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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第十章 ネリアと魔導列車の旅
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422.テルジオの気配り

 バッと両手で顔をおさえたわたしに、テルジオはイタズラっぽくウィンクする。


「だっていつも大口あけて幸せそうに、ニコニコしながらパクパク食べる、ミュリスだってほったらかしで」


「大口あけて幸せそうに……」


 それもどうかと思うけど⁉


「さっきから魔術師団長の名前をだすたびに、あわてたり落ちこんだり赤くなったりキリッとしたりで、ちょっとぼんやりしたかと思うと、ゴンゴン頭を机に打ちつけてるし。見てて飽きませんよぉ」


 笑いを我慢しながら教えてくれたテルジオは、結局こらえきれなくて笑いだした。


「わたしダメすぎる。レオポルドみたいに鉄壁無表情とはいかなくても、ユーリやテルジオさんぐらいに、涼しい顔ができたらいいのに。こんなんで国の代表とか、やっぱムリかも」


 恥ずかしいやら照れくさいやらで、わたしは机に突っ伏したままで、へにょへにょになった。


「ううう、魔石鉱床に埋まってしまいたい」


「まぁ、われわれも補佐しますから。それにネリアさんのそういうところが、彼も気にいったのでは?」


「そうかなぁ」


 言われてみるとわたしのどこが……って気にはなる。レオポルドに鉄壁な無表情のコツとか教えてもらいたい。あの人あれが素なんだろうけど。涙目になってテーブルに突っ伏していると、テルジオはけろりといった。


「だって彼、ネリアさんのこと『ほっぺたを指でつつくとおもしろい顔をする』って言ってましたもん」


「ひああああぁ⁉」


 レオポルドってば何言っていってくれちゃってんのー!


 ひっ、ひとのほっぺを指でつつくとおもしろいとか……何て話をテルジオとしてんのよおおぉ!


 あの指か……ときどきあの長いひとさし指で、わたしのほっぺをツンとやっては、フッと笑っていたのは……。何してんのかな……とは思ったけど。わたしの顔がおもしろかっただとおおおぉ⁉


 自分が鉄壁無表情だからって、わたしの顔で遊んでんじゃないわよ。遊ぶなら自分の顔をグニグニして遊びなさいよおぉ。


 テーブルに突っ伏してプルプル震えながら、心の中で絶叫していると、テルジオの感心した声が降ってきた。


「うわー、ホントおもしろいですね。見てるだけでもじゅうぶん楽しいですが、なるほどぉ……アルバーン師団長は指でつついてさらに遊んでいるわけですね」


「レオポルドにもてあそばれてる……」


「だってそういうの、ずっとしていたいですよ。いいなぁ、イチャイチャできて」


 イチャイチャ……わたしはがばりと顔を上げる。


「どうしよう、テルジオさん!」


「わっ、何ですかネリアさん」


「つぎにレオポルドに会ったら、どんな顔をしたらいいの?」


 どんな顔をしたらいいかわからない。何をしゃべったらいいのかも。きっとまともに顔が見られない。イチャイチャどころか、手を伸ばせばふれられる距離にもまだ慣れてない。けれどテルジオはその言葉に首をかしげる。


「いつもどおりでイイと思いますけど」


「それじゃ困るの。こんなんじゃ、まともに師団長なんて務まらないよ……」


 わたしが弱音を吐くと、テルジオはふむふむとうなずきながら、あごに手をあてて考えるしぐさをした。


「なるほどぉ、ネリアさんが困っているのはソコですかぁ。とりあえずタクラでは錬金術は使いませんし、師団長の仕事はそこまで求められません。まずは『魔術師団長の婚約者』を仕事と思って、やってみたらどうですか」


「でもまともな反応ができそうにないし、まわりのみんなも変に思うんじゃ……」


「それこそ今さらですよ。だってネリアさん、いつも彼を目で追ってたじゃないですか。ユーティリス殿下だって気づいてましたよ」


「そっ、それは彼の銀髪を見ていただけで!」


 彼のまっすぐな銀髪はキラキラしていて、遠くからでもすぐわかる。自然と目で追っていて、たまに視線が絡むけれど、その顔には何の表情も浮かんでいなくて。そう、ただ見ていただけ……。けれどテルジオはニッコニコだ。


