精っぽさも生かしたいわね。マウナカイアでレイクラさんに会っていろいろ教えてもらったし、スケッチもたくさんしたの。鮮やかな柄を王都でも流行らせたいわ」


「おおー、すごいですね」


 パチパチと拍手するわたしの全身に、ニーナはササッと視線を走らせる。


「まずは秋とサイズが変わってないかチェックするわよ」


「ひぃ⁉」


 そして彼女は何か異変を感じたのか、思いっきり顔をしかめた。そういえばレオポルドに『あーん』って、食べさせられてばかりだった。ついでに言うと門外不出の魔道具にも、しばらく乗るのをさぼっていた。


「まさかあなた、そのままであの美形の隣に、立とうなんて思ってないでしょうね?」


「わ、わた、わたしは突っ立ってるだけですから!」


 わたしがちっこくて目立たないのは、自分でもよく知っている。みんなきっと眉目秀麗で精霊の化身と評される、長身のレオポルドを見るはず。


 そう、飾りたてるならむしろ彼のほうが、見栄えがすると思うし!


「もちろんパートナー用の衣装だって提案するわよ。今回は下着からぜんぶ作るんだから、さっさと脱ぎなさいよ。こっちは依頼されるのをずっと待ってたの!」


 気合いのはいったニーナは、すでに目が据わっている。わたしはびっくりして聞き返した。


「えっ、レオポルドが下着まで注文したんですか?」


「そうじゃないけど、ドレスに合わせて作ることになるわ。『ミストレイ』を使ったドレスはピッタリしてるから、きれいなラインを作るのに下着が重要なの。夜会のときはネリィが自前でそろえたから、これでも妥協したのよ」


 そういえば夜会のときは、下着は既製品で済ませたっけ。気を利かせたテルジオがニーナを促した。


「あ、では私は席を外しますから、採寸はコンパートメントでじっくりとなさってください」


「ええ、さっそく取りかかります」


 澄ました顔でうなずき、ニーナはわたしを引きずるように、魔導列車に乗りこんできた。


「ひいぃ。ここにミーナさんもアイリもいないなんてぇ!」


 わたしの悲鳴に、彼女は思いだしたようにつけ加える。


「あ、そうそう。ミーナとアイリのことなんだけど」


「ふたりがどうかしましたか?」


 コンパートメントにふたりきりになったとたん、ニーナはコソッとわたしに耳打ちした。


「タクラでユーリやオドゥ先輩といっしょにいるみたい」


 ……何ですと⁉


 そしてやっぱりわたしはニーナに、問答無用で脱がされてサイズを細かく測られ、その数値をこっぴどく叱られたのだった。


 みんな『あーん』が悪いんや!

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