「彼だってネリアさんの気持ちに気づいたから、婚約を受けいれたんでしょう」


「そうなのかな……」


 彼がくれたピアスに指をふれ、わたしはもじもじしてしまう。


「まぁネリアさんもこの機会に、ゆっくり本を読んでみてはいかがですか」


「うん、そうする」


 わたしは素直にうなずき、夕食までは言われた通り読書をすることにした。





 テルジオに渡された本をパラパラとめくると、表紙だけでなくところどころ美麗な挿絵も添えられて、文章は読みやすいよう一人称で書かれている。つぎつぎにでてくる魅力的なキャラクターたち、生き生きしたセリフ……ものの見事にわたしはどハマりした。


 ヒロインの女の子は可憐でかわいくて、ぶっきらぼうなヒーローもすごくカッコいい。いじわるな従姉はギッタンギッタンにしてやりたいほど憎らしく、ヒロインを手伝うオジサマはいぶし銀のような渋さで、ヒーローの同僚たちもいい感じのナイスガイばかり。


 夢中になって読んでいたら、トントンと肩を叩かれた。


「ネリアさん、ネリアさん。そろそろ夕食の時間です」


「はっ!」


 テルジオの呼びかけに顔をあげれば、車窓から見える空は真っ暗で、カップの紅茶はすっかり冷めている。


「やだ、ごめん。夢中になってた……」


「いいんですよ、魔導列車の中でぐらい、のんびりしてください」


 テルジオは書類をまとめてにっこりと笑う。


「うん……」


 わたしはコンパートメントをでて、テルジオといっしょに食堂車へ向かった。





「それでね、ヒロインが落ちこんだときの、ヒーローのセリフがカッコよくて!」


「あれ、しびれますよね~」


 にこにことあいづちを打つテルジオは、さりげない気遣いもさすがで、のどが渇いたと思うまえに、わたしのグラスには水が注がれる。マウナカイアにもいっしょに行ったから、わたしがお酒を苦手なこともよく知っているみたい。


 金彩がほどこされた青い食器に、ホカホカと湯気を立てた赤っぽいソースがかかったお肉がでてきて、わたしはナイフをいれた肉をフォークで食べながら、今読んだばかりの本についてテルジオと夢中で話した。


「難しい本よりこういうほうがサクサク読めるってなんでだろう~」


「読みやすいでしょう、作者も工夫してるんですよ。しつこすぎない情景描写、飽きさせない場面転換に、あとは会話の妙ですかねぇ。ほかにも数冊持ってきてますから、あとでお貸ししますよ」


「ありがとう!」


 食後のデザートは甘く熟したミッラを、キャラメリゼしてタルト生地にのせた焼き菓子だ。香りのいい紅茶といっしょに味わえば、幸せすぎてため息しかでない。でもレオポルドの焼きミッラのほうが絶品だけど!


「ごちそうさま、とってもおいしかった!」


「それはよかったです」


 食堂車から戻る途中でテルジオから本を借りる。何だか近所のお兄ちゃんにマンガを貸してもらうような感覚で、懐かしいようなくすぐったい感じがする。


(補佐官のお仕事もすごいんだなぁ……わたしにもそういう人、必要かも)


 今日一日ずっとテルジオといっしょにいても、ちっとも邪魔だと思わなかった。わたしが何に困るか見越して手を貸してくれて、必要とあればテキパキと動くけれど、あとは魔導列車でリラックスできるように気遣ってくれた。


「ではネリアさんおやすみなさい、ご用があればいつでもお呼びください」


 そのまま隣の部屋に引きあげたテルジオと別れ、ひとりコンパートメントに戻ったわたしは、魔導ポットの魔法陣を起動して、備えつけのカップに温かなお茶を注いだ。


 鏡に映るピアスの中では、精巧に刻まれた魔法陣がキラキラと輝き、術式が明滅して魔素がめぐっている。


「きれい……」


 コンパートメントのベッドでクッションにもたれたわたしは、少し気持ちを落ちつけて借りた本を開いた。

イラストレーターのよろづ先生より6巻発売記念イラストとメッセージを頂きました!

『今回の挿絵の見どころはオドゥと訪れる秋祭りのシーンです。前回表紙の優雅な舞踏会と対になるような、庶民的だけど活気と煌めきのある雰囲気に仕上げられたかなと思います』

会社員を続けながら実生活とバランスをとりつつ、渾身のイラストを描きあげるよろづ先生に応援メッセージをお願いします!

挿絵(By みてみん)

ネリアのドヤ顔☆

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↓「恋心」↓
恋心

↓「Teardrop」↓
Teardrop
― 新着の感想 ―
[良い点] エンツで何回もテルジオの名前を出していたから、レオポルドが嫉妬するかなーと思いながら読んでました。 そしたらもっと見せつけられましたね! いやーネリアのことよくわかってますねえ。 顔合わせ…
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